賞命首

じゃったん

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第1章 ゲーム開始

第10話 誠 賞命首⑤

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  『お礼ぐらいは言った方が良かったんじゃないですか?』

  サクラ駅に向かう途中、ナビが誠に話しかけた。

「殺人者に、お礼もクソもあるか」

『私はとても感銘を受けましたけどね。今のゲーム環境の最先端の考えを取り入れていました。誠様も見習った方がよろしいのでは』

「……」

  誠はもう、何も信じられなくなっていた。命が増えた、という体験談を持つ人に会うなんて想定外で、誠はこのゲームの非現実さを馬鹿に出来なくなってきている。でも、信じちゃ負けだ、という謎のプライドも誠の中にはあった。決して、自分の目で見て、感じて、理解するまでは何も信じない。誠はまだ「賞命首」のルールを認めてなどいなかった。

『一種の現実逃避ですよ、誠様。思い切って何もかも信じてみてはどうですか?』

「こんなのが現実であってたまるか」

  誠には、このナビは本当に味方なのかという疑心も生まれてきていた。だが、今はそのことは考えないようにする。

『あと、私からすれば誠様も殺人者となんら変わりないですよ』

「何?」

『だって、誠様は人を殴ったじゃないですか』

「あれは……正当防衛だろ」

『人間はその言葉を使うのが好きみたいですね。納得しそうにもなりますが、事実は事実ですよ。誠様が相手を殴ったんです』

「そんな。皮相的な考えで物言われちゃ困るよ。大体俺は人を殺していない」

『……人間って不思議ですね。人が受ける傷の度合いを、命に関わるかを基準にして判断している。死ななければ何していいものなんでしょうか?』

「じゃあ、どうすればよかったんだよ!」

  誠はつい、カッとなった。

『知りませんよ』

「はっ?」

『人間のことなんか、知りません。答えなんて無いと思いますよ。人間が起こす一つ一つの行動には、何かしらイチャモンをつけられる糸口があるものです。完璧な答えを求めるのなんて、無謀ですよ』

「ああ……そうかよ」

  誠は聞いて呆れた。自分はただ、機械にイチャモンをつけられただけだった、と。誠の足取りが速くなる。

『さっきの男の言っていた倫理観だけでなく、誠様の全ての考え方が覆されると思った方がいいですよ。身構えていれば、耐えられるはずです』

  ナビの説教が終わると誠は、今まで着けていたイヤホンを耳から取り、ライフウォッチからもイヤホンジャックを外して、ナビに最低限のことしか喋るな、と命じた。

  それから誠は、三つ目、四つ目のスポットへと着き……、とうとう六つ目のスポットへと辿り着く。残るスポットはあと二つ。
  七つ目のスポットは、大陸中央部のミラド区画、世界首都のシャラナの街中に表示された。

「ちっ……どんどん人の多いところにスポットが表示されるようになってるな」

  時刻は、午後4時18分。辺りが暗くなり、今誠がいるクレナの街は人通りが多くなっていた。クレナの街はシャラナの南に位置する。ここからは通交の便も快適であった。だが、

『誠様、電車で行かれますか?』

「……いや」

  誠は徒歩で行くことを選択した。流石に身の危険を感じるようになってきた。身の回り360°からの不特定多数の視線と、人の混雑に身動きが取れなくなることを怖がった。そして、最も誠の行動を決定付けたのは、前の駅での出来事である。

  ーーーー臨時放送です。クレナ行きコスモス号が線路を脱線し、運行中止となりました。

  クレナに行こうと、誠がランドル(シャラナの東に位置する)の駅で電車を待っていた時であった。そのアナウンスに身の毛がよだち、誠はすぐさま交通手段をタクシーへと変えた。タクシーも、運転手との一対一の状況のため安全とは言えなかったが、何とか顔と名前を隠しながら乗り切った。
  誠は街の歩道を忍びながら歩く。不自然さは出さず、かつ自分の存在を薄くして。
  シャラナの街に近づくにつれて、誠の視界は凄惨なものへと変わっていった。建っているいくつかのビルは廃れ、車と車は衝突し合い、歩道の隅には死体が転がっている。世紀末。誠は昔読んだ漫画にもこのような光景があったと思い出した。誠は、鼻にツンとくる刺激臭に嗚咽する。視線を伏せ、要らない情報は遮断しようとした。だが、前を向かないと自分がどこを歩いているのか分からない。そもそもここは地球なのか、自分は地獄への入口に足を踏み出しているのではないかと誠は思った。目的地の「笹原公園」へと向かう……。

  午後18時05分。時間切れまであと13分。

『誠様、あと400メートルです。頑張ってください』

「ああ、分かってるよ!」

  誠は走っていた。時間に余裕を持ってスポットに着けるだろうと思っていたが、のんびりと歩き過ぎた。誠は集合住宅の間に敷かれた道路を走る。
  ふと、誠はある空き地を見つけた。広い原っぱの奥に人影が見える。集団だ。5人はいる。誠は移動を歩きに変え、興味本位で彼らの話に耳を澄ましてみた。

「どうする……あと何処だ?」
「駅前とか……」
「馬鹿、それは……」

  複数の声が混じり、上手く聴き取れない。が、恐らくチンピラの集会のようなものだろうと誠は推察し、気にせずまた走り出した。

「……ん?  今の……」

  その集団の中の一人が、誠の走る姿を確認する。少し経ってからゾロゾロと、その集団は動き始めた。


『午後18時10分、目的地に到着しました』

「はぁ……はぁ」

  一本の街灯に照らされたその公園はとても静かで、子供一人いなかった。誠は公園内のベンチに座る。

「次のスポットは何処だ?……ハァ、次で最後だろ?」

  誠は呼吸を整えながら、最後の八つ目のスポットについてナビに訊く。

『……』

「……ナビ?  次の場所は?」

『次は「アスカコーポレーション」の旧社ビルの、屋上です』

「…………お、屋上!?」

  アスカコーポレーションは世界的に有名な航空会社である。しかもそんなビルの屋上に行くというのは、誠には無理難題に思えた。『大丈夫です。旧社ビルなんで、簡単に入れますよ』とナビは言ってきたが、誠の不安は拭えなかった。
  誠は一休みを終わらせ、ベンチから立つ。誠が公園から出ようとした時、奴らは現れた。

「こんばんは!  金城……誠くん?」

  名前を呼ばれた誠は、反射的に危険を察知する。

「誰だお前ら……」

  誠の前に、6人の男達が立ちはだかった。
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