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01.アッシュ、お菓子をあげる
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特別ダンジョン・ハロウィンは、秋を司る女神ダミアが作ったと噂されるこの秋限定で出現したダンジョンだ。
豊穣を司る女神ダミアは女性らしい豊かな身体をしており、長い髪は見事な紅葉のグラデーションカラーで鮮やかで華麗だ。瞳は秋の果物の色で光の加減で色が変わるといわれる、絶世の美女だ。──というのが神殿の女神像や壁画、聖典に記されている。
これまで数多の芸術家や吟遊詩人が賛美し続けてきた、麗しい女神のひとりだ。
この天空にそびえる塔である特別ダンジョンの入り口にも、女神ダミアの華やかな姿絵が描かれていた。
ダンジョンの最上階にあるのは霊樹の王冠。手にした者の願い事をひとつだけ女神が叶えてくれる。
この最上階と霊樹の王冠を目指すは、イケメン勇者のパーティー。そのメンバーとして、上級狩人のアッシュはこの塔にやってきた。
霊的な負のエネルギーが多いこのダンジョンの敵は、アンデッド系が多い。もちろん、カボチャやカブ頭の火の玉小僧も序盤にわんさか出てきたし、ゾンビはもう見飽きるくらいエンカウントし続けている。
塔の終盤、最上階が近くなるにつれ、リッチやレイス、デュラハンなどの神聖魔法や炎系魔法が有効な上級アンデッドや幽鬼とのエンカウントも増えた。物理攻撃が多いアッシュは、後方支援チームを守りつつ魔導具の炎の弓矢で援護射撃をしてした。
パーティーの魔法を使う前衛メンバーの疲れが色濃くなった頃、上級ゴーストのシーツオバケが出てきた。
シーツオバケはシーツをかぶっただけのゴーストだ。かぶっているシーツから覗く顔と出ている足から、女の子だと判別できた。
この一見おちゃめな(?)アンデッドは、神の加護の威力を弱め物体を腐らせる呪いのパワーを秘めている。呪われた食べ物は腐ってしまうから、わりとムカつく部類のアンデッドだ。
「ばぁっ。オバケちゃんですよー!」
疲れている女賢者の代わりに勇者が魔法の詠唱をしながら剣を抜いた──のを、アッシュは止めた。
「単体で出てきたくらいの敵は見逃してやれよ。それにまだ少女じゃないか」
「ゴーストに少女も何もないと思うけどね」
攻撃をやめて剣をしまった勇者は、アッシュをぎろりと睨んだ。雇い主に盾突いたのは後金に響くかもしれない。けれども、初恋の相手に似ていたシーツオバケが斬られるのを見たくなかった。
それに、パーティー全体の士気が下がっている連戦の今は、無駄な体力と魔力を使うのは避けた方がいい。アッシュの上級狩人の勘がそう言っている。
「ほら、手ぇ、出しな」
アッシュはサブポーチに入れていた飴やキャラメルなどを、シーツオバケに持っているだけ手渡した。他人の空似だし、初恋の相手の今現在は人妻として宿屋の元気な女将をしている。要するに好みの原点であって、ロリコンではない。たぶん。
シーツオバケは水晶玉の目をキョトンとさせてアッシュを見上げる。
「オバケちゃんにくれるですか?」
「ああ、やるよ。オバケはお菓子が好きだろ? トリックオアトリートってな。それから、危ないからもう人間の前に現れるなよ」
笑いかけようとしたが、シーツオバケは霧のように掻き消えた後だった。しょうがないから、相棒の治癒師・ロジャーに笑いかけてやったら気味悪がられた。
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最上階へ到達の間際、パーティーが離散する大きな出来事が降りかかった。
女神官が妊娠していた。相手はリーダーの勇者だ。しかし勇者は王女と結婚が決まったばかりであった。昨夜は女戦士と共に寝て、その前は女魔法使い、女武闘家、女薬師と女楽士の双子と。女賢者は愛人でもいいからと大泣きをしている。ド修羅場到来である。
雇われたアッシュは後金さえ払ってもらえればそれでいいので、こんなド修羅場はどうでもよかった。ダンジョンのラストが近いし、勝手にお宝をもらってトンズラをしようと、ロジャーに話を振った。
ロジャーは親指を立てて機嫌よく言う。
「いいぜ! オレ、このダンジョン攻略したら幼馴染みと結婚するんだ! 霊樹の王冠で金持ちになるか高額で売りつけたいんだぜ!」
そうしてふたりでパーティーを抜けたのはいいが、モンスターボックスのトラップにひっかかり、ロジャーと離ればなれになってしまった。
まぬけなロジャーが立派な死亡フラグを立てたにせよ、巻き込まれて最悪だとアッシュは毒づいた。
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