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二章〜世界文明の飛躍〜

23話「不要で不毛な不実の戦い」

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「冒険者クリスから得られた情報をまとめよう」

 そう言ってレイジは切り出した。

 まず、冒険者という職業が魔物の発生により作られた。そして、冒険者を統括するように先に作られたのは世界機関ギルド。
 そして、ギルドは世界機関というだけあり世界各国にある程度の融通を聞かせることが可能。
 更に、そのギルドは冒険者を使い魔石を集めている。クリスの様子からしてもその魔石が何に使われているかは謎だ。
 そして、最も重要な事は他の【ダンジョン】についてだったが、【人類】も未だ正確な確認をしていないため先延ばしとなった。

「——とまあ、こんなところか」

 レイジ、ミサキ、パンドラ、エイナ、地縛霊が取り憑いた女の五人が円を描くように向き合い情報をまとめた。
 尚、ゼーレやテトラのちびっ子組は放浪癖がある模様でこの場には出席していない。

「これではぁ、もう手詰まりじゃないですかお兄様ぁ?」

「⋯⋯そうだな、ぶっちゃけると新しい情報がネットに流れてくるまで俺たちにできる事はないな」

「やはりわたくし達が攻めに移れないことが難点ですわね」

 悩ましそうに眉間に皺を寄せながら唸るパンドラ。
 しかし、魔物達はダンジョンから出た場合は何かしらの異常行動になるため、実行することができない。

「そこなんだよな。だが、あの“声”⋯⋯【外なる神】の性格を考えるなら俺たちが外に出ていけるなら【人類】はほぼ瞬殺。【魔王】と俺達の一騎打ちになるのを避けたいんだろ」

「他の【ダンジョンマスター】とは相談し合えないのでしょうかぁ?」

「あー、どうだろうな。ゼーレに聞いて見ないと分からないが多分⋯⋯無理だろうな」

「⋯⋯じゃあ⋯⋯くんれん⋯⋯?」

「まあ、無難だよな」

 五人の中で妥協案が決まり各々が腰を上げると——

「ぴゃああああああああああああああああぁぁっっ!!」

 ——最下層の出口、『暗黒』へ繋がる階段から少女の叫びが走った。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 話し合いを切り上げ、レイジ達はすぐさま叫び声の発信源へ走った。

「い、今の声は⋯⋯!」

「テトラのものだったと思うが」

「同じくテトラだと思いますわぁ」

「一体今度は何があったんだ! いそぐ!」

「あ、ちょっ! ミーを置いていかないで⋯⋯って! マイマスター達速いデスっ!」

 先頭⋯⋯と言うよりもうゴールまで行っているだろう先を走るのはやはりミサキ。そして、続くように声がした場所を探すレイジとエイナ、パンドラ。
 地縛霊憑きの女は既にはるか後方へと置き去りにされた。

「ぴゃあああああああああぁぁっっ!!」

「大丈夫かテトラ! 何が——」

 ようやくたどり着いた場所は円形広場。そしてレイジ達の視界に入ったのは——

「ぴゃあああああああああああっっ!!」

「わあああああああああっ! ちょっと危ないテトラちゃん! やめて振り回さないで! ゼーレ死んじゃう!」

 ボロボロと大粒の涙をこぼしながら妖刀を振り回すテトラとテトラの奇行を止めようとするゼーレ。
 そして、その光景を呆然と眺めるミサキだった。

「ぴゃあああああああああっっ!!」

「ぬお! 今のはちょっとやばいよ! 掠ったからね!? あ、やばい⋯⋯もう疲れてきた⋯⋯」

「こっじごないでええええええええっっ!!」

 ゼーレは必死になって妖刀を振るうテトラを止めようと距離を詰める。しかし、ゼーレが近づく事でさらに感情を揺らがせるテトラ。悪循環が回り続け、負が連鎖している。

「⋯⋯何やってるんだ?」

「⋯⋯わかんない」

 先に辿り着いたミサキに聞くがゼーレとテトラの悪循環に呆然とし呆れ返っていた。もはや止める気も起きないそうだ。

「⋯⋯はぁ⋯⋯おいゼーレ! テトラ!」

「お、お兄ちゃん!?」

「ぱぱぁっ!」

 レイジが大声で呼びかける事でようやく二人が気づき動きを止める。

「よかった。お兄ちゃんテトラちゃんの奇行を——」

「パパっ!」

 ゼーレがテトラを指差しながらこの状況を説明しようとするがその説明よりも先にテトラがレイジの懐まで走り着いた。

「ええええええええっ!?」

「パパ、この人嫌っ! 怖いっ!」

「テトラちゃん!? その台詞は流石に傷つくよ!? 確かにコッソリと近づいたのは悪かったけど!」

「『すとーかー』だよっ!」

「そこまで言う!?」

 ゼーレに近づかれたことがよほど嫌だったのかテトラはレイジに抱かれた状態で止まらない泣き声を上げる。
 ゼーレも逆に厳しい言われようで涙ぐんでいる。

「と、取り敢えずこうなった訳を話せ」

「お兄ちゃんテトラちゃんに甘すぎっ!」

「だから訳を話せと言っとるだろうが!」

 流石に何も分からないまま判決を下すほどレイジ達も無慈悲ではなく、説得の末ゼーレが経緯を話し間違っていたらテトラが訂正すると言う形で話が進んだ。

「えっとね、まずゼーレはそこのハイテンション外人憑き魔物ちゃんがミサキちゃんに怒られているのに気分悪くなっちゃって部屋から出たでしょ?」

「その長い命名はなんとかならないかと思うが⋯⋯まあいいか。出て行ってどうしたんだ?」

「その後ね、気晴らしにここに来ようと思ったの。ここって結構風が気持ちいいし、静かだから」

 確かにこの円形広場は他の階層と違い天井が空いており濃淡のある藍色に星々の輝きが点々と散乱している美しい夜空が広がっている。
 加えて、風が吹き涼しい空気を感じられるため気分が悪くなった場合の気晴らしには丁度いい。

「それで来てみたら話し声が聞こえたの。先に誰かいたのかなぁって思って⋯⋯もしかしたら敵かも! って思ったから静かに近寄ったの」

「そしたらそれがテトラだったのか?」

「うん。テトラちゃんが多分、妖刀と話していたのかな? 声がテトラちゃんのしか聞こえなかったから」

「ここまで合ってるか?」

「⋯⋯合ってるよ。テトはここでオジちゃとお話ししてたの」

「そうか」

「テトラちゃんだと分かったから声をかけたらテトラちゃん⋯⋯驚いちゃったのかな? すごいビックリして妖刀を振り回してきたの!」

「⋯⋯それで?」

「テトラちゃんが変になったんじゃないかって思って止めようとしたところに⋯⋯お兄ちゃん達が来たの」

「⋯⋯合ってるか?」

「途中までは⋯⋯あってるの⋯⋯でも! 途中から間違ってるの! テトはおかしくなんかなってないの! この人が勝手に襲って来たの!」

「⋯⋯」

 経緯に意見の食い違いはなかったが、最後に決めたのは各々の感情であったのだ。

 ゼーレの性格は皆んなに好かれたい。理由がわからないままに嫌われているのが許せなく、無意識のうちか声をかけたくなるのだろう。
 逆にテトラはまだ子供だ。好き嫌いがあるし、直感的な感情を抱いてしまい嫌ってしまうのも仕方がない。

 どちらも正しいがいい加減学習しろよと思えなくもない言い争い。お互いがお互いを否定し睨み合う。

「⋯⋯はぁ」

 不毛な争い。
 終わらない仁義なき戦いと言えば格好がつくだろうかと、レイジは大きく深いため息を吐き折衷案を考えるのだった。

 余談であるがこの戦いが収束後レイジは、

「他のダンジョンマスターに連絡は取れるか?」

 とゼーレに聞いたところ

「無理だね」

 と言われこの戦いは何の結果も生まない『不実の乱』としてレイジ達の間で語り継がれることになった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 ——天才は孤独だ。

 小さな手掛かりから大きな思考へと発展される。そんな彼を周囲はどのように見えただろうか。
 異物と見た。尊いと見た。期待と見た。恐怖と見た。化物と見た。格別と見た。変人と見た。失望と見た。

 ——天才は孤独だ。

 助けを求め、役目を終えたら直ぐに捨てる。そして、調子が良いようにまた同じことを繰り返す。彼を助けてくれる人は居ないのに。

 ——天才は孤独だ。

 彼は何一つ異常なことをやっているつもりはない。ただ一つ一つを深く考え、一つ一つを大切にしているだけだ。
 しかし、周囲は彼に勝手に期待し勝手に失望する。
 彼は周囲と同じなのに周囲は彼を同じとしない。

 ——天才は孤独だ。

 誰も助けてくれないと知った彼は一人で挑む力を手に入れた。全てのことに対して一人で。
 そんな彼を周囲は拒絶した。彼は戸惑い何をすればいいか分からなくなった。

 ——天才は孤独だ。

 彼は周囲の評価を無視することを知った。
 彼は彼のために彼だけを見て彼以外を信じることを辞め彼自身のために生き彼が進むべき道を彼の信念とともに彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は彼は——

 ——孤独な天才になっていた。
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