男装伯爵は元男娼に愛される

秋乃 よなが

文字の大きさ
28 / 48
第五章 伯爵と元男娼、心通う

第二十八話「永遠の忠誠」

しおりを挟む

 ノアは静かに二人の話を聞いていた。

 男娼であれば、好きでもない者を相手にすることには慣れているだろうし、いい種馬にもなるだろう。

 確かに道徳的には疑問だが合理的な考えではあると、ノアは思っていた。

 そして、シャーロットと初めて顔を合わせた日。彼女の印象をクリスではなくノアに聞いた理由は、このことが関係していたのかもしれないとも同時に思った。

「…気を悪くするようなことを言っているのは、重々承知している。だが、秘密を知った以上、私は君を手放すことはできない。君がそんなことをしたくないと言うなら…する必要はない。しかし、それでも君をこの屋敷から出すことはできないんだ。――勝手なことばかり、すまない…」

 そう言って大きく肩を落とし深く俯いてしまったロイドの背を、エマが慰めるように撫でる。

 華奢なロイドの身体がさらに小さく見えて、ノアは想いを改めるように、そっと目を一度閉じた。

「――ロイド様、お顔を上げてください」

「―――、」

 躊躇う素振りを見せて、ロイドがゆっくりとその顔を上げる。

 交わった空色の瞳は怯えた子供のように揺れていて、そんなロイドを安心させるように、ノアは出来るだけ優しく見えるよう微笑んで見せた。

「そんなお顔をなさらないでください。私は別に怒ったりしていませんし、逃げ出したりもいたしません」

 笑みを浮かべたまま、ノアはベッド脇に膝を着く。

「お手をよろしいですか?」

「……ノア?」

 戸惑いながらも躊躇いがちに伸ばされるロイドの手を、ノアはしっかりと握った。

 そして、少しも捉え違いがなくロイドの心に伝わるようにと、その空色の瞳を真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「私は、今の生活をとても気に入っています。そして、この生活を与えてくれたのはロイド様、他ならぬ貴女様です。貴女様がタイラー家の為に私をお使いになると仰るなら、私は喜んでこの身を差し出しましょう」

「―――、」

 ノアの言葉に、ロイドが驚きに息を呑む。

「私が貴女様のお役に立てるなら、それがどんなことでも私には幸せなことです。貴女様の為に尽くせるということが、何よりも幸せなのです」

「ノ、ア…」

 ノアの真っ直ぐな言葉に、ロイドの声が震える。

「貴女様は私に、非道徳的なことをさせると心を痛めてくださった。私には、それだけで十分なのです」

「っ、」

 あの日ロイドに拾われたお陰で、今の自分は人間としての尊厳を取り戻した。

 金の為に、と理不尽なことに耐える必要もない、温かな場所を与えてくれた。

 それを思えば、伯爵夫人になるだろう女一人を抱くことなど、苦痛でもなんでもない。

 むしろ、それがロイドの支えになるならば、喜んで『代理』を務め上げてみせようとさえ思うのだ。

「ロイド様…」

 そんな想いを込めて、ノアはロイドの名を呼ぶ。

 それが伝わったのか、まるで込み上げる熱を押し留めるように、ロイドがきつく瞼を閉じた。

 今にも泣き出しそうなロイドの表情を見るのは二度目で、それでも泣くまいと、強くあろうとする彼女を大切にしたいと、ノアは思った。

「――私はロイド様に、永遠の忠誠を誓います」

 そうしてロイドの薄い手の甲に口づけをひとつ落とせば、弾かれたようにロイドがノアの首に腕を回した。

「っ、ありがとう…っ、ノア…!」

「…それは私の台詞です。ありがとうございます、ロイド様」

 ノアの首元にしっかりとしがみ付くロイド。

 小さな子供をあやすように優しくその華奢な背を叩けば、より一層、強くも弱いこの人を守りたいとノアの心が強く訴えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、 隣に恋人じゃない男がいる── そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。 こんな朝、何回目なんだろう。 瞬間でも優しくされると、 「大切にされてる」と勘違いしてしまう。 都合のいい関係だとわかっていても、 期待されると断れない。 これは、流されてしまう自分と、 ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。 📖全年齢版恋愛小説です。 しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。 📖2026.2.25完結 本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。 気になった方はぜひそちらもどうぞ!

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...