Labyrinth of the abyss ~神々の迷宮~

天地隆

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第2章

第24話

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 武神シルバ。
 高潔な精神と雄雄しく猛き肉体を持つとされる闘神である。全ての武術の祖とされ、どのような武器であろうと自分の手の様に使いこなし、またその身体は比類なく、他の戦神達でさえ及ぶことなしと謳われる大神である。
 大神と呼ばれる神は6柱。
 すなわち武神シルバに軍神アナス、雷神ヴァルに聖神エイン、そして生命の女神セフィに大地母神エーナの6神である。皆それぞれ世界創生の神話で活躍し、その名を轟かす神々である。この神々以外にも多数の神々が存在するが、この大神達を崇め奉る人々は多く、冒険者ならば半数近くの人々が信望しているほどである。
 冒険者が多いこの迷宮都市アドリウムでは、当然大神達の信者が大多数を占める。この6神を奉る神殿はそれぞれ大通りに面し、その威光を示すかのように一際優美で荘厳な神殿が建立されている。

 エルはそんな神殿の一つ、武神シルバの白亜の神殿の裏に隣接して建てられた修練場にいた。
 朝早くにルリエンの防具屋に赴いて猛虎の武道着と籠手を受け取り、新装備を身に付けている。アルド神官が来るまでに体を解しておこうと、エルはゆっくり型をなぞるように突きや蹴りを放ち始めた。体が温まってきたら徐々に早く、激しくしていく。終いには全力で技を放つ。連続中段突きから回し蹴りに繋ぎ、勢いを活かした回転肘打ちから上段への膝蹴り、そして締めの発剄、猛武掌を放った。エルの若々しい肉体が躍動し充分に威力の乗った連撃だ。
 つい2か月ほど前は中段突きし知らなかったが、今では技と技との合間を上手くつないで隙の少ない連続攻撃として放つこともできる。修行もさることながら、やはり絶え間なく実戦で鍛え上げられたことが技を短期間でものにできた要因だろう。生死を分ける魔物達との死闘がエルの技を研ぎ澄ましたのだ。もちろん魔素の吸収によって心身が強化され、身体能力が向上したことも急速に技術を身につける一因になっている。エルに中段突きを教えてくれた心の師が、迷宮は自身を鍛え練磨する闘争の場といったのも得心がいくというものだ。迷宮の恩恵なくして自分がこれほど急成長することはなかっただろう。そんなことを考えつつゆっくり深呼吸をしていると、後ろから声が掛かる。

「おはよう、エル。
 今日も熱心に励んでいるようだな」

 振り向くと、そこにはエルよりも頭一つ以上高い、筋骨隆々の金髪の偉丈夫、アルド神官が立っていた。エルが熱心に修行に励んでいた様を見てすでに機嫌が良いようだ。エルは姿勢を正し挨拶を返す。 

「アルド神官、おはようございます。
 今日はよろしくお願いします」
「うむ、エルが1つ星の冒険者になった褒美に、新たな技術を授けよう。
 前回と同じく本日を含めた3日間で集中的に技を学んで貰うつもりだが、問題ないか?」
「はい、全く問題ありません!!」

 エルの打てば響くような威勢の良い答えにアルドは相好を崩した。
 武神流を学ぶ冒険者は多いが、時流のせいか格闘術を学ぶものは少ない。皆、伝説や英雄譚に登場する剣術や槍術などの武器術を学ぶのが常だ。格闘術の教官はアルドを含め数人いるが、アルド自身が格闘術を教えている人数は10にも満たない。ほとんどが下位冒険者であり、たまに神殿に顔を出す程度だ。格闘術を身に付けるのは時間がかかり、上質な武器や防具を手に入れれば一気に迷宮の攻略ができる武器組よりは、確かに探索や成長は遅いだろう。だが、格闘術にも利点がある。発剄などは強烈な衝撃を与えると共に、内部破壊も行える貴重な技だ。表皮が固く刃が通らない魔物であっても簡単に倒すことができる。それに加えて歩法や防御術を習熟すれば、相手の攻撃を躱したり逸らしたりでき、さらに打点をずらして受けることによって重戦士の役割も熟せすことだってできる。さらに、重い防具や武器を持たない利点として修敏な動きも可能となる。格闘術を身に付けた優れた武道家とは、真に卓越した戦闘者なのである。だが、習得するには時間も掛かるし、身に付けるのは個人の資質によるところが大きい。そんな面倒なことをしなくとも、より短期間で強くなれる方法があるならそちらの技術を学ぶのは道理であろう。自分が武神流を教導する神官の中でも少数派で肩身が狭いのもしょうがないのかもしれないと、いつしかアルドは諦めにも似た諦観を念を抱くようになっていった。だが、この優れた武術が廃れていくのだけは忍びないという思いもあった。
 そんな折に、武神流の門を叩いたのがエルだ。エルはある意味格闘術に狂っていた。田舎の何もない環境で、ただ只管10年も中段突きの訓練を続け、己の牙を研ぎ続けた硬骨の士だ。アルドの出会った冒険者の中でも、エルほど熱意を持ち武術を修めんと取り組む者はいない。しかも、エルは技の覚えも良いし迷宮の攻略速度も早い。武神流格闘術の期待のホープといっていいだろう。エルが格闘術の名を上げる一助を担ってくれるのではと、アルドは秘かに期待していた。
 まずはこちらもエルの熱意に応えるべく、武神流格闘術の奥深さを見せようとアルドは気合いを入れ直した。

「本日エルに授けるのは気の技だ。
 よく見ておけ」 
「はい!!」

 エルは真剣な眼差しで、アルドの一挙一動を逃すまいとじっと見つめる。
 アルドは掌を開き右腕を水平に伸ばすと、手の平に気を集め出した。やがて気が球状になると、アルドは気合いの声とともに前方の地面に打ち出した。
 高速で発射された気の塊が地面にぶつかると、大きな音を立て爆発する。口を半開きにして事の成り行きを見つめているエルに、アルドは再び声を掛ける。

「まだ驚くのは早いぞ。
 武神流にはこんな技もある」

 呆気に取られていたエルが慌ててアルドに注意を向けると、アルドは気を籠めた左拳を上方から無造作に振り下ろした。
 すると、アルドの拳が描いた軌跡、円弧に沿った形で気の刃が形成され空を走る。大地を切り裂きながら進み、気が消えるまでに大きな爪痕を残した。あまりの威力に二の句が継げないエルに、アルドが先ほどの技を解説し出した。

「これが武神流の気を用いた遠距離攻撃技、気弾と気刃だ。
 この技は気を用いた基礎的な技で、他の神々の信者でも呼び方は異なるが使うことのある技だ」
「今のが基礎の技ですか。
 それにしては凄い威力があったように感じましたが・・・」
「基礎の技といっても、使う人間によって威力は全く異なるのだ。
 特に武神流の使い手が放つ気の技は強い傾向にある」
「えっ、それは何故ですか?」

 気の強さが使う人間によって異なるのは理解できる。気の総量や気の習熟度が異なるからだ。だが、武神流の気の技が他の神々の信者より強い理由が思い浮かばない。首を捻り悩み込むエルに、アルドが深く落ち着いた声で説明を追加する。

「何故なら、他の神殿では気を四大の力に変換して使うので、気そのものの扱いに関しては武神流の者に劣る場合が多いからだ」
「四大の力ですか?」
「有名所でいえば、伝説にも謳われる雷神流の神雷剣ヴァルブレードや、陽神ポロンの信徒が使う太陽剣サンブレードなどだ。
 もっとも、これらの技はそれぞれの神殿の最上位の技であり、おいそれと見れるものではないがな・・・」

 どちらも伝説に名を残す偉大な技だ。神雷剣は人類の支配を企む邪悪な魔神に止めを刺した技であるし、太陽剣は強大な水竜の身を一撃で焼き尽くしたとされる技だ。アルドの説明によれば、これらの技は気をそれぞれの属性に変化させた技ということだ。

「気や魔力とは、まさに万能な力なのだ。
 他の神殿はこの力を四大の力、つまり地水火風などの力に変換して用いるのだ。
 だが、武神流は違う。
 武神流は四大の力を用いず、気の力のみで闘うのだ」
「それぞれの流派に長所と短所があるということでしょうか?」
「そのとおりだ。
 四大の力といっても各神殿ではだいたい一属性に特化しており、その力が弱点の敵には圧倒的な強さを発揮するが、逆に同属性の敵には全く効かないという欠点がある。
 一方、気の力は得手も不得手もなくどの敵にも一様に通じるのだ」
「でも、他の神殿は四大の力だけでなく気の力も扱えるのですよね?
 属性の効かない敵に出会ったら、気の力を用いればいいだけではないのですか?」
「うむ、その指摘は正しい。
 エルは武神流の方が四大の力を使わない分、不利な点があるのではないかと疑念を抱いているようだが、それは違う」
「それは何故ですか?」
「武神流が決して他の流派に引けを取らない理由は2つある。
 まず、武神流の方が気の扱いのみを鍛え上げるので、気の習熟度が他流派よりも必然的に高くなり、その結果気を用いた攻撃の威力も高くなる点が一つ。
 もう一つは気の力は万能であり、四大の力に変換するだけが全てではないということだ。
 我々武神流が着目したのは、気の性質変化だ」
「性質変化?」
「例えば・・・、気を剣や槌、鎧や盾、はては水や氷のようにして扱うことができるのだ」 

 武神流が四大の力を扱うのを捨て気の扱いのみを鍛錬するので、他流派より気の扱いに長け、気の威力が高くなるのは頷ける。後は気の性質変化だが、アルド神官の言葉通りなら気はどんな物の変わりにもなるかもしれないということだ。そんなことが本当に可能なのか、エルにはわからなかったが・・・。
 考え込み表情をころころと変えるエルに、アルドは野太い声を掛ける。

「半信半疑のようだな。
 本当は明日見せる予定だったが、ちょうどいい機会だ。
 気の性質変化を用いた技を見せてやろう。
 これが気の鎧、武神流の纏鎧だ!!」

 そう言うやいなやアルドの全身を金色の気が覆いつくし、やがて高密度の、それこそ物質化したと言われても信じてしまいそうな気の塊を纏った。これが纏鎧なのだろう。単純にエルが全身を気で覆うだけでも防御力は格段にあがるのだ。アルドの気で作られた鎧は恐ろしい強度を有するだろう。全身を気で覆うのは一緒だが、使われている気の総量や密度は、水と氷、いや霞と氷ほどの差があるに違いない。今のエルでは到底まね出来ないアルドの熟達した気の技であった。
 エルが大きく目を見開いて驚愕していると、おもむろにアルドは直立の姿勢を取った。

「まだまだ驚くのは早いぞ。
 武神流の深奥はこんなものではない」

 なんと、アルドが直立した体勢のまま滑るようにエルに向かって迫ってくるではないか!!
 声を掛けられた時点でアルドに意識を向けていたので、足を動かすような動作などは一切せず真っ直ぐ立っていることは確認できた。だが、アルドは直立不動のまま地面を滑るようにエルに近付いてくる。
 そして、ぶつかる間際まで接近すると、急激に方向転換しエルの周囲を回り始めた。もちろんアルドの体は、下半身どころか上半身も一切動かしていない。目まぐるしくエルの周囲を回るアルドの動きを体を回転させて見失わないように追っていると、やがて回るのを止め大きくエルから距離を離した。エルから歩幅で10歩ほど離れたろうか、その距離からやはり直立のまま一切体を動かさず、今度は高速でエルに迫ってくる。
 ぶつかる!!
 エルは慌てて両手を挙げ接近するアルドを受け止めようとするが、手にぶつかる手前でアルドは急停止し、一気にエルから5歩ぐらいの間合いに遠ざかった。
 なんと摩訶不思議な動きであろうか。エルの常識を根底から動かすようなアルドの不可思議な動きに、口を開いたまま言葉が出ない。アルドに様々な気の技を見せてもらい驚きの連続であったが、今までで最大級の驚きであり理解が追いつかない。
 茫然自失のエルに、アルドは落ち着かせるようにゆっくり言葉を発した。

「ずいぶん驚いたようだな。
 これが武神流の気を用いた歩術、滑歩と迅歩だ」
「滑歩と迅歩・・・」
「そうだ。
 滑歩は足の裏を氷のような気で覆い、踵部分から気を前に進む推進力として射出して、地面を滑るように進んだのだ。
 迅歩は体の背面全てから一気に気を放出し、高速で接近したというわけだ」

 アルドの説明を受けて、頭の中が真っ白だったエルは徐々に理解し始める。
 つまり、今のアルドの奇妙な動きは気を用いた移動術だということだ。しかも、気を性質変化させて、氷のように、あるいは自分の体を動かす推進力として用いたというわけだ。気の力はなんと万能であることか。この力を上手く使えれば、例えばアルドがやったように直立のまま相手との間合いを変化させて幻惑させたり、自分は攻撃態勢のまま体を動かさずに相手の側面に回り込むこともできる。気による移動術や防御術を修めれば戦闘を有利に進めることができるだろう。決して他流派に引けを取ることはないはずだ。
 それどころか、格闘術の新たな可能性を見せられたといってもいいだろう。気の性質変化は闘い方を変える、いや、より高度なものにする可能性を秘めている。目から鱗が落ちたとはこういうことを指すのだろう。エルは感動に打ち震え、アルド神官に深々と頭を下げて礼を述べた。

「アルド神官、素晴らしい技を見せて頂きありがとうございました。
 武神流の素晴らしい技を見れて、本当に感動しました」
「うむ、これで武神流がけして他流派に劣らない、それどころか優れた武術であることがわかっただろう」
「はい、疑って申し訳ありませんでした」
「わかればよいのだ。
 さあ教えた技の習得に励むのだ。
 今見せた技は、どれも習得するのは簡単にはいかんぞ」
「はいっ、頑張ります」
「まずは気弾と気刃、感覚を掴むためにも気刃から練習するのがいいだろう」
「やってみます」

 そう言うと、エルは右腕を上方に掲げ気を集め出した。手に気を集中させ圧縮し、充分な量になったと思ったら振り下ろした。
 その結果、エルの手からは気の刃は発生せず、水をまいたように手から気が撒き散らされた。思いもよらない結果に目を白黒させていると、アルドが言葉を掛けてきた。

「初めてにしては上出来だ。
 今のが気を水のように扱うということだ」
「でも・・・、何故そのようになったのかわかりません」
「おそらく、気の練りが甘かったのと、気を性質変化させ刃にすることができなかったからだろう」

 つまり練習不足の結果だとういうことだ。まあ、初めてやって気を飛ばさせただけでもましな方だろうと、エルは自分を無理やり納得させた。後はひたすら反復練習して技を磨くだけだ。改めて気を練ろうとするエルに、さらにアルドが助言する。

「最終的に気の扱いに必要なのは、想像力と意志力だ。
 自分がどのように気を扱いたいか常にイメージしなさい。
 そして自分の気の力を信じ、己が意志をもって現実に顕現させるのだ。
 信じるのだ。
 そうすれば、必ず応えてくれる」
「はいっ、わかりました」

 アルドに大きな声で返事しながら、エルは気を練った。そして思い描く。気の力は自分自身の力だ。アルド神官が言った通り、信じて想えば応えてくれるに違いない。
 エルはひたすら気を練り、失敗を続けながらも気刃の練習を続けるのだった。

 しばらく続けていると、気力もなくなってきたのか体が疲れて重くなり、気の集まりも悪くなってきた。10階層まで攻略し心身ともに成長したエルだが、この気の技の練習は気力の消耗が激しい。あまり時間が経たないうちに気が底を尽いたようだ。

「エル、無理をするな。
 気の量は早々増えるものではない。
 きちんと休憩を取らないで続けると倒れるぞ」 
 
 アルドが心配して注意の声を掛けてくれる。
 確かにこのまま無理して気を使い続ければ倒れるだろう。気力や魔力を回復させる精神回復薬はお金が掛かるし、回復薬はお腹に溜まるので飲み続けて修行するのも限界がある。アルドが習得が簡単ではないと言ったのは、気力を消耗すると回復するまで時間が掛かるので、修行して技を習得するまで多大な時間を要するといった点もあるからなのだ。
 だが、エルには秘策があった。
 それは神の御業である。
 10階層で砂礫竜(サンドドレイク)を倒した褒美に授かった業は、精神力を回復させ肉体の再生をも可能にする秘儀であったのだ。昨日、猛虎の防具の運用で、気を消費する欠点を解決する秘策とは、エルが授かった神の御業を用いることだったのだ。
 
「アルド神官、大丈夫です。
 見ていてください」

 心配してくれたアルドに一声掛けると、エルは足を肩幅程度に開き胸の前で両手を併せた。そして周囲から力を取り込み、みるみる疲れを癒し気力を回復させていく。

 大気に満ちる森羅万象の力を取り入れ、心身を癒し己が血肉とせん。
 之、すなわち外気修練法なり。

 エルは、武神シルバからこの業を授かった時の言葉を口ずさんだ。
 初めて神の御業を行ったが、まるで何千、何万回も繰り返し己の技にしたように身体に馴染み、躊躇なく行えた。神に試練を乗り越えた褒美として授かった御業は、修行せずとも己の修めた技と同程度に使えるようだ。そんな取り留めもないことを考えている間に、すっかり疲れは癒され回復しきっている。まさに御業と呼ぶに相応しい、実用的で優れた業である。

「エル・・・、その業は?」
「はい、シルバ様から授かった御業、外気修練法です。
 アルド神官もシルバ様から授かっているのではないですか?」

 エルの無邪気な問いに、アルドはどう応えたものかと考え込んだ。一口に御業というが御業の数は数多存在し、しかも授けられる御業は神の意志に左右される。大半の御業は神から授からずとも長い修練の末に自力で習得できるものであるが、中には御業として授けられなければ習得できないものも存在する。エルの外気修練法もその一つだろう。外気を取り入れ心身を回復させるなど、アルドでも行うことは不可能だ。
 神は不公平だ。その者の行動か、あるいは性格が琴線に触れるのかわからないが、気に入った者には惜しげもなく力を授けるが、それ以外の者には例え信者であろうと出し惜しみをするのだ。エルは本格的に武神(シルバ)に気に入られたとみていいだろう。
 だが、そのことを馬鹿正直に教えてエルに天狗になってもらっては困る。ここは適当にごまかし、上手く言いくるめるのが得策だろうとアルドは判断した。

「神の御業は多数あり、どの御業を授けられるかは神の意志次第なのだ。
 私は4つほど神の御業を授かっているが、外気修練法は授かっていない」
「なるほど、そうなのですね」

 エルはアルドから教えられた新たな事実に深く頷いた。
 ここで、アルドは自分の授かった御業の中でも高威力で派手なものを披露し、他の御業も優れていることをエルに知らしめることにした。 

「特別に私が授かった御業も見せてやろう。
 括目して見よ!!」
「はいっ、ありがとうございます」

 エルは顔を紅潮させて感謝を述べた。初めて他者が使う御業が見られるのだ。嬉しくて仕方がないと目が爛々と輝き、自ずと笑みが浮かぶ。
 アルドは右半身の状態になると、右拳を腰だめに握り込んだ。そして、前足である右足で強烈な踏み込みを行い地面を陥没させ大音を轟かせると、刹那の間に全身を連動させ強烈な気を纏った右拳を高速回転させながら下から天に突き上げるような下突きを放った。そして、ちょうど人間の顏付近に到達したと思われた瞬間、突き上げた右拳は停止しさせ、纏っていた気を空に解き放った。解放された気は竜巻となり、凶悪なまでの猛威を振るって恐ろしい勢いで天に昇って行った。
 修練場に居合わせた他の修行者達が何事かと手を止め、眺めるような異常事態であった。

 本当に今日は何度驚かされたら済むのだろう。もう何度目かわからないほどの驚愕のできごとに、エルの心臓が破れるほど早鐘を鳴らし、全身から汗が噴き出した。
 アルドの放った業はまさに神の御業とふさわしい、猛々しくも驚異的な威力を秘めた業だ。伝説に名を残す技と比べても遜色のないといっていいほどの実に優れた業であった。エルは全身で喜びを表しながら、アルドに賛辞を送った。

「アルド神官、素晴らしい業を見せて頂きありがとうございます。
 僕ももし次にシルバ様に御業を頂けるなら、今見せたもらった業が欲しいです」
「今見せたのは、轟天衝という御業だ。
 エルだったら、次の神の試練を乗り越えたらシルバ様から頂けるかもしれないな。
 まあ、例え授かることができなくとも長い修練の末に身に付けることも可能だがな」
「えっ、神の御業は修行すれば身に付けることもできるのですか?」
「もちろんだ。
 ただし、御業を身に付けるにはそれこそ血の滲む努力が必要だぞ」

 アルドはエルに教え諭すように鷹揚に言葉を述べた。もちろん、神の御業の中で修行では身に付けられないものがあることは内緒だ。せっかくエルがやる気になっているのだから、水を差す事実を教えるのも忍びないし、あえてエルの授かった御業が特別なものだと教えない方が良いだろうとの判断からだ。
 一方、エルはというとアルドに教えてもらった事実にやる気が漲り、いつかは轟天衝を己がものにしてみせるとめらめらと闘志を燃やした。
 早く修行がしたくて堪えきれない気分だ。
 肉食獣が嗤うような好戦的な笑みを浮かべると、再度アルドに礼を述べ気弾や気刃を習得すべく、ひたすら修行に打ち込み始めるのだった。
  
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