ダンジョンマスターは魔王ではありません!!

静電気妖怪

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三章〜神龍伝説爆誕!〜

42話「神龍、力の片鱗を見せる!」

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 ——コツ、コツ、コツ

 妖艶な紫の光が強靭つよく、そして時に弱豫よわく獲物を誘い、狂い、惑わす。
 それはまるで、美しく着飾った花に盲目した虫たちの様に。
 それはまるで、極上の食事に理性が抑えきれなくなる獣の様に。
 それはまるで、強大な力の前に酔いしれる愚かな人間たちの様に。

 ——コツ、コツ、コツ

 しかし、そんな誘惑を、狂言を、幻想を散らす様に彼は進む。
 彼の歩みを止めることは何人たりともできることではなかった。
 下等な妖魔の悪知恵も、欲深き人間の思惑も、不可視の魅惑な罠すらも。何もかも、全て彼の前には無意味であった。


「ここがこの階層の終幕か」


 今、彼の前にある仰々しく、重々しい扉。これが階層のボス部屋であるのは明白だ。
 しかし、彼にとっては無意味で無価値なものになってしまうのだろう。


「⋯⋯ハッ!」


 片手で押される扉。
 その重さは雰囲気から言わずもがなであるが、その全てが嘘と思えてしまうほどに滑らかに動かされてしまう。
 そして、扉が全開された先に待ち構えていたのは総勢五十を超える様々な相貌のゴブリン。

 ある個体は汚れたナイフを構える。
 ある個体は杖を向け呪文を口ずさむ。
 ある個体は剣先を向け、盾に身を隠す。
 ある個体は鋭い視線を持って矢をつがう。
 ある個体は見守る様に戦いの始まりを待つ。

 そして——


「グギガグギャギャッ!」


 戦いを見守る個体ーー他よりも一際大きく、逞しく、戦いを乗り越えてきただろう個体が大きな咆哮を上げた。


「「「グルヤァッ!」」」


 その声を合図にゴブリン達が動き出す。
 杖から放たれるは人の頭ほどある火炎の玉、氷の礫、風の圧力、岩の塊。だが——


「⋯⋯くだらん」


 たった一瞬。たったまばたき一つした後に出現した一枚の半透明の壁によって全てが止められた。
 局所的に張られた壁。しかし、それは存在する世界を断絶しているのではないかと錯覚させるほどに硬く、超えられない。
 そして、半透明故に見えるーー流が只々余裕の笑みを浮かべていることに。


「「「ギギ⋯⋯」」」


 魔法を放った杖を持つゴブリン達は憎々しげな声を上げる。
 だが、彼らの目には流の笑み以外にも見えている物があった。だからそれを悟られない様に自然に狡猾さを隠した——


「「「ギギィッ!」」」


 隠されていたのは最初の魔法によって視界を奪った隙に流背後に潜り込ませていた数体のナイフを持ったゴブリン。
 完璧なタイミング、完全なる死角、不可避の奇襲。
 ナイフは既に気合いと共に振り下ろされつつある。当たれば致命傷、掠っても毒が塗られているために致命傷。そもそも、回避すら不可能。

 この瞬間、見ていたゴブリン達は悔しそうな表情から勝ち誇った笑顔に変わろうとしたが——


「⋯⋯フッ」

「「「——ッ!?」」」


 ——彼の表情は変わっていなかった。彼の余裕は崩れていなかった。彼の立ち位置が


「儚いな⋯⋯」


 完璧なタイミング、完全なる死角、不可能の奇襲——そんなものは無かった。
 発せられた声は気合いではなく悲鳴。
 ナイフは振り下ろされたのではなく落ちていた。
 予想していた血は彼の者ではなく同胞の

 全て全て幻だった。全て全て幻想だった。全て全て夢の中だった。だから彼は——


「儚いな⋯⋯」


 ——そう言って哀れな妖物達を憐れんでいたのだ。


「これが貴様の夢か? これが貴様の願いか? これが箱庭のようなこの世界で望む理想か?」


 彼の者の赫い瞳が射抜く。
 瞳孔を縦に割った我々ではない人ではない瞳は縋らせてくれそうなほどに頼もしく、眠らせてくれそうなほどに妖しい。


「⋯⋯ァ」


 声が出ない⋯⋯否、声を出すことすら体が拒否しているのだ。
 その赫い瞳に射抜かれて体が恐怖する。それは恐るべき怪物の手の中で掴まれているかの様で指先まで伝わる電気信号は震える以外の命令を伝えない。


「⋯⋯これ以上は何も願わないのか?」

「⋯⋯ァ⋯⋯ィ⋯⋯」

「そうか⋯⋯ならば——」


 恐怖する世界。畏怖する存在。掴まれた自分。
 怖いのだ。彼の者が次に言う一言が。
 分かるのだ。彼の者が次に言う一言が。
 嫌なのだ。自分の次の姿を想像することが。だから——


「——死ね」


 ——自分は想像する姿を見る前に消えよう。
 ——彼の者がくれるこの一瞬を無駄にしないようにしよう。
 ——死という最期で彼の者の恐怖から逃げよう。

 流のその一言を切っ掛けに次々とゴブリンが倒れていく。
 皆が皆、恐ろしい怪物モノから逃げているかのように苦悶の表情を上げ、息絶える頃にはーー笑顔を浮かべていた。


「さて、残るのは貴様だけか」

「ググゥ⋯⋯」


 次々とゴブリン達が倒れていく中で唯一、膝を着きながらも耐え切った個体が居た。
 それは、戦いを指示していた一際大きな個体——ゴブリンキングである。


「グ⋯⋯グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァッッ!」


 誇りあるゴブリンの王か、それとも死に損なっただけの愚王か。
 ゴブリンキングは自分を鼓舞するかのように最大限の咆哮を飛ばす。


「⋯⋯」


 ビリビリと空気を振動させる咆哮。流もまた僅かであるがむず痒さを感じる。


「フゥ⋯⋯フゥ⋯⋯」
「飾りだけの王ではないか⋯⋯良いな。ならば殿の誇りを見せてみろッ!」
「ルアァッ!」


 掲げた両手に出現したのは各一本の戦斧。
 金一色に煌びやかな装飾が施されたそれは片手斧と短剣をくっつけた様な形状をしており、力任せに振るには最適な物だった。


「来いッ!」


 対する流は仁王立ちで立ち尽くし待ち構える。


「グルアアアアアァァッッ!」


 全てを賭けた一撃。
 ゴブリンキングはその巨体からでは想像できないほどの突進に加え、全身全霊を込めた一振りをすれ違いざまに放った。
 大音量の甲高い音。金属と金属がぶつかり合った時になる特有の音が部屋全体の空気を振動させた。そして、音に一泊送れる様に振った圧で砂塵が舞い上がる。


「⋯⋯」
「⋯⋯」


 砂塵が落ち着くまで続いたのは長くも短い沈黙。どちらも倒れることなく、どちらも死ぬことはなかった。しかし、これが意味することは——


「我の服に傷を一つつけた事は誇って良いぞ」
「⋯⋯グルアアアアアアアアアアアアアァァッッ!」


 ——全身全霊をかけたゴブリンの王にはもはや勝ち目はないという事だった。

 慟哭。
 ゴブリンキングから発せられた咆哮は己の無力さへ吐かれたものか、それとも殺してしまった同胞達への謝罪のものか。
 流は振り返り、背中を見せ鳴き叫ぶゴブリンの王を赫い瞳で見据え——


「——眠れ、『神が選ぶ愚者の末路ゴッド・ノウズ


 ——極大な光芒を降り注がせた。
 目を開けてはいられぬほどの極太の光の束はゴブリンキングを中心に降り注ぎ、収まった頃には半径三メートルを優に超えるクレーターが完成していた。
 明らかに過剰な威力。そして、初めて見せた技。それ程までに流の中であの王は価値があった⋯⋯と思われる。


「⋯⋯逝ったか、巡る世界の理に導かれて」


 流はそう一言呟くとクレーターに背を向けた。
 バサァッ、と大きく音を鳴らす長い裾は何処かわざとらしく、コツコツと靴音を立てながら二階層へ続く階段を下って行った。


◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾


ーーーーー
名前:神 流 
種族:人族
性別:男
Lv:78
HP:B
MP:B
技能:聖魔法(10)、身体強化(8)、???(?)、???(?)、???(?)、威圧(-)、???(?)、???(?)、???(?)
称号:不治の病に感染した者、聖魔法を極めし者、???、???、???
ーーーーー
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