43 / 66
三章〜神龍伝説爆誕!〜
42話「神龍、力の片鱗を見せる!」
しおりを挟む——コツ、コツ、コツ
妖艶な紫の光が強靭く、そして時に弱豫く獲物を誘い、狂い、惑わす。
それはまるで、美しく着飾った花に盲目した虫たちの様に。
それはまるで、極上の食事に理性が抑えきれなくなる獣の様に。
それはまるで、強大な力の前に酔いしれる愚かな人間たちの様に。
——コツ、コツ、コツ
しかし、そんな誘惑を、狂言を、幻想を散らす様に彼は進む。
彼の歩みを止めることは何人たりともできることではなかった。
下等な妖魔の悪知恵も、欲深き人間の思惑も、不可視の魅惑な罠すらも。何もかも、全て彼の前には無意味であった。
「ここがこの階層の終幕か」
今、彼の前にある仰々しく、重々しい扉。これが階層のボス部屋であるのは明白だ。
しかし、彼にとっては無意味で無価値なものになってしまうのだろう。
「⋯⋯ハッ!」
片手で押される扉。
その重さは雰囲気から言わずもがなであるが、その全てが嘘と思えてしまうほどに滑らかに動かされてしまう。
そして、扉が全開された先に待ち構えていたのは総勢五十を超える様々な相貌のゴブリン。
ある個体は汚れたナイフを構える。
ある個体は杖を向け呪文を口ずさむ。
ある個体は剣先を向け、盾に身を隠す。
ある個体は鋭い視線を持って矢をつがう。
ある個体は見守る様に戦いの始まりを待つ。
そして——
「グギガグギャギャッ!」
戦いを見守る個体ーー他よりも一際大きく、逞しく、戦いを乗り越えてきただろう個体が大きな咆哮を上げた。
「「「グルヤァッ!」」」
その声を合図にゴブリン達が動き出す。
杖から放たれるは人の頭ほどある火炎の玉、氷の礫、風の圧力、岩の塊。だが——
「⋯⋯くだらん」
たった一瞬。たった瞬き一つした後に出現した一枚の半透明の壁によって全てが止められた。
局所的に張られた壁。しかし、それは存在する世界を断絶しているのではないかと錯覚させるほどに硬く、超えられない。
そして、半透明故に見えるーー流が只々余裕の笑みを浮かべていることに。
「「「ギギ⋯⋯」」」
魔法を放った杖を持つゴブリン達は憎々しげな声を上げる。
だが、彼らの目には流の笑み以外にも見えている物があった。だからそれを悟られない様に自然に狡猾さを隠した——
「「「ギギィッ!」」」
隠されていたのは最初の魔法によって視界を奪った隙に流背後に潜り込ませていた数体のナイフを持ったゴブリン。
完璧なタイミング、完全なる死角、不可避の奇襲。
ナイフは既に気合いと共に振り下ろされつつある。当たれば致命傷、掠っても毒が塗られているために致命傷。そもそも、回避すら不可能。
この瞬間、見ていたゴブリン達は悔しそうな表情から勝ち誇った笑顔に変わろうとしたが——
「⋯⋯フッ」
「「「——ッ!?」」」
——彼の表情は変わっていなかった。彼の余裕は崩れていなかった。彼の立ち位置が変わっていた
「儚いな⋯⋯」
完璧なタイミング、完全なる死角、不可能の奇襲——そんなものは無かった。
発せられた声は気合いではなく悲鳴。
ナイフは振り下ろされたのではなく落ちていた。
予想していた血は彼の者ではなく同胞の物。
全て全て幻だった。全て全て幻想だった。全て全て夢の中だった。だから彼は——
「儚いな⋯⋯」
——そう言って哀れな妖物達を憐れんでいたのだ。
「これが貴様の夢か? これが貴様の願いか? これが箱庭のようなこの世界で望む理想か?」
彼の者の赫い瞳が射抜く。
瞳孔を縦に割った我々ではない瞳は縋らせてくれそうなほどに頼もしく、眠らせてくれそうなほどに妖しい。
「⋯⋯ァ」
声が出ない⋯⋯否、声を出すことすら体が拒否しているのだ。
その赫い瞳に射抜かれて体が恐怖する。それは恐るべき怪物の手の中で掴まれているかの様で指先まで伝わる電気信号は震える以外の命令を伝えない。
「⋯⋯これ以上は何も願わないのか?」
「⋯⋯ァ⋯⋯ィ⋯⋯」
「そうか⋯⋯ならば——」
恐怖する世界。畏怖する存在。掴まれた自分。
怖いのだ。彼の者が次に言う一言が。
分かるのだ。彼の者が次に言う一言が。
嫌なのだ。自分の次の姿を想像することが。だから——
「——死ね」
——自分は想像する姿を見る前に消えよう。
——彼の者がくれるこの一瞬を無駄にしないようにしよう。
——死という最期で彼の者の恐怖から逃げよう。
流のその一言を切っ掛けに次々とゴブリンが倒れていく。
皆が皆、恐ろしい怪物から逃げているかのように苦悶の表情を上げ、息絶える頃にはーー笑顔を浮かべていた。
「さて、残るのは貴様だけか」
「ググゥ⋯⋯」
次々とゴブリン達が倒れていく中で唯一、膝を着きながらも耐え切った個体が居た。
それは、戦いを指示していた一際大きな個体——ゴブリンキングである。
「グ⋯⋯グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッッ!」
誇りあるゴブリンの王か、それとも死に損なっただけの愚王か。
ゴブリンキングは自分を鼓舞するかのように最大限の咆哮を飛ばす。
「⋯⋯」
ビリビリと空気を振動させる咆哮。流もまた僅かであるがむず痒さを感じる。
「フゥ⋯⋯フゥ⋯⋯」
「飾りだけの王ではないか⋯⋯良いな。ならば貴殿の誇りを見せてみろッ!」
「ルアァッ!」
掲げた両手に出現したのは各一本の戦斧。
金一色に煌びやかな装飾が施されたそれは片手斧と短剣をくっつけた様な形状をしており、力任せに振るには最適な物だった。
「来いッ!」
対する流は仁王立ちで立ち尽くし待ち構える。
「グルアアアアアァァッッ!」
全てを賭けた一撃。
ゴブリンキングはその巨体からでは想像できないほどの突進に加え、全身全霊を込めた一振りをすれ違いざまに放った。
大音量の甲高い音。金属と金属がぶつかり合った時になる特有の音が部屋全体の空気を振動させた。そして、音に一泊送れる様に振った圧で砂塵が舞い上がる。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
砂塵が落ち着くまで続いたのは長くも短い沈黙。どちらも倒れることなく、どちらも死ぬことはなかった。しかし、これが意味することは——
「我の服に傷を一つつけた事は誇って良いぞ」
「⋯⋯グルアアアアアアアアアアアアアァァッッ!」
——全身全霊をかけたゴブリンの王にはもはや勝ち目はないという事だった。
慟哭。
ゴブリンキングから発せられた咆哮は己の無力さへ吐かれたものか、それとも殺してしまった同胞達への謝罪のものか。
流は振り返り、背中を見せ鳴き叫ぶゴブリンの王を赫い瞳で見据え——
「——眠れ、『神が選ぶ愚者の末路」
——極大な光芒を降り注がせた。
目を開けてはいられぬほどの極太の光の束はゴブリンキングを中心に降り注ぎ、収まった頃には半径三メートルを優に超えるクレーターが完成していた。
明らかに過剰な威力。そして、初めて見せた技。それ程までに流の中であの王は価値があった⋯⋯と思われる。
「⋯⋯逝ったか、巡る世界の理に導かれて」
流はそう一言呟くとクレーターに背を向けた。
バサァッ、と大きく音を鳴らす長い裾は何処かわざとらしく、コツコツと靴音を立てながら二階層へ続く階段を下って行った。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ーーーーー
名前:神 流
種族:人族
性別:男
Lv:78
HP:B
MP:B
技能:聖魔法(10)、身体強化(8)、???(?)、???(?)、???(?)、威圧(-)、???(?)、???(?)、???(?)
称号:不治の病に感染した者、聖魔法を極めし者、???、???、???
ーーーーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった!
スキルスキル〜何かな何かな〜
ネットスーパー……?
これチートでしょ!?
当たりだよね!?
なになに……
注文できるのは、食材と調味料だけ?
完成品は?
カップ麺は?
え、私料理できないんだけど。
──詰みじゃん。
と思ったら、追放された料理人に拾われました。
素材しか買えない転移JK
追放された料理人
完成品ゼロ
便利アイテムなし
あるのは、調味料。
焼くだけなのに泣く。
塩で革命。
ソースで敗北。
そしてなぜかペンギンもいる。
今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる