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突然の提案に驚いてしまう。一体全体どういう風の吹き回し?
「わたし本気だよ? 玲希のことが本気で好き。ねーねよりも、誰よりも」
「えっ、でも……絆先輩は……?」
「なんかもう疲れちゃった。一途にねーねのことを追いかけるのが」
「う、うーん……」
正直、心羽先輩の提案はすごく嬉しい。
私だってこの文化祭で心羽先輩とデートしているうちに、彼女の慌てる姿、意外な一面、かっこいいところ、色んな姿を見れて楽しかった。もっと先輩を知りたいと思った。けれど、それは先輩に自分を殺してまで私を選んでほしいという意味ではない。心羽先輩には心羽先輩でいてほしいし、絆先輩のことが一番好きな心羽先輩が私は好きだ。
だったら。
私の答えは決まっていた。
「心羽先輩の気持ちはすごく嬉しいです。……でも、タマはそれに応えることができません。──今の先輩と付き合ったとして、本気で幸せになれるとは思いません!」
「……玲希?」
勢いで言ってしまって少し後悔した。心羽先輩は豆鉄砲を食らった鳩のように、ものすごく驚いた表情をしていた。
「ごめんなさい。タマは──」
項垂れると、心羽先輩はくすりと笑う。
「玲希なら、断るって思ってた」
「えっ?」
「ううん、断って欲しかったのかも。わたしがねーねを信じられなくなっても、玲希はわたしの一番がねーねであってほしいって思ってくれるって信じてた……」
「……」
「そうやって確かめたかったのかも。──やっぱりわたしの一番はねーねしかいないって。ごめん、試すようなこと言って」
「いいえ……でも」
ということは、心羽先輩はやっぱり私のことを本気で好きなわけじゃなかったのかな。なんだか少し寂しい。でもこれでよかったんだ。
少し顔を逸らした心羽先輩の表情はよく読み取れない。嬉しそうでもあり、悲しそうでもあり、楽しそうでも寂しそうでもある。そのどれもが入り交じったような表情だった。
「わたしが玲希のこと好きなのは本当だし、付き合いたいって思ってるのは本当だよ?」
「──っ!」
「だからさ、ねーねのことはひとまず置いておいて、付き合ってみない?」
「……そんなことって、できるんですか?」
「だって、玲希さっき言ってたじゃない『本気で幸せになれない』って。てことは、玲希も『本気』だってことでしょう?」
「あっ……!」
しまった、知らないうちに墓穴を掘ってしまっていた。心羽先輩はニヤリと笑みを浮かべて、私の手を取った。
「玲希の気持ちはわかったわ! それなら、これからはわたしも本気でいくから覚悟しておいてね!」
そう言い残すと、心羽先輩は戸惑う私をその場に残して、手を振りながら去っていってしまった。
「嘘、嘘だよね……?」
心羽先輩とこのまま付き合ってしまってもいいのか、分からないまま私はしばらく立ち尽くしていた。先輩の『本気』の意味が分かるのはまだ少し先のことだった。
☆☆☆
「それじゃあ文化祭お疲れ様ってことで、カンパーイ!」
中等部生徒会長の絢愛の掛け声で、私たちはそれぞれジュースの入った紙コップをで乾杯し、それを飲み干した。
文化祭が終わり、打ち上げがてら生徒会役員の引き継ぎが行われる。──それが毎年の習わしだった。
新役員は、生徒会長が望月茉莉、副会長が鏑木杏咲と熊坂蘭菜、書記が高江洲花音、会計が川久保優芽花に決まった。私たち現役員が選出した次期生徒会役員を絢愛が発表して、私たち三年生はもう打ち上げムードになった。
生徒会室に集まった私たちは、各々に持ち寄ったジュースやお菓子などを机の上いっぱいに広げてプチパーティー気分である。
生徒会長の絢愛、副会長の沙樹と茉莉、書記の羚衣優と杏咲、会計の私、そして後輩の優芽花と、一年生の蘭菜と花音の九人は、しばし文化祭での思い出話に花を咲かせた。
「──にしても、まさかタマちゃん先輩にカノジョさんがいたとはねぇ……」
「あの後、裏庭に行きましたけど告白されたんすか!?」
「された……けど、断ったかな」
「えぇぇぇぇっ!? どうして!? あんなに仲良かったのに!」
「なんでそれをあなたたちに説明しないといけないの!?」
花音、優芽花、茉莉の三人に詰め寄られた私はなんとか追及を逃れようと沙樹の傍に移動した。
「やあプリンセス。調子はどうかな?」
「沙樹までそうやってからかわないで!」
「ははっ、すまない。幸せそうにしてる人を見ると僕まで楽しくなってしまってね」
「──タマ、そんなに幸せそう?」
「ものすごく」
沙樹の言葉に私は慌てて自分の頬を触った。確かに、少し口角が上がり気味だったかもしれない。恥ずかしい。
「幸せな時に素直に幸せだと思える事はとても大事なことだと思うよ」
「た、タマは別に」
「経験なかったんだろう? 誰かと付き合うなんてことは。幸せなのは当たり前さ」
「そうだけど……」
確かに心羽先輩は素晴らしい先輩だ。出会ってまだ間もないけれど、私のことを誰よりもよく理解してくれていると思う。というより、理解してくれようとする姿勢を感じる。彼女と付き合えばきっと上手くいくと思う。
だけど……。
「タマは心羽先輩にとって所詮『二番目』なの。それってどうなのかな?」
「どうって? 今まで姉が全てだった人の『二番目』になれたんだ。それはすごいことだと思うけどね」
「うーん、まあそうなんだけど……」
納得いかない私に、沙樹は苦笑いを浮かべた。
「そんなに気にするなら、心羽先輩と別れればいいじゃないか」
「それはできない!」
「即答かい」
「心羽先輩の気持ちも無下にはできない。せっかく告白してくれたんだから……」
沙樹は呆れ気味に小さく息を吐き、一言「めんどくさい女だねぇ」と前置きしてからこんなことを口にした。
「結局、タマちゃんは心羽先輩と付き合いたいんだろう? ならそれでいいじゃないか。引っかかることがあるとしても、その答えを持っているのは僕でもタマちゃん自身でもないよ」
言いたいことは分かる。この人の言うことはいつも正しい。
つまりは、心羽先輩と付き合う過程で今後どうするのか考えろということだろう。結局、そうするしかないのだ。このままうじうじと悩んでいるのは確かに『めんどくさい女』だ。
とその時、私の首筋に突如として氷のような冷たい感覚が襲ってきた。
「ひゃぁぁぁっ!?」
「いやぁ、相変わらずたまきんはいい声で鳴きますなぁ……」
「あーやーめーっ!」
振り向くと絢愛がアイスクリームのカップを手に持ったままいたずらっぽく笑っていた。多分カップを首筋に押し当てられたのだろう。反射的に睨みつけると、絢愛は肩を竦めた。
「だってさー、せっかくたまきんとさきりんが楽しそうな話してるのに私が蚊帳の外なのはちょっともったいないかなーって」
「別に楽しい話じゃないよ。マジメな話だもん!」
「たまきんの恋バナとか、保護者としては楽しい話以外のなにものでもないね!」
「絢愛のバカぁ!」
「まあまああやめちゃん。タマちゃんも色々悩んでいるんだよ。そういじめないでやってくれないか」
「……そうね。ごめんねたまきん」
またいつもみたいなやりとりをしていると、今日ばかりは沙樹が止めに入った。そしてしおらしくしている絢愛は百年に一度見れるかどうかのレアキャラだ。
「で、何しに来たの? なにか用事があるんでしょ?」
絢愛が考えもなしに私にちょっかいを出しに来たとは考えにくい。きっとなにか言いたいことがあるのだろうと、単刀直入に切り込んでみると、絢愛は苦笑した。
「たまきんと話したくなったっていうんじゃだめ?」
「絢愛がそれだけのためにわざわざ後輩たちの輪を抜けてこっちにくるとは思えない」
すると、絢愛は参ったとばかりに両手を上げた。
「さすが、伊達に私とずっと生徒会やってたわけじゃないね。実は──」
絢愛は私と沙樹の肩に両手を回すと、顔を寄せて小さく呟いた。
「どう? 久しぶりに三人だけでお茶しない?」
「ふーん、いったいどんな風の吹き回しだいあやめちゃん?」
「いいじゃん。細かい理由は聞きっこなしだよ! 友達でしょ私たち?」
「まあそういうことにしておくか。……僕は構わないよ。どうせこの後暇だったし」
「たまきんは? 先輩とデートするの?」
「た、タマも行くよ久しぶりだし!」
一年生の頃、右も左も分からなかった私が絢愛に半ば強制的に勧められて生徒会に入ってから、私と絢愛と沙樹はずっと一緒だった。でも、後輩が増えてなかなか三人だけで集まる機会も減っていたのも事実だった。
「よし、じゃあ決まりね。場所はいつものケーキ屋さんで!」
「……まだ食べるの?」
俄然張り切り出した絢愛に、私はじとっとした視線を送るのだった。
「わたし本気だよ? 玲希のことが本気で好き。ねーねよりも、誰よりも」
「えっ、でも……絆先輩は……?」
「なんかもう疲れちゃった。一途にねーねのことを追いかけるのが」
「う、うーん……」
正直、心羽先輩の提案はすごく嬉しい。
私だってこの文化祭で心羽先輩とデートしているうちに、彼女の慌てる姿、意外な一面、かっこいいところ、色んな姿を見れて楽しかった。もっと先輩を知りたいと思った。けれど、それは先輩に自分を殺してまで私を選んでほしいという意味ではない。心羽先輩には心羽先輩でいてほしいし、絆先輩のことが一番好きな心羽先輩が私は好きだ。
だったら。
私の答えは決まっていた。
「心羽先輩の気持ちはすごく嬉しいです。……でも、タマはそれに応えることができません。──今の先輩と付き合ったとして、本気で幸せになれるとは思いません!」
「……玲希?」
勢いで言ってしまって少し後悔した。心羽先輩は豆鉄砲を食らった鳩のように、ものすごく驚いた表情をしていた。
「ごめんなさい。タマは──」
項垂れると、心羽先輩はくすりと笑う。
「玲希なら、断るって思ってた」
「えっ?」
「ううん、断って欲しかったのかも。わたしがねーねを信じられなくなっても、玲希はわたしの一番がねーねであってほしいって思ってくれるって信じてた……」
「……」
「そうやって確かめたかったのかも。──やっぱりわたしの一番はねーねしかいないって。ごめん、試すようなこと言って」
「いいえ……でも」
ということは、心羽先輩はやっぱり私のことを本気で好きなわけじゃなかったのかな。なんだか少し寂しい。でもこれでよかったんだ。
少し顔を逸らした心羽先輩の表情はよく読み取れない。嬉しそうでもあり、悲しそうでもあり、楽しそうでも寂しそうでもある。そのどれもが入り交じったような表情だった。
「わたしが玲希のこと好きなのは本当だし、付き合いたいって思ってるのは本当だよ?」
「──っ!」
「だからさ、ねーねのことはひとまず置いておいて、付き合ってみない?」
「……そんなことって、できるんですか?」
「だって、玲希さっき言ってたじゃない『本気で幸せになれない』って。てことは、玲希も『本気』だってことでしょう?」
「あっ……!」
しまった、知らないうちに墓穴を掘ってしまっていた。心羽先輩はニヤリと笑みを浮かべて、私の手を取った。
「玲希の気持ちはわかったわ! それなら、これからはわたしも本気でいくから覚悟しておいてね!」
そう言い残すと、心羽先輩は戸惑う私をその場に残して、手を振りながら去っていってしまった。
「嘘、嘘だよね……?」
心羽先輩とこのまま付き合ってしまってもいいのか、分からないまま私はしばらく立ち尽くしていた。先輩の『本気』の意味が分かるのはまだ少し先のことだった。
☆☆☆
「それじゃあ文化祭お疲れ様ってことで、カンパーイ!」
中等部生徒会長の絢愛の掛け声で、私たちはそれぞれジュースの入った紙コップをで乾杯し、それを飲み干した。
文化祭が終わり、打ち上げがてら生徒会役員の引き継ぎが行われる。──それが毎年の習わしだった。
新役員は、生徒会長が望月茉莉、副会長が鏑木杏咲と熊坂蘭菜、書記が高江洲花音、会計が川久保優芽花に決まった。私たち現役員が選出した次期生徒会役員を絢愛が発表して、私たち三年生はもう打ち上げムードになった。
生徒会室に集まった私たちは、各々に持ち寄ったジュースやお菓子などを机の上いっぱいに広げてプチパーティー気分である。
生徒会長の絢愛、副会長の沙樹と茉莉、書記の羚衣優と杏咲、会計の私、そして後輩の優芽花と、一年生の蘭菜と花音の九人は、しばし文化祭での思い出話に花を咲かせた。
「──にしても、まさかタマちゃん先輩にカノジョさんがいたとはねぇ……」
「あの後、裏庭に行きましたけど告白されたんすか!?」
「された……けど、断ったかな」
「えぇぇぇぇっ!? どうして!? あんなに仲良かったのに!」
「なんでそれをあなたたちに説明しないといけないの!?」
花音、優芽花、茉莉の三人に詰め寄られた私はなんとか追及を逃れようと沙樹の傍に移動した。
「やあプリンセス。調子はどうかな?」
「沙樹までそうやってからかわないで!」
「ははっ、すまない。幸せそうにしてる人を見ると僕まで楽しくなってしまってね」
「──タマ、そんなに幸せそう?」
「ものすごく」
沙樹の言葉に私は慌てて自分の頬を触った。確かに、少し口角が上がり気味だったかもしれない。恥ずかしい。
「幸せな時に素直に幸せだと思える事はとても大事なことだと思うよ」
「た、タマは別に」
「経験なかったんだろう? 誰かと付き合うなんてことは。幸せなのは当たり前さ」
「そうだけど……」
確かに心羽先輩は素晴らしい先輩だ。出会ってまだ間もないけれど、私のことを誰よりもよく理解してくれていると思う。というより、理解してくれようとする姿勢を感じる。彼女と付き合えばきっと上手くいくと思う。
だけど……。
「タマは心羽先輩にとって所詮『二番目』なの。それってどうなのかな?」
「どうって? 今まで姉が全てだった人の『二番目』になれたんだ。それはすごいことだと思うけどね」
「うーん、まあそうなんだけど……」
納得いかない私に、沙樹は苦笑いを浮かべた。
「そんなに気にするなら、心羽先輩と別れればいいじゃないか」
「それはできない!」
「即答かい」
「心羽先輩の気持ちも無下にはできない。せっかく告白してくれたんだから……」
沙樹は呆れ気味に小さく息を吐き、一言「めんどくさい女だねぇ」と前置きしてからこんなことを口にした。
「結局、タマちゃんは心羽先輩と付き合いたいんだろう? ならそれでいいじゃないか。引っかかることがあるとしても、その答えを持っているのは僕でもタマちゃん自身でもないよ」
言いたいことは分かる。この人の言うことはいつも正しい。
つまりは、心羽先輩と付き合う過程で今後どうするのか考えろということだろう。結局、そうするしかないのだ。このままうじうじと悩んでいるのは確かに『めんどくさい女』だ。
とその時、私の首筋に突如として氷のような冷たい感覚が襲ってきた。
「ひゃぁぁぁっ!?」
「いやぁ、相変わらずたまきんはいい声で鳴きますなぁ……」
「あーやーめーっ!」
振り向くと絢愛がアイスクリームのカップを手に持ったままいたずらっぽく笑っていた。多分カップを首筋に押し当てられたのだろう。反射的に睨みつけると、絢愛は肩を竦めた。
「だってさー、せっかくたまきんとさきりんが楽しそうな話してるのに私が蚊帳の外なのはちょっともったいないかなーって」
「別に楽しい話じゃないよ。マジメな話だもん!」
「たまきんの恋バナとか、保護者としては楽しい話以外のなにものでもないね!」
「絢愛のバカぁ!」
「まあまああやめちゃん。タマちゃんも色々悩んでいるんだよ。そういじめないでやってくれないか」
「……そうね。ごめんねたまきん」
またいつもみたいなやりとりをしていると、今日ばかりは沙樹が止めに入った。そしてしおらしくしている絢愛は百年に一度見れるかどうかのレアキャラだ。
「で、何しに来たの? なにか用事があるんでしょ?」
絢愛が考えもなしに私にちょっかいを出しに来たとは考えにくい。きっとなにか言いたいことがあるのだろうと、単刀直入に切り込んでみると、絢愛は苦笑した。
「たまきんと話したくなったっていうんじゃだめ?」
「絢愛がそれだけのためにわざわざ後輩たちの輪を抜けてこっちにくるとは思えない」
すると、絢愛は参ったとばかりに両手を上げた。
「さすが、伊達に私とずっと生徒会やってたわけじゃないね。実は──」
絢愛は私と沙樹の肩に両手を回すと、顔を寄せて小さく呟いた。
「どう? 久しぶりに三人だけでお茶しない?」
「ふーん、いったいどんな風の吹き回しだいあやめちゃん?」
「いいじゃん。細かい理由は聞きっこなしだよ! 友達でしょ私たち?」
「まあそういうことにしておくか。……僕は構わないよ。どうせこの後暇だったし」
「たまきんは? 先輩とデートするの?」
「た、タマも行くよ久しぶりだし!」
一年生の頃、右も左も分からなかった私が絢愛に半ば強制的に勧められて生徒会に入ってから、私と絢愛と沙樹はずっと一緒だった。でも、後輩が増えてなかなか三人だけで集まる機会も減っていたのも事実だった。
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