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正攻法

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木刀を構えながら、深く集中する。僕が模糊さんに勝っている点を、必死に探し出す。まず聴力。この戦いの中だけなら、僕は模糊さんがどのように動いているかを正確に判断出来る。目を開けると惑わされるので、目は閉じたまま。音に集中出来るので、僕にはメリットしかない。逆にどれだけ視力に優れていても、僕の動き程度ならあまり効果が無いと思う。相手の有利を封じた気がする。

次に低地での機動力。上空からの突撃の速度は脅威だが、攻撃の瞬間に急ブレーキを掛けている。地面に激突しない為の当たり前の行動だが、模糊さんは他の獣人さんより速度を落とす。蓮琉さんが地面に突き刺さったのを間近で見たからだろうか?

今もタイミングを見計らい転がる事で、攻撃を回避出来ている。ナイフを振る隙は見当たらないが、負けてはいない。再び考える。木刀を切り裂く程鋭い爪だけに気を付ければ良い。攻撃のチャンスは2回。上空から突撃してくる、ピンポイント狙いの一撃。そしてブレーキと同時に水平移動しながらの大振り。どちらを狙うか・・・

考えても答えは出ないので、両方試す。鋭く振り下ろされる脳天狙いの一撃を、横に飛んで躱しながらナイフを振るう。しかし、振るったナイフを躱しながら、水平移動の一撃をされてしまった。爪は食らわなかったが、蹴り飛ばされてしまう。咳き込むぐらい痛いが、すぐに立ち上がる。

次は水平移動攻撃の後を狙う。回り込むような一撃を、前方に飛んで躱す。そして、着地と同時に模糊さんに向かって全力で跳ぶ!・・・しかし躱されてしまう。それどころか上昇と同時に救い上げる様な一撃を食らって宙に浮き、地面でバウンドした。正攻法で勝てる気がしない。

さて、どうすれば良いだろうか?全身が悲鳴を上げる中、僕はなぜか楽しんでいた。
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