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二章〜世界文明の飛躍〜
26話「仲良しな三人」
しおりを挟む源二が許可を得てから早二日——とあるダンジョンの前には総勢五十名の冒険者が集まっていた。
「これから今回の攻略概要の説明をします。チームは五人で一つ。計十のチームでダンジョンに挑んでもらいます」
壇上に立つ源二の拡声器を使った声が騒つく冒険者達の間をすり抜けていく。
集まった冒険者は全員が日本人だった。
男女比はほぼ同じであるがチームとしてみればかなり偏っているのが特徴だ。理由は至極単純で、現在共に戦っているメンバーで五人チームである冒険者達を選んだからだ。
「次に今回貸し出します魔道具の説明をします。魔道具は三種類。拳銃型を三丁、機関銃型を二丁、爆撃型の手榴弾を十個の三種類。誰がどの魔道具を使うかはチーム内で予め決めておいてください」
源二の魔道具の説明に冒険者達はさらに盛り上がる。魔道具、さらには日常では使う機会が滅多に無い銃であれば仕方ないのかもしれない。
「では早速、魔道具の貸し出し【ダンジョン】へ入ってもらいます。入る手順や魔道具能力は事前に配布した資料を確認して下さい」
そう締めくくり源二は足早に壇上から降りた。その表情はぐったりとしており、一刻も早く離れたいと顔に出ているほどだ。
「⋯⋯お疲れ様です室長」
研究員用のテントに戻った現示を出迎えてくれたのはタオルとお茶を持った麗華だった。
余談であるが、持っているお茶は選ばれたお茶「綾◯」だ。
「ああ、ありがとう」
源二は麗華に簡単にお礼を言うとタオルで額を拭い、お茶を大きく傾けその中身を吸い出す様に喉を通す。
「ぷはぁ、いや~彼らの熱気はすごいね。立っているだけで倒されてしまいそうだったよ」
「倒れても良かったのでは?」
「⋯⋯私が倒れたら困るだろ?」
「いえ別に」
「⋯⋯」
源二は一応は分かっているのだ。これが彼女の気遣いであることを。
魔道具の説明から開発まで全ての工程で源二が立ち会わないと完成しないのだ。そのためここ数日は源二の睡眠時間は激減し、ほぼ徹夜状態。
それを麗華は心配し体を休めてほしいと言外に伝えているのは分かっているのだが、
「⋯⋯やっぱり辛辣に聞こえるんだよな」
「何か言いましたか?」
「あ、いや何も!」
徐々に源二の記憶と性格に同化し始める今、口から思ってもいない感情が漏れたのは偶然では無いのだろう。
源二は適当に誤魔化すために麗華の視線から逃れる様に冒険者達を見た。そこには、説明が終わり興奮が冷めない冒険者達は様々な行動をとっているのが見えた。
魔道具を受付からもらいダンジョンへ入っていく、作戦や行動手順を確認する、夢物語に花を咲かせるなど様々だ。
「⋯⋯全員無事に帰ってきてくれればいいのですが」
いつの間にか源二の隣に立っていた麗華が力弱げに呟いた。
彼らが見えているのは目の前の興奮と憧れだけだ。浮き足立つ自分達の姿を見ることができない冒険者達は、いざという時に正しい行動が取れるのか? 麗華には喜ぶ彼らとは真反対の悲観的な姿しか見えなかった。
「帰ってくるさ」
何の根拠も証明する数式もないただの言葉。しかし、源二にとっては虚勢でも張っていなければいけない自信が必要だった。
「⋯⋯そうですね」
そして、そんな無根拠、証明不可の虚栄に麗華はただ何も考えずに縋り付くしかできないのだ。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
今回の実験は順調に事を進めていた。
魔道具を借りた冒険者達はダンジョンへ入る。そして、危険がない程度に進み内部で遭遇する魔物を魔道具で倒し帰還する。
侵入から帰還までの制限時間は三時間。一時間ごとに冒険者達は入っていくため常に中には十五名の冒険者がいることになる。
勿論、時間内に帰還しても問題無いのだが今のところそう言ったチームは現れていない。
そして、一番問題だったのはどのダンジョンを選ぶかであるが、これは意外にもすんなり通った。
第一候補であったのは【植物のダンジョン】だった。理由は単に一番弱く、攻略が進んでいるからだ。
だが、ここを管理するアメリカとの交渉が簡単では無いと踏んでいたが意外にもアメリカがギルドに協力的だったのだ。
この対応には驚きを隠せなかったが源二は素直にその話に乗った。
そして最初の冒険者達が入ってから実に二十七時間が経ち最後の冒険者のチームがダンジョンの入り口に立った。
「やーっとアタシ等の番かよ。マジなげえ」
チームのリーダーと思しき高校生ぐらうに見える女の子が苛立ちを露わにしていた。
「ったくよ、これも全部アンタの運がチョー最悪だからんだよ? そこんところ分かってる?」
「ご、ごめんなさい真里亞さん」
真里亞と呼ばれる女子は金髪に褐色、そして側から見てもあり得ないのはその服装だ。短めのスカートに半袖、ダンジョンには適していないそこの高いヒール。
逆に文句を言われている女子は染めたことがない様なセミロングの黒髪に、ダンジョンへ入るに至ってジャージを着込むいたって普通の女子高生だ。
「⋯⋯チッ」
真里亞はセミロングの女子の今にも泣きそうな態度に興味が失せたのた背を向けてダンジョンの方へと向かった。
「さ、幸ちゃん大丈夫?」
「⋯⋯う、うん、平気。ありがとう美香ちゃん」
すぐに立ち上がれなかったセミロングの女子——幸の元に近寄ったのは同じチームの女子がいた。
彼女の名前は美香——栗色の赤みがかかった茶髪に焼けていない肌。恐らく茶髪は地毛なのだろう幸と同じ様な雰囲気を出す普通の女子高生に見える。
「行こっか」
「⋯⋯うん」
既にダンジョンへ入っていった真里亞、そしていつの間にか真里亞の後ろに続く様にして入る女子が二人。
幸と美香は慌てて真里亞達を追いかけ【植物のダンジョン】へ入っていった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
入り口を通過するとその先は別世界。
所狭しと生える木々が様々な道を作り、隙間を埋める様に伸びる草がその道を隠す。
光が降り注いでいた外界と打って変わりこの密林は全てが見えるわけではない。それなりの場所、戦う分には十分な視界は確保できるが長距離からの不意打ちには不安がある。
その為十分に警戒するのが普通だが——、
「はぁ~、マジ最悪。何でこんな気持ち悪い場所なんかに来なくちゃいけないわけ!?」
「まーしゃーないんじゃね? ギルドの方からの命令だしさ」
「適当にやって帰ろー」
出来るだけ草が生えていない道を辿る真里亞と二人の女子。
周囲を警戒することなくあっちへこっちへと進みやすい道を選びながら騒ぎ立てている。そして、その三人の手にはそれぞれ魔道具が握られている。
因みに全員はギルドから支給されたヘルメットを強制的に装備させられている。
「つーかさ、この魔道具? だっけ? これを適当にブッパって帰りゃあそれで終わりじゃね?」
「でーも撃つ相手がいねえよ?」
「適当にそこら辺でいいじゃん」
「あははっ! そしたらあたし等が死んじゃうでしょ!」
「確かに! それじゃあ⋯⋯」
騒ぎ立てながら進む三人の女子。そして、その中で真里亞がゆっくりと後方へ付いてくる幸と美香へ振り返った。
「こいつ等に撃てば任務完了的な?」
「「⋯⋯え?」」
銃口を向け引き金に手を当てる真里亞。その姿に驚きを通り越して恐怖で体を硬ばらせる幸と美香。
「え? 冗談っしょ?」
「えー、でもアタシさっさと帰りたいし? こいつ等死んでも誰も悲しまなくね? だってこいつ等——人殺しじゃん」
真里亞の「人殺し」という一言。その言葉にさらに顔色を青くし、遂には震え出す二人。
「い、いや流石にそれは⋯⋯不味くね?」
「別に【ダンジョン】で死にましたー、でもよくね?」
「いや、でもねえ⋯⋯」
「もし他に見られてたりでもしたら⋯⋯」
真里亞の行動を止めようとするがもしかしたら矛先がこちらに向くかもしれないと考えるだけに二人は強く言い出せない。
「⋯⋯っぷ、流石に冗談だよ、冗談」
仲良く話していた二人の態度が面白かったのか、恐怖する幸と美香が面白かったのか真里亞は満足したかの様に笑いながらダンジョンの奥へと歩き始めた。
「な、なんだよ冗談かよ!」
「あんまり脅かさないでよね!」
だだの冗談、そう片付けた真里亞の連れ二人は先程までの陰鬱な雰囲気を払おうと苦しい笑顔を浮かべながら真里亞を追いかけた。一方——、
「⋯⋯人殺し⋯⋯私達は人殺しなんかじゃない」
「⋯⋯そうだよ⋯⋯私達だけのせいなんかじゃ⋯⋯ないよ。あの時は皆んな何も言わなかったくせに⋯⋯」
念仏の様に呟く幸と美香。二人は振り払うことのできない陰鬱な雰囲気を更に重くしながら真里亞達の後を追うのであった。
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