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ダンピールの章
旅先にて3
しおりを挟む圭太はいつものように、窓を塞いだ半地下のベッドで休まされた。明日紀も同室で身体を休ませ、思考を巡らせる。
普通は吸血鬼と言ったら悪魔と契約した不死者を指す。圭太のように噛みつきで伝染するような吸血鬼は、誤解から生じた民間伝承の中にしか存在しないはずだった。若く見目好い人間を好むのが伝染型吸血鬼に共通する傾向なら、契約型吸血鬼とは同じ獲物を狙う競争関係。長い歴史の中でお互いを認識する機会がまったくないのは不自然極まりない。これは徹底的に調べる必要がある。
翌日。圭太に女を一人捕まえさせた。彼にも催眠の能力がある。強度はそれほどでもない。抗おうとしているのが表情でわかる。実は明日紀に手を出そうとしたときも発動させていたがまったく作用していない。改めて試してみたがやはり明日紀には無効だった。圭太にも明日紀の精神干渉が作用しなかった。
女を別荘に連れ込み圭太に血を吸わせる。すると昨日の三人と同じ、恍惚とした雌の顔で圭太を見詰めるようになった。
「吸血で仲間にできるんだよな? 試してみろ」
「やったことがないです。やり方もちょっと……」
「自分がやられた時のことをよく思い出せ」
記憶を復習って幾度となく首に吸い付くも、弱っていくばかりで吸血鬼化しそうにない。
「あの……」
「なに?」
「いや、あの、これ以上血を抜いたらこの人死……っぐああああ!」
「俺に意見するとかいい度胸だな、童貞。人間が死ぬからなんだっていうんだよ。それがそいつらの価値だろ」
上腕を切り裂かれた圭太は身の程を弁えた。回復しても尚血を吸い取る。明日紀の予想では眷属化には吸血で命を奪わなければならない。圭太の寝姿にヒントを得た。あれは死に近い。身動ぎどころか呼吸もしていなかった。気配が少しも感じられず、まるで死体のような。圭太が血を吸われて気が遠のいたのは失血死したのだろう。やがて女が事切れた。横たわる女の前に、圭太も力なく床に膝を着く。
「ひぐっ……うえぇ……うっ、おえぇぇ」
泣きながらまた大量の血を吐き戻した。明日紀は可笑しくってたまらなかった。行きずりの人間を殺して泣く人外なんて初めてだ。
「おい、しっかりしろ圭太。まだまだこれからだぞ。もっと吸血鬼のことを教えてくれよ」
「すみませんでした。もう許してください。手を出そうとした僕が間違ってました。殺さないでください。助けてください……」
「ふふ、土下座って久し振りに見た。簡単には死なせないから安心しろ」
「嫌だ! 助けて! 誰か助けてええぇ!!」
「うるさ。あ、起きた」
騒ぎだした圭太を殴って黙らせたところで女が目を開けた。眷属化した彼女の目に最初に映ったのは、右蟀谷を破壊されて眼球を零す圭太だった。さらに周囲を見回して呆然とする。そこは昨日の惨劇の現場で、壁や天井は血飛沫で黒い斑に、床にはまだ乾ききっていない血だまりの中に蝋のように白い女の死体が無造作に転がされている。地獄のような光景の中に輝く天使が一人。そいつの邪悪な正体はすぐに身をもって知らされた。
圭太と女は動物さながら鎖に繋がれた。明日紀は二人が死なないように気を付けながら、彼らの限界について調査をした。殴打、切開、切断。伝染型吸血鬼も人と同じ痛覚を持っていた。自己治癒力はそこそこあるが、欠損部位の再生はできない。契約型と違い、日光による火傷は回復不能。眷属は同じ性能の劣化版。
最終日の今日は全身を日光に当ててみる。夜の間に裸で庭木に固定された圭太の臍から下は、熱湯を使った耐熱実験で爛れている。膝から下は太陽光で焼け落ちて先細り、足首から下はない。右手首は切断されて失った。隣では眷属の女が首を吊られて、赤黒い顔をしてジタバタと暴れている。
「悪魔……」
半死の圭太が呟く。人だった頃に同じ台詞で罵られたことを思い出して、明日紀は懐かしい気持ちになった。朝日を浴びる二人の顔には安らかな表情が浮かんだとか浮かばなかったとか。後から追加した人間も併せて十三人の命を奪い、悪魔と呼ばれた吸血鬼は機嫌よくこの地を立ち去った。
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