編在する世界より

静電気妖怪

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神国『勇者誕生祭』

敬虔なる信者達へ

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 神殿に入ると中は想像通り、と言うべきか簡素でありながら尊大な雰囲気を感じる。

 装飾の少ない石膏の柱、シミひとつない赤い絨毯、多くの人が座れるように長椅子が並べられおり、それらが向かう先には一つの大きな女神像がこちらを見下ろしている。

今は時間が悪いのか、時期なのか中には数人のシスターと神官しかいなかった。そして、


「ようこそ。どうなさい——ゴホン、ようこそいらっしゃいました。本日はどう言ったご用件でしょうか?」


 白を基調とした袖の長い服と丈の長い帽子。どちらも不思議な模様が刺繍されており、首には銅色の印を下げたいかにも神官の見える初老の男性が話しかけてきた。

 そして、初老の神官はギルディアの首から下げられている銀色の証を見ると豹変したように丁寧な物腰で尋ねた。

 ハクは「露骨に態度を変えたな」と喉まで上がってきた言葉をなんとか飲み込んだ。というのも——、


「⋯⋯あの、私の顔に何かついていますか?」
「いえ、可愛らしいお嬢さんだと思ってね」


 神官はハクをじっと見つめていたので言い出せなかったのだ。
 銀色が相当に珍しいので、その連れというだけ一見する価値はあると思うのだが、神官の視線はそう言った好奇な眼差しというよりは何か物色するようなものだった。
 しかし、ハクに不快な気分にさせたことに気づくと直ぐに視線を外し、ギルディアに移した。


「失礼しました銀色様。それで、本日は祈りでしょうか? それもと別の用事がございましたか?」
「祈りを捧げにきた。それと、終わったらアンタに聞きたいことがある」
「私にですか? わかりました、私の様な者でも役に立てるなら幸いでございます。では、私達は席を外しますので祈りが終わりましたらあちらの扉の先へ進んでください」


 神官は扉を一つ指差した。
 先ほどまで掃除をしていたシスター達がなだれ込むように入っていく扉の先はおそらく職員の休憩室か何かに繋がっているのだろう。


「では、神の思し召しがございますように」


 その言葉を最後に神官がこの場を去った。先ほどまで少ないが人がいた空間はシン、と静まり返り賑やかだった外と比較すると断絶された様な世界観を作り出している。


「さっさと済ませるか」


 そう言ってギルディアは女神像の前に向かうと、流麗な流れで片膝を突き、手を合わせ祈った。
 まるで時間に忘れられたかのように、ピタリとも動かない姿は神から信託を授かる勇者のように一枚の絵になっていた。

 そのあまりの様になった姿に「はへー⋯⋯」と見惚れてしまったハク。
 しかし、ハッと気を取り戻すと急いでギルディアの隣に真似するように片膝をついた——横目でしっかりとギルディアを眺めながら。


「⋯⋯」
「⋯⋯」


 1秒か、1分か、1時間か、静かに祈ることは退屈そのものなのだが、横目で見える神秘的な光景を見ていると退屈な時間すらも忘れてしまう。
 しかし、そんな時間もギルディアが目を開けることで終わりを迎えた。


「よし、戻るぞ」
「え、もう行くんですか?」
「これだけすれば十分だ。それに俺はこの神に感謝はしているが、信仰はしていないからな」


 そう言うとギルディアは踵を返し、足速に祈りの間から出ていってしまった。
 ポツン、と取り残されたハクはギルディアの最後の言葉に違和感を覚えていた。そして、先ほどまで祈っていた女神の像に振り返ると——


「感謝はしてるって、まるで会ったことがあるような言い方ですけど⋯⋯自称神様なんですし、そう言うことなんですかね」


 ——威厳に溢れていた顔立ちが、少しだけ寂しそうな表情をしているように見えた。


 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


「やっと戻ってきたか」


 祈りの間から出て最初に言われたのがこの一言だった。
 扉を開いた先には幅は狭いが分れ道が多い廊下と壁に背中を預けているギルディアの姿があった。

 歩幅の小さいハクにとってだだっ広いあの部屋を横断するのは、思った以上に時間がかかっていたようだ。それとは別に、ギルディアのことを考えていたこともあるだろうが。


「ちゃんと待っててくれたんですね」
「⋯⋯さっさと神官に話を聞きに行くぞ」
「は~い」


 神国に入る前もそうであったが、ギルディアのぶっきらぼうだけど優しい態度にハクの頬が綻ぶ。
 一方のギルディアは仕返しのつもりか、普段より若干歩く速度を速めていた。


「神官さんには勇者のことを聞くんですか?」
「そうだ」


 ハクは若干小走りのペースで歩くが中々距離が縮まらず、側から見れば間抜けなやり取りに見える。


「神官さんは答えてくれるんですかね?」
「いや、おそらく『わからない』と返してくるだろうな」
「え? それでいいんですか?」
「当然、知っているに越したことはないが、あの神官が持っていた印は銅だ。勇者の様な機密事項を末端の神官が知っているとは思えんな」


 言われてみれば確かに、と言った具合にハクは納得する。そして、ギルディアはさらに続けた。


「逆に末端にまで情報が入っていない時点で疑ってもいい話だ。それに、『祭り』と言うのも気になる」
「そう言えば来る時に門番の方が言ってましたね。好戦的な人達も別の入り口から入っていましたし、一体どんな祭りなんでしょうね」


 女神の感謝祭か何かかと思っていたハクとしては、平和で賑やかな感じにそんな血気盛んな人々を招くイメージも理由も思いつかなかった。その人達は祭りには関係なく、戦争に行く徴兵の人達というのも捨てられない線であるのは間違いないが。


「何にせよ一度は話を聞いてみて損はない」
「ですね」


 そう言って、ギルディアは初老の神官がいるだろう部屋のドアをノックした。
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