11 / 12
第1章 ゲーム開始
第10話 誠 賞命首⑤
しおりを挟む
『お礼ぐらいは言った方が良かったんじゃないですか?』
サクラ駅に向かう途中、ナビが誠に話しかけた。
「殺人者に、お礼もクソもあるか」
『私はとても感銘を受けましたけどね。今のゲーム環境の最先端の考えを取り入れていました。誠様も見習った方がよろしいのでは』
「……」
誠はもう、何も信じられなくなっていた。命が増えた、という体験談を持つ人に会うなんて想定外で、誠はこのゲームの非現実さを馬鹿に出来なくなってきている。でも、信じちゃ負けだ、という謎のプライドも誠の中にはあった。決して、自分の目で見て、感じて、理解するまでは何も信じない。誠はまだ「賞命首」のルールを認めてなどいなかった。
『一種の現実逃避ですよ、誠様。思い切って何もかも信じてみてはどうですか?』
「こんなのが現実であってたまるか」
誠には、このナビは本当に味方なのかという疑心も生まれてきていた。だが、今はそのことは考えないようにする。
『あと、私からすれば誠様も殺人者となんら変わりないですよ』
「何?」
『だって、誠様は人を殴ったじゃないですか』
「あれは……正当防衛だろ」
『人間はその言葉を使うのが好きみたいですね。納得しそうにもなりますが、事実は事実ですよ。誠様が相手を殴ったんです』
「そんな。皮相的な考えで物言われちゃ困るよ。大体俺は人を殺していない」
『……人間って不思議ですね。人が受ける傷の度合いを、命に関わるかを基準にして判断している。死ななければ何していいものなんでしょうか?』
「じゃあ、どうすればよかったんだよ!」
誠はつい、カッとなった。
『知りませんよ』
「はっ?」
『人間のことなんか、知りません。答えなんて無いと思いますよ。人間が起こす一つ一つの行動には、何かしらイチャモンをつけられる糸口があるものです。完璧な答えを求めるのなんて、無謀ですよ』
「ああ……そうかよ」
誠は聞いて呆れた。自分はただ、機械にイチャモンをつけられただけだった、と。誠の足取りが速くなる。
『さっきの男の言っていた倫理観だけでなく、誠様の全ての考え方が覆されると思った方がいいですよ。身構えていれば、耐えられるはずです』
ナビの説教が終わると誠は、今まで着けていたイヤホンを耳から取り、ライフウォッチからもイヤホンジャックを外して、ナビに最低限のことしか喋るな、と命じた。
それから誠は、三つ目、四つ目のスポットへと着き……、とうとう六つ目のスポットへと辿り着く。残るスポットはあと二つ。
七つ目のスポットは、大陸中央部のミラド区画、世界首都のシャラナの街中に表示された。
「ちっ……どんどん人の多いところにスポットが表示されるようになってるな」
時刻は、午後4時18分。辺りが暗くなり、今誠がいるクレナの街は人通りが多くなっていた。クレナの街はシャラナの南に位置する。ここからは通交の便も快適であった。だが、
『誠様、電車で行かれますか?』
「……いや」
誠は徒歩で行くことを選択した。流石に身の危険を感じるようになってきた。身の回り360°からの不特定多数の視線と、人の混雑に身動きが取れなくなることを怖がった。そして、最も誠の行動を決定付けたのは、前の駅での出来事である。
ーーーー臨時放送です。クレナ行きコスモス号が線路を脱線し、運行中止となりました。
クレナに行こうと、誠がランドル(シャラナの東に位置する)の駅で電車を待っていた時であった。そのアナウンスに身の毛がよだち、誠はすぐさま交通手段をタクシーへと変えた。タクシーも、運転手との一対一の状況のため安全とは言えなかったが、何とか顔と名前を隠しながら乗り切った。
誠は街の歩道を忍びながら歩く。不自然さは出さず、かつ自分の存在を薄くして。
シャラナの街に近づくにつれて、誠の視界は凄惨なものへと変わっていった。建っているいくつかのビルは廃れ、車と車は衝突し合い、歩道の隅には死体が転がっている。世紀末。誠は昔読んだ漫画にもこのような光景があったと思い出した。誠は、鼻にツンとくる刺激臭に嗚咽する。視線を伏せ、要らない情報は遮断しようとした。だが、前を向かないと自分がどこを歩いているのか分からない。そもそもここは地球なのか、自分は地獄への入口に足を踏み出しているのではないかと誠は思った。目的地の「笹原公園」へと向かう……。
午後18時05分。時間切れまであと13分。
『誠様、あと400メートルです。頑張ってください』
「ああ、分かってるよ!」
誠は走っていた。時間に余裕を持ってスポットに着けるだろうと思っていたが、のんびりと歩き過ぎた。誠は集合住宅の間に敷かれた道路を走る。
ふと、誠はある空き地を見つけた。広い原っぱの奥に人影が見える。集団だ。5人はいる。誠は移動を歩きに変え、興味本位で彼らの話に耳を澄ましてみた。
「どうする……あと何処だ?」
「駅前とか……」
「馬鹿、それは……」
複数の声が混じり、上手く聴き取れない。が、恐らくチンピラの集会のようなものだろうと誠は推察し、気にせずまた走り出した。
「……ん? 今の……」
その集団の中の一人が、誠の走る姿を確認する。少し経ってからゾロゾロと、その集団は動き始めた。
『午後18時10分、目的地に到着しました』
「はぁ……はぁ」
一本の街灯に照らされたその公園はとても静かで、子供一人いなかった。誠は公園内のベンチに座る。
「次のスポットは何処だ?……ハァ、次で最後だろ?」
誠は呼吸を整えながら、最後の八つ目のスポットについてナビに訊く。
『……』
「……ナビ? 次の場所は?」
『次は「アスカコーポレーション」の旧社ビルの、屋上です』
「…………お、屋上!?」
アスカコーポレーションは世界的に有名な航空会社である。しかもそんなビルの屋上に行くというのは、誠には無理難題に思えた。『大丈夫です。旧社ビルなんで、簡単に入れますよ』とナビは言ってきたが、誠の不安は拭えなかった。
誠は一休みを終わらせ、ベンチから立つ。誠が公園から出ようとした時、奴らは現れた。
「こんばんは! 金城……誠くん?」
名前を呼ばれた誠は、反射的に危険を察知する。
「誰だお前ら……」
誠の前に、6人の男達が立ちはだかった。
サクラ駅に向かう途中、ナビが誠に話しかけた。
「殺人者に、お礼もクソもあるか」
『私はとても感銘を受けましたけどね。今のゲーム環境の最先端の考えを取り入れていました。誠様も見習った方がよろしいのでは』
「……」
誠はもう、何も信じられなくなっていた。命が増えた、という体験談を持つ人に会うなんて想定外で、誠はこのゲームの非現実さを馬鹿に出来なくなってきている。でも、信じちゃ負けだ、という謎のプライドも誠の中にはあった。決して、自分の目で見て、感じて、理解するまでは何も信じない。誠はまだ「賞命首」のルールを認めてなどいなかった。
『一種の現実逃避ですよ、誠様。思い切って何もかも信じてみてはどうですか?』
「こんなのが現実であってたまるか」
誠には、このナビは本当に味方なのかという疑心も生まれてきていた。だが、今はそのことは考えないようにする。
『あと、私からすれば誠様も殺人者となんら変わりないですよ』
「何?」
『だって、誠様は人を殴ったじゃないですか』
「あれは……正当防衛だろ」
『人間はその言葉を使うのが好きみたいですね。納得しそうにもなりますが、事実は事実ですよ。誠様が相手を殴ったんです』
「そんな。皮相的な考えで物言われちゃ困るよ。大体俺は人を殺していない」
『……人間って不思議ですね。人が受ける傷の度合いを、命に関わるかを基準にして判断している。死ななければ何していいものなんでしょうか?』
「じゃあ、どうすればよかったんだよ!」
誠はつい、カッとなった。
『知りませんよ』
「はっ?」
『人間のことなんか、知りません。答えなんて無いと思いますよ。人間が起こす一つ一つの行動には、何かしらイチャモンをつけられる糸口があるものです。完璧な答えを求めるのなんて、無謀ですよ』
「ああ……そうかよ」
誠は聞いて呆れた。自分はただ、機械にイチャモンをつけられただけだった、と。誠の足取りが速くなる。
『さっきの男の言っていた倫理観だけでなく、誠様の全ての考え方が覆されると思った方がいいですよ。身構えていれば、耐えられるはずです』
ナビの説教が終わると誠は、今まで着けていたイヤホンを耳から取り、ライフウォッチからもイヤホンジャックを外して、ナビに最低限のことしか喋るな、と命じた。
それから誠は、三つ目、四つ目のスポットへと着き……、とうとう六つ目のスポットへと辿り着く。残るスポットはあと二つ。
七つ目のスポットは、大陸中央部のミラド区画、世界首都のシャラナの街中に表示された。
「ちっ……どんどん人の多いところにスポットが表示されるようになってるな」
時刻は、午後4時18分。辺りが暗くなり、今誠がいるクレナの街は人通りが多くなっていた。クレナの街はシャラナの南に位置する。ここからは通交の便も快適であった。だが、
『誠様、電車で行かれますか?』
「……いや」
誠は徒歩で行くことを選択した。流石に身の危険を感じるようになってきた。身の回り360°からの不特定多数の視線と、人の混雑に身動きが取れなくなることを怖がった。そして、最も誠の行動を決定付けたのは、前の駅での出来事である。
ーーーー臨時放送です。クレナ行きコスモス号が線路を脱線し、運行中止となりました。
クレナに行こうと、誠がランドル(シャラナの東に位置する)の駅で電車を待っていた時であった。そのアナウンスに身の毛がよだち、誠はすぐさま交通手段をタクシーへと変えた。タクシーも、運転手との一対一の状況のため安全とは言えなかったが、何とか顔と名前を隠しながら乗り切った。
誠は街の歩道を忍びながら歩く。不自然さは出さず、かつ自分の存在を薄くして。
シャラナの街に近づくにつれて、誠の視界は凄惨なものへと変わっていった。建っているいくつかのビルは廃れ、車と車は衝突し合い、歩道の隅には死体が転がっている。世紀末。誠は昔読んだ漫画にもこのような光景があったと思い出した。誠は、鼻にツンとくる刺激臭に嗚咽する。視線を伏せ、要らない情報は遮断しようとした。だが、前を向かないと自分がどこを歩いているのか分からない。そもそもここは地球なのか、自分は地獄への入口に足を踏み出しているのではないかと誠は思った。目的地の「笹原公園」へと向かう……。
午後18時05分。時間切れまであと13分。
『誠様、あと400メートルです。頑張ってください』
「ああ、分かってるよ!」
誠は走っていた。時間に余裕を持ってスポットに着けるだろうと思っていたが、のんびりと歩き過ぎた。誠は集合住宅の間に敷かれた道路を走る。
ふと、誠はある空き地を見つけた。広い原っぱの奥に人影が見える。集団だ。5人はいる。誠は移動を歩きに変え、興味本位で彼らの話に耳を澄ましてみた。
「どうする……あと何処だ?」
「駅前とか……」
「馬鹿、それは……」
複数の声が混じり、上手く聴き取れない。が、恐らくチンピラの集会のようなものだろうと誠は推察し、気にせずまた走り出した。
「……ん? 今の……」
その集団の中の一人が、誠の走る姿を確認する。少し経ってからゾロゾロと、その集団は動き始めた。
『午後18時10分、目的地に到着しました』
「はぁ……はぁ」
一本の街灯に照らされたその公園はとても静かで、子供一人いなかった。誠は公園内のベンチに座る。
「次のスポットは何処だ?……ハァ、次で最後だろ?」
誠は呼吸を整えながら、最後の八つ目のスポットについてナビに訊く。
『……』
「……ナビ? 次の場所は?」
『次は「アスカコーポレーション」の旧社ビルの、屋上です』
「…………お、屋上!?」
アスカコーポレーションは世界的に有名な航空会社である。しかもそんなビルの屋上に行くというのは、誠には無理難題に思えた。『大丈夫です。旧社ビルなんで、簡単に入れますよ』とナビは言ってきたが、誠の不安は拭えなかった。
誠は一休みを終わらせ、ベンチから立つ。誠が公園から出ようとした時、奴らは現れた。
「こんばんは! 金城……誠くん?」
名前を呼ばれた誠は、反射的に危険を察知する。
「誰だお前ら……」
誠の前に、6人の男達が立ちはだかった。
0
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる