Labyrinth of the abyss ~神々の迷宮~

天地隆

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第1章

第20話

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 暗闇が世界を覆い辺りを静寂が支配し始めた頃、エルは息を弾ませながらカイ達の泊まっている穴掘り兎の塒亭に到着した。4人と別れてから10階層で魔物との戦闘を繰り返し迷宮の食材を狙ったが、今日に限って食材以外の落し物ドロップばかりが手に入り、全員の夕食分の食材を集めるのに予想以上に手間取ってしまったのである。
 案の定、宿屋に駆け込むとカイ達はすでにテーブルについて待っている。エルは足早に彼等に近づくと両手を合わせ、開口一番に遅刻を詫びた。

「みんな、遅れてごめん。
 食材が中々出なくて時間が掛かってしまったんだ」

 だが、カイ達はエルの遅刻にも気を悪くした様子はなかった。それどころか、シャーリーやミミなどは申し訳なさそうにエルに言葉を掛けてきた。

「エル、私達のために無理したんじゃないの?
 大丈夫?」
「エルさん、10階層を一人で潜るなんて大変だったんじゃないですか?
 怪我してませんか?
 あったらすぐ治しますから、言ってくださいね」

 二人の心底気遣わしげな姿にエルは心が暖かくなると、直ぐ様謝罪を述べた。

「心配かけてごめん。
 魔物と闘うから傷を負うこともあるけど、もう回復薬で治っているから大丈夫だよ。
 今回は魔物が食材以外の落し物ドロップばかりしてね・・・本当に焦ったよ。
 あらためて遅れてごめん」 

 エルの謝罪と説明に二人も納得したようだが、やや場が重くなってしまったようだ。そんな重い雰囲気を吹き飛ばすかのように、カイが軽口を叩く。

「まあ、俺はエルの心配はしなかったけどな。
 待ちくたびれてお腹がすいちまったぜ」
「カイ!」
「カイくんっ!」

 シャーリーとミミがすぐに注意を飛ばすが、二人ともカイが本気で言っていないことは長年の付き合いからわかっているので、叱責ではなく軽いお小言程度の注意だ。エルもカイと出会ってからだいたい20日程度の時間が過ぎている。初めはわからなかったが、今では彼の軽口が場を明るくしたり、雰囲気を変えたりするために出てくることをわかっている。そのことがわかっているから、当然エルが気を悪くするようようなことはない。むしろエルは笑顔を浮かべると、笑い声が出そうになるのを堪えながら言葉を紡いだ。

「うん、待たせちゃったってごめんね。
 それじゃあ、カイもお腹が空いているようだし食材を女将さんに渡してくるよ」
「おうっ、お腹が待ちくたびれて悲鳴を上げる前に頼むぜ。
 今日は激戦だったから腹が空いて仕方ないぜ」
「もうっ、カイくんたらしょうがないんだから」
「ははっ、じゃあ行ってくるからちょっと待っててね」

 エルは踵を返すと、女将やその旦那が忙しなく動いている調理場に向かった。この恰幅の良い往年の女将ともカイ達と夕食を度々共にしていたので、顔を合わせる機会が多くエルの顔と名前も覚えられている。エルが近づいてくるのがわかったのか、向こうから声を掛けてきた。

「おやっ、エルじゃないか。
 今日もカイ達と夕食かい?」
「ええ、いつもの様に食材を持ってきましたのでお願いします。
 それとこれも・・・」

 エルは魔法の小袋マジックポーチから大量の肉を取り出し調理台の上に並べると、カイ達からは見えない様に女将に金貨を1枚そっと渡した。通常、お金の掛かる迷宮の食材を持ち込めば食費代はほとんどかからない。一食当たりせいぜい銅貨20枚程度が新人ルーキーや下位冒険者の成り立て辺りの相場である。それを考えるとエルの渡した金額は法外なほどだ。持ち込まれた食材以外に、宿にある迷宮の食材をふんだんに使っても、まだおつりが出る。
 女将の方も思いがけない大金を渡されたのでびっくりしている。エルはゆっくりと今回の大金を渡した真意を語り出した。

「実は、今日カイ達は下位冒険者になったんです」
「あらっ、それはめでたいじゃない。
 でも、お祝いにしても多過ぎやしないかい?」
「ええ、今日は羽目を外すこともあるかもしれませんから、余ったお金と食材は女将さんからということで、周りの冒険者へ何か振る舞ってもらえませんか?」
「ああ、そういうことかい。
 あんたも粋なことするねえ」

 女将もやっと得心がいったのか、ゆっくりと息を吐き出しながら頷いた。
 後で教えてもらったことだが、エルが下位冒険者に昇格した時のお祝いは金の雄羊亭の亭主の計らいもあったが、宴会に参加したライネルなどの冒険者が大半の金額を支払っていたのだ。エル自身はライネルに酔い潰され宴の途中でリタイヤしており、参加した冒険者達自身が大量に注文して飲み食いしたのだから、彼等自身が支払うのは当然と言えば当然だが、気前のいい冒険者達がわざわざ金を出しエルの祝いの席に参加してくれた事は望外の喜びだった。
 エルも先達からもらった喜びを、後進の冒険者達にも味わってもらいたかったのだ。女将から事情を聞かされて料理を振る舞われれば、他の冒険者達も少々羽目を外したとしても大目に見てくれるだろうし、カイ達を祝福してくれるだろう。それに、他の冒険者と知り合いになるのは悪いことではない。気の良い先達に出会えれば、色々経験を積ませてもらう機会もあるだろう。今回の祝いの席がそうなればいいと、エルは願った。

「それじゃあ、女将さん。
 よろしくお願いしますね?」
「あいよっ!
 腕によりをかけてとびっきり美味しいのを持ってってあげるから、楽しみに待ってな」
「はい、よろしくお願いします」

 エルは女将の威勢の良い答えに気を笑顔で頷くとカイ達の待つテーブルに戻り、料理ができるまでのしばしの時間を他愛のない会話に興じるのだった。

 やがて、食欲を誘う匂いを立てながら様々な料理を運ばれてくる。
 迷宮の食材を使った料理はいつもこうだ。
 芳醇で堪らない香りが飢餓感を覚えると錯覚するほどの食欲をそそり、冒険者達の視線を釘づけにしてやまない。おそらく冒険者の体自体が自身を強化するために欲するのも一因にあるだろうが、迷宮の食材は大変美味で記憶に残るものが多い。匂いを嗅ぐと無意識に過去の体験が呼び覚まされるのか、意識する前に体が自然と欲してしまうのだろう。
 現に、カイなどは料理がテーブルに置かれた途端に先ほどの冗談が本当のことになったようで、手を付けたくて仕方なさそうにしている。ついには我慢できなくなったのか、エルに催促してくる。

「なあ、エル。
 早く食べようぜ。
 もう腹が空いて仕方がないんだ」

 カイの焦った様な要求に、くすりと口元が持ち上がる。カイに軽口を返しながら全員にククの実のジュースが行き渡ったのを確認すると、エルは自分の杯を持ち上げた。

「それじゃあ、カイも我慢できないようだし夕食にしよう。
 みんなの下位冒険者への昇格を祝って、乾杯!」
「「「かんぱーい」」」

 エルの乾杯の合図に答えるように唱和すると、カイを筆頭にシャーリー達も空腹を感じていたのか、勢い良く眼前に並べられた豪勢な品々に手を付け始めた。エルも迷宮での戦闘を行ったせいか食事に引き付けられる。ククの実のすっきりとして爽やかな味を堪能をすると、目の前のサラダを食べ始めた。
 このサラダは、エルが取ってきた偉大なる箆鹿グレートエルクの肉を薄切りにして炒めものに、今が旬の葉野菜と真っ赤なリンネ、そして水牛の乳から作ったチーズを合えてドレッシングがかけられている。リンネは多年草の植物で、毎年春から初夏にかけて真っ赤な果実を実らせサラダやパスタ、さらには煮込み料理など様々な料理に使われる野菜である。味もやや酸味があるが水分を多く含み、あっさりとして食べ易く他の食材との相性が良く、この地方で良く使われる野菜だ。エルはチーズや薄切りの肉と一緒にリンネを口に放り込み咀嚼した。水牛の乳からできたコクのあるチーズの味わいと薄っすらとしたリンネの酸味、そして塩と木の実のオイルを主体としたあっさりとした味付けのドレッシングに歯ごたえのある偉大なる箆鹿グレートエルクの肉の味が渾然一体となってエルを攻めたてる。一噛みする度に押し寄せる複雑玄妙な味がエルを楽しませるが、あくまで新鮮な野菜を主体としているのでそれほど腹にたまらず、食べるほどに食欲をかき立てられる。
 エルは直ちに次の獲物に手を伸ばした。今度は岩蛙ロックフロッグの後ろ足のから揚げである。岩蛙(ロックフロッグ)の通常の落し物ノーマルドロップは岩の様な表皮と固い爪であり、この後ろ足は希少な落とし物レアドロップである。しかも、通常の落し物ノーマルドロップが2つあるので希少な落とし物レアドロップの中でも滅多にお目にかかれない貴重なものである。エルがゆっくりと口に入れると良く塩の効いた柔らかな肉の味が広がった。この肉自体は淡泊な味で特徴はないが、逆を言えば味付け次第で全く違う味わいが得られるということである。女将もしっかりと工夫を凝らしているようで、から揚げの味付けとして塩のみを振り付けたシンプルなものや強い柑橘系の果実の汁を付けたもの、そしてタマネギを基にした複数の野菜と香辛料を混ぜ合わせた強めのソースの3種の味付けがなされている。それぞれの味付けによってころころと変わる味に舌鼓を打ちつつ、エルはしばらくの間食事に集中するのであった。
 
 各自がある程度食欲を満たし、食事の速度も緩やかになる頃を見計らってエルはゆっくりと口を開いた。

「それにしても、今日の小鬼の王ゴブルとの戦闘は良かったね。
 長時間の闘いだったけど、絶体絶命の状況になることは避けられたし理想的な勝ち方ができたんじゃないかな」

 エルの言葉に各々が嬉しそうに笑顔を向ける。これまでしたきた様々な努力の集大成がもたらした見事な勝利である。その喜びも格別であろう。ミミなどは余程嬉しいのか、特徴的な頭の上についている猫耳が忙しなく動いている。

「これもエルさんが助けてくれたおかげです。
 本当にありがとうございました」
「ええ、エルのおかげ。
 ありがとう」

 ミミやシエナなどが笑顔で口々にお礼を述べる。エルはなんだがこそばゆくて鼻を掻きたくなったが、必死で繕いながら我慢した。

「ああ、エルには本当に感謝してるぜ」

 今度はカイまでも手を止めて、神妙な顔つきでお礼を述べ始めたようだ。エルはもう嬉しさと気恥ずかしさで顏が赤面することを止められない。自分の赤くなった顏を取り繕うように早口で捲し立てる。

「いやっ、これもみんなの頑張りがあったからさ。
 僕が助けたと言っても、みんなの努力がなかったらこんなにう上手くいかなかったはずだよ」
「まあ、エルの助けもあったけど、俺達の努力と才能が実を結んだってことかな」
「こらっ、カイ。
 調子に乗らないの」

 おどけた様なカイの言葉が子気味良い。エルも笑いながら軽口を返した。

「いやっ、みんなの努力の成果っていうのは嘘じゃない。
 本当のことさ。
 まあ、最初の出会いが悪かったら、正直どうなることかと冷や冷やものだったけど、みんなの頑張りがあったからこそだよ」
「ちえっ、それは悪かったよ。
 俺達も他人を信用するのは難しくてな。
 ああいう対応になったは悪かったと思ってるさ」
「行き成り他人を信用することはできないからね。
 僕の対応も悪かったしお互い様さ」
「いやっ、そういうことじゃなくてな・・・
 別の理由があるんだよ」
「理由?」

 エルがカイに訝しそう視線を送ると、カイは女性陣を見渡していた。女性陣は笑顔で頷いている。理由を話してもいいということだろう。カイもゆっくりと話出した。

「ああ、俺達の出自に関わる話さ。
 エルだから言うが、俺達は聖王国シュリアネスにあるナシト村っていう、亜人連合諸国ヴァリアとの国境にある辺境の村の出身さ」

 聖王国は純粋な人間を至上とする、人類至上主義の国家である。亜人などの聖王国側の言い分では混ざりものと称される人類は、人類に使役されるべき人種と言って憚らない。そのため隣接する亜人連合諸国とは折り合いも悪く、近年は大戦争には至ってはいないが小競合いなどは頻繁に起きている。
 ミミやシエナは聖王国の区分では多大な苦労を強いられたことだろう。それに、亜人連合諸国との国境ということは小さな諍いは頻発しているであろうし、純粋な人間と目されるカイやシャーリーと、ミミとシエナが一緒にいるということはあまり嬉しい理由ではないだろう。カイの言葉に大体の事情を察したエルがどうやって言葉を返そうと思い悩んでいると、シャーリーが話を補足した。

「エルはカイの話を聞いて大よそわかったみたいだけど、私達は全員ナシト村の孤児院出身なの。
 聖王国は亜人連合諸国とは頻繁に小競合いを起こしているから、いくつも小さな不幸が生まれ、私達の様な人間は沢山出るのよ。」
「うん、カイの話からなんとなく察しがついていたよ。
 だから過去の経験から必要以上に他人を拒んでいたんだね?」
「ああ、村での生活は悲惨なものだったぜ。
 村人達もどこかに捌け口を求めていたんだろう。
 亜人の子供もいる孤児なんかは、まさに打って付けだったんだろうよ」

 カイは思い出したくもないのか吐き捨てるように口に出した。ミミやシエナも過去の経験を思い出したのか苦い顔をしている。彼等の生い立ちを聞けば、その後の展開は容易に推測できる。エルもそうだが若年で冒険者になる者は、冒険者にならざるを得ない理由があるのだ。

「冒険者になったのは、孤児院の負担を減らすためと稼いだお金を仕送りするためかい?」
「ええ、その通りよ。
 私達の下にはまだ孤児院の庇護を必要とする子供達が沢山いるわ。
 少しでもその負担を減らしたくて、みんなで相談して出て来たのよ」

 シャーリーも言葉にエルは黙って頷いた。予想通りの内容だが、エルも同じ状況に置かれたとしてら取れる選択肢は少ない。きっと自分も同じ選択をしたことだろうことは想像に難くない。

「だが、それだけじゃないぜ。
 俺達には夢がある。
 孤児院の子供達が満足に食べられるほど仕送りができるようになったら、亜人だろうと純粋な人間だろうと仲良く暮らせるような場所を作りたいんだ。」

 カイ達の夢は壮大なものだ。容易に成し遂げることができるものではない。
 だが、微かな可能性だが実現できない事もない。カイ達のパーティが、英雄と呼ばれるほどの地位と名声が得られたらどうだろう。騎士、もしかしたら貴族として国に召し抱えられることもあり得るだろうし、英雄の名声を使えば地方に村を興すことも可能かもしれない。だが、そのための代償は苛烈なものになるだろう。英雄と呼ばれるようになるためには並大抵のことでない偉業が必要なのだ。
 それでも壮大な夢を口にしたカイには、エルは頭が下がる思いだった。

「その夢は簡単じゃないぞ」
「ああ、下位冒険者になったばかりの俺が言っても、だれも信じちゃくれないないだろうさ。
 だけど、最初からあきらめてちゃ何もできない。
 例え馬鹿にされても夢を向かって歩き続けるしかないのさ」
「カイ・・・」
「孤児が英雄になってもいいだろう?」

 カイの言葉に胸に熱いものが込み上げて止まらない。エルはただ頷くばかりだった。カイ達は自分を信頼して夢を語ってくれた。ここは自分のことを話すのが筋だろうと、エルも彼らの信頼に答えるべく自分の夢を語ることにした。

「みんな、僕の話も聞いてくれないか?」
「はい、エルさんのことが知りたいです」
「ええ、聞かせてくれないかしら」
「僕は田舎の農家の3男だ。
 跡継ぎでもないから貰える土地もないから、将来は都市部に出稼ぎに出るか、田を貸してもらって細々と生活するしか道がなかったんだ」
「まあ、若いうちに冒険者になるやつは大抵理由があるよな」

 カイの言葉に笑顔で頷くと、エルはゆっくりと続きを語り出す。

「そんな将来を抱えて不安な僕の村に、ある冒険者が立ち寄ったんだ。
 その冒険者から聞いた英雄ゴウの冒険譚に魅せられたんだ。
 己が身一つで伝説に名を残す竜や魔神を打ち倒した英雄の話にね。
 僕も心の底から彼の様な冒険者になりたいと思ったんだ。
 それから10年間、冒険者に頼み込んで教えてもらった技を磨き、村の仕事を手伝いながら旅費を稼ぐと、冒険者になるためにここにきたってわけさ」
「それがエルの理由か・・・」
「そう、だから僕は武器を持たないし、パーティも組んでいない。
 伝説の冒険者ゴウと同じようにね」

 エルの理由に皆神妙に頷いた。エルの冒険者をする理由は、カイ達と違った意味で困難だ。ただ一人で凶悪な魔物達と対峙しなくてはならない。いつ命を落とすかもしれない稼業である。極力不安要素を減らすのが当たり前であり、エルの行いは無謀の極みと謗られかねない所業である。ミミが恐る恐る疑問を口にした。

「エルさんの夢は大変で辛くないですか?
 パーティを組みたいと思わないですか?」
「今の所は上手く行ってるけど、この先どうなるかはわからないかな。
 ただ、夢を捨てるつもりはないよ。
 それは今までの自分を否定することだからね」

 エルの答えは自分達にも返るものだ。他人からどう言われようと自分の夢は変えられないし、変える心算は毛頭ない。エルとの奇妙な符合に、カイは苦笑を漏らしながら返答した。

「エルもまあ難儀な夢を抱えてるな」
「ええ、応援してあげたいけど、その夢は私達の力じゃどうにもならないしね」
「エルさん、いつでも私達は歓迎しますからね」
「ははっ、その時はよろしく頼むよ。
 取りあえずはお互いの予定があったら、今後もたまに一緒に冒険しようよ」
「はい、よろしくお願いしますね」
「さっさとエルに追い付いてやるから、楽しみに待ってな」

 カイの威勢の良い啖呵に笑いが込み上げる。彼等と出会えて本当に良かったと思える。この楽しい時間がもっと続けばといいと思えてならない。エルは笑いながらカイに返事をする。

「それじゃあ、僕も頑張らないとね。
 さしあたり、明日は10階層の守護者に挑むことにするよ」
「おっ、おい、エル。
 もう守護者に挑むのか?」
「エル、無理してない?」  

 エルがあまりにも簡単そうに話すもんだから、カイ達はかえって心配になったようで、心配そうに見つめてくる。だが、エルとしても自分は無理しているつもりは毛頭ない。すでに10階層の魔物は相手にならず、十分な実力を付けたから挑むのである。彼らを安心させる様に、真剣な表情に戻ると説明し出した。

「うん、僕も10階層に降りて十分実力を付けたからね。
 もう、10階層の魔物じゃ物足りないぐらいなんだ。
 だから守護者に挑むんだよ。
 決して無謀な挑戦をしようとしているわけじゃないんだ」
「でも、エルさん。
 無理はしないでくださいね。
 自分の命が一番大事なんですから、危なくなったら逃げてくださいね」

 ミミの言葉にエルは静かに頷いた。ミミもエルの神妙な顔を見て安心したのか、ほっと息を吐き出した。

「さあ、重い話はそろそろ止めにしようか。
 今日はみんなが新人ルーキーを卒業した目出度い日だし、楽しい話をしよう」
「ああ、そうだな。
 今日は一杯美味いもんを食って騒ごうぜ!」

 エルとカイの言葉に全員笑顔で頷くと、止まっていた手を動かして料理を口に運びながら口々に思い思いの言葉を紡ぎ、騒ぎ出した。
 その後は楽しい宴会だ。
 女将が場の空気を読んで上手く料理を振る舞ってくれたのか、冒険者達が祝いの言葉を述べに来たり、自分の杯を持ちながら訪れたりもした。やはり、下積み時代の大変さをどの冒険者もわかっているのだろう。この時ばかりは我がことの様に喜び、祝福してくれたり多少のことには目をつぶってくれる。
 人も集まり騒ぎも大きくなったのか、カイ達のテーブルを中心に笑顔が溢れ、笑い声が絶えない。普段の人付き合いが苦手なエルは騒がしい輪に加わることなく離れただろうが、その自分がその輪の中心深くにいる。たまにはこの喧噪の中にいるのも悪くない、それどころか楽しくて仕方がないと思える自分がいることに、また笑いが込み上げてくる。
 以前の自分の時と同じく騒がしくも幸福な一時だ。自分が主役でない分だけ今度は冷静に見られる部分もあるが、何度でも味わいたくなる愉快で楽しい時間であった。いつのまにか、自分も大声で笑い声を上げている事に気付くが今日だけは無礼講というものだろう。
 人々の笑顔と騒がしくも楽しい喧噪に包まれながら、夜が更けていくのだった。
 

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