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第2章 美少女天使スクリュー・ドライバー
妖魔の誘い! トップ天使はエースを盗む
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うかがみちゃんの予想外の言葉に、時間が停止したかのように誰も反応しない時間がしばし流れた。
が、やがて静内社長が口を開いた。
「取り引き……だと?」
「そう。する気ある?」
緑の髪の天使(アイドル)――うかがみちゃんはニコニコした表情を崩さずに続ける。まるでこちらが引き受けざるを得ないことを確信しているかのようだ。
「内容だけでも聞いておきましょうか」
と落ち着いた声色で八雲Pが口にすると、うかがみちゃんは頷いた。
「さっき話してたの聞いてたけど、未確認をどうやって釣り出すのか悩んでいるみたいだね? うかがみちゃんたちSTは、次の未確認の出現を予測しているルンッ♪ だからこちらはその情報を提供する。……代わりに」
「代わりに……?」
うかがみちゃんはふふっと意味深に笑った。そしておもむろに私の両肩に手をかけると、そのまま自分の方に引き寄せてきた。
「うわっ!」
私は突然のことにバランスを崩してしまった。その拍子に以前怪我した右足を捻ってしまい、激痛が走った。声にならない悲鳴を上げて倒れそうになる。
「おっとっと」
そんな私の身体をうかがみちゃんは抱きかかえるようにして支えた。背中に温かくて柔らかい感触があった。……少し離れてたうちに成長しやがってぇ……でもどこか落ち着く。かつての仲間だったからかな?
「ST(こちら)の条件は、静内〝P〟がウチから勝手に引き抜いた天使、『スクリュー・ドライバー』の梅谷(うめたに) 彩葉(いろは)の返還だよ!」
「「……!?」」
衝撃の内容に、その場にいた青海のメンバーは私も含めて言葉を失った。もうだいぶ前にちゃんと引退届を出して引退させてもらったSTに今更私が呼ばれる理由って……? 戦力が必要だったり、戦える天使を引き抜いて事務所の弱体化を図るつもりなら私よりも柊里ちゃんを引き抜こうとするはず。どうしてだろう?
そして……社長はSTとの取り引きをしてしまうのだろうか?
「なるほど……」
静内社長は頭を抱えた。二人しか天使が所属していない青海プロダクションにとって、負傷中とはいえ私を失うのは辛いのかもしれないし、未確認についての調査に行き詰まってしまうとSTに潰されるなり買収されるなりするかもしれない。どちらにせよ道は険しいことを察して悩んでいるのかもしれない。
「おいちょっと待て、わたしは認めないぞそんなの!」
声を上げたのは柊里ちゃんだった。そしてぴったりと密着している私とうかがみちゃんを強引に引き離す。そして、私を庇うように身体を入れると、両手を広げてうかがみちゃんを睨みつけた。
「センパイがここ辞めるならわたしも辞めるからな!」
「そこまで!?」
私は思わずツッコンでしまった。
「おい、まだ受けると決めたわけじゃないぞ、先走るな霜月」
「いや、もう我慢ならない。こいつ追い出すぞ」
社長さんの言葉に柊里ちゃんは首を振る。
「どうですか? 梅谷さんの意志を聞いてみては? 本人がまたSTに戻りたいというのなら、またとないチャンスだと思いますけど」
やはりというか、場を収拾したのはPさんだった。いつでも冷静なPさんはほんとうに頼りになる。……でも
「私ですか……?」
私としては今までどおり青海プロダクションにいたいけど、それで未確認への手がかりが絶たれてしまって、結果的に事務所が潰れることになってしまっては本末転倒だ。正直私に選択権を与えて欲しくなかった。責任重大じゃん。
皆は私の顔をじっと見つめて答えを待っている。ビビりの私にはそれだけでもかなりのプレッシャーだ。頭が真っ白になって何も考えられなくなっちゃう。だから……
「ちょっとうかがみちゃんと二人にさせてもらえませんか? 話すの久しぶりなのでいろいろ聞きたくて……」
「うんっ♪ いいよ!」
うかがみちゃんは二つ返事で承諾してくれた。社長さんとPさんも黙って頷く。しかし柊里ちゃんは露骨に嫌そうな表情になった。
「わたしに聞かれたら困る話なのか? こいつはセンパイの何なんだ?」
おいおい、君は私の旦那さんですか?ん?
「柊里ちゃんごめんっ! ちょっと複雑な関係なの。詳しくは社長さんに聞いてくれる?」
「……おいヤリ○ン、センパイに変なことしたら処刑するからな?」
私が簡単に引かないということを分かっている柊里ちゃんは、うかがみちゃんに暴言を吐くことで折れてくれたようだ。先程から散々下品な言葉を浴びせられているうかがみちゃんはとても複雑な表情をしているけど。
「上の自分のリフレッシュルームを使うといい」
「はいっ、ありがとうございます! 行こう?」
社長の言葉にお礼を言うや否や、私はうかがみちゃんの手を引いて二階に上った。大きな部屋を衝立で仕切った私のスペースにうかがみちゃんを案内する。といってもそこには仮眠用のベッドと、宿題をする勉強机くらいしかないんだけど。
「へーぇ、お粗末な部屋だねっ」
「うるさいよウチの事務所お金ないんだもん。ベッドにでも適当に座って?」
部屋を見渡しながら呟いたうかがみちゃんをベッドに座らせると、私もその隣に座った。
「くんくん……彩葉の匂いがする……」
「なわけないでしょ、洗濯したてだよ?」
私は、こともあろうにベッドの上に置いてあったピンク色の毛布を手に取って匂いを嗅ぎ始めた変態(うかがみちゃん)の頭をはたいて、毛布を取り上げた。
「……久しぶりだね〝笑鈴〟」
「そうだねっ〝彩葉〟」
かつてJC二人組ユニット――初の第二世代ユニット『ニュージェネレーション』としてSTの主力として活躍していた私たち……しかし後に進んだ道は真逆だった。
片や第三世代機装の天使となってトップ天使となったうかがみちゃん――笑鈴と、成果が第一に求められるSTの事務所の雰囲気に馴染めずに引退し、弱小事務所で細々と活動している私。
「大きくなったね。そして凄く強くなって……」
どことは言わないけど。
「うかがみちゃんも、あんなに泣き虫だった彩葉がこんなに立派なギャルになってるなんてびっくりだよ」
「で、なんでなの? どうして衛州社長は突然私を引き抜きにきたの?」
私は笑鈴の目を見つめながら単刀直入に切り出した。笑鈴はうーんと顎に手を当てて悩むような仕草をすると
「うかがみちゃんもそれはよく分からないんだけど、なんか戦略上必要になったみたい」
「なんで私なの……?」
「それはね……うかがみちゃんとユニット組んで戦った実績があるっていうのと、あとは昨日の戦闘のせいかな?」
昨日の……? スカイツリー守れなかったやつ? どうして……?
「昨日の配信を見て、彩葉ちゃんのファンがプチ増えてるんだってーネットの掲示板に書いてあったルンッ♪ 読んであげようか、えーっと……」
「読まなくていいから!」
人気が出た途端に引き抜かれるとは……さすがST……。
「まだ悩んでる? 絶対に戻った方がいいと思うけどなー?」
確かに、待遇は明らかにSTの方がいい。しかも、笑鈴とユニットが組めるということは、トップ天使になれるということ。ちやほやされてお金もたくさん稼げる。
――でも
「私はこの青海プロダクションの仲間のこと大切に思ってるし……守らなきゃなって思うから……だから……」
「彩葉、守るっていうのはね……力がないとできないんだよっ?」
笑鈴は私の言葉をさえぎってそんなことを言った。顔には相変わらず笑みを浮かべているが、その目は全く笑っていなかった。少し不気味。
「……?」
「これは内緒にしてほしいんだけど……STに戻ってくれたら、社長が最新型の第三世代機装を彩葉のために支給してくれるって!」
「!?」
その言葉で私の心は大きく揺らいだ。もう昨日みたいに未確認相手に惨めな思いをしなくて済む――ドラゴン級相手に怪我をすることもなくなる――もっとみんなの役に立てる!
私は青海プロダクションのみんなのことが大好きだけれど、だからこそ彼らの役に立てない自分のことが情けなかった。もっと強くなりたい。そう思っていた。だから……
「笑鈴、決めたよ。私は――」
が、やがて静内社長が口を開いた。
「取り引き……だと?」
「そう。する気ある?」
緑の髪の天使(アイドル)――うかがみちゃんはニコニコした表情を崩さずに続ける。まるでこちらが引き受けざるを得ないことを確信しているかのようだ。
「内容だけでも聞いておきましょうか」
と落ち着いた声色で八雲Pが口にすると、うかがみちゃんは頷いた。
「さっき話してたの聞いてたけど、未確認をどうやって釣り出すのか悩んでいるみたいだね? うかがみちゃんたちSTは、次の未確認の出現を予測しているルンッ♪ だからこちらはその情報を提供する。……代わりに」
「代わりに……?」
うかがみちゃんはふふっと意味深に笑った。そしておもむろに私の両肩に手をかけると、そのまま自分の方に引き寄せてきた。
「うわっ!」
私は突然のことにバランスを崩してしまった。その拍子に以前怪我した右足を捻ってしまい、激痛が走った。声にならない悲鳴を上げて倒れそうになる。
「おっとっと」
そんな私の身体をうかがみちゃんは抱きかかえるようにして支えた。背中に温かくて柔らかい感触があった。……少し離れてたうちに成長しやがってぇ……でもどこか落ち着く。かつての仲間だったからかな?
「ST(こちら)の条件は、静内〝P〟がウチから勝手に引き抜いた天使、『スクリュー・ドライバー』の梅谷(うめたに) 彩葉(いろは)の返還だよ!」
「「……!?」」
衝撃の内容に、その場にいた青海のメンバーは私も含めて言葉を失った。もうだいぶ前にちゃんと引退届を出して引退させてもらったSTに今更私が呼ばれる理由って……? 戦力が必要だったり、戦える天使を引き抜いて事務所の弱体化を図るつもりなら私よりも柊里ちゃんを引き抜こうとするはず。どうしてだろう?
そして……社長はSTとの取り引きをしてしまうのだろうか?
「なるほど……」
静内社長は頭を抱えた。二人しか天使が所属していない青海プロダクションにとって、負傷中とはいえ私を失うのは辛いのかもしれないし、未確認についての調査に行き詰まってしまうとSTに潰されるなり買収されるなりするかもしれない。どちらにせよ道は険しいことを察して悩んでいるのかもしれない。
「おいちょっと待て、わたしは認めないぞそんなの!」
声を上げたのは柊里ちゃんだった。そしてぴったりと密着している私とうかがみちゃんを強引に引き離す。そして、私を庇うように身体を入れると、両手を広げてうかがみちゃんを睨みつけた。
「センパイがここ辞めるならわたしも辞めるからな!」
「そこまで!?」
私は思わずツッコンでしまった。
「おい、まだ受けると決めたわけじゃないぞ、先走るな霜月」
「いや、もう我慢ならない。こいつ追い出すぞ」
社長さんの言葉に柊里ちゃんは首を振る。
「どうですか? 梅谷さんの意志を聞いてみては? 本人がまたSTに戻りたいというのなら、またとないチャンスだと思いますけど」
やはりというか、場を収拾したのはPさんだった。いつでも冷静なPさんはほんとうに頼りになる。……でも
「私ですか……?」
私としては今までどおり青海プロダクションにいたいけど、それで未確認への手がかりが絶たれてしまって、結果的に事務所が潰れることになってしまっては本末転倒だ。正直私に選択権を与えて欲しくなかった。責任重大じゃん。
皆は私の顔をじっと見つめて答えを待っている。ビビりの私にはそれだけでもかなりのプレッシャーだ。頭が真っ白になって何も考えられなくなっちゃう。だから……
「ちょっとうかがみちゃんと二人にさせてもらえませんか? 話すの久しぶりなのでいろいろ聞きたくて……」
「うんっ♪ いいよ!」
うかがみちゃんは二つ返事で承諾してくれた。社長さんとPさんも黙って頷く。しかし柊里ちゃんは露骨に嫌そうな表情になった。
「わたしに聞かれたら困る話なのか? こいつはセンパイの何なんだ?」
おいおい、君は私の旦那さんですか?ん?
「柊里ちゃんごめんっ! ちょっと複雑な関係なの。詳しくは社長さんに聞いてくれる?」
「……おいヤリ○ン、センパイに変なことしたら処刑するからな?」
私が簡単に引かないということを分かっている柊里ちゃんは、うかがみちゃんに暴言を吐くことで折れてくれたようだ。先程から散々下品な言葉を浴びせられているうかがみちゃんはとても複雑な表情をしているけど。
「上の自分のリフレッシュルームを使うといい」
「はいっ、ありがとうございます! 行こう?」
社長の言葉にお礼を言うや否や、私はうかがみちゃんの手を引いて二階に上った。大きな部屋を衝立で仕切った私のスペースにうかがみちゃんを案内する。といってもそこには仮眠用のベッドと、宿題をする勉強机くらいしかないんだけど。
「へーぇ、お粗末な部屋だねっ」
「うるさいよウチの事務所お金ないんだもん。ベッドにでも適当に座って?」
部屋を見渡しながら呟いたうかがみちゃんをベッドに座らせると、私もその隣に座った。
「くんくん……彩葉の匂いがする……」
「なわけないでしょ、洗濯したてだよ?」
私は、こともあろうにベッドの上に置いてあったピンク色の毛布を手に取って匂いを嗅ぎ始めた変態(うかがみちゃん)の頭をはたいて、毛布を取り上げた。
「……久しぶりだね〝笑鈴〟」
「そうだねっ〝彩葉〟」
かつてJC二人組ユニット――初の第二世代ユニット『ニュージェネレーション』としてSTの主力として活躍していた私たち……しかし後に進んだ道は真逆だった。
片や第三世代機装の天使となってトップ天使となったうかがみちゃん――笑鈴と、成果が第一に求められるSTの事務所の雰囲気に馴染めずに引退し、弱小事務所で細々と活動している私。
「大きくなったね。そして凄く強くなって……」
どことは言わないけど。
「うかがみちゃんも、あんなに泣き虫だった彩葉がこんなに立派なギャルになってるなんてびっくりだよ」
「で、なんでなの? どうして衛州社長は突然私を引き抜きにきたの?」
私は笑鈴の目を見つめながら単刀直入に切り出した。笑鈴はうーんと顎に手を当てて悩むような仕草をすると
「うかがみちゃんもそれはよく分からないんだけど、なんか戦略上必要になったみたい」
「なんで私なの……?」
「それはね……うかがみちゃんとユニット組んで戦った実績があるっていうのと、あとは昨日の戦闘のせいかな?」
昨日の……? スカイツリー守れなかったやつ? どうして……?
「昨日の配信を見て、彩葉ちゃんのファンがプチ増えてるんだってーネットの掲示板に書いてあったルンッ♪ 読んであげようか、えーっと……」
「読まなくていいから!」
人気が出た途端に引き抜かれるとは……さすがST……。
「まだ悩んでる? 絶対に戻った方がいいと思うけどなー?」
確かに、待遇は明らかにSTの方がいい。しかも、笑鈴とユニットが組めるということは、トップ天使になれるということ。ちやほやされてお金もたくさん稼げる。
――でも
「私はこの青海プロダクションの仲間のこと大切に思ってるし……守らなきゃなって思うから……だから……」
「彩葉、守るっていうのはね……力がないとできないんだよっ?」
笑鈴は私の言葉をさえぎってそんなことを言った。顔には相変わらず笑みを浮かべているが、その目は全く笑っていなかった。少し不気味。
「……?」
「これは内緒にしてほしいんだけど……STに戻ってくれたら、社長が最新型の第三世代機装を彩葉のために支給してくれるって!」
「!?」
その言葉で私の心は大きく揺らいだ。もう昨日みたいに未確認相手に惨めな思いをしなくて済む――ドラゴン級相手に怪我をすることもなくなる――もっとみんなの役に立てる!
私は青海プロダクションのみんなのことが大好きだけれど、だからこそ彼らの役に立てない自分のことが情けなかった。もっと強くなりたい。そう思っていた。だから……
「笑鈴、決めたよ。私は――」
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