27 / 48
第五章 伯爵と元男娼、心通う
第二十七話「身勝手な理由」
しおりを挟む決して起こり得てはいけない万が一のことを考えたとき、この秘密を知っていた者への罰がひどく重いものであることは想像に容易い。
そんな未来を想像すれば、自然と身体が震えだす。
それでも、『君に知られてよかった』とまで言ってくれたロイドを想えば、不思議とノアの心から恐怖心が和らいでいった。
「…それから、もうひとつ。私はノアに、まだ話していないことがある」
「―――、」
先ほどまでの表情とは一変し、急にロイドの口調が重くなる。
「…これを聞けば、君はこの屋敷から出て行きたくなってしまうかもしれない…」
「ロイド様、私は――」
「決して君の忠誠心を疑っているわけではないんだよ。ただそれくらい私は、身勝手な理由を君に押し付けようとしているんだ…」
「………」
――何があっても、ロイドのために尽くすという気持ちが変わることはない。
それを告げようにも言葉を遮られてしまったノアは、ロイドの話を聞いてからもう一度そう告げようと決めていた。
「…私がノアを正式に雇いたいと言ったあの日、君は私にこう聞いた。『なぜ俺なんですか?』、と。――そして、私はこう答えた。『表通りの人間とか裏通りの人間だとか、それで扱いが変わるなどおかしなことだ』、と。覚えているか?」
「――はい。そのあと、ロイド様が裏通りの出身だったと聞かされたときには、思わず自分の耳を疑いました」
「裏通りの人間が表通りで普通に生きていくなど、奇跡と呼べるほどに稀なことだ。あの日の私の答えに偽りはない。奇跡にも近い機会をもっと増やすことができるならと、私はノアをここへ連れて来たんだ」
「………」
「…ただその想いとは別に、身勝手な理由もそこにはあった」
「――ロイド様、」
まるで懺悔をする者のように顔を苦しげに歪ませるロイドを気遣って、クリスがそっと声をかける。
それでも自分は大丈夫だと言うように手で彼を制し、首を左右に振ってみせれば。やはり苦しげな表情のまま、ロイドはノアへと視線を戻した。
「私はいつか、タイラー家の当主として妻を娶ることになるだろう。それは私の秘密が知られてしまう危険を伴うが、やはりタイラー家の繁栄を考えれば娶る方がずっといい。……ただ、こんな私とでは、妻は子を為すことができない」
ただ、世継ぎのことが問題なのであれば、タイラー伯爵夫妻のように養子を迎えるという手もあった。
――それでも、ロイドが納得しないのは。
「妻を娶るということは、その者にタイラー家の重荷を背負わせてしまうということだ。ならば私は、その者にせめてできる限りの望みを、幸せを、与えたいと思うんだ…」
ロイドの妻となれば、子を宿してやることはできない。
女として生まれたその身体を、満足させてやることもできない。
与えられるのは伯爵夫人という称号と、万が一のときの重い罪だけ。
「…そこで私は考えた。『ロイド』と取って代われる『男』がいればいいのだ、と」
その考えは内容が違うだけで、他者に辛い肉体労働を強いる者と同じ考えだった。
「…その為にはどんな女性でも気に入るような美貌を持ち、かつ貴族社会で生き抜けるほどの賢さを持つ『男』が必要だった――妻と子を為すためにも、彼女を女として満足させるためにも」
「――ロイド様の『代理』として、特に客を取っている者を推薦したのは私だった」
自分の考えを口にすることで、改めてそれが恐ろしいことだとロイドが小さく呟く。
そして、そんな姿を庇うように口を開いたのはクリスだった。
「そういう者であれば夜伽に慣れていて、どのような女性でも相手ができると判断したのだ」
「………」
2
あなたにおすすめの小説
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
【完】ベッドの隣は、昨日と違う人
月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、
隣に恋人じゃない男がいる──
そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。
こんな朝、何回目なんだろう。
瞬間でも優しくされると、
「大切にされてる」と勘違いしてしまう。
都合のいい関係だとわかっていても、
期待されると断れない。
これは、流されてしまう自分と、
ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。
📖全年齢版恋愛小説です。
しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。
📖2026.2.25完結
本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。
気になった方はぜひそちらもどうぞ!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる