無感の街

立志源

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最終章

沈黙する世界

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何も、感じなかった。

朝か夜かもわからない。
起きているのか、眠っているのかも、曖昧だった。

呼吸をしている。
たぶん。
肺が動いているかどうかの感覚は、すでにない。

鼻孔を抜ける空気の匂いもない。
湿度も、温度も、感知できなかった。

口に水を含む。
水の重み、冷たさ、味……すべて失われていた。
飲み込んだのかどうかさえ、わからなかった。

---

腹は空いていない。
だが、満たされてもいない。
空腹も、満腹も、ただ“過去にあった言葉”としてしか浮かばない。

ベッドに横たわる。
視界はただの闇。
音もない。
風もない。
肌の上に世界が触れてくる気配もなかった。

---

“言葉”を考えようとする。
何かを思いつこうとする。
だが、思考が生まれなかった。

「今日」という言葉が、形を持たない。
「自分」という輪郭も、すでに崩れている。

言語が、内面から消えていく。
語彙ではなく、“語るという機能”そのものが失われていく。
考えることが、もうできない。

---

静かだった。
世界が、沈黙のまま広がっていた。
音も、像も、匂いも、温度も、感触も、味もなかった。

それでも、自分はそこにいた。
いる、はずだった。

ただ、それを確かめる手段が、一つも残されていなかった。

---

時間が、意味をなくした。
昨日も、今日も、明日も、区別できなかった。

日記の文字を、目で追うことができない。
書くことも、もうできなかった。
ペンを持っているかどうかさえ、わからなかった。

---

最後の瞬間。
言葉のない思考が、ひとつだけ残った。

……「無」。

---

何もなくなった。
感覚も、記憶も、音も、輪郭も。
ただ、存在しなくなった。

それが、
“沈黙する世界”の終わりだった。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

はむ
2025.04.16 はむ

えっ、すご。
めちゃくちゃ純文学の文体だと思います。重厚感がありますが、おしゃれな文章です。臭いに着目したのは、今後明らかになるのでしょうか。
作風や今後の展開も楽しみにしています。

2025.04.16 立志源

はむ様
あたたかい感想ありがとうございます。
大変励みになります。
今回はにおいだけではないので、そちらも楽しんで頂ければと思います。
全五章で作っておりますので、よろしくお願いいたします。

解除

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