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第一章

やらせて!

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 行きたいやりたい皆に会いたぁぁあい!

 一ヶ月以上鍛錬が出来ないなんて死んじゃうよ!やらせてよ!もう元気なのに!どうして駄目なの?無理しないって約束するから!本当の本当に!


「・・・お願い!」

「駄目です!」

「お願い!」

「駄目ったらダメです!」

「・・・ベン・・・お願い・・・」

「ぅ・・・だ、駄目です!うぅ・・・あ゙ぁぁ!意思が揺らぐ!揺らいでしまう!やっぱり俺には無理です!!!」


 ベンは逃げた。僕は鍛錬をしたいと言うのに。


 ──────カシャン


 いくら何でも酷いと思う。流石にコレは、やり過ぎだと思う。僕が悪いのかも知れないけど、流石に・・・。



 時は、二日前に遡るのだ。



 いっぱい寝て少しだけ起きて寝るを繰り返していた。身体が回復したからだろうか、丁度五時手前に起きてしまったみたい。やっぱり本調子では無いな。わぷっと躓いて四つん這いになってしまう。

 ・・・皆に会いたい

 こんな状況なのにポロっと口からそんな言葉が出てしまい赤面する。

 めっちゃ恥ずかしい。こんな事言ってたら僕が皆の事ずっと考えてて大好きみたいじゃん。・・・・・・本当の事だけど、皆の前で口を滑らせそうだから怖いしヤダ!

 思う様に動け無かったため、前にカレア達から貰った特性ポーションを飲んで素早く準備に取り掛かった。


 風呂に入って団長服に身を包み、身だしなみを整え、剣と以前のレイピアを腰に持つ。あのレイピアは何処に行ったのかは知らない。そもそも聞いて良いのか分からない。事件についても、何も聞かれないし言われない。

 最初は心配したと皆から泣かれたけど、今はベンだけだ。小さな頃から泣き虫だったからな。一緒に泣いて居たあの頃が懐かしい。

 だけど、夢を見る。あの時の夢。あのまま死ぬ夢も、ルドウィン様が死ぬ夢も、体験したのと全く同じ様な夢も。

 妙にリアルな感覚で、だんだん信じられなくなって来る。あの男が騎士団の皆に見えてくる。王城には優しい人しか居ないからそんな訳ないのに、信じられなくなって来た。襲撃事件の前と、鏡に映る僕は同じだろうか。皆に会っても普通で居れるだろうか。

 考えても拉致があかない。諦めよう、今から目に入るモノが真実なのだから。もう五時になってしまった。

  久しぶりだけど大丈夫、僕だから瞬間移動の場所を間違えたりしない。落ち着いてやれば大丈夫、何も怖くない。

 自分自身に言い聞かせれば、何事もなく成功した。




「おはようベン、俺も久しぶりに」
「うわぁああ・・・!幻聴が聞こえた!」

「・・・ベイン君、幻聴では無いようだ。」

「ははは、何言ってるんで───ぎゃあああ!ラ、ライト様?!何してんですか!部屋で安静にして下さいと言いましたよね??何でココに居るんですかぁあ!」


 僕はココに居るから幻聴じゃないよ?そんな言葉はベンの叫び声に消されてしまった。

 叫び声は身体に悪いので耳を塞ぐ。黙れと言うのに全然黙らなくて、しまいには涙目になったベンだった。

 何か僕が悪いみたいじゃん。元気だから大丈夫なのに、そんな風にされると良心が凄く痛む。僕が全て悪い訳ではないのだけど・・・。


「ライト様が悪いんですよぉ・・・」

「っ・・・良いから黙れ。」


 心を読まれた様で気まずい。取り敢えずベンには黙ってて欲しい。僕は皆に挨拶をしたいから。だって父上とかが来たりしたら出来ないもの。


「また倒れたりしたらどうするんですか?俺達、本当に心配して・・・」

「ハッ・・・馬鹿馬鹿しい、俺が居ても居なくて変わらないだろう?いや、・・・俺が居ない方が嬉しいだろうな。」

「っライト様!なんて事言うんですか!」


 コレは本当・・の事だ。

 悲しいとは思わない。僕が悪いから。

 責めてくれて良いのに、どうして誰も何も言わないのかな?僕が悪いんだよ?どうして言わないの?

 どうして言ってくれないの?

 そう言えば、どうしてこんな事言ったんだろう。そうだと思って居たらココに来るべきではないのに。

 分かんないよ。分からなくなっちゃったよ。


 ──────あ、ヤバい

「な、何がヤバいんですか!?」

「チッ・・・今日の朝だけベインが挨拶をして良いと言ったから、今俺はココに居るんだ。調子がとても良いから・・・」

 ──────トン

「レ、ライト?何故ここに居る?」

「おはようございます、父上。今日の朝だけベインが挨拶をして良いと言ったので少しだけ。」


 父上は僕の肩に何とも言えぬ力で手を置いた。そこからゾクリと寒気走る。・・・この場は逃げ切るしかない。

 父上も大分動揺している様だ。素で僕の名前を呼びそうになって居た。困るのはどちらかと言えば僕だけど。

 大丈夫な、はず・・・!


「ふーん・・・そうなのか?ベイン君?」

「え、あ、え、えっと、あの、う、あ、えぇ・・・」


 ベンは嘘を付けない・・・肝心な時だけ。例えば今とか今とか今とか。僕、終わったかもしれない。もし嘘がバレたら逃げるしかないよね。

 コレはベインのせいだよ。


「ベイン君?」

「え、あっの、う、うぇぇ・・・」


 突き当たりを左に曲がってクルッと一周してから上に上がって、それからそれから・・・。真剣に逃げ道をもんもんと考えて居た。

 凄く泣きそうなベンをずっと見詰めながら。

 ベンは僕と父上を交互に見て、あたふたして泣きそうになっている。因みに、副団長は笑みを浮かべてサラサラ消えていきそうで頼りにならない。

 ───僕とベンの仲だろう?そんな気持ちを乗せて見詰め続ける。

 父上はベンの耳元で何かを言った。

 ベンは僕を見て泣き出した。


「う、うぇぇぇぇぇぇ・・・俺っ、言ってないです・・・!グズっ・・・俺、いやですぅ・・・しくしく・・・」

「ライト・・・どういう事だろうな?」

「チッ・・・ベイン可哀想に・・・父上、流石にパワハラですよ?」


 ベン、可哀想に。父上に耳打ちされて怖かっただろうな・・・。今度ケーキ買ってやるから許してね。あとね、ベンだから、きっと誰かが慰めてくれるよ!

 父上と僕は同じ事を考えている!じゃあねベン!

 サラバ、尊い犠牲!


 僕は一目散に逃げた。騎士に見つかったら取り敢えず眠らせて逃げて、何故か張られている罠を避け、ルドウィン様に会わない様にルートを考え、大神官様に会ったら何もせず反対方向に逃げた。


 なのに、目の前には父上が立ちはだかって居る。角に追い詰められて逃げれないので、ビリビリと重い空気が流れ続けるだけである。

 不躾だが瞬間移動で逃げるしかないか?

 唱えようとした瞬間──────カシャンと音がした。

 音がした後ろの方を見ると、カレアが居て。腕にはブレスレットが嵌められて居た。カレアはニタァっと笑って・・・。


「お兄ちゃんっ!つ~かま~えた!えへ!」

「んなっっ!カ~レ~ア~!!!」

「カレア、良くやった!」


 捕まえただなんて嬉しそうに言って、可愛く笑って!何でこんなにも可愛いんだ・・・!じゃなくて、このブレスレット魔力封じのヤツじゃん!

 父上がカレアにデレデレしている間に一か八かで逃げるしかない。そう決めて走り出した、のに。


 母上の魔法に気が付かず躓いた。このままじゃ・・・顔から転ぶ。恥ずかしいから絶対やだ!誰か助けてぇ・・・!


「ンふっ!」

「ふふふっ、捕まえた♡レリィちゃん、脱走はダメよ?」

「母上・・・!な、な、な、」


 地面に着く筈の身体は、母上にガッツリホールドされており、鬼ごっこは終了を迎えたのだった──────




 そして現在、ブレスレットだけじゃ逃げ出すので、魔力封じの手錠と位置情報付き足枷を付けられている。確かに怒られたのに逃げ出した僕が悪いけど、怒られてもその後に夜の散歩に行った僕が悪いけど、ちょっとだけ剣を振った僕が悪いけど、流石に酷い。

 今は見張りが居ないにも関わらず何も出来ない。

 父上は僕にお願いされたら抵抗出来ないらしく、最初の見張りはベンだった。だが、ベンも罪悪感があるのか逃げた。

 続いて母上とカレアが見張りになった。研究費用あげるから、と言えば外してくれたので強制的に見張りから降ろされた。

 一周まわってベンになったのに、また逃げた。

 誰が来るのか予想していたのに当ては外れた。ベンが連れて来たのは、まさかのイリナードだった。

 ベンは明らかに泣いた後なので、イリナードは頼み込まれたのだろう。僕の事を普通の人に任せて良いのか、大変だろうと言いたい所だけど、気まずいのは絶対一緒。

 イリナード、応援してるから頑張って!

  僕、隙あらば逃げるから──────!


 
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