Labyrinth of the abyss ~神々の迷宮~

天地隆

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第1章

第13話

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 8階層を探索して魔物の強さに満足すると、エルは連日8階層での闘いと神殿での修行を行った。
 日々の成果は、エルに様々な恩恵をもたらした。

 まずは金銭的余裕である。
 豚鬼オークの落とす魔鉱製の装備は、銀貨5~10枚の高値で買取してもらえたのだ。豚鬼オークの戦利品を除いた8階層での半日の利益が銀貨25枚前後だといえば、その高さもわかるだろう。
 しかも、魔鉱製の武器や防具は冒険者がそのまま装備しても使えるし、溶かして魔鉱の鋳塊インゴッドにしてから再加工するなどの用途もあり非常に需要が高い。クエストとしても、例えば豚鬼オークの武器3~5個といったような張り紙がいくつも貼り出されているので、エルもクエストを利用し協会への売値の倍額以上の報酬を得たりもした。
 そのおかげで、エルの所持金はいつのまにか金貨3枚を越えるほどに達していた。一般的な6人家族が1年間暮らすのに必要な生活費が銀貨50枚ほどであるから、冒険者とは儲かる稼業である。もっとも、自分の命を賭ける必要があるし、一般人では到底手が出ないような高額の装備や道具を必要とするので、大金を得たとしても無くなるのも一瞬だ。一概に優劣を比べられるものではないが、エルは冒険者稼業が気に入っているのでやめるつもりは更々ない。
 冒険者としてなら金貨3枚など何かの拍子に無くなってしまう額なので、エルは大金を得たことに慢心せず、極力無駄な出費を抑えることを心掛けるのだった。
 
 また、最近の成果として食生活の向上が挙げられる。
 8階層でも狂猪マッドボアが出るので、通常の落し物ノーマルドロップ希少な落とし物レアドロップで肉が手に入る。狂猪マッドボアを大量に狩ることで、エルは毎日美味な迷宮産の食材を食べることができるようになった。
 アドリウムに訪れるまでのエルの食事は、お世辞にも良いものではなかった。エルの生家が比較的裕福な農家といっても、毎日食事ができるといった程度で、雑穀入りの固いパンや塩のみで味付けした野菜入りのスープなどが主体であった。肉を食す機会などは月一回あればいいほどで、腹いっぱい食べれるのは秋の終わり頃に行われる謝肉祭の時だけであった。
 そんなエルにとって、毎日美味しい食事を取れる状況は天国の様なものだ。しかも、迷宮での戦闘後に食べれば魔素の吸収率を上げ、肉体の強化を促進してくれるので良い事尽くめだ。
 肉が大量に手に入り一人では食べきれない時は、日ごろお世話になっているリリやシェーバにお裾分けしたりもした。仕事の合間に許可をもらったリリとテーブルを囲んで談笑しながらの食事は格別であった。年下ながらお姉さんぶるリリの姿は微笑ましく笑いを誘ったが、実際に的を得た意見が多く参考になることも多い。愉快で心弾む語らいは心燃える闘争とは違った清涼な安らぎをエルに与え、心身を癒してくれた。気づかぬ内に、リリとの会話は掛替えのない憩の場になっていたのだ。
 また、ライネルのパーティに声を掛けられ一緒に食事をする機会も増えた。弟扱いされ茶化されたり揶揄されたりもしたが、人付き合いが苦手で基本的に自分から話しかけることのないエルにとっては、数少ない他人とのふれあいの場でもあった。故郷での10年近くの歳月を旅費稼ぎと修行に費やしたエルは、友も少なく孤独な時間を過ごしてきたが、遅まきながら人の温かさを知り始めたのだ。
 加えて、お互い冒険者なので共通の話題に事欠かなく、ライネル達の先達としての教訓は財貨に勝るほどの金言でもあった。信頼できる兄貴分や姉御分を得た幸運は、感謝しても仕切れないほどである。エルは少しずつ他者と関わりを持つことで、修行と闘争以外にも人生の彩を得始めていた。

 そして、ここ連日の成果として、アルドから教授された新技をほぼ自分のものにしたことが挙げられる。
 豚鬼オーク達の様々な武器を用いた豊富な技に対処することで受け技や歩法を熟練させ、岩蛙の頑強な皮膚を破るために肘撃や膝蹴りなどの攻撃術を向上させた。
 中でも気の熟達が顕著で、拳以外の攻撃部位に気を纏えるようになっただけでなく、全身を気で覆えるようにもなった。しかも気は攻撃だけでなく防御にも使え、鋭い長剣や斧の一撃を貰ったとしても、エルの肉体まで刃が届かなくすることができるほどの堅牢さを有していた。気の防御への転用は、軽装のエルにとって動きを阻害せずに防御力を上げられる貴重な手段となった。
 ただし、全身に気を行き渡らせる行為は気力の消耗が激しく、維持することが難しい。今後は継戦能力を向上させるためにも、瞬時に攻撃を受ける部位だけ気で強化できるようにするのことが課題である。
 克服すべき新たな目標に闘志を燃やし、エルは充実した冒険者生活を送るのであった。

 ただし、そんな順風満帆なエルも一つだけ上手くいかないことがあった。
 それは発剄の習得である。
 今朝も早朝から神殿の修練場に赴き、汗濁になりながら何度も何度も空色の鉱石アズールブルーの壁に掌底を放ち続けたが、魔鉱製の壁は一向に傷つかず成果が得られなかった。本日で発剄の修行を始めてから一週間が経過している。
 修行当初にアルドに見せてもらった猛武掌の動きを頭の中で思い描き、想像との齟齬が無くなるまで何千何万回と反復し、ほぼ模倣できるようになったという自負がエルの中にあった。震脚による地を割る苛烈な踏込みや全身の部位を連動させた螺旋回転、そして後足で全身を急速に前方に押し出し掌へ力を伝えることも可能になっていたのだ。
 だが何かが足りない。発剄を行うための後一欠けらのピースが欠けていると、漠然とながら感じていた。

「くそっ、何でできないんだっ!!」

 目に見えた結果が得られない状況に、焦燥からか珍しく悪態をついてしまう。エルの全身から不機嫌な様子が分かるほどの刺刺しい空気が溢れ出す。
 そんなエルを見兼ねたのか、後方から声が掛かる。

「こらっ、少年。
 そんなに焦っていたら、上手くいくものもいかないよ」

 エルが驚いて振り向くと、陽光を反射して眩く輝く銀槍を携え、蒼く煌く軽鎧を着込んだ若い女性が立っていた。燃える様な赤髪を後ろで一つに束ね、勝気で愛嬌のある大きな瞳がエルを見据えている。
 エルよりやや身長が高いせいか若干見下ろすような恰好になりながら、まだ唖然として言葉を発せないエルに諭すように話し掛ける。

「ほらっ、黙ってないでお姉さんに相談してみて。
 一人で悩んでいて解決できないことも、人に話すと案外上手くいくものよ」

 どうやら姉御肌の人物で、エルのことが心配になったのか態々声を掛けてくれたようだ。親切で思いやりのある行為に、不貞腐れていた自分が途端に恥ずかしくなり顔が赤らむ。慌ててつっかえながらも何とか女性にお礼の言葉を述べる。

「そっ、その……、すいません。
 技の習得ができなくて気が立っていました。
 僕はエルと言います」
「私の名前はティアよ。
 これでも4つ星の冒険者なんだから。
 さあ、大船に乗ったつもりでどーんと相談して見なさい」

 ティアは見惚れる様な快活な笑顔を浮かべると、軽鎧に包まれた胸を槍を持っていない左手で叩いてみせる。
 4つ星ということは、もう少しで5つ星の上級冒険者に昇格できる段階にいるということだ。まだ冒険者に認められたばかりのエルと違って、様々な技術を身に付けているであろうことは容易に想像がつく。自分の不甲斐なさを晒すことになるが、ここは好意に甘えさせてもらおうと事情を説明することにする。

「僕は星なしの下位冒険者に成り立てです。
 一週間前ぐらいにアルド神官から剄について学んだのですが、毎日練習していても全く発剄ができなくて焦っていたんです」

 ティアは事情を聞いて頷くと、顔を顰め言い難そうにしながら話し出す。

「それは……、簡単にはいかない問題ね。
 発剄は冒険者であっても簡単に習得できるものじゃないわ。
 早くても数ヶ月、人によっては数年掛かる場合もあるのよ」
「えっ、そんなに掛かるんですか?
 アルド神官は一朝一夕にはいかないとしかおっしゃらなかったので、そこまで時間が掛かるとは考えていませんでした」
「多分本当のことを言ってやる気が減退するのを心配したんじゃないかな。
 エル君も習う際に、身に付けるまでに下手すれば数年掛かる技って言われたら、尻込みするでしょう?」

 ティアの推測ににエルも頷かざるを得ない。修行当初に数年掛かるかもしれないと言われたら、意気込みも違っただろう。
 だが、エルはどうしても発剄がそこまで時間が掛かるとは思えなかった。成功していない身で言うのはおこがましいかもしれないが、発剄の発現まで後少しの段階にきている感覚があるのだ。そのことを恐る恐るティアに伝えて見ることにした。

「ティアさん。
 そのっ、何となくですがもう少しでできそうな気がしているんです。
 ただ、何が欠けているのか分からないのですが、成功させるために必要な要素があと一つ不足している様な感覚もあるんです」 

 発剄の修行を始めて1週間の少年の言である。本来なら一笑に付す所であるが、真摯でひた向きな瞳を見詰めているとエルの言葉が真実に思えてくる。
 しかし、発剄は外見上からは成功しているか判断し辛い。仮に、エルの発剄を見せてもらっても、改善すべき箇所を指摘するのは困難である。
 ティアは悩んだ末に、参考になればとある技を披露することにした。

「エル君、あなたに何が足りないかはわからないけど、今から一つお手本を見せてあげるわ。
 武神流の槍術や棍術にも発剄の技があるの。
 纏絲勁てんしけいっていう技なんだけど、良く見ていてね」
「はい、よろしくお願いします」

 貴重な技を見せてもらえる機会である。エルは一瞬足りとも逃すまいとかっと目を見開き、ティアの一挙一動を凝視した。
 ティアはエルの様子に会心すると、直ぐに真剣な眼差しになり足を前後に開いて中腰なり、槍を腰だめに水平に構えた。
 短く息を吸うと鋭い気合の声を上げ、強烈な踏み込みを行う。震脚に似た猛烈な踏み込みで轟音を轟かせると、ティアは全身を高速で回転させ諸手で槍を真っ直ぐ突き出す。
 槍は高速で螺旋回転しながら、驚愕するほどの速度で空を真一文字に切り裂いた。
 ティアの動作をエルは側面から見ていたが、それでも槍を見失いかけるほどの速度であった。もし真正面から相対していれば、避ける間もなく胸に突き刺さったであろう、神速の一撃である。
 しかも、強烈な螺旋回転も加わっているので、凄まじい破壊力を有していることに疑いの余地はない。
 ティアは4つ星の名に恥じない優れた技を有する冒険者のようである。
 しかし、ティアの様子を観察していたが、自分の発剄との違いを見出せなかった。発剄に必要と推測される要素として、強烈な踏み込みに全身の回転、そして後ろ足による前方への押し出しまでは考え付くが、やはりまだ何かが欠如しているようだ。
 自分の思考の海に沈み込みそうになるのを慌てて頭を振り思考の隅に追いやると、目の覚める様な秀逸で峻烈な技を披露しれくれたティアに賞賛の言葉を送る。

「ティアさん、素晴しい技を見せてくれてありがとうございます。
 恐ろしく疾くて凄まじい威力を秘めた技ですね」

 エルの掛け値なしの賛辞に気を良くすると、ティアは笑みを浮かべ頭を掻いた。しばらく照れていると相好を崩した自分の姿に気づき、可愛らしい咳払いをして先ほど実演した技ついて説明し出した。

「おほんっ。
 えーっと、今見せた技が纏絲勁てんしけいよ」
「はい、凄い技でしたね」
「アルド神官から発剄の仕方については聞いていると思うけど、この技についても簡単に説明するわ。
 まず強烈な踏み込みで得た力を、回転することで腕まで伝え、後ろ足で強く体を前方に進ませながら両手を回転させて突き出し、槍に勁力を篭めるのよ。
 40階層以降に出てくる強敵でも、急所に当たれば一撃で倒せる私のとっておきの技よ」
 
 意気揚々と説明するティアを尻目に、エルは先ほどのティアの説明を反芻する。
 ティアは全身を締めると言ったが、何故そうする必要があるのだろう。自分が何かアルドから聞いた重要なことを見逃してる気がして、必死に過去の記憶を呼び起こす。

 思い出せ。
 あの時アルドはなんと言っていた。
 発剄の謎を解く鍵が記憶の中にあるはずだ。

 エルは己が内面に深く埋没し、修行当初の記憶を何度も何度も回顧した。
 そうだ、アルドは人体のあちこちに衝撃を吸収する部位があると言っていたのだ。ティアが説明した体を締めるのという行為は、震脚の衝撃を拳に伝達する際に、体の彼方此方で分散して緩和されるのを抑える役割があるはずだ。
 エルは今までの戦闘の経験から、連続技を使うのに、関節、特に土台となる下半身を柔らかく使うことで技と技の繋ぎが円滑になることがわかっていたので、体を締めることを無意識に除外していたのだ。体を柔らかく扱うことで、衝撃が更に緩和されることは容易に想像がつく。足から得た力を手に伝えねばならないのに、今まで何と愚かな行為をしていたのかとつい自虐の笑みが浮かぶ。
 だが光明が見えた。エルはこれこそが解決の糸口だと確信する。

「ティアさん、ありがとうございます。
 謎が解けました。
 これから発剄を成功させて見せます」

 エルはティアに大声で話し掛けると、駆け足で空色の鉱石アズールブルーの壁の前に立ち、右半身の構えをとる。
 ティアは黙り込んでいたと思った突然大声を上げるエルの奇行ぶりに、若干尻込みしながら成り行きを見守った。
 エルは深く息を吸いながら目を閉じると、全身が衝撃が伝わり易い金属になることをイメージする。
 衝撃を吸収する部位を持つ人体が筋肉を締めることで、固い一つの鋼の塊になる様を空想した。だが、唯の鋼ではない。垂直方向に伝わる力を水平方向に変換する鋼だ。
 ゆっくり息を吐き出しながら目を開けると、再度息を吸い込む。
 想像はできた。後は実践するだけだ。
 エルは獣じみた咆哮を上げながら猛烈な踏み込みを行う。踏み込んだ右足が地に着く瞬間、全身よ鋼になれときつく筋肉を締める。足が大地を割る衝撃が伝わる刹那、全身を高速回転させ後足の力で体を前方に押出しながら激しい突きを放ち、右掌を魔鉱の壁に叩き付けた。
 すると、傷一つない空色の鉱石アズールブルーの壁はエルの掌を弾き返すことなく粉々に砕け散った。
 エルの弛まぬ努力と一途な思いが終には堅固な壁を打ち破り、発剄を発現させたのである。
 
「やった。やったぞーー」

 歓声を上げ、喜びを露わにしたエルは普段では絶対やらない行動をとる。
 ティアの手を両手で握り締めると、喜びの度合いを示す様に勢いよく上下に振り出す。

「ちょっ、ちょっとー」
「ありがとうございます。
 ティアさんのおかげです」

 まさかエルが発剄が成功するとは思わず、砕け散った壁を見て呆気に取られていたティアも我に返り抗議の声を上げるが、エルは余程嬉しかったのか感謝の言葉を述べティアの手を振り続けた。
 やがて落ち着くと急激に羞恥心が沸き出す。急いで手を放すと、エルは深々と頭を下げ謝罪する。

「すっ、すいません。
 つい嬉しくて……」

 ティアは黙ってエルを見据えていたが、恐縮しきりのエルの姿に嘆息すると軽く説教する。

「エル君、いきなり女性の手を握り締めるなんてマナー違反よ」
「すいません。
 以後この様なことが無い様に気を付けます」

 青くなってひたすら頭を下げるエルに溜飲を下げると笑顔になる。ティアは元々そこまで怒っておらず、エルの突拍子もない行動に反省を促したかっただけなのだ。しきりに謝罪するエルに、もうその必要ないと話題を変えエルの快挙を褒める。

「さあ反省終わりっ。
 ほら、いつまでもぺこぺこしない。
 エル君は頑張って発剄ができるようになったんだがら、誇っていいのよ。
 これは凄いことなのよ」
「僕は誇っていいのでしょうか?」
「ああ、誇っていいぞ。
 私もまさかこの短期間で猛武掌ができるようになるとは思っていなかった」

 太く低い声が響く。振り返ると、いつの間にかアルドが直ぐ傍に立っていた。

「アルド神官、見ていたのですか?」
「うむ、少し前に二人が何やら話し込んでるのを見かけてな。
 それよりこんなに早く発剄を成功した例は非常に希だ。
 エルよ、良く精進したな」
「そうだよ。
 エル君、本当に良く頑張ったね」

 二人からの祝福と努力が結実した多幸感にエルは天にも昇る気分だ。
 そんな喜びを噛み締めるエルに、突如周囲の音が消え天から啓示が降り注ぐ。

 エルよ……
 我が敬虔なる信徒よ。
 お前に試練を与えよう。
 齢も近い若く未熟な新人達を心身共に鍛え上げ冒険者足らしめた後、10階層を守る守護者を己独りで打ち倒すのだ。
 見事試練を克服した暁にはお前に新たな業(わざ)を授けよう。
 
 俄かに虚ろな状態になったエルに、二人は声を掛け体を揺さぶる。

「エル」
「エル君、どうしたの?」

 神託が終わり意識を取り戻したエルは、状況を察すると謝罪する。

「心配かけてすいません。
 今、シルバ様から啓示があったんです」
「えっ、シルバ様から?」
「それは神の御業への試練ということか?」
「はい、ルーキー達を鍛えて冒険者にさせ、10階層の守護者を一人で倒せとのことです」

 突然の神託に仰天したが、心が落ち着くと体中からやる気が漲ってくる。神の御業とは如何なるものか想像もつかないが、試練を越えれば自分が行使できるようになるのだ。興奮が抑えきれずに堪えきれなくなったエルは、とりあえず冒険者の情報に詳しいであろうセレーナに相談しようと決断する。

「アルド神官、それにティアさん。
 お二人のおかげで発剄ができるようになりました。
 本当にありがとうございました。
 僕は今から協会に行って、ルーキーを鍛える事について相談しようと思います」
「あっ、ああ、行ってらっしゃい」
「えっ、ええ、気を付けてね」 
「それじゃあ失礼しますね」

 神託の衝撃に未だ茫然として生返事をする二人に別れを告げると、エルは風の様に走り去った。
 しばらくして、ようやく調子を取り戻したティアはアルドに疑問を投げかけた。

「アルド神官。
 彼って天才かしら? 」
「うむ……。
 天才かどうかはわからぬが、勤勉で努力家なのは確かだ。
 10年近くも中段突きの鍛錬をしていたと言っていたから、発剄の下地はできていたのかもしれんな」
「へえ~、頑張り屋さんなんだ。
 そこは好感が持てるな。
 それと、神の試練ってこんなに早く受けられるものなの?」
「いや、早すぎる気がするな。
 私が神託を受けたのは2つ星になってからだった」
「私なんて3つ星になってからですよ。
 エル君ってシルバ様に気に入られたのかな?」

 ティアの質問にアルドは熟考する。神も人と同じ様に千差万別の個性を持つと聞く。信徒の中に自分の好ましい人物がいたら、贔屓することもあるかもしれないと思考する。

「エルは素直で修行好きなだけでなく、その身の内に激しい闘争心を秘めている。
 もしかしたらシルバ様の好みに合致したのかもしれん」
「ふーん、武神流格闘術の期待のホープってところかな。
 格闘術は人が少ないから、エル君が武器術の方に移らないように気をつけなくちゃいけませんね」
「こらっ、痛い所を突くな」
「あはははっ、すいません」
 
 ティアの茶化しに憮然となりながらも、アルドはエルの将来を想うと自然と笑みが浮かぶ。楽しみな少年が現れたものだと心躍った。

「エルの将来が楽しみだな」
「ええ、ワクワクしますね」

 前途有望な少年の未来が幸多きことを二人は願うのであった。
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