9 / 28
ユレネ編
9.まずは服装を何とかしたい、奴隷の服からの脱却!?※R18描写なし
しおりを挟む
「体が……、軽い」
「そうだろうな。俺のザーメンたっぷり飲み込んだんだから」
「ザっ……、そう、ですね……」
あんなに下からガンガン突き上げられ、普通なら入っちゃいけないところまでチンポを突っ込まれたのに体はむしろ軽くて調子がいい。尻に多少の違和感がある程度だった。社畜をしていた頃よりよほど体調がいいが、その原因はまだ何とも受け入れがたい。
ソファーに座って粗末な麻の服を拾い上げて袖を通していると、執務机に座っているゼガイが感慨深げに呟くのが聞こえる。さっき見ていた自分のステータスをもう一度見ているらしく、唸りながら自身の顎を撫でていた。
「ミルラの鑑定通りだな。ステータスも上がってるし、体に力が漲ってる。自覚できるほどのバフなんざ滅多にあるもんじゃねえぞ」
「はあ……」
「あとは持続時間だな。まあそれはおいおいだな。セナ、こっちにこい」
「はい」
ゼガイが執務机の上に数枚の書類と小さな革のきんちゃく袋を置く。一番上の書類にはゼガイとミルラ、ウィルのサインが書かれている。
「さっき言ってた後見人の書類だ。ここにお前さんの名前を書くと、魔法契約が成立する。お前さんには身を守る加護が付き、後見人は自分の利益を優先してお前さんが不利になることはできなくなる。身元保証人ができるから金さえあれば仕事もできるし家も借りれる」
「わかりました」
「加護っつっても万能じゃねえ、命は大事にすることだな」
ゼガイにペンを渡されて、書類を見下ろす。書かれている内容は分かる。読めるし、理解もできる。だが日本語ではない。強烈な違和感を覚えるが、これも転移者ならではの特典なのかと流すことにした。
「日本語でもいいですか?」
「ニホンゴ……?あぁ、異世界の言葉か。セナの名前を象るものであれば問題ない」
では、とセナはサインを入れる。ペン先を紙から話して数拍後、書かれた文字が淡く光った。輝きは次第に強くなり、すぐ糸が切れたように消えていく。
「光った……」
「これで契約成立だ。この契約書はギルドで保管する。お前には当分の生活費と、ギルド所有の住居が一つ貸し与えられる」
「あ、あのお金は俺、あります」
「あ?」
ポケットに詰まった金貨を引っ張り出して机に置くと、ゼガイは眼鏡の奥の鋭い目を見開いた。一つ摘み上げ、裏表を確認してから机の上に戻す。
「本物の金貨だな……」
「宝物庫にあったのを少し持って帰ってきたんです」
「お前さん、案外ちゃっかりしてんじゃねえか。まあこっちも持ってけ。あって困るもんじゃないだろう。金貨2枚あれば、贅沢しなけりゃ一人でひと月は暮らせる」
革の巾着を開いて机の上の金貨を入れたゼガイが、セナに袋を放り投げてくる。受け取ったセナはその袋の重さにやや恐怖を感じるも、確かにゼガイに言われた通り困るものでもない。有難くもらっておくことにした。
「まずは身の回りの物を揃えるんだな。一刻も早くその服から着替えろ」
「あー……やっぱ変ですかね」
「そりゃ奴隷の服だ」
「っど!?」
「代わりになる服がそれしかなかったと聞いたが」
「元々着てた服はボロボロだったんで……」
狼の魔物に犯された時に、衣服は全て破り取られた。宝物庫に残っていた麻の服を暫定的に着込んで出てきたが、まさかこれが奴隷の服だったとは。意識が戻った後、ウィルが気まずそうにしていたのはセナが乱れていた場面を見たからでなく、奴隷の服を勝手に着せたからなのかもしれない。
「クロエネダの奴らはギルドで待機させてる。一緒に買い物に行ってこい」
「そうします」
「戻ってきたら、家に案内する。仕事やら生活の事はまた明日だ」
「はい。いろいろとお世話になります」
渡された袋を握ったまま部屋を出ると、ギルドのカウンターがすぐ右手に見える。受付の女性に頭を下げながら通り抜け、クロエネダの面々を探した。
「あ、セナ!」
セナがギルドのテーブル席にいる彼らを見つけるのと、彼らがセナを見つけて声をかけてくるのは同時だった。
「ゼガイさんの話は終わったのか」
「はい。それで、」
バァン!とルーシャがテーブルを叩いて立ち上がったため、セナは驚いて固まった。胸を反らし自信満々にこちらを見るルーシャは、セナの服を掴むと高らかに宣言する。
「買い物よセナ!!この小汚い服をどうにかするの!いいわね!」
「セナに案内する店がどうにも決まんなくてさ」
「全部行くからお前が気に入った店で買うといい」
ウィルとロコに付け足され、押されるまま頷く。ついでに街の中を案内してやるよと言われ、セナはクロエネダのメンバーと共にユレネの街へと繰り出すことになった。
ユレネの街は、セナの転移したユレネの洞窟というダンジョンの南にあった。ダンジョン産業で成り立って大きくなった街だ。街の入り口にはダンジョン攻略に必要な武器や防具屋をはじめとする各商店、宿屋などがひしめき合う。冒険者ギルドも、入り口付近に居を構えている。南に足を運べば住民が買い物をする生活用品や食料品の店が立ち並ぶ商店街があり、主に日常生活に必要な商品が取り扱われていた。更にその商店街を抜ければ人々が暮らす住宅街がある。
冒険者であるクロエネダのメンバーは、ギルドから少し離れた安宿に仮住まいしていた。冒険者割引があったり長期で借りると安くなったりするのだとか。長く滞在するならパーティーで家を借りるなどする人もいるが、クロエネダはランクがある程度上がれば拠点を移すことも考えて宿を選んでいる。
「ユレネの洞窟ってそこまで難しいダンジョンじゃねえんだ」
「へえ」
「俺らが今みんなランクCだから、ランクBに上がればもう少し複雑なダンジョンも目指そうって話になってんだ」
商店街を歩きながら、ウィルは楽しそうに言う。セナにとってはわざわざ危険な場所に命を懸けて向かうのは避けたいことだが、彼らにとっては大事な目標なのだろう。クエストの報酬はピンキリだが、ランクが上がれば一回のクエストで数か月は楽に暮らせる程度の金額が手に入るらしい。
「じゃあいつかはこの街を出るってこと?」
「まあそういうことよね。だけどまだ先の話じゃない?今回のダンジョン踏破でも声がかからなかったし」
「ランクってどうやったら上がるもんなんですか?」
「いくつかクエストこなして実績を作ったら、ギルドの方から名指しで昇格クエストが来るの。それを達成すれば昇格ね。あ、着いたわよ」
彼らの説明にふんふんと頷きながら、セナたちはルーシャ御用達のファンフライという店の前に辿り着く。
店構えは、華やかだ。壁の色は黒だが、ピンク色の電灯のようなものが光っている。マネキンの着ている服も、襟元や肩口にフリルのついた光沢のある服が目立つ。何よりも、ぴったりとした体のラインが出る服が多い。自信ありげに店を指さすルーシャには悪いが、入ることすら戸惑う。
「どうかしら?」
「いや……俺にはちょっと、派手かなと……」
「そう?これなんか似合うと思うけど」
ルーシャが手に取ったのは一見してシンプルな薄紫色のニット。だが、彼が揺らす度にキラキラと光沢があり、何よりも細い。伸びる素材であるのは分かるが、セナが着ると余計に細さが強調されそうだった。自分の貧相な体つきを自覚しているセナが、着たいとは思えない服装だ。
「いやあ……もう少し地味なもので」
「そう?無理強いはしないけど」
「ならこっちだ。キーリストという」
ロコに腕を引かれ、ファンフライの向かいに建つキーリストという店の前に連れていかれる。こちらも同じく壁は黒だが、ゴールドの塗料で店の名前が書かれてありあからさまに高級感が漂っていた。服の感じは黒をメインとしたジャケットやスラックス、ローブが多く、ところどころに宝石らしい装飾や刺繍がある。ファンフライのように体のラインは余り出ないが、生地も縫製もしっかりしてハイブランドの雰囲気が漂っている。
「これ……高いのでは?」
「まあ、最低でも金貨3枚だ」
「3……?」
もらった金貨は6枚。ゼガイの話だと3ヶ月分だ。その半分という事になる。日用品とは、と遠い目をしそうになるがこれにはちゃんと理由があるようだった。
「ここの服には魔石や加護が付けられている。普段の生活なら十分なものだ」
「ああ、そういう」
とはいえ価格帯が合わない。そして整った顔をしているロコならともかく、自分のように地味な顔立ちの人間がこの店の服を着ると完全に負けてしまうだろうことが予想される。
「ちょっと高いですね」
「そうか。これなど防水防火防塵と揃っている上に幸運の加護もついている。これだけの加護を反発せずにつけられるのはなかなかないぞ」
「……おいくらで?」
「金貨7ま、」
「高いですね」
「そうか」
食い気味に否定され、唇を尖らせるロコの脇腹をウィルが突く。それからセナに向かって手招きをして、道の奥を指さした。
「俺のおすすめはこっちだ」
「はい」
次はどんな店が飛び出すのかと思ってついて行けば、木造の建物のシンプルな店構えがあった。店先のマネキンは、生成り色のブラウスに緑色のロングスカートを着ている。先ほどからすれ違う大多数の住民たちが着ている服によく似ているデザインだ。
「ニールは安くて質もいいし、普通に着るなら重宝するぜ」
「おお、これこれ!こういうの!」
「お、趣味が合うな」
ルーシャとロコが極端なんだと言いかけたがそれはぐっとこらえ、セナは店の中へ入る。店内をぐるりと見渡せば、下着やタオルなんかも置いてあるようだった。銅貨1枚程度の物から高くても銀貨5枚ぐらいが相場らしい。
「セナさん、セナさん」
低い声がして、ちょんちょん、と肩に指先が触れる。振り返ると目の前に胸筋の厚い胸元があり、そのまま見上げた先にはゴルシュが三白眼気味の青い目でこちらを見下ろしていた。あまり喋らないゴルシュが初めて話しかけてきたことに動揺するが、ゴルシュの方はセナの様子に気づくことなく小さな紙きれを差し出してきた。紙切れ、と言ってもセナが受け取るとそれは普通の書類程度の大きさだったが。
「これ、必要そうな物書いてみました。ボクは荷物も持てるからたくさん買うといいです」
思っていたよりも柔らかい言葉遣いのゴルシュは、通りかかった店員から台車のようなものを受け取る。確かに、一から生活用品を揃えるのなら大量の買い物になるだろう。セナでは持てる量にだいぶ限りがあるため、手伝ってくれるのは非常にありがたい。
「ありがとうございます」
「はい」
いかつい強面のゴルシュが照れくさそうに笑うから、何だか弟のような気がしてくる。つい手を伸ばして短い金髪を撫でてしまい、ゴルシュがびっくりして体を反らしてしまった。
「え?」
「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「いえ……家族以外にそうされたことなかったので、嫌じゃないです」
「そっか」
何か家庭環境にでも問題があるのだろうか。いや、単純に昔から大きく育っていたから届かないだけなのだろうなとセナは思う。屈強な見た目にいかつい顔立ちであるし、頭を撫でるなど子供のような扱いを早くからされなくなったのだろう。
「なあセナー。パンツ何枚買うー?」
すでに店内に散っていたウィルから声をかけられ、セナは少し頬を赤くしているゴルシュのみっちりと筋肉が詰まって張り詰めた肩を軽く叩いた。
「行こうか」
「はい」
用意してもらったセナの住居は、ギルドの裏手にある小さな一軒家だった。間取りは入ってすぐ広がる居間と台所を合わせた部屋と、奥の寝室。浴室もあるが、固定されたシャワーヘッドのみで湯船はない。裏手には小さいが庭があり、トイレはそこにあった。石と木でできた家など見慣れないセナが見てもわかるぐらいには古い家だが、適度に改修されているらしく隙間風などは少ない。家具もある程度揃えられており、日用品を入れればすぐに住めるようになっていた。
「よっ……こらせ、と」
布に包まれた大きな塊を担いでいたウィルが、台所の片隅にあるテーブルの上にそれを置く。あたりを見渡すと、部屋の中は大小の荷物でぎっしり埋まっていた。一番大きな荷物を持っていたゴルシュも、それを玄関のすぐそばに置いている。
ニールの店で一通り衣服を購入した後、同じくらいの価格帯の店を紹介してもらい食器や洗面具なんかも購入した。何も持っていない所から買い揃えるとやはり荷物は多くなり、その大部分をゴルシュが背負ってくれていた。
「ありがとうございました」
「いやいや。夜までに買えてよかったな」
「いやほんとに」
「でも本当にここまででいいのか?荷解きも伝うぞ?」
「いやでも皆さん明日もクエストなんでしょう?朝早いんだし、俺はやることもないので大丈夫ですよ」
居間に荷物を入れたところで、クロエネダのメンバーには帰ってもらう事にした。皆は荷解きまで手伝うつもりでいてくれたらしいが、明日もクエストに向かう予定があると聞いたら付き合わせるのは忍びない。大量の荷物を開封していくのは手間だが、どうせ仕事もないし時間はある。
評判の悪かった麻の服一式は店で着替えさせてもらい、セナは綿製のバンドカラーシャツにグレーのスラックスを身に着けている。麻の服に比べて着心地は悪くない。極上とも言わないが、ゴワゴワせず異臭がしないだけ格段にマシだった。今は革靴と靴下だけは日本にいた頃の物を履いているがが、こちらも新しい物を別で揃えている。
「皆さんにはお世話になりました。本当なら、ご飯でも御馳走したいんですけど」
「そんなのいいのよ。セナだって疲れてるでしょ。今日はゆっくり休みなさいな」
「戸締りするんだぞー」
あっさりと引き上げていくクロエネダのメンバーを玄関先まで送り、セナは扉を閉める。言われた通り、ドアノブの上にある魔法石に触れるとカチャリ、と音がして施錠されたのが分かった。
生活魔法、という名目で、魔法は人の生活に密接に関係している。鍵もそうだが、上下水道や電気なども生活魔法が使われていた。性能と価格は比例するものらしく、高性能なものほど高価で希少なのだとか。
「ふあー……」
とりあえず居間のソファに座り、ローテーブルの上にあるランプの光を眺めながら間抜けな声でため息を漏らす。ちなみにローテーブルのランプはロコが魔法で灯を付けてくれた。木の板を上げて棒で支えるだけの窓もあるが、もう夕暮れ近くになっているので閉じたままだ。外からの光がほとんど入らないので、部屋の中は薄暗かった。
日本からの異世界転移、ダンジョンで魔物に襲われてクロエネダに助けられた。このユレネの街に連れて来られて、今、ようやく一人だ。そして一人になった途端、疲労感が一気に襲ってきた。
「っつかれた……」
元々東京で一人暮らしをしながら生きていたセナだ。友人は少なく、恋人もいなかった。職場はブラックで残業ばかり。飲みに行けるような同僚もいない。元々、人付き合いがそれほど好きな性格ではなかった。そんなセナが四六時中人間に囲まれていた疲労感は強かった。初対面の良く知らない人間であればなおさらだ。彼らがセナに友好的かどうかはこの場合問題ではなく、よく知らない相手、というだけで気疲れする。
それに加えて、命の危機がすぐそこに迫っている場所に、戦う術もなくたった一人で放置されていた。その緊張感は、知らず知らずのうちにセナの大きな精神的負担になっていた。
「はー……、お腹空いたな……」
グゥ、と低く腹の虫が鳴く。日用品の他に当分の食料も買ったが、何かを作る気は起きない。ギルドの方まで食べに行くこともできるが、今日はもう人と関わるのは面倒だった。
「……パンとチーズだけでいいかな」
食料品の中にあるパンを毟り、チーズを齧る。パンは固いが食べられないほどではないし、チーズも匂いは強いが美味しく食べられる。もそもそと咀嚼しながら、日本での生活とあまり変わらないなと思う。
ソファーに座ったまま見渡せる台所は、水道とコンロがある。あとは椅子が二脚のダイニングテーブルと、小さいが冷蔵庫もある。ロコが得意げに解説するにはコンロと水道はどちらも火と水の魔道具を組み込んだ物で、蛇口とコンロにある魔石に触れた者の魔力を媒介にして回路が動き出し、火が着いたり水が出たりするのだという。冷蔵庫も、ちゃんと冷えている。旧型のために定期的に魔力を充填する必要があるらしいが、水や火が簡単に手に入るのはありがたいし食料が保存できるのもいい。井戸や竈だったら、セナは生きていけない自信があった。
思い出すのは、ゼガイとミルラの発言だ。ゼガイは、いつかは一人で生きていけるようにならねえと、と言った。ミルラは後天的に開花するスキルもあると言っていた。
「ステータスオープン」
ソファの背凭れにぐったりと体を預け、上を向いたままステータスを開く。すぐに音もなく薄青い四角が目の前に展開され、昼間に見たステータスが羅列される。ミルラはどこまで自分のステータスを見たのだろうか。改めてスキルの部分に目をやり、一つ一つ確かめるように読んでいく。
「転移者特典ステータスアップの体液、魔力変換効率、魅了(小)……」
ここまでは説明された通りのスキルだ。いや、今でも納得はできていないが、外したり消したりできないのであればそれは仕方ない。セナが気になるのはスキルの下に1、2行分のスペースが空いていることだ。目を細め、顔を傾けて様々な角度からそこを凝視し、何とか文字が書かれていると分かる。だが何が書かれているかは読めそうにない。いくつかの単語が並んでいるように見えるから、スキルの名称だろうか。ミルラに説明されたスキルは他のステータス同様、黒字に白い光で縁取りされている。開花したスキルがそう表示されていると仮定すれば、見えるか見えないか程度のスキルは開花する可能性があるスキルという事か。
「ミルラさんにもっと詳しく聞いとけばよかった。まあでも……ぁ、ふぁあ……明日かな」
ランプの灯だけと言うのは、日本で暮らしていた頃よりかなり暗い。疲れと満腹感もあって、眠気が襲ってきた。大きく伸びをし関節のあちこちをパキパキ鳴らしながらよたよたと立ち上がり、ランプを片手に奥の寝室へ向かう。
扉を開けると、奥にベッド、小さなテーブルと机、クローゼットがあるだけのシンプルな寝室が広がった。ゼガイの部屋の仮眠室と似たようなものだ。こちらも窓が一つあるが、木の板は閉じられており薄暗い。
「うー……眠い」
サイドテーブルに置いたランプの灯を消し、少し硬めの埃っぽいマットの上に寝転ぶ。薄い毛布に潜り込みながら明日掃除することに決め、セナはそのまま目を閉じた。社畜時代の気絶寸前の寝入り方と違って、眠気に身を任せ溶けるような心地よい入眠だった。
まずは生活の基盤を整えることが先決。そう考えたセナは、朝から家の掃除に精を出した。家中の窓を開けて風と日の光を入れ、細かな部分まで埃を払いさっくりと拭き上げた。埃っぽかったベッドマットは裏庭で天日干しをし、シーツも洗濯して風にはためいている。
荷解きもして、生活用品はそれなりの場所に収めた。一人分とはいえ、何もない所から揃える日用品は量がある。だが寝室のクローゼットが大きめだったから、収納場所に悩んだらそこに押し込めば解決した。
一人暮らしをしていた時は、本当に最低限の家事だけで暮らしていた。食事は外食かテイクアウトでゴミを捨てるだけになっていたし、洗濯は仕事で必要な衣類だけを最優先。掃除はユニットバスの風呂トイレとシンクの水回りを使った後にだけ行い、居室の埃は溜まり切って手で摘まめる大きさになるまでほとんど無視していた。けれども成果が目に見える掃除や洗濯は嫌いではなく、終わった後の爽快さを思えば好きな方だった。掃除が進んでいくにつれてそれを思い出し、気が付けば夢中で作業をこなしていた。
ほんの数日前まで、セナは慢性的な疲労と睡眠不足を抱え常に倦怠感を引きずって屍寸前で生活していた。にもかかわらず朝早くから起きてここまで動ける体力があるのは、きっとスキルのおかげであるのだろう。そう思うと、納得はしずらいが悪くもないかと思える。
風呂に入らず眠ったため、掃除と洗濯を終えたタイミングで風呂場へ向かう。タイルに囲まれた浴室には浴槽はなく、壁に埋め込まれた魔法石に触れると固定されたシャワーヘッドから湯が出る仕組みだ。これは割と高価なものだと昨日ロコが感心していた。
「あ゛~~……、気持ちよかった」
さっぱりして部屋に戻ってきたタイミングで、コンコン、と玄関をノックする音が聞こえる。タオルで髪を拭きながら無言で扉を見つめていたセナは、外からかけられた声にハッとして駆け寄った。
「セナ?ゼガイだが……、いないか?」
「あ!います!います!」
日本では居留守は当たり前だった。アポなしで自分の家に訪問してくるような友人は居なかったし、訪問者は基本セールスや勧誘などの厄介ごとしかなかったからだ。インターホンが鳴れば、息を潜めて玄関を見つめ相手が立ち去るのを待つのが常だった。だがここはもう日本ではない、思い出して玄関の鍵を開けてドアノブを捻る。
「おはようございます」
「おぉ、もう昼だぞ」
「あぁ、そうでしたっけ。何かありましたか?」
「クロエネダが朝からクエストに出たって聞いたからな、様子見だ。不自由はないか?」
「今のところは大丈夫です。わざわざすみません」
そう言いながら、ゼガイは紙袋をセナに手渡した。持ち手のないそれは袋の口部分が折りたたまれており、開くと中にパンに肉が挟まれた物がいくつか入っていた。スパイシーな匂いが立ち上ってきて、非常に美味しそうだ。匂いに触発されたか、急に体が空腹を訴えてくる。
「これ……」
「昼飯だ。俺の分もある」
「ありがとうございます!お茶入れますね」
テーブルの上に紙袋を置いて、セナは台所へ向かう。ゼガイがダイニングテーブルの椅子を引いて座り、頬杖をついて周りを見渡した。
「掃除してたのか、綺麗なもんだ」
「これからしばらくお世話になる場所ですし。あの、もう少しこの世界の事を知りたいんですけど、何か調べられる場所……図書館、とかあります?」
ヤカンに水を入れて火にかける。沸くまでの間にカップと茶の葉を用意した。紅茶に近いものがこの世界のスタンダードな茶らしい。店で教えてもらった入れ方もセナの知っている紅茶とほぼ変わりなかった。
「この街にはないな。もう少し王都に近い大きな街に行けばあるだろうが。ギルドにも少しなら資料はあるぞ。何が知りたい?」
「ほんとに基礎的なことなんですよ。魔法とか魔素の話とか、後はスキルの仕組みとか。あ、ミルラさんがお手すきの時にお話しとか……」
「すまねえがミルラはギルド本部に報告に戻っててな。しばらくは戻らん」
ゼガイの口ぶりでは、ギルド本部はそこそこ離れた場所にありそうだ。セナが唯一知っている移動手段の馬車が、この世界の主な移動手段ならば時間はかかるだろう。
「あー……そうですか」
「魔法の事ならロコに聞けばいい。スキルやなんかなら俺でも答えられるぞ」
それなら、とお言葉に甘えてゼガイに質問することにした。湯が沸くまでにはもうしばらく時間がかかるし、それまでの暇つぶしにしてもらう。
ゼガイの持ってきた昼食を出す皿を二枚持ってテーブルに戻ったセナは、ゼガイの正面の椅子に座る。
「スキルなんですけど、ステータス画面に薄い文字があって」
「ああ。読めるか?」
「今はまだ。読めそうなものもありますけど」
一つ頷いたゼガイが、皿を引き寄せ紙袋から肉の挟まれたパンを取り出して置いた。薄い紙に包まれたそれは、肉汁と濃い茶色のソースが混ざり合ってパンに染み込んでおり何とも魅力的だ。
「そうか。スキルが後天的と先天的とあるって話は聞いたな?薄い文字は後天的なスキル。これからのお前さんの行動によって、開花することもあるスキルだ。そもそもスキルは、あるだけで特別な力が備わるばかりじゃない。鍛錬を積むことでより多くの特別なことができるようになる」
思っていたのと少し違うなと、セナは思う。どうやらスキルがあれば特別な力が使えて、それを色々利用して便利に暮らすことができるというわけではないらしい。
「例えば火魔法。スキルがなくても焚火の火種程度の魔法は魔力が多少あれば使える。魔法適正にもよるが、鍛錬を積めばそこそこの魔法が使えるようにもなるだろう」
「スキルがなくても使えるんですね」
「ああ。だが火魔法のスキルを開花させれば、成長の度合いはぐんと上がるし詠唱時間も少なくなる。高度な魔法も覚えられるし、消費する魔力も減っていく。上限は人それぞれだがな。勿論鍛錬しなけりゃ成長はしない、当たり前だ」
スキルに胡坐をかいてはいられないという事だ。ふんふんと頷いて聞いていて、ならば自分のスキルは?と疑問を持ってしまった。
「じゃあ、俺のスキルに関しては……」
「異世界転移者特典に関しちゃ開示されてる資料が少なくてな、それで今ミルラに本部まで取りに行ってもらってる。魔力変換効率は、単純に効率が上がり続けるってことだな。魅了は今はまだ他人にいい印象を持たれる程度だろうが成長すりゃそれこそ狙った相手を落とせるようになる」
とはいえそれは鍛錬を続けた結果という訳だ。魔法なら何となくぼんやり鍛錬のイメージは沸くものの、セナの持つスキルに関してはよくわからない。
「鍛錬って」
「魔力変換効率は何もしなくても上がっていくだろうよ。人間は体に取り込む物全てを魔力に変換するからな。同じ仕事を繰り返せば、慣れて早く終わるようになるだろ。それと一緒だ」
「あー……」
「魅了も勝手に上がってくだろうな。お前さんが死ぬほど嫌な奴じゃない限りは」
そう善人でもないのだが、苦笑するに留めておいた。ちょうど湯が沸いたので立ち上がった瞬間、目の前がブレて膝から力が抜ける。
「セナ!?」
「ぇあ……?っ!?」
ガタンッ!と椅子が倒れる音するのと、セナが床に倒れ込むのは同時だった。尻を強く打ち付けて、鈍い痛みが襲う。立ち上がるために足に力を込めるのに、震えるばかりで体が持ち上がらない。空腹感はそれほど強くないのに、腹の底からソワソワ感が込み上がってきて目の前が揺れている。めまいを起こしているのか、次第に視界が回り出した。
「大丈夫か?」
「何ですかね。立ち眩み……あれ?立てない?」
「…………」
立ち上がったゼガイがコンロの火を消してから、床にへたり込んだままのセナに近寄ってくる。腕を掴んで軽々と引き上げられ、大きな荷物のように肩に抱えられた。背中側に頭がくる形で抱えられ、慌てて上体を起こそうとゼガイの背中に手を付こうとするが力が入らない。肩甲骨辺りに顔を押し当てる形になって、僅かに香る体臭と石鹼の匂いにドキリとする。
「ちょ、ゼガイさん!?」
「お前さん、昨日の夜は何食った?朝飯は食ったか?」
「昨日?はパンとチーズ……、今日はまだ何も」
ぎりぎりの時間まで睡眠を優先するため、朝食を食べる習慣はセナにはなかった。今日もいつものように食事をとらず、起きてからすぐに片づけを始めていた。
「あのな、お前さんは生きてるだけで魔力を消費するんだよ。その様子じゃ家の魔道具もガンガン使ったんだろう。あれは触れた人間の魔力を吸って稼働するんだぞ」
「あ……」
子供に言い聞かせる口調でゼガイに言われ、ようやく気付いた。常時魔力を消費しているセナが、魔道具を使うという事は更に魔力の消費に拍車をかける行為だ。使うだけ使って補給をしなければこうなるのは当たり前だった。
「お前さんの魔力量がどれほどかはしらんが、魔力が底を尽きかかってるのは確かだ」
「嘘……。あ、じゃあ飯食べれば」
だがセナの手はテーブルの上の昼食には届かない。それどころか、ゼガイが移動し始めたために遠ざかっていく。ガチャ、とセナの背後で扉の開けられる音がして、景色が寝室に変わった。
「飯より早え方法があんだろうが」
「いや、あの……」
どす、とシーツを替えたばかりのベッドの上に放り投げられ、息が詰まった隙にゼガイがベッドに乗り上げてくる。素早くシャツのボタンとスラックスのベルトを緩められ、セナの力が抜けているのをいいことにあっさりスラックスと下着を引き抜いていった。
2024/01/26:修正
「そうだろうな。俺のザーメンたっぷり飲み込んだんだから」
「ザっ……、そう、ですね……」
あんなに下からガンガン突き上げられ、普通なら入っちゃいけないところまでチンポを突っ込まれたのに体はむしろ軽くて調子がいい。尻に多少の違和感がある程度だった。社畜をしていた頃よりよほど体調がいいが、その原因はまだ何とも受け入れがたい。
ソファーに座って粗末な麻の服を拾い上げて袖を通していると、執務机に座っているゼガイが感慨深げに呟くのが聞こえる。さっき見ていた自分のステータスをもう一度見ているらしく、唸りながら自身の顎を撫でていた。
「ミルラの鑑定通りだな。ステータスも上がってるし、体に力が漲ってる。自覚できるほどのバフなんざ滅多にあるもんじゃねえぞ」
「はあ……」
「あとは持続時間だな。まあそれはおいおいだな。セナ、こっちにこい」
「はい」
ゼガイが執務机の上に数枚の書類と小さな革のきんちゃく袋を置く。一番上の書類にはゼガイとミルラ、ウィルのサインが書かれている。
「さっき言ってた後見人の書類だ。ここにお前さんの名前を書くと、魔法契約が成立する。お前さんには身を守る加護が付き、後見人は自分の利益を優先してお前さんが不利になることはできなくなる。身元保証人ができるから金さえあれば仕事もできるし家も借りれる」
「わかりました」
「加護っつっても万能じゃねえ、命は大事にすることだな」
ゼガイにペンを渡されて、書類を見下ろす。書かれている内容は分かる。読めるし、理解もできる。だが日本語ではない。強烈な違和感を覚えるが、これも転移者ならではの特典なのかと流すことにした。
「日本語でもいいですか?」
「ニホンゴ……?あぁ、異世界の言葉か。セナの名前を象るものであれば問題ない」
では、とセナはサインを入れる。ペン先を紙から話して数拍後、書かれた文字が淡く光った。輝きは次第に強くなり、すぐ糸が切れたように消えていく。
「光った……」
「これで契約成立だ。この契約書はギルドで保管する。お前には当分の生活費と、ギルド所有の住居が一つ貸し与えられる」
「あ、あのお金は俺、あります」
「あ?」
ポケットに詰まった金貨を引っ張り出して机に置くと、ゼガイは眼鏡の奥の鋭い目を見開いた。一つ摘み上げ、裏表を確認してから机の上に戻す。
「本物の金貨だな……」
「宝物庫にあったのを少し持って帰ってきたんです」
「お前さん、案外ちゃっかりしてんじゃねえか。まあこっちも持ってけ。あって困るもんじゃないだろう。金貨2枚あれば、贅沢しなけりゃ一人でひと月は暮らせる」
革の巾着を開いて机の上の金貨を入れたゼガイが、セナに袋を放り投げてくる。受け取ったセナはその袋の重さにやや恐怖を感じるも、確かにゼガイに言われた通り困るものでもない。有難くもらっておくことにした。
「まずは身の回りの物を揃えるんだな。一刻も早くその服から着替えろ」
「あー……やっぱ変ですかね」
「そりゃ奴隷の服だ」
「っど!?」
「代わりになる服がそれしかなかったと聞いたが」
「元々着てた服はボロボロだったんで……」
狼の魔物に犯された時に、衣服は全て破り取られた。宝物庫に残っていた麻の服を暫定的に着込んで出てきたが、まさかこれが奴隷の服だったとは。意識が戻った後、ウィルが気まずそうにしていたのはセナが乱れていた場面を見たからでなく、奴隷の服を勝手に着せたからなのかもしれない。
「クロエネダの奴らはギルドで待機させてる。一緒に買い物に行ってこい」
「そうします」
「戻ってきたら、家に案内する。仕事やら生活の事はまた明日だ」
「はい。いろいろとお世話になります」
渡された袋を握ったまま部屋を出ると、ギルドのカウンターがすぐ右手に見える。受付の女性に頭を下げながら通り抜け、クロエネダの面々を探した。
「あ、セナ!」
セナがギルドのテーブル席にいる彼らを見つけるのと、彼らがセナを見つけて声をかけてくるのは同時だった。
「ゼガイさんの話は終わったのか」
「はい。それで、」
バァン!とルーシャがテーブルを叩いて立ち上がったため、セナは驚いて固まった。胸を反らし自信満々にこちらを見るルーシャは、セナの服を掴むと高らかに宣言する。
「買い物よセナ!!この小汚い服をどうにかするの!いいわね!」
「セナに案内する店がどうにも決まんなくてさ」
「全部行くからお前が気に入った店で買うといい」
ウィルとロコに付け足され、押されるまま頷く。ついでに街の中を案内してやるよと言われ、セナはクロエネダのメンバーと共にユレネの街へと繰り出すことになった。
ユレネの街は、セナの転移したユレネの洞窟というダンジョンの南にあった。ダンジョン産業で成り立って大きくなった街だ。街の入り口にはダンジョン攻略に必要な武器や防具屋をはじめとする各商店、宿屋などがひしめき合う。冒険者ギルドも、入り口付近に居を構えている。南に足を運べば住民が買い物をする生活用品や食料品の店が立ち並ぶ商店街があり、主に日常生活に必要な商品が取り扱われていた。更にその商店街を抜ければ人々が暮らす住宅街がある。
冒険者であるクロエネダのメンバーは、ギルドから少し離れた安宿に仮住まいしていた。冒険者割引があったり長期で借りると安くなったりするのだとか。長く滞在するならパーティーで家を借りるなどする人もいるが、クロエネダはランクがある程度上がれば拠点を移すことも考えて宿を選んでいる。
「ユレネの洞窟ってそこまで難しいダンジョンじゃねえんだ」
「へえ」
「俺らが今みんなランクCだから、ランクBに上がればもう少し複雑なダンジョンも目指そうって話になってんだ」
商店街を歩きながら、ウィルは楽しそうに言う。セナにとってはわざわざ危険な場所に命を懸けて向かうのは避けたいことだが、彼らにとっては大事な目標なのだろう。クエストの報酬はピンキリだが、ランクが上がれば一回のクエストで数か月は楽に暮らせる程度の金額が手に入るらしい。
「じゃあいつかはこの街を出るってこと?」
「まあそういうことよね。だけどまだ先の話じゃない?今回のダンジョン踏破でも声がかからなかったし」
「ランクってどうやったら上がるもんなんですか?」
「いくつかクエストこなして実績を作ったら、ギルドの方から名指しで昇格クエストが来るの。それを達成すれば昇格ね。あ、着いたわよ」
彼らの説明にふんふんと頷きながら、セナたちはルーシャ御用達のファンフライという店の前に辿り着く。
店構えは、華やかだ。壁の色は黒だが、ピンク色の電灯のようなものが光っている。マネキンの着ている服も、襟元や肩口にフリルのついた光沢のある服が目立つ。何よりも、ぴったりとした体のラインが出る服が多い。自信ありげに店を指さすルーシャには悪いが、入ることすら戸惑う。
「どうかしら?」
「いや……俺にはちょっと、派手かなと……」
「そう?これなんか似合うと思うけど」
ルーシャが手に取ったのは一見してシンプルな薄紫色のニット。だが、彼が揺らす度にキラキラと光沢があり、何よりも細い。伸びる素材であるのは分かるが、セナが着ると余計に細さが強調されそうだった。自分の貧相な体つきを自覚しているセナが、着たいとは思えない服装だ。
「いやあ……もう少し地味なもので」
「そう?無理強いはしないけど」
「ならこっちだ。キーリストという」
ロコに腕を引かれ、ファンフライの向かいに建つキーリストという店の前に連れていかれる。こちらも同じく壁は黒だが、ゴールドの塗料で店の名前が書かれてありあからさまに高級感が漂っていた。服の感じは黒をメインとしたジャケットやスラックス、ローブが多く、ところどころに宝石らしい装飾や刺繍がある。ファンフライのように体のラインは余り出ないが、生地も縫製もしっかりしてハイブランドの雰囲気が漂っている。
「これ……高いのでは?」
「まあ、最低でも金貨3枚だ」
「3……?」
もらった金貨は6枚。ゼガイの話だと3ヶ月分だ。その半分という事になる。日用品とは、と遠い目をしそうになるがこれにはちゃんと理由があるようだった。
「ここの服には魔石や加護が付けられている。普段の生活なら十分なものだ」
「ああ、そういう」
とはいえ価格帯が合わない。そして整った顔をしているロコならともかく、自分のように地味な顔立ちの人間がこの店の服を着ると完全に負けてしまうだろうことが予想される。
「ちょっと高いですね」
「そうか。これなど防水防火防塵と揃っている上に幸運の加護もついている。これだけの加護を反発せずにつけられるのはなかなかないぞ」
「……おいくらで?」
「金貨7ま、」
「高いですね」
「そうか」
食い気味に否定され、唇を尖らせるロコの脇腹をウィルが突く。それからセナに向かって手招きをして、道の奥を指さした。
「俺のおすすめはこっちだ」
「はい」
次はどんな店が飛び出すのかと思ってついて行けば、木造の建物のシンプルな店構えがあった。店先のマネキンは、生成り色のブラウスに緑色のロングスカートを着ている。先ほどからすれ違う大多数の住民たちが着ている服によく似ているデザインだ。
「ニールは安くて質もいいし、普通に着るなら重宝するぜ」
「おお、これこれ!こういうの!」
「お、趣味が合うな」
ルーシャとロコが極端なんだと言いかけたがそれはぐっとこらえ、セナは店の中へ入る。店内をぐるりと見渡せば、下着やタオルなんかも置いてあるようだった。銅貨1枚程度の物から高くても銀貨5枚ぐらいが相場らしい。
「セナさん、セナさん」
低い声がして、ちょんちょん、と肩に指先が触れる。振り返ると目の前に胸筋の厚い胸元があり、そのまま見上げた先にはゴルシュが三白眼気味の青い目でこちらを見下ろしていた。あまり喋らないゴルシュが初めて話しかけてきたことに動揺するが、ゴルシュの方はセナの様子に気づくことなく小さな紙きれを差し出してきた。紙切れ、と言ってもセナが受け取るとそれは普通の書類程度の大きさだったが。
「これ、必要そうな物書いてみました。ボクは荷物も持てるからたくさん買うといいです」
思っていたよりも柔らかい言葉遣いのゴルシュは、通りかかった店員から台車のようなものを受け取る。確かに、一から生活用品を揃えるのなら大量の買い物になるだろう。セナでは持てる量にだいぶ限りがあるため、手伝ってくれるのは非常にありがたい。
「ありがとうございます」
「はい」
いかつい強面のゴルシュが照れくさそうに笑うから、何だか弟のような気がしてくる。つい手を伸ばして短い金髪を撫でてしまい、ゴルシュがびっくりして体を反らしてしまった。
「え?」
「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「いえ……家族以外にそうされたことなかったので、嫌じゃないです」
「そっか」
何か家庭環境にでも問題があるのだろうか。いや、単純に昔から大きく育っていたから届かないだけなのだろうなとセナは思う。屈強な見た目にいかつい顔立ちであるし、頭を撫でるなど子供のような扱いを早くからされなくなったのだろう。
「なあセナー。パンツ何枚買うー?」
すでに店内に散っていたウィルから声をかけられ、セナは少し頬を赤くしているゴルシュのみっちりと筋肉が詰まって張り詰めた肩を軽く叩いた。
「行こうか」
「はい」
用意してもらったセナの住居は、ギルドの裏手にある小さな一軒家だった。間取りは入ってすぐ広がる居間と台所を合わせた部屋と、奥の寝室。浴室もあるが、固定されたシャワーヘッドのみで湯船はない。裏手には小さいが庭があり、トイレはそこにあった。石と木でできた家など見慣れないセナが見てもわかるぐらいには古い家だが、適度に改修されているらしく隙間風などは少ない。家具もある程度揃えられており、日用品を入れればすぐに住めるようになっていた。
「よっ……こらせ、と」
布に包まれた大きな塊を担いでいたウィルが、台所の片隅にあるテーブルの上にそれを置く。あたりを見渡すと、部屋の中は大小の荷物でぎっしり埋まっていた。一番大きな荷物を持っていたゴルシュも、それを玄関のすぐそばに置いている。
ニールの店で一通り衣服を購入した後、同じくらいの価格帯の店を紹介してもらい食器や洗面具なんかも購入した。何も持っていない所から買い揃えるとやはり荷物は多くなり、その大部分をゴルシュが背負ってくれていた。
「ありがとうございました」
「いやいや。夜までに買えてよかったな」
「いやほんとに」
「でも本当にここまででいいのか?荷解きも伝うぞ?」
「いやでも皆さん明日もクエストなんでしょう?朝早いんだし、俺はやることもないので大丈夫ですよ」
居間に荷物を入れたところで、クロエネダのメンバーには帰ってもらう事にした。皆は荷解きまで手伝うつもりでいてくれたらしいが、明日もクエストに向かう予定があると聞いたら付き合わせるのは忍びない。大量の荷物を開封していくのは手間だが、どうせ仕事もないし時間はある。
評判の悪かった麻の服一式は店で着替えさせてもらい、セナは綿製のバンドカラーシャツにグレーのスラックスを身に着けている。麻の服に比べて着心地は悪くない。極上とも言わないが、ゴワゴワせず異臭がしないだけ格段にマシだった。今は革靴と靴下だけは日本にいた頃の物を履いているがが、こちらも新しい物を別で揃えている。
「皆さんにはお世話になりました。本当なら、ご飯でも御馳走したいんですけど」
「そんなのいいのよ。セナだって疲れてるでしょ。今日はゆっくり休みなさいな」
「戸締りするんだぞー」
あっさりと引き上げていくクロエネダのメンバーを玄関先まで送り、セナは扉を閉める。言われた通り、ドアノブの上にある魔法石に触れるとカチャリ、と音がして施錠されたのが分かった。
生活魔法、という名目で、魔法は人の生活に密接に関係している。鍵もそうだが、上下水道や電気なども生活魔法が使われていた。性能と価格は比例するものらしく、高性能なものほど高価で希少なのだとか。
「ふあー……」
とりあえず居間のソファに座り、ローテーブルの上にあるランプの光を眺めながら間抜けな声でため息を漏らす。ちなみにローテーブルのランプはロコが魔法で灯を付けてくれた。木の板を上げて棒で支えるだけの窓もあるが、もう夕暮れ近くになっているので閉じたままだ。外からの光がほとんど入らないので、部屋の中は薄暗かった。
日本からの異世界転移、ダンジョンで魔物に襲われてクロエネダに助けられた。このユレネの街に連れて来られて、今、ようやく一人だ。そして一人になった途端、疲労感が一気に襲ってきた。
「っつかれた……」
元々東京で一人暮らしをしながら生きていたセナだ。友人は少なく、恋人もいなかった。職場はブラックで残業ばかり。飲みに行けるような同僚もいない。元々、人付き合いがそれほど好きな性格ではなかった。そんなセナが四六時中人間に囲まれていた疲労感は強かった。初対面の良く知らない人間であればなおさらだ。彼らがセナに友好的かどうかはこの場合問題ではなく、よく知らない相手、というだけで気疲れする。
それに加えて、命の危機がすぐそこに迫っている場所に、戦う術もなくたった一人で放置されていた。その緊張感は、知らず知らずのうちにセナの大きな精神的負担になっていた。
「はー……、お腹空いたな……」
グゥ、と低く腹の虫が鳴く。日用品の他に当分の食料も買ったが、何かを作る気は起きない。ギルドの方まで食べに行くこともできるが、今日はもう人と関わるのは面倒だった。
「……パンとチーズだけでいいかな」
食料品の中にあるパンを毟り、チーズを齧る。パンは固いが食べられないほどではないし、チーズも匂いは強いが美味しく食べられる。もそもそと咀嚼しながら、日本での生活とあまり変わらないなと思う。
ソファーに座ったまま見渡せる台所は、水道とコンロがある。あとは椅子が二脚のダイニングテーブルと、小さいが冷蔵庫もある。ロコが得意げに解説するにはコンロと水道はどちらも火と水の魔道具を組み込んだ物で、蛇口とコンロにある魔石に触れた者の魔力を媒介にして回路が動き出し、火が着いたり水が出たりするのだという。冷蔵庫も、ちゃんと冷えている。旧型のために定期的に魔力を充填する必要があるらしいが、水や火が簡単に手に入るのはありがたいし食料が保存できるのもいい。井戸や竈だったら、セナは生きていけない自信があった。
思い出すのは、ゼガイとミルラの発言だ。ゼガイは、いつかは一人で生きていけるようにならねえと、と言った。ミルラは後天的に開花するスキルもあると言っていた。
「ステータスオープン」
ソファの背凭れにぐったりと体を預け、上を向いたままステータスを開く。すぐに音もなく薄青い四角が目の前に展開され、昼間に見たステータスが羅列される。ミルラはどこまで自分のステータスを見たのだろうか。改めてスキルの部分に目をやり、一つ一つ確かめるように読んでいく。
「転移者特典ステータスアップの体液、魔力変換効率、魅了(小)……」
ここまでは説明された通りのスキルだ。いや、今でも納得はできていないが、外したり消したりできないのであればそれは仕方ない。セナが気になるのはスキルの下に1、2行分のスペースが空いていることだ。目を細め、顔を傾けて様々な角度からそこを凝視し、何とか文字が書かれていると分かる。だが何が書かれているかは読めそうにない。いくつかの単語が並んでいるように見えるから、スキルの名称だろうか。ミルラに説明されたスキルは他のステータス同様、黒字に白い光で縁取りされている。開花したスキルがそう表示されていると仮定すれば、見えるか見えないか程度のスキルは開花する可能性があるスキルという事か。
「ミルラさんにもっと詳しく聞いとけばよかった。まあでも……ぁ、ふぁあ……明日かな」
ランプの灯だけと言うのは、日本で暮らしていた頃よりかなり暗い。疲れと満腹感もあって、眠気が襲ってきた。大きく伸びをし関節のあちこちをパキパキ鳴らしながらよたよたと立ち上がり、ランプを片手に奥の寝室へ向かう。
扉を開けると、奥にベッド、小さなテーブルと机、クローゼットがあるだけのシンプルな寝室が広がった。ゼガイの部屋の仮眠室と似たようなものだ。こちらも窓が一つあるが、木の板は閉じられており薄暗い。
「うー……眠い」
サイドテーブルに置いたランプの灯を消し、少し硬めの埃っぽいマットの上に寝転ぶ。薄い毛布に潜り込みながら明日掃除することに決め、セナはそのまま目を閉じた。社畜時代の気絶寸前の寝入り方と違って、眠気に身を任せ溶けるような心地よい入眠だった。
まずは生活の基盤を整えることが先決。そう考えたセナは、朝から家の掃除に精を出した。家中の窓を開けて風と日の光を入れ、細かな部分まで埃を払いさっくりと拭き上げた。埃っぽかったベッドマットは裏庭で天日干しをし、シーツも洗濯して風にはためいている。
荷解きもして、生活用品はそれなりの場所に収めた。一人分とはいえ、何もない所から揃える日用品は量がある。だが寝室のクローゼットが大きめだったから、収納場所に悩んだらそこに押し込めば解決した。
一人暮らしをしていた時は、本当に最低限の家事だけで暮らしていた。食事は外食かテイクアウトでゴミを捨てるだけになっていたし、洗濯は仕事で必要な衣類だけを最優先。掃除はユニットバスの風呂トイレとシンクの水回りを使った後にだけ行い、居室の埃は溜まり切って手で摘まめる大きさになるまでほとんど無視していた。けれども成果が目に見える掃除や洗濯は嫌いではなく、終わった後の爽快さを思えば好きな方だった。掃除が進んでいくにつれてそれを思い出し、気が付けば夢中で作業をこなしていた。
ほんの数日前まで、セナは慢性的な疲労と睡眠不足を抱え常に倦怠感を引きずって屍寸前で生活していた。にもかかわらず朝早くから起きてここまで動ける体力があるのは、きっとスキルのおかげであるのだろう。そう思うと、納得はしずらいが悪くもないかと思える。
風呂に入らず眠ったため、掃除と洗濯を終えたタイミングで風呂場へ向かう。タイルに囲まれた浴室には浴槽はなく、壁に埋め込まれた魔法石に触れると固定されたシャワーヘッドから湯が出る仕組みだ。これは割と高価なものだと昨日ロコが感心していた。
「あ゛~~……、気持ちよかった」
さっぱりして部屋に戻ってきたタイミングで、コンコン、と玄関をノックする音が聞こえる。タオルで髪を拭きながら無言で扉を見つめていたセナは、外からかけられた声にハッとして駆け寄った。
「セナ?ゼガイだが……、いないか?」
「あ!います!います!」
日本では居留守は当たり前だった。アポなしで自分の家に訪問してくるような友人は居なかったし、訪問者は基本セールスや勧誘などの厄介ごとしかなかったからだ。インターホンが鳴れば、息を潜めて玄関を見つめ相手が立ち去るのを待つのが常だった。だがここはもう日本ではない、思い出して玄関の鍵を開けてドアノブを捻る。
「おはようございます」
「おぉ、もう昼だぞ」
「あぁ、そうでしたっけ。何かありましたか?」
「クロエネダが朝からクエストに出たって聞いたからな、様子見だ。不自由はないか?」
「今のところは大丈夫です。わざわざすみません」
そう言いながら、ゼガイは紙袋をセナに手渡した。持ち手のないそれは袋の口部分が折りたたまれており、開くと中にパンに肉が挟まれた物がいくつか入っていた。スパイシーな匂いが立ち上ってきて、非常に美味しそうだ。匂いに触発されたか、急に体が空腹を訴えてくる。
「これ……」
「昼飯だ。俺の分もある」
「ありがとうございます!お茶入れますね」
テーブルの上に紙袋を置いて、セナは台所へ向かう。ゼガイがダイニングテーブルの椅子を引いて座り、頬杖をついて周りを見渡した。
「掃除してたのか、綺麗なもんだ」
「これからしばらくお世話になる場所ですし。あの、もう少しこの世界の事を知りたいんですけど、何か調べられる場所……図書館、とかあります?」
ヤカンに水を入れて火にかける。沸くまでの間にカップと茶の葉を用意した。紅茶に近いものがこの世界のスタンダードな茶らしい。店で教えてもらった入れ方もセナの知っている紅茶とほぼ変わりなかった。
「この街にはないな。もう少し王都に近い大きな街に行けばあるだろうが。ギルドにも少しなら資料はあるぞ。何が知りたい?」
「ほんとに基礎的なことなんですよ。魔法とか魔素の話とか、後はスキルの仕組みとか。あ、ミルラさんがお手すきの時にお話しとか……」
「すまねえがミルラはギルド本部に報告に戻っててな。しばらくは戻らん」
ゼガイの口ぶりでは、ギルド本部はそこそこ離れた場所にありそうだ。セナが唯一知っている移動手段の馬車が、この世界の主な移動手段ならば時間はかかるだろう。
「あー……そうですか」
「魔法の事ならロコに聞けばいい。スキルやなんかなら俺でも答えられるぞ」
それなら、とお言葉に甘えてゼガイに質問することにした。湯が沸くまでにはもうしばらく時間がかかるし、それまでの暇つぶしにしてもらう。
ゼガイの持ってきた昼食を出す皿を二枚持ってテーブルに戻ったセナは、ゼガイの正面の椅子に座る。
「スキルなんですけど、ステータス画面に薄い文字があって」
「ああ。読めるか?」
「今はまだ。読めそうなものもありますけど」
一つ頷いたゼガイが、皿を引き寄せ紙袋から肉の挟まれたパンを取り出して置いた。薄い紙に包まれたそれは、肉汁と濃い茶色のソースが混ざり合ってパンに染み込んでおり何とも魅力的だ。
「そうか。スキルが後天的と先天的とあるって話は聞いたな?薄い文字は後天的なスキル。これからのお前さんの行動によって、開花することもあるスキルだ。そもそもスキルは、あるだけで特別な力が備わるばかりじゃない。鍛錬を積むことでより多くの特別なことができるようになる」
思っていたのと少し違うなと、セナは思う。どうやらスキルがあれば特別な力が使えて、それを色々利用して便利に暮らすことができるというわけではないらしい。
「例えば火魔法。スキルがなくても焚火の火種程度の魔法は魔力が多少あれば使える。魔法適正にもよるが、鍛錬を積めばそこそこの魔法が使えるようにもなるだろう」
「スキルがなくても使えるんですね」
「ああ。だが火魔法のスキルを開花させれば、成長の度合いはぐんと上がるし詠唱時間も少なくなる。高度な魔法も覚えられるし、消費する魔力も減っていく。上限は人それぞれだがな。勿論鍛錬しなけりゃ成長はしない、当たり前だ」
スキルに胡坐をかいてはいられないという事だ。ふんふんと頷いて聞いていて、ならば自分のスキルは?と疑問を持ってしまった。
「じゃあ、俺のスキルに関しては……」
「異世界転移者特典に関しちゃ開示されてる資料が少なくてな、それで今ミルラに本部まで取りに行ってもらってる。魔力変換効率は、単純に効率が上がり続けるってことだな。魅了は今はまだ他人にいい印象を持たれる程度だろうが成長すりゃそれこそ狙った相手を落とせるようになる」
とはいえそれは鍛錬を続けた結果という訳だ。魔法なら何となくぼんやり鍛錬のイメージは沸くものの、セナの持つスキルに関してはよくわからない。
「鍛錬って」
「魔力変換効率は何もしなくても上がっていくだろうよ。人間は体に取り込む物全てを魔力に変換するからな。同じ仕事を繰り返せば、慣れて早く終わるようになるだろ。それと一緒だ」
「あー……」
「魅了も勝手に上がってくだろうな。お前さんが死ぬほど嫌な奴じゃない限りは」
そう善人でもないのだが、苦笑するに留めておいた。ちょうど湯が沸いたので立ち上がった瞬間、目の前がブレて膝から力が抜ける。
「セナ!?」
「ぇあ……?っ!?」
ガタンッ!と椅子が倒れる音するのと、セナが床に倒れ込むのは同時だった。尻を強く打ち付けて、鈍い痛みが襲う。立ち上がるために足に力を込めるのに、震えるばかりで体が持ち上がらない。空腹感はそれほど強くないのに、腹の底からソワソワ感が込み上がってきて目の前が揺れている。めまいを起こしているのか、次第に視界が回り出した。
「大丈夫か?」
「何ですかね。立ち眩み……あれ?立てない?」
「…………」
立ち上がったゼガイがコンロの火を消してから、床にへたり込んだままのセナに近寄ってくる。腕を掴んで軽々と引き上げられ、大きな荷物のように肩に抱えられた。背中側に頭がくる形で抱えられ、慌てて上体を起こそうとゼガイの背中に手を付こうとするが力が入らない。肩甲骨辺りに顔を押し当てる形になって、僅かに香る体臭と石鹼の匂いにドキリとする。
「ちょ、ゼガイさん!?」
「お前さん、昨日の夜は何食った?朝飯は食ったか?」
「昨日?はパンとチーズ……、今日はまだ何も」
ぎりぎりの時間まで睡眠を優先するため、朝食を食べる習慣はセナにはなかった。今日もいつものように食事をとらず、起きてからすぐに片づけを始めていた。
「あのな、お前さんは生きてるだけで魔力を消費するんだよ。その様子じゃ家の魔道具もガンガン使ったんだろう。あれは触れた人間の魔力を吸って稼働するんだぞ」
「あ……」
子供に言い聞かせる口調でゼガイに言われ、ようやく気付いた。常時魔力を消費しているセナが、魔道具を使うという事は更に魔力の消費に拍車をかける行為だ。使うだけ使って補給をしなければこうなるのは当たり前だった。
「お前さんの魔力量がどれほどかはしらんが、魔力が底を尽きかかってるのは確かだ」
「嘘……。あ、じゃあ飯食べれば」
だがセナの手はテーブルの上の昼食には届かない。それどころか、ゼガイが移動し始めたために遠ざかっていく。ガチャ、とセナの背後で扉の開けられる音がして、景色が寝室に変わった。
「飯より早え方法があんだろうが」
「いや、あの……」
どす、とシーツを替えたばかりのベッドの上に放り投げられ、息が詰まった隙にゼガイがベッドに乗り上げてくる。素早くシャツのボタンとスラックスのベルトを緩められ、セナの力が抜けているのをいいことにあっさりスラックスと下着を引き抜いていった。
2024/01/26:修正
50
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる