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第一章
言の葉 D/S
しおりを挟む『レリィが知らないだけで、忘れてしまっただけで、身体は心に追いついて居ないんだ。』
なんて言葉は言えなくて。
レリィに会うのが辛かった。私は怖かったのだ。しかし少しでもレリィのためになる様にと言って、イベとカレアと共に研究に没頭した。
体力回復、魔力回復・・・ありとあらゆる薬の強化版を作り出し少しだけ、少しだけ逃げた。レリィに会うのが本当に怖くて、エゴを押し付け向き合おうとしなかった。
もう知らなくても良いのだと、過ぎた事なのだと自分の中で勝手に決め付けて聞かなかったのだ。
そして疑わず、レリィの『大丈夫』と言う言葉を信じてしまった。
こんなにも限界なのに──────
「俺は一体誰なんだ!誰なんだ!」
身体が固まる。私が動かなければ誰が動くのだ、と自身に鼓舞を打ち、名を呼んで気絶させた。
レリィ・・・本来ならば気配で気が付く筈なのに、全く反応出来て居なかった。それくらい限界だったのだ。そこまで気が行かなかった。
自分と同じだから分かるのに、考える事が出来なかった。こうなったレリィは私では治せない。他人に頼るしか無いのだ。どれだけ情けないと思っても、何も出来ない事が現実なのだ。
現実を見ろ。
・・・きっと平気さ、私の自慢の息子だからな。
大丈夫・・・
大丈・・・夫。
『脳に関して治癒魔法を使うと返って悪化する恐れがあり、二度と起きなくなる可能性があります。』
『命を無駄にしたく無いのならば・・・このまま過ごすしかありません。 例え記憶が無くとも生きているだけで奇跡なのです。女神様の幸福があるのです。』
諦めろと・・・言うことか?
『記憶が無くとも・・・団長様は団長様なのです。』
新しく、記憶を作れば良いのか。あの子なら出来るか。だって何でも出来る可愛い我が息子だから。
イベとカレアに説明をして、新しい楽しい思い出を作ろうとなった。私達は三人で泣いた。そして、泣くのは終わりにしようと誓った。
次泣く時は嬉し涙にしようと。レリィを笑顔で埋めつくそうと。
自分がレリィにとって、他人になってしまうのが怖い。初対面の人を見る目で見られたく無い。自分がどう見るか、どう思うかを重ねてしまう。そんな不必要なモノには蓋をした。
眠ったままのレリィを見て、このまま居なくなってしまうのでは無いかと不安になるが、スースーと規則正しい呼吸をしているのに安堵する。
少し前、レリィは魘されていた。綺麗な眉を歪め、口からは苦しそうな声が漏れていたのだ。安心して欲しいと思いながら手を握れば、段々と表情が良くなって行ったので額にキスを贈った。
私に出来る事は少ないけれど、家族としての愛情は贈れるのだ。だから、一つずつでも多くの事を・・・。
記憶の無いレリィも可愛くて、でも少し違和感があって。魔法と剣に執着が無かった。本来ならば直ぐに食いつく筈のベイン君を呼んだ魔法にもカッコイイと言っただけだった。
小さな時の様に目をキラキラさせて食いつくと思ったのに。こうなってしまったのは魔法と剣・・・襲撃事件のせいで記憶が無くなったと言える。
レリィは何処から何処まで覚えて居るのか、それを聞くのが余計に怖くなった。バレて居ないだろうか。
心配になるけれど、レリィの目は純粋で無垢な子供の様だ。知らなければ幸せなのではないか。そうして、また自分で決め付けた。
家族四人で過ごす日々は楽しく、長く感じた。最近はあまりこうして関わる事が少なかったと後悔した。同時に、改めてレリィが生きている事に感謝した。・・・勿論、襲撃事件について余計に聞けなくなってしまった。
ある時、仕事の話になった。
レリィの願いは全て叶えてあげたかったし、私達は願いを聞く、と教えたかった。一人で過ごす練習にもなるだろうと、三時間だけ仕事をする事にした。レリィは大神官様にお願いして様子を見守って頂きつつ、一人で過ごせる様にした。
大神官と相談し、決めた事だった。
三日目も大神官様から私達が居なかった時の様子を聞いた。いつもと違った事は、キリが良かったからイベとカレアを置いて私だけ早く帰った事だった。
びっくりさせようと扉を開けると、ボロボロと泣くレリィが居て、本当に、久しぶりに見た涙だった。私達は泣いたが、レリィは一度も泣いて居なかった。
では何故、今泣いて居るのだ・・・?
名前を呼ぶとこちらをしっかりと見てくれるが、目元が赤く腫れてしまって居る。痛々しくてすぐ様魔法を掛けた。
「レリィ・・・レリィ!どうしたんだ!何でも言ってくれ・・・!」
何でも良いから少しだけでも力になりたかった。そう、心からずっと思って居た言葉を発した。
何でも言ってくれ、と言ってしまったら、レリィが私達の事が『嫌い』だと言っても良いと言う事になるから嫌だった。『嫌い』なんて言われたら私はもう立ち直れないから。
怖かったのだ。
でも今は自分なんてどうでもいいのだ。レリィを、レリィの事を知りたい。教え欲しい、話して欲しい。
レリィは、はくはくと口を開いて言ってくれた。
「お父様・・・っ、僕、本当は、ずっと怖かった・・・!」
抱き締める事しか出来なかった。もっと早くこうしてあげれば、何でも言ってくれと言えばと後悔が降り注いだ。
しばらくして、疲れたレリィは眠ってしまったのでより一層強く抱き締めて、ベッドへと運んだ。
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