愛されポメガの小さな革命

温風

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異国の親友

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 友人が某X国の首相に就任した。
 彼、ポール・ベケットとは、中学生の頃、ゲームを通じて知り合ったオタク仲間だ。
 世界でも珍しい【ポメガ性】に悩んでいた俺は、ポールの優しさに励まされて生きてきた。

【ポメガ】というのは、一種の特異体質である。
 疲れやストレスが一定量溜まると、ヒトでありながらポメラニアンと化すのだ。

 人が犬に変容するという不可思議な現象は、まだ研究の途上であり、変容の仕組みも解明されていない。そのため、特効薬も存在しないのだ。
 遺伝上の疾患であるとか、進化の途上で人類が生き残るために犬の遺伝子を取り入れた証拠だとか、怪しげでトンデモな説が数多ある。

 ただし解決策は判明している。
 ポメ化してしまったら、まわりの人にチヤホヤしてもらうといいらしい。

 いい子いい子と撫でられ、あったかいお布団で寝かせてもらって心が安心感に満たされた時、人の姿に戻れる、というのだ。

 俺がポメガを発症したのはけっこう遅くて、大学三年の時に、就活で圧迫面接を受けた後のこと。ポメラニアン化したのは幸いにも、自宅の部屋だった。
 うちの両親はたいした困惑も見せずに対応し、あっという間に俺は人間の姿に戻ることができた。なぜなら父方の叔父も同じ体質だったらしく、成人してからはポメ化症状も落ち着いたらしい。

「でも、咲也は二十歳過ぎてからポメガが顕れたのよ。困ったわね、専門医に見せようにも、日本はこの分野じゃ遅れているもの」
「そうなんだ……じゃあ、海外の友達に相談してみようかな」

 ポールに話すと、彼は心の底から心配してくれた。
 ケアカウンセラーを紹介してくれたり、自国ではポメガの人にメンタルコーチがついて、ストレスを溜め込まない訓練をするのだと教えてくれたのだ。

 それから十年近く経つが、ポールは変わらず、俺がポメ化すると手厚いサポートを与えてくれる。
 なんと彼は自費でポメガ専用シークレットサービス(以下、SS)を起業し、それをきっかけに一気に国政の階段を駆け上った。
 そして去年、とうとう若くして国のトップに就任したのだ。

 ポールは甘いマスクでスタイルもいいし、仕事に励む姿はしょっちゅうテレビや新聞を飾っている。日本でもイケメン政治家と騒がれ、多数のファンがいるほどだ。
 X国は小さな国だけど、マイノリティへの理解と多様性の保護、寛容な社会づくりを打ち出し、世界でも有数のモデルケース国となった。

「サクヤ、最近の体調はどうだい?」
「ハイ、ポール。俺は元気だよ。それより『カノープスの騒乱』リメイクされるらしいな!」
「聞いたよ。今の技術で月蝕領の闘いがどんなふうに再現されるのか、不安と期待が半々さ」
「鬼才ウィンチェスター監督がどう解釈するかだよな。そもそもフィンレイ大佐の考える正義ってのが──」

 知り合った当時から、俺たちが話している内容はあまり変わらない。今はポールの時間がないから一緒にゲームをプレイする機会はぐんと減ったけど、十代だった頃に魂に焼きつくほどプレイした作品がリメイクされたり再始動を匂わせたりして、話題には事欠かなかった。

「夜更かししないで早く寝るんだよ」
「うんおやすみ。ポールはこれから仕事?」
「今は議会運営が課題だ。じゃ、困ったらいつでもSOSをくれよ」
「いつもありがとう。ポールも体調気をつけてね」
「グッナイ、サクヤ。愛してるよ」

 ポールのいう「SOS」とは、スマホのポメ用信号を肉球で操作することだ。俺がこの信号を発すると、X国首相・ポールの権限により、即座に発信者の元にSSが派遣される。
 世界を股にかけたとんでもない仕組みは、IT大国であるX国の技術を結集して作られている。摩訶不思議な体質を持つすべての人類に手厚いケアを届けるべく、奮闘してくれるのだ。

「持つべきは、良き友だよなぁ」

 俺はしみじみとつぶやいた。

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