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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜
102話「崩壊の招き人15」
しおりを挟むー レイジ、ミサキ、マーダ、ハクレイ vs アレックス ー
アレックス が張った結界を破るべく、唯一干渉できる可能性がある ハクレイ を探しに レイジ達は動いていた。
「ハクレイ のやつ⋯⋯どこいった?」
様々な場所で激化する戦闘。
それらに巻き込まれないように素早く隙間を縫う様に動きながら探すが中々見つからない⋯⋯と思っていたが——
「ぎゃああぁっ!」
なんとも間抜けに聞こえる ハクレイ の悲鳴にも似た声が響いた。
「は、ハクレイぃ !?」
「ミサキッ!」
「⋯⋯ん!」
反射的に動いた三人。
声の上がった方を振り返る エイナ と レイジ。そして、レイジ の言葉の前には既に ミサキ が動いていた。
仲間の悲鳴に限界まで達した速度。急いで悲鳴が上がった場所に向かいそこで見たものは——
「ごめんなさいっすっっ!!」
「なんで急に来るのですか!」
「そ、それは自分もちょっとマズイ状況になってて⋯⋯」
「だからあれ程訓練しなさいと言ったではないですかっ! いつもいつも何かを理由につけて休んでばっかりではなかったですかっ!」
「ご、ごめんなさいっす⋯⋯」
「大体、貴女はいつもそうです! 適当な事ばかりやってるではないですか! それにこの前だって私わたくしの ぷりん も勝手に食べていたではないですか!」
「そ、それは後で自分のおこずかいから返したじゃないっすか!」
「返せばいいのではないのです! いつも適当な事ばかりやってる事を私は言っているのです!」
「う、うぅ⋯⋯」
全力で反省する ハクレイ と、怒髪で叱る パンドラ の姿だった。
「⋯⋯」
ミサキ は考えた——これはどうするべきなの?、 と。
本来なら悲鳴が上がるとは危険な状態。つまり颯爽と駆けつけ戦闘に参戦すれば良い。でも、でも⋯⋯これは?
よく見る風景。特に、レイジ がダンジョンから離れていた一ヶ月はほぼ毎日見ている光景だった。
見なかったことにして戻ろうか⋯⋯いやでも、敵に挟まれてるし、なんかデカイのいるし⋯⋯でも悲鳴の原因が日常風景だし⋯⋯
本当に疑問でしかなかった。何で最終決戦みたいないこの状況で日常が起きているのか ミサキ には理解できなかった。
ミサキ は少し考えた。本当に本当に、真剣に深く深く、考えたのだ。そして結論を出した——
「⋯⋯いいや」
——帰ろう。
ミサキ は何も見なかった聞かなかった事にし ハクレイ と パンドラ の日常に背を向けた。そして、限界速度で急いで レイジ達の元へ戻った。
「戻ったか! ミサ⋯⋯キ?」
行って帰ってくるまでにそう時間はかかっていなかった。しかし、急いで帰ってきた様子と ハクレイ を連れてきていない現実から レイジ の中で嫌な予感が渦巻く。
「ミサキ⋯⋯?」
「⋯⋯」
レイジ の呼びかけに ミサキ は口を開かない。困っているとも、戸惑っているとも言えるそんな雰囲気を醸し出しながらただジッと地面を見つめるばかりだ。
「お、おい⋯⋯」
「ハクレイ⋯⋯まさか⋯⋯あなた⋯⋯」
今だに何も答えず沈黙を貫く ミサキ に レイジ と エイナ は嫌な予感が現実になってしまったのだと察する。
両手で顔を覆い涙が零れ落ちそうなるのを必死に堪える エイナ。レイジ はそんな エイナ を見て覚悟を決めた。
「ミサキ⋯⋯言ってくれ⋯⋯ハクレイ は⋯⋯ハクレイ はどうなった?」
「⋯⋯」
「ミサキッ!」
強く ミサキ の名前を呼びながら レイジ は ミサキ の肩を掴み、揺すった。
その レイジ の気迫に押されてか同様に覚悟を決めた ミサキ が遂に口を開いた。
「⋯⋯た」
「た?」
「⋯⋯パンドラと⋯⋯ケンカしてた」
「「⋯⋯」」
ミサキ の一言に場が沈黙した。当然である。
「⋯⋯連れてこい」
「⋯⋯でも⋯⋯」
「いいから!」
「⋯⋯てきは?」
「ほっとけ」
「⋯⋯ケガしてたら?」
「ほっとけ」
「⋯⋯イヤがられたら?」
「ほっとけ」
通り過ぎて行った悲しみに変わり、憤りを感じるレイジ。
こっちは切羽詰まっていると言うのに、戦場のど真ん中で言い争っているので仕方ないとも言える。
「⋯⋯ん⋯⋯わかった」
「ミサキ⋯⋯」
レイジ達に背を向け再び戦場に戻ろうとする ミサキ を レイジ は沈痛な趣で呼び止めた。
「この際だから言っておく。ハクレイ の手足が無くなってても良いから連れてこい。絶対だ! 嫌がられても! 抵抗されてもだ! 絶対だ!」
鬼の様な言葉と表情。
もはや レイジ の心の中に迷いはない。目を大きく開き『絶対!』の部分を強く言うあたり何が起きるか分からないが レイジ は無理矢理にでも ハクレイ を連れてくることを望んだ。
そして、連れてくる大事な仕事を言い渡された ミサキ は——
「⋯⋯らじゃ」
自慢の速度を生かし美しい、それは美しい敬礼を レイジ に向けた。素早い手の動き、凛々しい表情、左右同じ角度の足の開き。どれを取っても指先まで洗礼された動きは並の感覚では出来ないだろう。
そして、ミサキ は再度背を向け——旅立った。もとい、ハクレイ を連れてくるべく戦場へ向かった。
それから秒単位で ハクレイ を連れて戻ってきたのは言うまでもない。
「うっ⋯⋯ミサキ先輩⋯⋯速すぎっす⋯⋯ううぅ⋯⋯スピード落とすって言ったじゃないっすか⋯⋯ヤバ、吐きそう⋯⋯」
「戻ったか ミサキ。早速だが結界を壊す手伝いをしてもらうぞ ハクレイ?」
「え? 今、吐きそうって言ってるんす⋯⋯」
「は、や、く、し、ろ」
「⋯⋯はいっす」
レイジ の凄まじい怒気の様なものを敏感に察知し、片手で口元を押さえながら勇者が張った結界⋯⋯鳥居に体を向けた。
「⋯⋯んー」
「どうだ ハクレイ」
「壊せそうですかぁ?」
「⋯⋯無理っすね」
「⋯⋯は?」
あっさりと、それはあまりに自然な流れで告げられた。
急いでいる状況もあってレイジは呆気に取られ、エイナも続いてしまう。
「無理⋯⋯ですのぉ?」
「はいっす。時間かければ壊せないことはないっすけど⋯⋯それじゃあダメなんっすよね?」
どうやら壊せないわけではないらしい。
しかし、時間がかかるとなると少し話が変わってくる。マーダがどんな状況にいるか分からない以上は、悠長にしていられない。
「そうだな⋯⋯直ぐに何とかなる方法はないのか?」
「直ぐにっすか? んー⋯⋯壊すのは無理っすけど⋯⋯」
「何とかならないのか!」
「そうですわぁ! 何とかなりませんの! ハクレイだけが今は頼りなのですよぉ!」
「⋯⋯ん⋯⋯なんとか⋯⋯して」
顎に指を立てて考えるハクレイに三人が詰め寄る。
「お、落ち着いてくださいっす! 確かにこの結界は無茶苦茶な力が働いているせいで直ぐには壊せないっすけど、歪めることはできるっす」
「⋯⋯ゆ、歪める?」
ハクレイの思っていたものとは違う回答に全員が顔を見合わせる。
「そうっす。入ることは出来るって感じっす。あ、出ることはできないっすよ? 自分が行けば別っすけど⋯⋯」
「そうか、なら問題ない。直ぐに入れるようにしてくれ」
「⋯⋯? わ、わかったっす」
レイジ の言い方に何とも言えない疑問を抱きながらもハクレイはすぐに取り掛かった。
そして、意外なことに結界内に入るための入り口はすぐに出来上がった。全体を包み込むドーム状の壁に水面に浮かぶ波紋のように、人が通るには十分なゆらめきが浮かんでいる。
「できたっす!」
「よし! なら行くぞ!」
そう言って レイジ は ハクレイ の小さな手を取った。強く、逃さないように恋人繋ぎで ハクレイ の手を握った。
「⋯⋯? ちょ、ちょっと待ってくださいっす! お兄さん! 何で自分の手を繋ぐんっすか!? 確かに嬉しいっすけど⋯⋯なんで? これだと自分も⋯⋯」
「何言ってるんだ! 当然お前も行くんだよ!」
レイジ の突然の死刑宣告にも似た発言に瞠目する ハクレイ。なぜこうも人の話を聞いてくれる人がいないんだ⋯⋯あ、日頃の行いのせいかな? と内心後悔するがそれでもどう逃げようか模索する。
「⋯⋯え? な、何でっすか? 自分が行っても足手まといっすよ?」
取り敢えず、自分はもう戦力外だと言うことを伝えどうにか諦めて貰うことを画策するが——
「俺達が出れなくなるだろうが! 行くぞ!」
レイジ には全く通用しなかった。と言うか、聞いてすら貰えなかった気がする。
何でだ?何で何だ? 何って言葉が連呼され過ぎてゲシュタルト崩壊しそうだ。そう思いながら乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。
ミサキ、エイナ に続くように レイジ そして無理やり連れて行かれる ハクレイ が順に結界内に入った。その時——
「それでも⋯⋯いいいいいぃやあああああああああぁっすっっっ!!」
本気の悲鳴を ハクレイ は腹の底から出した。果たして、これを聞きとめた者はいただろうか⋯⋯いや、いないだろう。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
結界内では結界外の様な日常的風景は一切なかった。血で血を洗う様な壮絶な戦いが続いていた。
「かぁ⋯⋯マジかよ⋯⋯とんでもねぇな、勇者ってのは⋯⋯」
額から血を流し、腕や足からも同様に血が付いており身体には少なくない傷を負いながらも立ち続ける マーダ。
「それは俺の台詞だ。ここまでよく戦っていられるものだ」
一方、アレックス の方は健在だった。傷一つ負うことなく持っている剣に付いた血を振り払っている。
しかし、その姿は結界が張られた時と同じ姿であるかと言われると少し異なっていた。
結界を貼る前は アレックス の背中に球体が浮いているだけであった。しかし今は更に アレックス の頭の上に輪状に光が集まっていた。その姿はまさに天の使いに出てくる者を示すかの様だ。
「『神を降ろす知恵』⋯⋯ここまで解放しているのになぜ貴様は倒れない?」
「⋯⋯なぜ?なぜって言われてもなぁ。俺にだって野望があるし? 会いたい奴だっているし? それなのに——」
マーダ は一本のナイフを手に取り構えた。力を入れればそれだけ出血が酷くなることを無視して、視界が揺れ上手く戦えないだろうことを無視して マーダ の中にある闘志は燃え続けた。
「——ここでハイさようなら、とはいかないだろ」
「⋯⋯戯言を。良いだろう、それすらも折ってやろうッ!」
言葉の終わりと踏み込みを同時に行い接近する アレックス。
「フッ!」
横一文字の払い切り。常人なら目で追うことすら不可能な一直線の一振り。しかし、マーダ はその一撃は追えていた。
「よっ!」
低くしゃがむことで距離を保ちながら回避する マーダ。しかし、アレックス はそれを予想していたかの様に動いた。
剣を振った遠心力を逃しことなく体の軸を回転させる。そして、それと同時に立っている相手に使えば膝辺りを狙う低めの回転蹴りを放った。
「ハッ!」
「なんの!」
しかし、ここもまだ マーダ にとっては問題なかった。繰り出された回転蹴り見切りナイフの角度を調節し突き刺さる様に備える。
しかし、ここで問題が起きる。
「——ッ! やっぱりか!」
当たるはずだったナイフが当たらないのだ。まるで避けるべくして避けた、必然的に起きた事の様に反撃が回避されるのだ。更に——
「ハアァッ!」
「ヤベッ!」
動揺した マーダ に更なる追撃を、と剣を縦に振り下ろす アレックス。その追撃を逃げる様に間一髪で回避するが アレックス の一撃は凄まじく小さくない石や砂を飛ばす。
「くぅ⋯⋯」
一つ一つが弾丸の様な速度で飛び出す無数の石。流石の マーダ も全てを避け切ることはできず数発受けてしまうが他の全てを影を展開させ防御する。
そしてここで マーダ にとって最悪が起きた。
「ようやく辿り着いたぞッ!」
砂煙に紛れ影の防御の内側に アレックス が潜り込んでいたのだ。そして——
「喰らえッ!」
一太刀。横に振られた剣は一直線に マーダ の両足の太腿を深く切り マーダ の機動力を全て奪い去った。
「グッ!」
最後の気力で手に持っていたナイフを振るうが アレックス は易々と回避した。
ドサリ、と音を立て倒れる マーダ。切られた両足からは夥しい量の血が茶色の地面を赤く染め上げる。それでもと動かそうと痛みを堪えるが動くことはなく、出血の量が増えるだけだった。
「⋯⋯最後に一つだけ聞かせてもらいたい」
マーダ から少し離れた場所で構えを解き、アレックス は口を開いた。
「⋯⋯あぁ?」
酷い痛み、止まらない出血をどうにかしようと模索する マーダ は アレックス の声に首だけを上げた。
「⋯⋯何故、俺達を裏切った?」
「⋯⋯何故かだと? 先に裏切ったのはお前達だろうが」
「俺達が何をしたんだ? 俺には今だにそれが分からない」
「肩書きだよ。お前達は勇者一行であると事を隠し続けたじゃねえか」
吐き捨てる様に言う マーダ。しかし、その言い方、言い分に全てが納得した、理解したと言わんばかりに アレックス は目を閉じた。
「⋯⋯やはり⋯⋯お前は心底勇者が嫌いだったのだな。⋯⋯良いだろう、その憂いも含めて全て⋯⋯全て消し去ってやろうッ!」
アレックス は構えた。剣を片手に持ち、半身を前に倒し構えを取る。それと同時に剣には魔力が集まる。空気を振動させ、大地を怯えさせるほどの膨大な魔力が一箇所に集中する。
「⋯⋯さらばだ⋯⋯裏切りの盟友よ!」
アレックス の頬に何かが伝った気がした。それはとても美しい何かであり、とても儚い何かだろう。しかし、それを見ることも感じることも誰もできなかった。
「『魔を退ける正義』ッ!」
鬼の様な気迫とともに降られた破壊の剣。ダンジョンの重合な扉すらも霧散させたその一撃が眩しいほどの光となって マーダ を襲った。
「⋯⋯」
動かない体、避けきれない攻撃、拭いきれない後悔、果たせなかった約束。敗北の諦めが戦う闘志を上回り、マーダ を脱力させた。
「⋯⋯すまねえ『ーーー』」
そして、マーダ はそれら全てを受け入れ——光に飲まれた。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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