賞命首

じゃったん

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第1章 ゲーム開始

第6話 誠 賞命首①

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  スポーツドリンクを二本、財布、小学生用の小さい金属バットを入れたリュックサックが、誠の背中で揺れる。誠は、クロダの集合住宅の中を足早に進んでいた。黒のフード付きパーカーを着ていたが、季節は秋のため、さほど不自然ではない。ただ、少し不審がられる要素は多めだろうと、誠自身も自覚しながら心中冷や冷やしていた。

「……そうだ、ナビ。お前に聞きたいことがあったんだ」

『はい?  何でしょう?』

「さっきの攻撃は一体何だったんだ?  危うく俺の母さんはあの攻撃に……」

  そこまで言って、誠はナビの返事を待った。

『あの“シールド”のことでしょうか?……それが、実際私にもよく分からないんです。リビングの窓が割られた時にガラスが本体に刺さり、そこからシステムエラーが起きまして……コンピュータの暴走が止まった時にはもう、誠のお母様は倒れていました』

「……つまり?」

『誠様は、あの事故の最中に、このライフウォッチのハッキングに成功したのです。そして、私の中の未知なる機能が目醒めました。それが、先程のあの力です』

  誠は改めて、あの出来事は幸運だったんだな、と感じた。死ぬ間際だったのに、ライフウォッチが強くなり、それに守られて自分は生き延びた。これは単なる偶然としか言いようがなかろう。機械が損傷を受ければ大抵は、故障してそこで終わりだろうから。

「……で、今はその力、コントロール出来るのか?」

『一応、内部監視プログラムにより、その力の概要、使い方などは学習しました。おそらく実践する際には何の問題も起きないでしょう。ただ、別の何かしらの回線が切れていたりしている場合、思わぬアクシデントが発生するかもしれません』

「……例えば?」

『例えば、ですか……私には賞命首の人をサポートする様々な機能が搭載されているのですが……』

  ライフウォッチから電子画面が出る。それも一辺1mはありそうなほど大きい正方形の画面が。

「お、おいおいおい!?  何してんだ!  誰かに見られたら俺が賞命首だってバレるだろ!?」

  誠は小さい声でナビを非難した。

『あ、あれ?  すみません。地図を表示しようとしただけなのに、……えーと』

  今度は、その画面は一辺1cmほどの正方形に縮小された。

「おい!  逆に小さくて見えなくなったぞ!!  何だこれ!」

『あー、やっぱ所々の機能が壊れてますね……自動修理プログラムを起動しておきます』

「んー……なんかよく分からんが、頼むぞ?  些細なことでも命取りになるかもしれないからな……」

『善処します』

  傍から見れば、腕時計に話しかける変人だが、誠は至って真剣であった。
  それから黙々と歩く誠に、ある思い出が甦る。
「誠、お前は自分が思うより強い人間だ。生きる目的を見つけて、そのまま突き進む力を持ってる。その力で、困ってる人や、仲間たちを助けて、導いてあげなさい。俺は、誠がそれが出来る人間だと信じてる」
  小学4年生の時に、一緒に近くの公園でサッカーをしたあと、父に言われた言葉だ。当時の誠は、強い人間とか、生きる目的とか、難しいことはよく分からずにいた。だが今の誠には、その父の言葉が分かるような気がした。父さん、さっきの俺の行動は、母さんを助けてあげられたかな?  その誠の問いかけに、答える人はもういない。

  しばらく歩くと、誠はクロダ通りに着いた。クロダ駅は、もうすぐ近く。今日は平日で、学生やサラリーマンが通勤中の中を誠は進んでいく。自分も学生の身なので、誠にとってこの体験は斬新なものだった。自分だけがこの社会の輪から外れている、という背徳感が一瞬昇ってきたが、すぐに、自分は命を狙われている身でもあることを察知して、冷静になる。

「なあ、ナビ。電車は何時の便がある?」

  誠は焦っていた。9時までに最初のスポットに着かなければいけないため、通行手段がちゃんと確保できるか心配だった。

  周りの通行人に気づかれぬよう、誠は小声でナビに話しかける。

『えーと、センドウ行きは……8時17分始発のものがあります』

「センドウ駅まではここから約20分ぐらいだよな……よし、じゃあそれだな」

『……今は時間が無いですから仕方ないですが、気を付けてくださいよ?』

「ん……?」

『電車内は人口密度がとても高くなります。誠様の顔を知っている人がいてもおかしくないです。……フードを被ってみてはいかがですか?』

「それだと逆に怪しまれるだろ。電車内でフードって……。そもそも、俺はそんなに有名人じゃな……」

  誠はそう言いかけて、気付いた。自分は、高校サッカー界では名が少し知らているということを。サッカー雑誌などから取材を受けたこともあるし、他校の生徒にも目をつけられ、ネットでも批評されているのを見た事がある。誠の持つ強みが、今現在、一気に弱みへとひっくり返った。誠は怖くなり、大人しくフードを被った。そしてズボンのポケットに手を入れて、ゆったりと大股で歩き出す。

『……誠様、何してるんですか?』

「イケてるラッパーになり切ってる。これなら不自然じゃないだろ?」

  誠はズボンを少しずつ下げていく。ナビはそれ以上、彼に何も言わなかった。通りすがる女子高生に軽蔑の目で見られた誠は、すぐさま普通の歩き方に戻る。フードを被るのは継続したままで。
  誠はクロダ駅に到着した。現在8時09分。センドウ行きの切符を買い、プラットフォームで電車を待つ。さすがにここまで来ると、人の数は大通りの比ではない。誠は人の目が気になったが、我慢し、駅の線路に視線を集中させた。ソワソワしたら、終わりだ。堂々としよう、と誠は考えた。

『……誠様。……誠様!』

「!  な、なんだ?」

『左方向の床を見てください』

  誠が言われた方に目をやると、そこにはイヤホンが落ちていた。

『ライフウォッチに繋げられるかもしれません!  そうなれば、私の音声は他人に聞かれません!』

「あ、ああ。そうだな」

  駅に落ちているイヤホンを拾うというのに誠は少し気が引けたが、そんな事言ってる場合ではない。素早い動作で屈み、かっさらう様にそのイヤホンを拾って、ライフウォッチにイヤホンジャックを差し込んだ。意外とスムーズな身のこなしだったのでは、と誠は満足げだが、傍から見ればやはりただの変人である。
  8時15分、構内アナウンスが流れる。

『1番線、普通列車、センドウ行きが参りますーーーー』

  フードを深く被り直し、誠は到着した列車に乗り込んだ。
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