上 下
2 / 4

第2話 ダメ男志望のテンドウさん

しおりを挟む
「……そう言えば、テンドウ。
お前も『悪役コース』なんだっけ?」

放課後の帰り道。

ふいにこの前の会話を思い出したサトリは、手に持つ『血の付いた斧』をブンブン回しながら尋ねた。

彼曰く、内に燃え上がるジェイソン愛が殺人鬼の必須アイテム、いわば『相棒』でもある斧を離す事を許さないのだという。

「そうですよ。!
私もサトリさんと同じ、悪役コースです。
いやぁ、嬉しい偶然もあったものですね?
親友と同じコースになれるとは!」

「……なにが親友だこのバカヤロー。
ただの腐れ縁でしょうが」

そう言って否定しようとするサトリ。

しかし確かに声の中にある『嬉しさ』を、彼は隠し切れていないようであった。

そう、彼はツンデレなのである。

「……どんな役を志望してるんだ?」

慌てて話題を変えようと、サトリがテンドウに尋ねる。

すると待ってましたとばかりに、先を歩いていたテンドウは満面の笑みでこちらに振り返った。

「私はサトリさんみたいな『力』や『恐怖』で読者にインパクトを残すような路線の悪役ではなくて、『喋り』で読者を『イラつかせる』ような路線の悪役になりたいんです」

「ふーん。となると、詐欺師とかか?」

「あ! ちょっと惜しいですね。
正解は、『ダメ男』です」

「ダメ男ぉ? なんだいそりゃ」

サトリは分からない、といった様子で首を傾げた。

なのでテンドウが説明に入る。

「ほら、よくドラマとかにいるじゃないですか。
女主人公に内緒でこっそり浮気していたゲス男とか、男主人公の恋路を邪魔するウザい先輩とか。
ああいった路線ですよ」

どうやらその説明に納得したようであった。

サトリは手を叩いてうなづく。

「あー! いるいる!
お前、『ド』クズじゃんか(笑)
ああいう感じの悪役になりたいの?
確かにイケメンだし、向いてるかもしれないね!」

「いやいや、ドクズって…………。
サトリさんの役みたいに『人を殺したり』はしませんよ?
クズ度合いで言ったら、そっちの方が上なんじゃ」

「それで?
どうしてそんな路線の悪役になりたいの?」

自分にとっての都合の悪い事は、サトリに聞こえないようである。

なんとも都合の良い耳であった。

テンドウは苦笑をしながらも、話し始める。

「私、前にも話したと思うんですけど、そう言ったダメ男がよく登場する、修羅場が多い物語が大好きなんですよ」

「いや、初めて聞いたよ……」

「でもそういう物語の魅力って、そんなダメ男に振り回されながらも、なんとか事件を解決しようとする『女主人公』にあると思うんですよね。
………でもですよ!
前にも話したと思うんですけど、僕はそんな物語の中では『ダメ男』の方に一番の魅力を感じてしまうんです!」

「いや、それも初耳なんだけど……」

「だから私は、そんなダメ男になりたいと思った!
でも、私にはとあるコンプレックスがあるんです。
それは、『女性と話せない事』!
ちなみに、この話も前にしましたよね?」

「いや、初めて……」

「私の夢を聞いた時、もちろん周りの人間は反対しました。
そりゃ、そうですよね…………。
私の中での気軽に話せる異性といえば、そんなの『母親』くらいですもん。
でもっ! それでも私は『ダメ男』になりたい!
このコンプレックスを何とか克服したい!
そして、女という女をたぶらかして、たぶらかして、たぶらかし尽くしてやりたいんです!」

「いや、その言い方よ…………」

サトリはツッコミ疲れたみたいだった。

なんだかぐったりしてしまっている。

そんなサトリに向かって、最後にテンドウはこんな言葉で説明を締めた。

「まぁ、私たち。
やっぱり似た者同士ですよね!
同じ悪役に憧れたもの同士!
路線は違えど頑張りましょうや!」

そう言って固くサトリの手を握りしめるテンドウ。

そのキラキラと希望に輝くテンドウの顔を見て、サトリは思った。

——お前なんてまだいい方さ。
俺なんて、両親と兄妹以外の『人間』と話せないんだからな…………。

遠くの空で、カラスの鳴く声がした。

もう日が暮れ、夜になり、1日が終わる。

果たしてこんな欠点を抱えた俺たちは、本当に悪役になれるというのだろうか。

サトリは頭が痛くなってきたのを感じた。


————コース選択まで、あと2ヶ月。

——————卒業試験まで、あと1092日。













しおりを挟む

処理中です...