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無音と鳴き声
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僕を見つめる瞳は、小刻みに上下している。目を凝らしてよく見ると、獣人らしい輪郭が薄っすらと見えた。身長は僕と同じか、もう少し背が低い小柄な体型。そして、全身が黒っぽい羽毛に包まれていて、フサフサしている。鋭い爪と嘴が見え、空を飛ぶために大きくな翼で羽ばたいている。しかし、その音は何も聞こえない。耳を澄ませても、聴こえるのはインコ兄さん達の喧騒。更に集中しても、焚火の音しか聞き取れない。
「ホー」
「・・・ほー?」
不意に目の前の獣人が鳴いた。テレビで聞いたことがある、梟の鳴き声で。何となく名前を聞かれた気がする。口だけは動かせたので、精一ですと思いながら鳴き返した。
「ホー」
「ほー」
「ホー」
「ほーほー」
何度も鳴かれるので、怪しくないですよ。モフモフしていいですかと、思いを込めながら鳴き返す。そんなやり取りを何度か繰り返していると、喧騒が聴こえなくなっていた。いつの間にか動けるようになっていたので二人を見ると、信じられない物を見るような眼をしていた。
「じ、獣化した酉族の言葉が判るのか?それに隠密状態の静葉に気が付くなんて・・・」
「静葉の闇に紛れた無音飛行は、シープの群れを突っ切る事なんて朝飯前なんですよ。それに気付くとは、とてつもない索敵能力ですね。それに獣化状態の異種族での会話。ああ、なんて羨ましい。その力があれば、警備の時にわざわざ獣化を解かなくて済むのに。いや、それよりも種族同士の会話が盗み聞ぎし放題・・・ああ大丈夫ですよ。会って間もないですけど、悪用する人には見えませんので。むしろ自分から披露する意味ないですし。」
意思疎通できていた雰囲気はあったが、会話になっていたようだ。それならモフモフしていいかの返答が知りたい。もう一度静葉さんを探すと、部屋に置かれた壺の近くで音が聞こえた。音の方に目線を向けると、手で壺の中に入っている何かを手にして。足音を立ててこちらに近づいてくる。爪で歩くような硬い音ではなく、僕の足音と同じような音。見れば先程とは違い、耳以外はモフモフとしていない。
途中焚火に薪と手にした何かを放り投げると、火が激しく揺らめいた。勢いよく火柱が上がり、部屋全体が火の光に照らされる。そして、静葉さんの姿がハッキリと見えた。
「んっ」
眠そうな表情で、真っすぐ僕を見つめる黒い短髪の少女。艶のある褐色の肌をして、僅かに膨らんだ胸を隠そうともせず、僕に謎の球体を差し出している。異性の裸でドキドキしてしまうが、彼女は気にする様子が無い。取り合えず眺めるわけにもいかないので、球体を手に取り、反対の手で頭を撫でる。羽毛のようなフワフワ感はないが、さらさらして気持ち良い。驚いたのは、獣耳に見えたのは髪型だった事だ。撫でていると不思議な場所に耳があったので更に驚いた。
「んっ」
変わらないトーンで声を発する静葉。機嫌は良さそうだが、この球体を使ってほしいようだ。水風船のような不思議な球体。悩んでいると静葉は、僕の手からゆっくりと取り、自分の頭上で割った。中から出た液体は静葉さんを濡らし、髪や肌を伝って落ちていく。花と蜂蜜を混ぜたような不思議な香りで、手で触れるとオイルのような感触がした。
「んんっ」
どうやらこの油を全身に塗って欲しいようだ。首を傾げ、上目遣いで僕を見ている。視線を彼女に向けないように頭を撫でながら、どうしようか考えた。話の流れから考えると、これが彼女にとってのモフモフの解釈の気がする。そう考えると、お願いした僕から断るのも失礼だ。
「獣化した姿では駄目ですか?」
「んっ!」
駄目だったみたいなので、そのまま塗る事にした。マッサージだと思えば大丈夫。邪念を振り払い、気持ち良くする事だけを考えてオイルを塗り広げる。手に伝わる柔らかく、滑らかな肌触り。塗る程にシットリと、それでいて艶が出る。敏感なのか場所によってはくぐもった声をあげ、体をくねらせた。それでも嫌でははいないようだ。
結果、大成功だったようだ。何故なら僕の前にはぐったりと恍惚の表情を浮かべる静葉さんと、我先にと喧嘩する二人が並んでいるからだ。そんなにされたい事なんだろうか?
この後同じようにオイルを塗れば、同じく恍惚の表情でぐったりした。僕にはマッサージの才能が合ったのだろうか?それとも酉族特有なんだろうか?
三人の肌や髪は感触的には暖かく、気持ち良かった。しかし、どこか物足りない。この感情の正体を僕は知っている。異性同性と体を触ったいま、改めて強く思う。
「ああ、やっぱり僕はモフモフが一番だ。」
再び布団をファサファサしながら、そう呟いた。
「ホー」
「・・・ほー?」
不意に目の前の獣人が鳴いた。テレビで聞いたことがある、梟の鳴き声で。何となく名前を聞かれた気がする。口だけは動かせたので、精一ですと思いながら鳴き返した。
「ホー」
「ほー」
「ホー」
「ほーほー」
何度も鳴かれるので、怪しくないですよ。モフモフしていいですかと、思いを込めながら鳴き返す。そんなやり取りを何度か繰り返していると、喧騒が聴こえなくなっていた。いつの間にか動けるようになっていたので二人を見ると、信じられない物を見るような眼をしていた。
「じ、獣化した酉族の言葉が判るのか?それに隠密状態の静葉に気が付くなんて・・・」
「静葉の闇に紛れた無音飛行は、シープの群れを突っ切る事なんて朝飯前なんですよ。それに気付くとは、とてつもない索敵能力ですね。それに獣化状態の異種族での会話。ああ、なんて羨ましい。その力があれば、警備の時にわざわざ獣化を解かなくて済むのに。いや、それよりも種族同士の会話が盗み聞ぎし放題・・・ああ大丈夫ですよ。会って間もないですけど、悪用する人には見えませんので。むしろ自分から披露する意味ないですし。」
意思疎通できていた雰囲気はあったが、会話になっていたようだ。それならモフモフしていいかの返答が知りたい。もう一度静葉さんを探すと、部屋に置かれた壺の近くで音が聞こえた。音の方に目線を向けると、手で壺の中に入っている何かを手にして。足音を立ててこちらに近づいてくる。爪で歩くような硬い音ではなく、僕の足音と同じような音。見れば先程とは違い、耳以外はモフモフとしていない。
途中焚火に薪と手にした何かを放り投げると、火が激しく揺らめいた。勢いよく火柱が上がり、部屋全体が火の光に照らされる。そして、静葉さんの姿がハッキリと見えた。
「んっ」
眠そうな表情で、真っすぐ僕を見つめる黒い短髪の少女。艶のある褐色の肌をして、僅かに膨らんだ胸を隠そうともせず、僕に謎の球体を差し出している。異性の裸でドキドキしてしまうが、彼女は気にする様子が無い。取り合えず眺めるわけにもいかないので、球体を手に取り、反対の手で頭を撫でる。羽毛のようなフワフワ感はないが、さらさらして気持ち良い。驚いたのは、獣耳に見えたのは髪型だった事だ。撫でていると不思議な場所に耳があったので更に驚いた。
「んっ」
変わらないトーンで声を発する静葉。機嫌は良さそうだが、この球体を使ってほしいようだ。水風船のような不思議な球体。悩んでいると静葉は、僕の手からゆっくりと取り、自分の頭上で割った。中から出た液体は静葉さんを濡らし、髪や肌を伝って落ちていく。花と蜂蜜を混ぜたような不思議な香りで、手で触れるとオイルのような感触がした。
「んんっ」
どうやらこの油を全身に塗って欲しいようだ。首を傾げ、上目遣いで僕を見ている。視線を彼女に向けないように頭を撫でながら、どうしようか考えた。話の流れから考えると、これが彼女にとってのモフモフの解釈の気がする。そう考えると、お願いした僕から断るのも失礼だ。
「獣化した姿では駄目ですか?」
「んっ!」
駄目だったみたいなので、そのまま塗る事にした。マッサージだと思えば大丈夫。邪念を振り払い、気持ち良くする事だけを考えてオイルを塗り広げる。手に伝わる柔らかく、滑らかな肌触り。塗る程にシットリと、それでいて艶が出る。敏感なのか場所によってはくぐもった声をあげ、体をくねらせた。それでも嫌でははいないようだ。
結果、大成功だったようだ。何故なら僕の前にはぐったりと恍惚の表情を浮かべる静葉さんと、我先にと喧嘩する二人が並んでいるからだ。そんなにされたい事なんだろうか?
この後同じようにオイルを塗れば、同じく恍惚の表情でぐったりした。僕にはマッサージの才能が合ったのだろうか?それとも酉族特有なんだろうか?
三人の肌や髪は感触的には暖かく、気持ち良かった。しかし、どこか物足りない。この感情の正体を僕は知っている。異性同性と体を触ったいま、改めて強く思う。
「ああ、やっぱり僕はモフモフが一番だ。」
再び布団をファサファサしながら、そう呟いた。
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