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しおりを挟む――水の中を歩いている。
そんなふうに感じるのは脚の間が濡れているからで、なんで濡れているかといえば、後孔から透明な液体が漏れて足をつたって流れてくるからだった。
正真正銘、オメガになったのだ。
正確には「オメガになった」のではなくて、本当はオメガだったものがようやく本来の自分を取り戻しただけ、なのだろう。
猥談で聞いたことはあっても、自分の股が濡れているのはなんだか現実味がなかった。頭を朦朧とさせる発情の熱と羞恥心の間で、自我がゆらゆら揺れている。
家に着くと二階にあがり、エイダンのベッドにおろされた。服が擦れた刺激で、びくんと体が震えた。
「セオ、つらいのか?」
「下半身が……」
自分で身をひねり、下穿きを脱げば、前も後ろもぬちゃぬちゃと水音がした。しばらく弄っていなかった雄もぷるりと頭をもたげ、開放感に震えていた。
エイダンは部屋の中をうろうろしている。タオルを出したり、よく分からない小瓶を取り出したりして、忙しない。
「……先にシャワーを浴びてくる」
「まって」
ぎゅうと裾を掴んで引き留めた。エイダンがどこかへ行くのはいやだ。
「……ほしいんだ、エイダン……俺の中、埋めて……いっぱいにして……」
潤んだ目であられもなく訴えかけると、エイダンはぐううと唸る。歯を食いしばりながら俺を押し倒した。寝台に体が弾む。
「君は……アルファを知らない」
今にも突き動かされそうな衝動をこらえるように、声を低めた。
「一回や二回じゃ足りない。君の腹がいっぱいになっても止まってやれる自信はない。それでも君は……僕に許すのか?」
「いいよ。エイダンだから、いい……めちゃくちゃにしたっていい……こんなに濡れてるのは、あんたが欲しいからだ」
頑是ない子供のように。羞恥心もプライドもかなぐり捨てて告げた。
エイダンが息を呑んだ。次の瞬間、俺の小さくて薄い唇を覆うように、分厚い唇が重なった。口の中へ侵入した舌に応えてエイダンの首に腕を巻きつかせた。
熟れた尻の割れ目に、指が入り込む。ぐちゅっと音を立て、エイダンの指を奥へと呑み込んでいく。
「ン……っ、ぁ……」
「優しくする」
鳶色の瞳に情欲がにじむ。エイダンがシャツを引きちぎるように脱ぎ捨てた。
そそり立つ雄を見るだけで、腹の奥がむずがゆくなる。蕩けたように体から力が抜けた。
他人の男根なんて興味なかった。
雄を求めるのはオメガだから? ふわふわとした頭でそう考えて、いや違うと思った。
エイダンだから反応するんだ。
寝台に膝をつき、上半身はうつ伏せになった。腰をぐいと引かれ、丸い尻を宙に浮かせた格好になる。
「ん、う、……っ」
尻たぶを押し開かれ、ゆっくりと太いものが挿入ってきた。
「ぁ、やぁ……ん……」
質量と熱に腰が逃げようとするが、逞しい脚と腕に阻まれて叶わない。体格差があるせいだ。悔しいけど嬉しい。エイダンの身体に包み込まれるのは安堵感があった。
突き入れられた雄が動きだす。ぬちぬちと淫猥な水音が部屋に響いて、耳からも性的な熱に浮かされた。
内側を擦られると、ひどく甘い刺激を感じる一点がある。
「あぁんっ!」
たまらず喘ぐと、腰を掴む手が力を強めた。触れられているところすべてがびりびりと痺れて、全身が性感帯になった気がした。
硬く熱い屹立が俺の奥を穿ってゆく。もはや膝で立っていられず、くたりと横たわった。
シーツに尖った乳首が擦れて、そこでもまた快感を拾ってしまう。
「ぅンっ…………ど、どこが、やさしく……だっ、ぁっ」
自分の嬌声に頭が痺れる。奥底に眠るものを暴かれて、すべて白日の下に晒される気がした。
「あっ、っ……ぁんっ!」
自分の白い脚が持ち上げられて揺れている。エイダンが内側をかき混ぜるように腰を動かした。すっかり蕩けてしまって、エイダンが抜き差しする場所の感覚はとっくに失せた。
なのに止めてほしくない。俺を支えていたどこかのねじがぶっ飛んで、狂ったように雄を求める。
これが発情。まさに発情としか言えないような、特別な時間だ。
「ぁっ、……ぁっ!」
ふいに指で乳首をつままれて、腰をうねらせた。その反応に気を良くしたのか、ぐっと繋がりを深めながらエイダンが胸を揉みしだく。
「他のことを考えていたのか? つれないな」
そういってまた、胸の尖ったところを指でもてあそぶ。その手が臍のあたりまで降りていった。
「僕がここに入ってるんだ。もっと感じてくれ……」
「あ、だ、だめっ……さわっちゃ…………あっ、あ――――っ!」
大きな快楽の波がやってくる。
胸を反らせると、体が波打つようにびくびく跳ねた。足の裏にも甘やかな刺激が走る。エイダンと比べればいささか小ぶりな俺の雄も、ぷしゅぷしゅと精を吹き出した。
連動するように、俺を抱くエイダンの腕の力がぎゅっと強くなる。
「今……持っていかれそうに、なった……だろ?」
蕩けたように笑いながら訊く。エイダンが眉をひそめて呻いた。
「これは……セオの……?」
「きょうめい……してるんだよ……」
俺の胎とエイダンの雄が繋がって、共鳴している。そうとしか思えなかった。
物言わずとも、俺が「快い」と鳴けば、エイダンにもその悦びが伝わる。番には包み隠すことなどできはしない。
「こんなに感じてくれるなんて……大好きだよ、シャヒム」
「あっ……なまえっ、呼ぶのぁっ、あぁんっ!」
甘い痺れが尻から腹に駆け抜ける。脚を肩に担ぎ上げられ、抽送が早まった。
繋がりながらのシャヒム呼びは反則だ。後ろがエイダンの雄を求めて締めつける。
さらに高く鳴いた俺はすでに何度か達していて、前からはもう透明なものしか出ない。
「もっとあげたい……シャヒム、君に、僕のぜんぶを」
「あぁっ、ぁんっ……!」
内腿をつよく掴まれ、エイダンの背が大きく震えた。雄が爆ぜる。腹の中へ熱くたぎったものが押し寄せた。
その器官はアルファ特有の構造をしていて、精を注ぎ終えるまで後孔から抜けない仕組みになっている。
ようやく迸り終え、俺の中からエイダンが出ていくかと思ったが、内側を埋めているものはまだ硬く、太さを保ったままだ。
引き抜かれるときも快感を拾ってしまいそう……と思い、シーツの上でぐったりしていたら、
「あ、れ……? でっかくなっ……た?」
エイダンの質量が増した。嘘だろ、と目で問えば、俺にのしかかる男は妖しく微笑んだ。
「君がそんな色っぽい顔するから」
「やっ……だめっ、そんなっ……ぁぁっ!」
腰を進め、さらに深いところまで挿入ってくる。寝台が大きく軋んだ。
散々泣いて快がったのに、まだまだ快楽が押し寄せてくる。エイダンは嬉しそうに俺の涙をすすった。
「セオ……可愛いシャヒム……」
「や……ぁん……だめ……」
繋がりながら囁かれると、たまらない気持ちになって腰を振ってしまう。雄を呑み込む俺の尻肉を、大きな手のひらが揉みしだいた。さっきもイったばかりなのに、また腹が疼いて、後孔が濡れる。
「あ、あん……」
「お願いだ、僕の番になってくれ」
「つが、い……」
「生涯離れない約束を、うなじにつける」
「おれに……?」
「そうだよ」
「うん、……なる。つがいに、なる。俺も、エイダンだけ…………」
首に腕を、腰に脚を巻きつけて抱き返した。
「噛んでっ……俺のうなじ、エイダンに噛んでほしいっ……!」
愛してる。心からそう思った。
「僕もだよ」
口にしていないのに、エイダンが応えた。
面映くて小っ恥ずかしくて、俺には一生言えないと思っていた愛の言葉。共鳴している今なら、そんな気持ちごと、言葉よりも饒舌に伝わってしまう。
熱い息が首にかかり、獣のように何度かうなじを舐められた。ここに牙を立てるよ、と、たしかめるように。
やがてぷつりと皮膚が突き破られ、灼かれるような深い快感が突き刺さる。
本当の俺は、人一倍、欲ばりだ。
ひとりはいやだ。愛されたいし愛したい。
家もごはんも、あったかい布団も手放したくない。大きなソファでだらだらしたい。家族だってほしいし、一分でも一秒でも長く、愛する人と一緒にいたい――。
互いが互いの半身となった証の噛み痕を、指でなぞった。かすかな凹凸を指先で感じる。エイダンとの約束のしるしだ。
初めての発情は激しい嵐のようで、暑くて苦しくて不可解で……それでいて、身も心も蕩ける七日間だった。
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