セイントガールズ・オルタナティブ

早見羽流

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第2章 姉妹契約

Act.19 模擬戦(佐紀)

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 ❀.*・゜


(どうしてこうなった……)

 佐紀は先程からずっと心の中で繰り返していた。


 事の発端は、班長の真莉が朝木かなでという3年生に模擬戦で勝利して姉妹関係を半ば強引に結んだことだった。かなで自体は3年生の中で突出して強いわけではなく、強襲科の中では並以下の実力だとのことだったのだが、問題は所属している班が3年生でも1、2位を争う『神田班』であったということ。
 真莉はどうやらそれを狙っていたらしく、かなでを通じて他の神田班の3年生にも繋がりを持とうとしていた。こういうところで真莉はしたたかなのだ。

 それはまだ良かったのだが、今度は神田班の班長である神田瑞希が真莉を訪ねてきて「よかったら新人戦の指導をさせてくれない?」みたいなことを提案してきたらしい。
 新人戦とは、1年生の班同士が他の班と模擬戦をして競い合うというようなイベントなのだが、そこで3年生の班が指導役について、集団戦を教え込むというのが通例になっているという。

 真莉は瑞希の提案を快く了承した。莉々亜なんかは、神田班に意中の『アンナお姉様』とやらがいることを知って大喜びしていたし、火煉や紫陽花も憧れの先輩直々に指導を受けられるということで嬉しそうにしていたのだが、佐紀はどうも面白くなかった。
 そもそも佐紀は誰かに手取り足取り指導されるということが窮屈で苦手だった。昔から必要なことは自分で学んで習得したし、魔法でいじめっ子を倒すことだって、自分で技を磨いて行った。──端的に言うと、佐紀は他人を信用していなかった。


 ──そして、蓋を開けてみれば『アンナお姉様』とやらは先日校舎裏でボコボコにされていた情けない3年生であり、そんな奴らから指導を受けるなんてまっぴらごめんだと思った佐紀は、アンナに喧嘩をふっかけ、莉々亜や紫陽花をキレさせた挙句、アンナと模擬戦をやることになってしまったというわけである。


「……まあいいさ、あんなヘタレに負けるオレじゃねぇ」
「残念ながら、佐紀さんに敵う相手じゃありませんわよ……仮にもあの方は序列23位のエリートですのよ?」

 グラウンドに向かう途中で佐紀がボソリと呟くと、隣にいた真莉が釘を刺した。

「そんなの、やってみないと分からねぇじゃねえか……」
「自信を持つのは大事なことですが、自分の力量を把握できない者は早死にしますわよ?」
「それはどうかな? 実際オレはまだ死んでねぇ」

 真莉は呆れたように肩をすくめると、一緒にいた紫陽花に声をかけた。

「それにしても紫陽花さんにあんな力があったなんて、そちらの方が驚きなのですが」
「暴発の危険があるからあまり使うなって言われてるんだけどね……。でも、さかまきが暴走したら真莉ちゃんが止めてくれるでしょ?」
「……あまりアテにされても困るのですが」

 紫陽花はカフェテリアでの小競り合いの際に、一瞬にしてアンナ、佐紀、莉々亜の3人を捕縛して無力化した。それが彼女の固有魔法なのか、はたまた彼女が最高位の第8階梯まで使用できるという闇属性の上級魔法なのかは分からないが、真莉だけでなく紫陽花もまた3年生を凌駕りょうがする潜在能力を持っているようだった。

(つくづく面白いやつらだな大黒班こいつらは……)

 佐紀は、3年生よりもむしろ同室の1年生に興味が湧いていた。
 純粋な強さを求める佐紀にとって、自分の未知の能力や優れた才能には惹かれるのだが、強いと信じていた相手が目の前で情けない姿を見せていると激しく萎えてしまう。だから、佐紀はアンナに憤りを感じていたのだ。


 ジャージに着替えた3年生の5人と1年生の5人がグラウンドに集合すると、既に他のいくつかの3年生、1年生のグループがそれぞれの場所をキープして訓練に励んでいた。
 瑞希はグラウンドの端に皆を誘導し、砂の地面に足で半径10メートルほどの円を描いていく。

「ルールは、相手をこの円から出すか、戦闘不能にした方が勝ちってことで。魔法の使用に制限はないけれど、わたしには医療科教官みたいになんでも治癒できるわけじゃないから、3年生は程々に手加減してあげてね。──じゃあまずはアンナと佐紀ちゃんからやろうか」
「わかりましたわ!」
「……」

 アンナと佐紀は円の端と端に立って向かい合った。
 ジャージ姿とはいえ、背筋を伸ばしてその美しい金髪を風になびかせるアンナの立ち姿は威風堂々たるものがあり、対する佐紀もアンナから視線を外さず、喧嘩慣れした様子を見せている。

「アンナお姉様ー! 頑張ってくださいー!」
「佐紀ちゃんも頑張ってー!」
「行け行けー! ころしあえー!」
「アンナー! ちゃんと手加減するんだよー?」

 莉々亜や火煉、それに3年生の玲果やかなでが口々に叫ぶ。
 うるさいなと思いながらも、佐紀はアンナから視線を外さなかった。

「……全力で潰しに行くから、泣くんじゃねぇぞ?」
「ええどうぞ。どこからでもかかってきてくださいまし」

 佐紀は武器のコアを真上に投げ上げると、それを空中で掴みとって魔力を流し込み、大太刀を展開した。それをアンナは眺めているだけだった。

「どうした? 武器を構えろよ」
「その必要はありませんわ。この模擬戦の意図は1年生の実力を見極めること。であれば、一瞬で決着がついてしまっては意味がありませんもの。──わたくしが使うのは固有魔法の『硬化』のみですわ」
「──ナメやがって!」

「はい、じゃあはじめー」

 瑞希の気の抜けたような合図と共に、激昂げきこうした佐紀が飛び出した。大太刀に雷と闇の魔力を同時に込め、アンナの身体を横薙ぎに薙ぎ払う。アンナは横に跳んでその一撃をかわすと、がら空きの佐紀の背後に回って首に手を回し、足を払ってそのまま地面に投げ飛ばした。

「スキありですわよ」
「クソッ!」

 すぐさま立ち上がった佐紀は大太刀を構え直す。

(魔法を使わずにこの身のこなし、速すぎる……だが固有魔法はオレにもある!)

「これはかわせるかよ!」

 佐紀は大太刀を中心に固有魔法の重力魔法を発動した。そして、アンナの身体を引き寄せる。たまらず体勢を崩したアンナに、今度は大太刀に雷をまとわせて斬りつけた。
 バチィッ! と火花が散って、アンナの身体が吹き飛ぶ。だが、まだ辛うじて円の中に身体を残したアンナはすぐに立ち上がった。

「なるほど、今の攻撃はなかなかよかったですわよ」
「……今のを受けて普通に立てるとか化け物かよ」
「よく言われますわ。でもわたくし、『硬化』のおかげで普通の人間よりもだいぶ丈夫ですのよ」

 アンナはジャージの右腕の部分を見せてきた。そこは黒く焦げており、佐紀の攻撃を咄嗟とっさに右腕で防御していたということがわかった。
 佐紀は顔をしかめた。

(攻撃を当てることができたというより、当てさせてもらったというのか……? オレの魔法の威力を確かめるために?)

 あれだけ強気だった佐紀は、もはやアンナとの実力差を痛いほど感じていた。

(オレじゃあどうやってもこいつには勝てない。これが序列23位の実力ってことか……!)


「どうします? まだ奥の手を隠しているのなら全部見て差し上げますが?」
「……いや、これ以上は不毛。──オレの負けだ」

 佐紀は潔く負けを認めた。と同時にアンナの強さも認めることになったが、だとしたらなぜ昨日彼女はいいようにやられていたのかが余計に不思議だった。アンナがその理由を自分に話してくれないということもたまらなく気持ち悪く思えてきた。

(これは、本人からなんとしても聞き出さないといけねぇな……もしかしたらそこに強さの秘訣があるのかもしれねぇし……)

「はーい、じゃあアンナの勝ちってことでいいかな?」
「あぁ……お前はやっぱり強えよ。悪かったな先輩……」

 瑞希の言葉に佐紀は頷くと、アンナに向かって頭を下げた。その表情にはもはや以前の挑発的な感情はなく、ただ目の前のアンナに対する尊敬と、興味の感情があった。

「なあ先輩。聞かせてくれないか、先輩のこと……。どうやったらそんなに強くなれるのかを」

 嘘のように敵意の消えた佐紀にアンナは少し驚いたような顔をした。そして微笑を浮かべると、佐紀の瞳を見つめ返した。

「まあ、構いませんわよ。どうやらわたくしはあなた方を指導するのが役目のようですので」
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