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第2章 イマドキの呼び出し
24話~boys&Girl's~
しおりを挟む「おっはよー蓮斗!…ってどうしたのその顔!」
暖かさは日毎に増し、見上げた空をピンクに染めていた桜も今では道路をピンクに染め始めている。
いつも遅刻ギリギリの雹太は、今日は少し余裕を持って登校していた。
既に席に座っていた蓮斗に声を掛ける。
振り向きすぐに目に入った蓮斗の顔に雹太は驚愕する。
口端やこめかみは青く内出血が伺え、頬には大きな絆創膏が1枚。
よく見るとシャツの袖の端から包帯が覗いていた。
1度見ただけでは不良に見える彼が怪我をしているとそのガラの悪さが増して見える。
「…負けた。姉貴に。剣道で。」
伏せ目がちにぽそぽそと喋る。
雹太は知っていた。
蓮斗が剣道に本気で取り組んでいることを。
小さな頃から、蓮斗にとって姉の存在は絶対的だった。
単純な腕力でも適わず、勉強でも1歩及ばなかった。
そんな茜は小学生の頃から柔道をやっている。
茜は蓮斗も柔道をやるものと考えていた。
しかし蓮斗はそれを拒絶し、剣道を始める。
そこで蓮斗は初めて、姉と比較されず評価された。
迷い無い竹刀の振り、恵まれた体格、高い忍耐力。
すべてが評価された。
蓮斗は剣道にのめり込む。
剣道でだけは、姉に勝った気がしていた。
幼い頃からの心の拠り所。
しかしそれが、たった1日で崩されてしまった。
そのショックはとてつもなく大きい。
しかし、それ以上に。
「悔しいんだ。諦める気はねえよ。召喚式までに、絶対一本取ってやる。」
ゆっくりと伏せていた視線を雹太に向ける。
いつも以上に鋭い眼光は輝きに満ちており、真っ直ぐと前を見据えていた。
雹太はその表情に、ゆっくりと口端を持ち上げ頷いて返す。
「蓮斗なら大丈夫。安心して無理しちゃいなよ、何かあったら絶対駆け付けるから。」
友人から告げられた言葉を噛み締めるように体に力を入れる。
体中打撲だらけで、たったそれだけでも体の至る所から痛みが発生した。
しかし蓮斗に苦痛の表情は見られない。
「…ありがとう、な。」
声量は小さいがきちんと雹太の耳には届く。
雹太は嬉しそうににんまりと笑い、席に着いた。
※
「アンタも酷い事するわね。そんなの拷問じゃない。」
「いやいや、茜さんの鬼っぷりには負けますけど。」
食堂。
白で統一されたテーブルや椅子が並べられ大きな窓が備えられている此処は他の教室よりも明るく感じられる。
厨房との間に設置されたカウンター前には多数の学生が食券を片手に並んでいる。
また、中庭にも繋がっており窓の外を見やれば中庭の木陰で弁当を食べる生徒の姿も見られる。
そんな食堂の端の席、四人がけのそこには2人は座っていた。
赤茶の髪を高い位置でふたつに結わえた彼女、蘇芳茜はカレーをスプーンで掬いながら左手の指に髪をくるくると巻き付ける。
茜の前に座る月岡凜音は彼女を鬼と称し、ラーメンを啜った。
「茜さんは弟さんに厳し過ぎるんですよねえ、可愛くって仕方ないんだろうけど。」
「弟を可愛がって何が悪いのよ。…凜音こそ、雹太のこと可愛がってるじゃない。ああいうのが好みなの?」
凜音の言葉にむっとした様子であった茜であったが話題を雹太と凜音の人外コンビへと移せば表情が明るく変化する。
ぱちりと開かれた大きな赤茶の目はしかと凜音を見据えている。
口元は若干笑みが浮かんでおり、所謂『ガールズトーク』を求めているのが分かる。
「…冗談ですよね?そういう対象じゃないですって。」
「ほんと?つまんないのー」
「…お待たせしました。」
そこにまた1人、女子生徒が加わる。
彼女は手に持っていたナポリタンをテーブルに置き、凜音の横に腰掛ける。
透き通るような長い白髪をポニーテールにした彼女は凜音と同じく2学年を表す赤いリボンをしている。
「ヒナ!お疲れ!」
「ん。」
途端に凜音の表情が笑顔になる。
それは不良を地に這いつくばらせた時の悦に浸ったそれでも、不良グループの頭である大森に向けた悪鬼のようなそれでもない。
それはそれは、綻んだ柔らかな笑顔。
それに対しヒナと呼ばれた彼女、成神雛は表情を変えることなくそれとだけ返した。
その返答に文句を言うどころか不満そうな様子もなく上機嫌な凜音に茜は溜息を吐く。
この調子では自分の求める恋愛話など、暫くは出来そうに無い、と。
茜は改めて雛を見やった。
自分たちよりやや背の高い彼女。
前髪はまっすぐに切り揃えられ水色の目は少し細く冷たい印象を与える。
隣に座る凜音とほぼ変わらない平坦な胸であるがすらりと手足が長くモデル体型と言える。
首に引っ掛けた黒地に黄色いラインの入ったヘッドホンは確か凜音がプレゼントしたものだったか。
そんなことを茜が思い出していると視線の先にいる雛が眉を寄せ口を開いた。
「……なにか?」
「あ、いや。そういえば雛、1年生の前で召喚をして見せたんだって?」
突如振られた話題の内容に雛の眉間の皺が自然と増える。
「…天宮先生が、やれって。」
不満げな声色でそう言葉を発する。
その声と言葉に感化されたのか凜音の表情も不満げに曇り始めた。
「…天宮め……ヒナに嫌がることさせやがって…確かにヒナとヒナのユニコーンはこの世のものとは思えない程に綺麗だけど……」
「きっ、綺麗って…何言ってるの、馬鹿じゃないの…!?」
何やら悪態を吐きつつ雛をベタ褒めし始めた凜音。
それに反応し血色の悪い頬をかあっと赤く染める雛。
まるでカップルじゃないか、誰得だよ。
そんな言葉をどうにか飲み込んだ茜であったがやはり溜息だけは抑えられず、深く深く息を吐いたのだった。
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