Labyrinth of the abyss ~神々の迷宮~

天地隆

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第4章

第97話

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 「カイン!!」

 後方に黒と白の気を輩出させ、エルは怒りを露に敵将カイン目掛けて飛び蹴りを敢行した。
 だが敵も然るもの。
 空を飛翔する少年の高速の蹴りを、いとも簡単にいなしてみせたのである。
 幾千幾百の血が凝固したであろう、不気味な暗褐色の呪われし聖剣によって……。


「カイン! お前は、お前達は勝つためなら何もしても良いと思っているのか!!」
「……」
「答えろ!!」

 エルの断罪の言葉と共に繰り出される怒涛の連撃を、カインは黙したまま華麗に捌き、時にはいなしていった。
 更には、怒りや焦りで僅かに乱れた少年の隙に、苛烈な反撃を贈呈してのけた。
 狙い澄まされた暗き刃が、少年を襲ったのだ!

「くっ!?」

 回避した、したはすだった。
 カインと闘うのは二度目である。初戦での苦杯を舐めさせられた体験によって、この騎士の恐るべき実力を文字通り体で味わっていた。その経験からカインの反撃は十分予期していたし、余裕を持って回避できるようにと紙一重ではなく、敢えて余裕をもって避けたはずだったのだ。
 だが血装転鬼ブラッディデモンズシフトによって、更なる高みに昇った敵将の恐るべき剣速は、闘いの申し子とさえ称せるであろう、エルの予測と対処を上回ったのである。
 空に鮮血が飛び散った。
 右肩から赤竜の道着ごと斬り裂かれたのである。

 不幸中の幸いであるが、肉を深く断たれたはしたが骨までは届いてはいない。あと少しでも遅れていたら肩甲骨までもっていかれたかもしれないが、早めに回避を心掛けた事で大怪我だけは免れたようだ。
 この程度なら常時発動している神の御業、外気修練法によって闘っている内に回復できるだろう。

 しかし、それと同時に少年は戦慄を禁じ得なかった。
 カインに簡単に斬られてしまったが、エルは生半可な魔鉱製の金属鎧では比肩できない程強固な赤竜の道着に加え、更に多量の気を纏って硬化させていたのだ。それがまるで何も無かったかの様にあっさりと切断してみせたのだから、斬られた側としてはたまったものではない。

 カインは強い!
 いや、更に強くなっている!!

 昨日対峙した時よりも、遥かに強くなっていたのである。
 僅か1日という短い期間であるが、己の余命を1月とする邪法によって更に強くなったのだ。
 確かにカインが行ったのは、人ならば忌避するであろう外道だ。
 しかし、他でもない自分の命という掛け替えのない唯一無二のものでさえ差し出し、その対価によって得た強さである。
 この戦に勝つためなら己の死も厭わないという、いっそ清々しい戦人の心意気を感じたほどだ。
 だがしかし、ガヴィー達に対する仕打ちはどうだ。
 勝つためとはいえ、そこまでする必要が本当にあっただろうか。
 少年らしいといえばそこまでだが、エルは義憤に駆られ沈黙を保つ敵将に大声を発した。

「カイン! お前はそこまでの強さを得たのに、ガヴィー達を化物にする必要があったのか?」
「……」
「答えろ!!」
「……勝つために……」

 重い口をようやく開き返ってきた答えは、たった一言だけ。
 この戦の勝利、ただそれだけであった。
 その言から察するに、己や騎士達を魔に堕とし強化しただけでは勝利を得られないと、判断したのだろう。カインにそれだけの決断を下させる程の脅威、詰まる所英雄達を予定通りに封じ込められなかった事が起因なのであろう。
 その結果が、今もなお煉獄を顕現させた様な消滅と破壊の嵐の中で大立ち回りを演じる英雄達を降す、ただその目的を達するためだけに多くの命は贄に捧げられ、ガヴィーは醜悪な怪物に変じさせられたのだ。
 そう、すべては勝つためだけに……。

「あの怪物は何だ?」
「……偽神デミルゴート……。聖王国の暗部にして、大罪の証だ」
「大罪? 暗部? どういうことだ?」

 会話を続けながらもカインの苛烈な攻撃は止まない。
 黒き雷光を宿した剣を縦横無尽に振るい、激しく責め立ててくる。
 エルにしても黙ってやられてはいない。初撃こそ躱し損なったが、敵将の動きに直ぐ様適応してみせ、軽傷を負う場合はあっても致命傷はもらはない。
 それ所か気弾を雨霰と放って反撃しつつ、隙を見計らっては接近戦を仕掛けている。
 だがそれだけの攻撃を行いながらも、両者は言葉を交わすだけの余裕を持ち合わせていたのだ。
 傍からみれば狂気の沙汰である。

「邪神や魔神、悪しき神々に対抗するために編み出された狂気の産物。人の手によって創り出されし偽りの神。聖王国が犯した最大の禁忌にして、愚かな人間達の罪の形だ。あれ.......の創り方がわかるか?」
「……大量の獣や魔物、そして人間じゃないのか?」

 悍ましい怪物に変じたガヴィーの傍らにあった夥しい死骸の山。
 咽返る様な血と生物の匂いが、ペルネス平原中に充満していたのだ。
 あの凄惨な情景を思い出すだけで吐き気を催しそうだ。

「ふはっ、ふははははははっ!!」

 思わずエルが手を止め距離を置いた程に、あのカインが場違いなくらいに大笑いし出したではないか。

「っ!? 何が可笑しい!!」
「君が何も解っていない事がね! 君のその真っ直ぐな性格に、年に合わぬ並外れた実力。直に闘ってみたからこそ解る……のだ! エル、君は良き師と友、善良な仲間達に恵まれたからこそ、無垢なままでこられたのだ! 人の醜さや愚かさ、そして底知れぬ人の悪意も知らずにな!!」

 初めて聞くカインの荒んだ声。
 その圧に知らず気圧され、もう少しで黒雷纏いし邪剣の餌食になり兼ねた程だ。
 軽く左腕の肉を裂かれ、直に雷を流し込まれる激痛を味わいながらも、無数の気弾を体中から生み出しつつ何とか脱出する。
 痛みに顔を歪めながらカインの一足一刀を注視しつつ、外気修練法で回復を図る。
 そんな少年に対し敢えて追撃を仕掛けずに足を止めると、端正な顔を歪めぞっとする様な笑みを浮かべカインは口を開いた。

「人も獣も魔物も必要なのは間違いない。幾千幾万という魂、そして偽神の肉体を構成するための血と肉が必要だからだ。だが最も重要な事は、デミルゴートを創るためには穢れを背負った無垢なる人間が必要だ、という事だ。穢れは解るとしても、あの愚者のガヴィーがもう1つ条件に当て嵌まると思うかい?」
「あのガヴィーが無垢? 対極にある人物じゃないか! でもそのガヴィーが、実際には偽神の元になっている……。どういう事なんだ?」
「君には想像もできないだろうね。ガヴィーの心を壊し、新たに植え付けたのさ、純真無垢な幼子の心をね! 聖王国の長い歴史は、戦争と侵略の轍でもある。公にはできない拷問術やこの手の禁術も、聖王国の歩みと共に培われてきたのさ」
「……そこまで、愚かなのか」

 淡々と事実を告げる堕ちた騎士の言葉が刃となり、純真な少年の心に突き刺さる。
 きっと数えきれない屍の上に仄暗い技術が編み出され、更なる犠牲者を得る事で研鑽されていったのだろう。聖王国が辿ってきた道の一部は、血で塗装された道でもあったのだ。
 聖王国シュリアネスは人間至上主義を掲げる、純粋な人間のための国家である。
 亜人と呼ばれる人々を、奴隷と公言する場合すらあるのだ。カインの先程の言葉も真実に違いない。
 
 戦争と侵略。

 何百年も繰り返されてきた過ちと、そこから生まれた数えきれぬ罪。
 そして人の愚かさから生まれた禁忌の技術を思うと、エルの胸に暗澹たる思いになった。

「重要なのはここからだ。依代に禁術を施した後、偽神に転じるために必要な物を全て取り込ませるのだ。魂は魔法陣によって依代に送れるが、それ以外は食べさせるのだ」
「食べさせる?」
「そうだ、獣や魔物や悪魔、そして人でさえもね。肝心なのはバランスだ。善も悪も中庸でさえも、均等でなければデミルゴートに変生できない。多量の穢れを持つガヴィーに善の要素を加えるのには、どうしたらいい? 赤子を食らわせたのさ! 聖王国には奴隷の子や、スラムに破棄された子供などいくらでもいるからな!!」
「狂ってる……」

 呆然と呟いた少年の言葉が虚しく響いた。
 そこまで、そこまでして偽神を創らねばならないのか。
 悪行の限りを尽くした行為さえ、平然と手を染めるというのか?
 聖王国とは何だ?
 聖騎士とは何なんだ?
 人の悪意を凝り固めた地獄と鬼の間違いじゃないのか?

「それでも、聖騎士なのか?」
「我は悪鬼外道なり!! もはや聖騎士に非ず! 人に非ず!!」
「そんな事までして勝ちたいのか? いや、勝たなければならないのか?」
「そうだ! すべては勝利のために! そのためには我が命も、部下も、そして他者の命さえも塵芥だ!!」

 昨日までのカインにはどこか迷いがあった。
 人としての良心の呵責を覚える部分もあったのだろう。
 だが、今はそうではない。
 もはや躊躇や躊躇い等、とうに通り越している。
 勝つためならなにもいらない。
 聖騎士としての誓いも誇りも、人の心でさえもだ。

 知らず、エルは唾を飲み込んだ。
 あのどこか好感の持てる人の良さそうだった騎士は、もう何処にもいないのだ。
 今斬り結んでいるのは人ですらない。
 悪逆非道の限りを尽くす冷酷非道の鬼だ。
 良識も退路さえも何もかも全て捨て去り、勝利のみを拘泥する妄執の徒なのだ。
 エルでは到底できるはずもない覚悟を固め、誇りを捨て外道を行う。
 更には命を捨てその身を捨て悪鬼に変じてまで、ただただ勝利のために取り得る選択肢から最善を選び実行に移しているのだ。

 何がそこまでさせる?
 いや、何故そこまでやる必要があるんだ?

 初めて人が怖くなった。
 人間はそこまで愚かなのか?
 ぞっとする思いが身体を駆け巡り、心に嵐が去来し顔が勝手に青ざめる。
 そんな心身共に不安定な少年に対し、悪鬼に堕ちた騎士は猛然と襲い掛かったのだった!!
   
 
 エルとカインの一騎打ちが始まった頃、アリーシャ達も新たな戦いの幕を開けていた。
 現存している最後の騎士団、カインに最後まで付き従った奥の手ともいえる騎士達を相手取っていたのである。
 この場に残った上位冒険者の数は少なく、騎士団との兵力差は4倍近い。
 一人一人の実力は冒険者側が上といっても、血装転鬼(ブラッディデモンズシフト)によって騎士達は強化しているので、実力差もつまっている。
 それに何より、

「っ!? また来たわよ! 避けて!!」
「「「応っ!!」」」

 冒険者達は猛烈な勢いで疾駆する騎士達を避ける様に、バラバラに散開する羽目になった。
 守りを固めた重装備の騎士達を先頭に駆ける勢いのまま高速で通り過ぎると、弧を描いて再度突撃してきたのである。
 騎士団が団塊となり互いの気で強化し合い、1個の巨大な槍と化したのである!!
 その威力は、上位の真竜の突進にもかくやという程の凄まじさであった。
 冒険者達がパーティ毎に気弾や魔法で反撃を試みるも、悉く弾かれる処か逆に突進され、散り散りになって逃げざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。

「ちっ! 奴ら、集団戦に慣れてやがる!」
「うーん、冒険者の僕達とはまた違った強さだよね」
「口動かしてないで反撃しなさい! ほらっ、また来るわよ!!」

 アリーシャが大剣を横薙ぎにして炎の波を放つのに合わせ、カーンが槍の穂先から気の奔流を放ち、ディムが無数の岩石を騎士団に高速で放った。パーティの息の合った見事な連撃である。
 だがそれでも200名近い人数が寄り固まり、強化し合った巨槍の前には虚しく弾かれてしまう。
 結局は騎士達の突撃を回避するしかない状況に追い込まれてしまった。
 といっても、猪の如き1つ覚えの突進である。
 避けるのは問題ないと、他の冒険者達も敵の行動に慣らされ何も危惧せずに避けようとしてしまった。
 それがいけなかった。

「「なっ!?」」

 突然、そうこちらに衝突するであろう直前になって、突如方向転換をかけたのだ。
 それも、動きの遅い冒険者のパーティにいる方向に向かってだ!

「うおっ!?」
「「きゃあーーー!!」」

 逃げ遅れたパーティの末路は悲惨であった。
 槍や槍斧に串刺しにされるのはまだいい方で、跳ね飛ばされ一団に踏み潰された者達は見るも無残な姿になってしまった。
 まるで巨大な竜に轢かれた様に、ただ一度の接触をもって落命してしまったのである。

「ゼノン! マーシャ!!」
 
 ロウルは悔いていた。彼等は自分のパーティメンバーではないが、同じクラン蒼の創生ブルージェネシスの仲間であったからだ。
 昨今のクランは正しい運営をしている所が少数で、悪名が蔓延るのもむべなるかなといった状態であったが、ロウルが率いていたのは数少ない正しきクランであった。
 冒険者同士の相互扶助を目的とした、古き良きクランを復活させ汚名を払拭しようと懸命に精力的に活動していたのである。
 亡くなった2人も上級上がりたてではあったが、大成すれば他者の指針となる素晴らしい冒険者になるであろうと目を掛けてきた、そんな矢先での悲劇であった。
 自分が禄に連携も取れないだろうから、パーティ間で動けと命令せずに彼等だけでも一緒に行動させていれば、と思わずにいられなかったのである……。

「気を付けろ! また来たぞ!!」
「くっ!?」

 だが、悲しんでいる暇などなかった。
 方向転換した騎士達がまた突っ込んできたからだ。
 今度はただ直進してきただけだったので、被害も出ずに避けられたが……。
 だがこちらの散逸的な反抗では大した痛手を受けず、何回かの突撃で急激な方向転換を行った。
 その度に逃げ遅れた冒険者が少しずつ犠牲になっていった。

 実際の所実力が近い、ないしは劣るであろう騎士達の集団行動は、数の理を生かすだけでなく秩序だった軍隊行動と集団強化によって、日頃パーティ単位でしか行動していない冒険者達には非常に強力で対処が難しい妙手として機能してしまっていたのである。
 このまま打つ手が打つ手が無かれば、唯でさえ数の少ない冒険者側は磨り潰されて終わるだけであるが、然うは問屋が卸さない。
 彼等とて幾度も死線を乗り越え、極悪な魔物達から勝利を掴み取ってきた強者なのである。人相手の戦争経験が無いから当初こそ後れをとったが、慣れれば対策も立てられるのだ。そうでなければ、多種多様な攻撃手段を持つ魔物相手に生き残れるものではない。

「皆、土と水と風よ。 ようは巨大な土竜の突進を止めればいいのよ!」
「次の突撃に合わせて、風で勢いを殺し、水と土で絡め取ればいいんだ! 皆、協力してくれ!!」

 アリーシャと知恵者のディムが大声で協力を要請すると、周りからも賛同の声が次々に上がってきた。周りも朧気ながら対案ができつつあったからこそ、応じれたというわけだ。

「来るわよ。 私達冒険者の力を見せてあげなさい!!」

 自らは虎視眈々と力を貯め続けるアリーシャの発破に応じて、冒険者達から次から次と様々な技や魔法が炸裂した!!

烈風ゲイルブロウ!」「竜巻トルネード!」「突風ブラストウインド!」
鉄砲水デバーカル!」「濁流マディストリーム!」「津波タイダルウェーブ!」
泥土ファンゴ!」「液状化リクエフィ!」「泥濘スラック!」

 強風が吹き荒み、押し寄せる水と大量の土砂が騎士団の動きを鈍らせていった。
 文字通り乾坤一擲の冒険者達の反撃が、騎士団の足を止めさせたのである!!
 しかも、それだけでは終わらない。

「!!」

 アリーシャがした神の御業によって、巨大な炎の塊を空から降らせたのだ。
 動けない騎士団に広大な炎が襲い掛かり、騎士達を焼き尽くしていった。
 それだけではない。騎士達の周りにある大量の水が巨大な炎に触れたため、一気に気化し体積が増大した事で爆発したのである!

 水蒸気爆発

 アリーシャの知る所ではなかったが、水が高温の物質によって大量に気化した際に起きる爆発現象であった。
 結果として騎士達は、初期的に炎に焼かれた後水蒸気爆発に巻き込まれるという、凶悪な二段構えの攻撃を受けてしまった。
 いくら血装転鬼を行ったとはいえ、もとは人間である。
 自ずと体力には限界があった。

 これで一網打尽、劣勢を覆しての勝利かと顔を喜色に転じる冒険者もちらほら出始めたが、倒れ伏す騎士達の中から僅かではあったが、まだ立ち上がる気力のある者達がいたのである。
 数にして20もいない程度、騎士達の中でも取り分け全身を重装備に固めた者達であった。
 優れた防具に身を包んでいたとはいえ生き残れたのは、取りも直さずこの騎士達が優れた実力を有しているのは一片の疑いようのない、厳然たる事実である。
 アリーシャは大型の虎の様に牙を見せて微笑んだ。
 最後に闘う相応しい敵が残っていたからだ。
数の上でも逆転し、冒険者の方が多い。しかも、先程の攻撃によって万全というより、満身創痍といった状況である。
 頼みの綱であった組織的行動はもはや不可能であり、再度逆転できる奇策もないだろう。
 だがそれでも、甘く見る積りはない。

「最後まで油断するなよ! 勝って皆で酒を酌み交わそうぜ!!」
「「「応っ!!」」」
 
 ロウルの号令一下、群狼さながらに騎士達に襲い掛かった。
 アリーシャが狙ったのは一番の大物、生き残った騎士達の中で一際大柄でその身に覇気を宿らせ、業物の大盾と美しい槍斧(ハルバート)を片手で振るう歴戦の勇士であった。
 あの男こそが、この騎士団を率いていたのだ。
 アリーシャは獣染みた嗅覚と培った観察眼によって逸早く特定すると、強襲したのである。
 自分達の戦の最後を飾るのに相応しい相手として。

「あの大男は私がやるわ! 周りは任せたわよ!」
「へいへい、仰せのままに」
「任せて! さっさと終わらせてエル君の応援に行きましょ!」
「そうだね! さっさと終わらせようか」

 ディムが無詠唱で無数の岩石を発射させ敵を分断すると、イーニャも大地から錐の様な鋭利な突起物を生やして不意を衝き、カーンの疾風の槍が命を刈り取っていった。
 周りも似た様なもので、少数での戦は元々地力が上の冒険者の独壇場であった。
 刻一刻と騎士達が打倒される中、アリーシャと敵はただ静かに対峙していただけであった。そんな中、おもむろに口を開く。

「名前を聞かせて。これから私に倒される相手の名前を」
「……副騎士団長、ハイゼル・ヴァーノット」
「そう、何か言い残す事はない?」
「無い!」

 こちらの問いを言下に切って捨てると大盾を手放し、槍斧ハルバートを両手で構える姿は敵ながら潔く、アリーシャは満足そうに笑みを一層濃くした。
 ハイゼルは解っていたのだ、アリーシャが一刀で決着を着けるつもりである事を!!

「これから放つ技は、カインに使う予定だった奥の手よ! 悔いが残らないように全力できなさい!!」
「承知!!」

 後はもう言葉は要らない。
 ただ静かに気を高め、互いに隙を窺い合う。
 ほんの一瞬、少しでも先に必殺の刃を届かせるために熾烈な神経戦を行っているのだ。
 戦場に不釣り合いな程の静寂が2人を包む。
 カーンやディム、観戦していた者からすれば僅かな時だったが、実際に対峙した者同士の間では数刻に値する程の時間が過ぎた後、刹那の戦いに決着が着いた。

「おおおっ! 槍突無双ピアレスチャージ!!」

 先に動いたのはハイゼルだった。
 腰だめに構えた槍斧に迸る暗黒の闘気を乗せ、かつ回避も追撃も意図的に除外した、正に魂魄をかけた体毎の捨て身の突きであった。
 颶風と化したハイゼルは一瞬で距離を詰め、未だ攻める気配の無いアリーシャに全身全霊を込めた槍を突き出した。
 空気を引き裂いて迫る槍がアリーシャの美しい顔を貫いたと思われた刹那、残像を残す程の高速で真横に移動すると、溜めに溜めた力を開放しアリーシャは吠え猛った。

疾風豪炎ゲイルフレア!!」

 はたして観戦していた冒険者の中で、彼女の動きを理解できた者はどれ程いただろうか。
 気付いた時には、ハイゼルの後方で大剣を振り抜いた態勢になっていたのである。

「……見事……」

 数拍後、重鎧ごと左肩から斜めに胴体を斬り裂かれたハイゼルは傷口から炎が燃え盛り、やがて火に飲まれ消えていった。
 残心した状態から大きく息を吐き、構えを解くとアリーシャは高らかに拳を掲げ宣言した。

「この勝負、あたし達の勝ちよ!!」
「「「おおおっ!!」」」

 平原中に冒険者達の勝鬨の声が幾重にも木霊したのだった。








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