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クイズ
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結局、伊澄はいつまで経っても私を離してくれず、疲れ果てていつの間にか寝てしまい、そのまま朝になってしまった。
清々しい朝だ。小鳥のさえずりも聴こえてくる。
「あっ、そっかそういえば今日は……」
今日は土曜日、心羽先輩との待ち合わせがある日だ。
といっても、心羽先輩が行きたがっていた駅前の新しいゲームセンターで合流して気ままに散歩するだけの味気ないデート。私も心羽先輩も、他の女子が知っているようなオシャレなお店とか、映えるデートコースを知っているわけでもないし、テーマパークやカラオケなんかが大好きなわけでもない。
「うーん……」
手足を伸ばすと、倦怠感が襲ってきた。どうやらよく眠れなかったらしい。ちなみに元凶の伊澄はというと、隣ですやすやと眠っている。でも、その目元が腫れているのを見てまた少し罪悪感を覚えてしまった。
とりあえず伊澄はそのまま寝かせておいて、起きないように気をつけながら身支度を整える。
「……もっと気の利いた服があればいいんだけどなぁ」
流行りに疎くてセンスもない私は、白や黒メインの地味な私服しか持っていない。これでは色気もクソもないので、心羽先輩と付き合い始めたからにはそろそろブティックでも行って可愛い服でも調達してきた方がいいかもしれない。
「今度心羽先輩に選んでもらおっと」
心羽先輩はどんな服が好きなのだろうか。心羽先輩の好みどおりに着飾った私なら、もしかしたら絆先輩よりも好きになってくれ──
「いやいや、そんなことはないよね!」
なにを考えてるんだ私は。あくまでも私は二番目、絆先輩の次に好かれていればいいって決心したはずなのに、どうしてこうもモヤモヤしてしまうのだろう。
「こんな関係長続きするのかなぁ……」
早くも私たちの行く末に暗雲が立ち込めているような気がする。早く心羽先輩に会ってこの不安を打ち明けてしまいたい。でも、そんなことしたら心羽先輩はどう思うだろうか。
「ううん、やめよう」
とにかく、心羽先輩といる時は不安を忘れて目いっぱい楽しまないと失礼だし、向こうもそのつもりのはずだ。そう、一番不安なのは、姉の絆先輩の気を引きたい心羽先輩のはずなのに。
嫌な考えを追い払うと、私は寮を後にした。
☆☆☆
朝食をとっていなかったので、近くのコンビニでサンドイッチを購入し、それをかじりながら歩いていると、駅前に着く頃にはちょうどゲームセンターが開店する時間になっていた。
休日の朝からゲームセンターに入り浸る人なんて、開店前のパチンコ屋の前に並んでいる人よりもレアだと思う。少なくとも、開店前のゲームセンターに並んでる人なんて数える程しかいない。
店内に入ってみると、新しいせいかいつものゲームセンターよりもそれなりに広く感じた。が、こちらはUFOキャッチャーというよりも、ビデオゲームやアーケードゲームに力を入れているらしく、そっち方面の筐体が目立つ。
店内にまだ心羽先輩の姿はなかった。せっかくなので、ゲームセンターに通い始めてからたまにやっているクイズゲームの筐体の前に座り、コインを入れてみる。
昔からある人気のクイズゲームシリーズの最新作で、プレイヤーはゲームの中で魔法使いになりきり、クイズに正解すると魔法を発動することができて、その魔法で敵のモンスターを倒していく──みたいなゲームだ。
クイズはあまり得意ではないけれど、生徒会の面々のおかげで変な雑学の知識はついていて、それなりに答えられる。……国語とか社会は得意分野だし。
『施術台などの専用器具を使い、アジャストメントという施術により、体の中心である脊髄の位置を調整することにより、神経圧迫を原因として起こるトラブルにアプローチしていく方法のことを何という? ①アロマテラピー ②オステオパシー ③カイロプラクティック ④タラソテラピー』
え、なんだろうこれ……?
唐突な難問に戸惑ってしまった。恐らく美容関係の用語なのだろうが、私にはさっぱりだ。
「うーん……適当に答えるか、四択だし……」
悩んでいるうちにどんどん制限時間は少なくなっていく。このゲームでは正答なら早く答えた方が有利だ。こういうそもそも考えたところでよく分からない問題は、とりあえず早く何かしらの選択肢を選ぶのが良い。そう思って、名前だけは聞いたことのある①を適当に選ぼうとした時、突然後ろからこんな声が聞こえた。
「カイロプラクティック」
「えいっ!」
指を咄嗟に軌道修正し、③を選択した私。直後、筐体の画面には正答を示す赤い丸が踊った。
「やった……!」
ゲームの中の私のアバターが放った魔法によって、敵の巨大モンスターが撃破され、ミッションクリア。すんでのところでゲームオーバーを免れた私は、声の主を振り返った。そこには心羽先輩が腕を組んで立っていた。
「ありがとうございます心羽先輩!」
「……べつに」
相変わらず素っ気ない返事だが、これがいつもの心羽先輩だった。なんだか安心する。
「美容とかタマよく分からないので助かりました」
「せっかく可愛いんだから、少し美容勉強してみてもいいのに」
「心羽先輩はオシャレだし、美容詳しいですよね……羨ましいです」
「まあ、色々やってるのよ……ねーねの気を引くためにね。今のところ無駄になってるけど」
「あ、ごめんなさい……」
てっきり心羽先輩の地雷を踏んでしまったものと焦った私だったけれど、先輩は顔色一つ変えなかった。
「ん、まあいいのよそれは。問題は玲希のこと」
「タマの……?」
「そ。せっかく付き合ってるんだから、もっとオシャレしたら?」
「うーん、確かにオシャレな心羽先輩の隣にこんな地味でちんちくりんでなんの取り柄もない女がいたら迷惑ですもんね……」
「いや、そこまでは言ってないけど」
責められてると思ってネガティブモードを発動してしまった私に呆れた様子の心羽先輩。──そうだ、せっかくだしあれをお願いしてみようかな。
「実はタマ、ちょうど何かオシャレな服がないか探していたところなんです。──もしよかったら、今度ブティックに付き合ってもらえませんか?」
「へぇ、いいじゃない。行きましょ、今行きましょ」
「えっ、あっ、今はちょっと……!」
テンションが上がり始めた心羽先輩を慌てて制すると、先輩は可愛らしく首を傾げた。
「どうして? 善は急げっていうでしょ?」
「ですけど! ちょっと今はお金がないというか……」
特に恵まれた学生ではない私。趣味にそんなに注ぎ込まないものの、その分親からの仕送りは減らしてもらっている。お父さんなんかは「そんもんで生きていけるのか?」とか心配してよく電話をかけてくるけれど、今までは実際お金に困ったことはないので「へーきへーき」と答えていた。
でも、オシャレにはお金がかかるものだ。オシャレな服を一通り買い揃えようと思ったら、数万は下らないだろう。それに靴や帽子やアクセサリー等の小物、ヘアアレンジにメイク、色々やろうと思ったら、とてもじゃないけど私の今の仕送りじゃあどうにもできない。まずはお父さんに頼んで仕送りを増やしてもらおう。お父さんのあの様子だと快くOKしてくれるだろう。あとは来月からオシャレに気合を入れて──って考えていたのに。
「玲希って、意外と趣味にお金使うタイプなのね」
「いや、そういうわけじゃなくて……使うところがないから仕送りを減らしてもらっているというか……」
「……偉いのね」
心羽先輩は感心したように呟いて私の頭をポンポンと叩いた。私は二重の意味で恥ずかしくなって顔を伏せたけれど、それが逆に心羽先輩のスイッチを入れてしまったのか、先輩はしばらく私をなでなでしていた。
「あ、あの……恥ずかしいのでそろそろ……」
「わたしが買ってあげるよ」
「へっ?」
「だーかーらー、買ってあげるって。服」
「え、えぇぇぇぇっ!? そ、そんな恐れ多い!」
「なに? わたしが選んだ服が着れないっていうの?」
「そういうわけじゃ──」
「じゃあ早く行こ?」
半ば強制的に、私はブティックに連れていかれることになったのだった。
清々しい朝だ。小鳥のさえずりも聴こえてくる。
「あっ、そっかそういえば今日は……」
今日は土曜日、心羽先輩との待ち合わせがある日だ。
といっても、心羽先輩が行きたがっていた駅前の新しいゲームセンターで合流して気ままに散歩するだけの味気ないデート。私も心羽先輩も、他の女子が知っているようなオシャレなお店とか、映えるデートコースを知っているわけでもないし、テーマパークやカラオケなんかが大好きなわけでもない。
「うーん……」
手足を伸ばすと、倦怠感が襲ってきた。どうやらよく眠れなかったらしい。ちなみに元凶の伊澄はというと、隣ですやすやと眠っている。でも、その目元が腫れているのを見てまた少し罪悪感を覚えてしまった。
とりあえず伊澄はそのまま寝かせておいて、起きないように気をつけながら身支度を整える。
「……もっと気の利いた服があればいいんだけどなぁ」
流行りに疎くてセンスもない私は、白や黒メインの地味な私服しか持っていない。これでは色気もクソもないので、心羽先輩と付き合い始めたからにはそろそろブティックでも行って可愛い服でも調達してきた方がいいかもしれない。
「今度心羽先輩に選んでもらおっと」
心羽先輩はどんな服が好きなのだろうか。心羽先輩の好みどおりに着飾った私なら、もしかしたら絆先輩よりも好きになってくれ──
「いやいや、そんなことはないよね!」
なにを考えてるんだ私は。あくまでも私は二番目、絆先輩の次に好かれていればいいって決心したはずなのに、どうしてこうもモヤモヤしてしまうのだろう。
「こんな関係長続きするのかなぁ……」
早くも私たちの行く末に暗雲が立ち込めているような気がする。早く心羽先輩に会ってこの不安を打ち明けてしまいたい。でも、そんなことしたら心羽先輩はどう思うだろうか。
「ううん、やめよう」
とにかく、心羽先輩といる時は不安を忘れて目いっぱい楽しまないと失礼だし、向こうもそのつもりのはずだ。そう、一番不安なのは、姉の絆先輩の気を引きたい心羽先輩のはずなのに。
嫌な考えを追い払うと、私は寮を後にした。
☆☆☆
朝食をとっていなかったので、近くのコンビニでサンドイッチを購入し、それをかじりながら歩いていると、駅前に着く頃にはちょうどゲームセンターが開店する時間になっていた。
休日の朝からゲームセンターに入り浸る人なんて、開店前のパチンコ屋の前に並んでいる人よりもレアだと思う。少なくとも、開店前のゲームセンターに並んでる人なんて数える程しかいない。
店内に入ってみると、新しいせいかいつものゲームセンターよりもそれなりに広く感じた。が、こちらはUFOキャッチャーというよりも、ビデオゲームやアーケードゲームに力を入れているらしく、そっち方面の筐体が目立つ。
店内にまだ心羽先輩の姿はなかった。せっかくなので、ゲームセンターに通い始めてからたまにやっているクイズゲームの筐体の前に座り、コインを入れてみる。
昔からある人気のクイズゲームシリーズの最新作で、プレイヤーはゲームの中で魔法使いになりきり、クイズに正解すると魔法を発動することができて、その魔法で敵のモンスターを倒していく──みたいなゲームだ。
クイズはあまり得意ではないけれど、生徒会の面々のおかげで変な雑学の知識はついていて、それなりに答えられる。……国語とか社会は得意分野だし。
『施術台などの専用器具を使い、アジャストメントという施術により、体の中心である脊髄の位置を調整することにより、神経圧迫を原因として起こるトラブルにアプローチしていく方法のことを何という? ①アロマテラピー ②オステオパシー ③カイロプラクティック ④タラソテラピー』
え、なんだろうこれ……?
唐突な難問に戸惑ってしまった。恐らく美容関係の用語なのだろうが、私にはさっぱりだ。
「うーん……適当に答えるか、四択だし……」
悩んでいるうちにどんどん制限時間は少なくなっていく。このゲームでは正答なら早く答えた方が有利だ。こういうそもそも考えたところでよく分からない問題は、とりあえず早く何かしらの選択肢を選ぶのが良い。そう思って、名前だけは聞いたことのある①を適当に選ぼうとした時、突然後ろからこんな声が聞こえた。
「カイロプラクティック」
「えいっ!」
指を咄嗟に軌道修正し、③を選択した私。直後、筐体の画面には正答を示す赤い丸が踊った。
「やった……!」
ゲームの中の私のアバターが放った魔法によって、敵の巨大モンスターが撃破され、ミッションクリア。すんでのところでゲームオーバーを免れた私は、声の主を振り返った。そこには心羽先輩が腕を組んで立っていた。
「ありがとうございます心羽先輩!」
「……べつに」
相変わらず素っ気ない返事だが、これがいつもの心羽先輩だった。なんだか安心する。
「美容とかタマよく分からないので助かりました」
「せっかく可愛いんだから、少し美容勉強してみてもいいのに」
「心羽先輩はオシャレだし、美容詳しいですよね……羨ましいです」
「まあ、色々やってるのよ……ねーねの気を引くためにね。今のところ無駄になってるけど」
「あ、ごめんなさい……」
てっきり心羽先輩の地雷を踏んでしまったものと焦った私だったけれど、先輩は顔色一つ変えなかった。
「ん、まあいいのよそれは。問題は玲希のこと」
「タマの……?」
「そ。せっかく付き合ってるんだから、もっとオシャレしたら?」
「うーん、確かにオシャレな心羽先輩の隣にこんな地味でちんちくりんでなんの取り柄もない女がいたら迷惑ですもんね……」
「いや、そこまでは言ってないけど」
責められてると思ってネガティブモードを発動してしまった私に呆れた様子の心羽先輩。──そうだ、せっかくだしあれをお願いしてみようかな。
「実はタマ、ちょうど何かオシャレな服がないか探していたところなんです。──もしよかったら、今度ブティックに付き合ってもらえませんか?」
「へぇ、いいじゃない。行きましょ、今行きましょ」
「えっ、あっ、今はちょっと……!」
テンションが上がり始めた心羽先輩を慌てて制すると、先輩は可愛らしく首を傾げた。
「どうして? 善は急げっていうでしょ?」
「ですけど! ちょっと今はお金がないというか……」
特に恵まれた学生ではない私。趣味にそんなに注ぎ込まないものの、その分親からの仕送りは減らしてもらっている。お父さんなんかは「そんもんで生きていけるのか?」とか心配してよく電話をかけてくるけれど、今までは実際お金に困ったことはないので「へーきへーき」と答えていた。
でも、オシャレにはお金がかかるものだ。オシャレな服を一通り買い揃えようと思ったら、数万は下らないだろう。それに靴や帽子やアクセサリー等の小物、ヘアアレンジにメイク、色々やろうと思ったら、とてもじゃないけど私の今の仕送りじゃあどうにもできない。まずはお父さんに頼んで仕送りを増やしてもらおう。お父さんのあの様子だと快くOKしてくれるだろう。あとは来月からオシャレに気合を入れて──って考えていたのに。
「玲希って、意外と趣味にお金使うタイプなのね」
「いや、そういうわけじゃなくて……使うところがないから仕送りを減らしてもらっているというか……」
「……偉いのね」
心羽先輩は感心したように呟いて私の頭をポンポンと叩いた。私は二重の意味で恥ずかしくなって顔を伏せたけれど、それが逆に心羽先輩のスイッチを入れてしまったのか、先輩はしばらく私をなでなでしていた。
「あ、あの……恥ずかしいのでそろそろ……」
「わたしが買ってあげるよ」
「へっ?」
「だーかーらー、買ってあげるって。服」
「え、えぇぇぇぇっ!? そ、そんな恐れ多い!」
「なに? わたしが選んだ服が着れないっていうの?」
「そういうわけじゃ──」
「じゃあ早く行こ?」
半ば強制的に、私はブティックに連れていかれることになったのだった。
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