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軽音楽部さんの日常
しおりを挟む春の陽気に誘われて、桜の花が風に舞う頃、高校の軽音楽部の練習室には、一際大きな音が響いていた。部員たちはギターを弾き、ドラムを叩き、ピアノを弾きながら、一心不乱に演奏している。そんな中、ひときわ目を引くのが、ツインテールの髪型をした茶色い髪の少女、さきだった。
さきはこの軽音楽部で、ギターを担当している。彼女は明るく、少しドジなところがあり、部員たちからは愛されている存在だ。
しかし、今日はなんだか調子が悪い様子だった。ギターのコードを弾き間違えては「うわっ、ごめん!」
と叫び、譜面を何度も見直している。
普段なら、こうしたミスにはすぐに立ち直れるはずなのだが、今日は心が落ち着かない。
「おーい、さき、今日はどうした? いつもよりギターが弱いぞ」と、ドラムの藤本がからかうように言う。
さきはちらりと藤本を見て、少しだけ眉をひそめた。
「だって…今日は、あの先輩が来るから…ちょっと緊張してるんだもん!」
さきは頭に手をやりながら答えた。
藤本が興味津々で言う。
「先輩? 何の先輩だ?」
ギターを弾いていた真琴(まこと)が首をかしげる。
「あ、まさか…あの図書委員長の先輩?」
さきは顔を赤らめながらうなずく。
「うん…そう。黒縁メガネの。」
その先輩、伊藤直斗(いとう なおと)は、さきのクラスの先輩であり、
図書委員長として学校でも有名な存在だった。
黒縁メガネと整った髪型、そして真面目で冷静な性格は、まさに「優等生」の典型で、さきが憧れる存在でもあった。
直斗先輩が、軽音楽部に来ることになるなんて、さきは全く予想していなかった。
「まさか、あの先輩がこの部活に来るなんて…」藤本は驚いたように言う。
「そうなの。」
さきは、少し頬を染めながら続けた。
「昨日、図書館で直斗先輩が私を見かけて、『軽音楽部、見学に行ってもいいか?』って言われたんだ。」
「それはすごいな。」
真琴が思わず感嘆の声を漏らした。
「直斗先輩が来るってことは、かなりの緊張感だな。」
なぜなら、直人先輩は図書委員会として図書館の室内の静かな環境を守ることに命をかけていると言ってもいい。
部員一同は、直斗に先輩が鉢巻をしながら
手に習字で用紙に書いて自作した図書館では物音厳禁の紙を掲げている姿を想像していた。なぜかと言うとこの軽音楽部の部室は図書室の真上の階にあるのだ。
そう、どんなに防音室でも音は図書室にも聞こえるのだ。
さきは肩をすくめるようにして言う。
「いや、でもさ、私、あの先輩の前ではどうしても緊張して」
「そんなことないよ。」
真琴がさきの肩を叩きながら笑う。
「案外、直斗先輩も音楽に興味があるんじゃない?」
さきはその言葉に少しだけ笑顔を見せた。 真琴の冗談が少しだけ気を楽にさせてくれたのだ。しかし、それでも、直斗先輩がどんな反応をするのか気になって仕方がなかった。真面目で優等生な彼が、軽音楽部の雰囲気にどう溶け込むのか、その姿を想像するだけで、さきは胸が高鳴っていた。
30後、ついに直斗先輩が軽音楽部の練習室にやって来た。図書館から直接来たらしく、制服に黒縁メガネをかけた姿の直斗先輩は、あまりにも真面目そうで、緊張感が漂っていた。まるで、軽音楽部のような騒がしい場所に踏み込むのが少し不安そうな感じが、さきには伝わってきた。
「こんにちは。失礼します。」
直斗先輩は軽くお辞儀をしながら、部屋に入ってきた。
「おお、来たな!」藤本が明るく声をかける。
「こんにちは、直斗先輩。」さきは顔を赤らめながら、しどろもどろに挨拶をする。普段ならこんなことでは緊張しないはずなのに、直斗先輩の前ではどうしても上手く言葉が出てこなかった。
「こんにちは。」直斗先輩は優しく微笑みながら答えた。だが、彼の目は冷静で、やはり優等生という雰囲気が漂っている。清潔感があり、真面目さがにじみ出ているその姿に、さきは改めて自分の気持ちが乱れていることを実感する。
「えっと、今日は見学に来たんですよね?」さきが少し緊張しながら尋ねると、直斗先輩はうなずいて言った。
「はい。実は軽音楽部に興味があって、どんな活動をしているのか見てみたくて。」直斗先輩は淡々と答えるが、その表情にはほんの少しの好奇心が混じっていた。
「よかったら、先輩も何か楽器を試してみませんか?」と、真琴が冗談めかして言う。
直斗先輩は少し考えた後、笑顔を見せながら「じゃあ、少しだけ…」と言って、ギターを手に取った。さきは慌ててギターを調整し、直斗先輩に渡す。
「ありがとうございます。僕は、全然弾けなくて…」と直斗先輩は言い訳をしながら、ギターの弦を軽くつま弾く。
「大丈夫、少しだけ弾いてみてください!」さきが急いで言う。さきはその瞬間、どうしても直斗先輩に楽器を触ってもらいたかった。なぜなら、楽器を通して直斗先輩との距離が少しでも縮まるような気がしたからだ。
「ほんとに、少しだけね。」直斗先輩はつま弾いた音に少し笑って、恥ずかしそうに目を伏せた。その笑顔を見たさきは、ますます胸が高鳴った。
その瞬間、さきは思わず笑ってしまった。直斗先輩がギターを弾く姿が、あまりにもぎこちなくて可愛らしかったからだ。真面目な先輩が、ちょっとしたミスをするたびに、部室が和やかな雰囲気に包まれた。
「やっぱり、直斗先輩も可愛いところがあるんですね!」藤本が大きな声で言った。
「うるさい!」と直斗先輩は顔を赤らめながら言うが、その顔もどこか嬉しそうだった。直斗先輩が笑っている姿を見て、さきは思わず安堵の息をついた。
結局、直斗先輩はその後、少しだけギターを弾いたり、ドラムを叩いてみたりして、軽音楽部の雰囲気に触れていった。最初の堅苦しさはすっかりなくなり、和やかな時間が流れた。直斗先輩も徐々にリラックスし、周りの部員たちと打ち解け始めていた。
その日の練習は、普段よりも少し楽しい雰囲気だった。さきは、直斗先輩と一緒にいることで、何だか心が温かくなるのを感じていた。彼の真面目な態度が、自分にとっての安心感になっているような気がしていた。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです。」帰り際、直斗先輩は微笑みながら言った。
「また、いつでも来てくださいね!」さきが元気よく返す。
「うん、また来るね。」直斗先輩は軽く手を振って、部室を後にした。
その後、さきは直斗先輩が軽音楽部に来ることで、彼に対する印象が変わったことを実感していた。真面目なだけではなく、少しドジな一面や、意外な一面を見せてくれる直斗先輩。さきはその姿に、ますます憧れを抱くようになった。
そして、次回の練習では、直斗先輩がまた来てくれることを心から楽しみにしていた。部員たちも、直斗先輩がこれから頻繁に顔を出してくれることを期待していた。そしてその日が来ると、軽音楽部の中に新たな絆が生まれるのを感じていた。
──そして、そんなふたりの絆は、少しずつ強く深くなっていくのだった。
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