世界が変わるその瞬間

ヘンテコ・リン

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08 破門

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打ち込んで来たのを、俺は向かい受ける。
女子とは思えない強い打ち込みだった。

いや、迫り来る気迫も普通ではない。


今まで、見た事のない旦開野の様子に戸惑いを隠せないでいた。




――――― だが、まだまだ甘いっ!!



打ち込みは確かに凄い気迫で、まだ剣が拙い所はあれど、同い年ぐらいの子なら簡単に勝てるぐらいの実力はある。

けれども、俺にはまだ及ばない。


「ほらほら、どうした!!足が止まってるぞ!」


俺の打ち返しに少し圧される旦開野
鍔迫り合いに持ち込んで、旦開野を見た。


「こういう時は、相手を睨め!気迫で負けるな!!」
「はい!」


そう言われて、俺を睨む。
女子とは思えない睨み、綺麗な顔立ちをしているが…



…………こいつは、もしかして









世界が変わるその瞬間

08 破門




龍之介と旦開野が、稽古をしていた。
師範である父や龍之介は普段はとても優しいが、稽古の事になると厳しくなる。

私がよく知っている。


「ほぉー、旦開野ちゃん、龍兄の稽古について行ってるな」


私もそれを見た。
旦開野は初めてまだ三ヶ月程しか経っていないというのに、本当に成長が早い。

やはり、男子だからなのだろうか?

なんて、思いながら、二人を見ていた。





でも、何故か…

けど、何処か…





違和感がある。




旦開野の気迫は鬼気迫るものがある。
それは旦開野の舞にも、その部分があるから、そう言ったものの違和感ではない。


では、なんだろう。


私はこの後も二人の打ち合いを見ていた。
夕餉が終わった後、自主稽古の時も、旦開野を見ていた。


「どうした?そんなに旦開野が気になるか?」


とニヤニヤしながら現れた龍之介。
私はそれにため息吐きながら、旦開野を見直した。


「確かにあの子美人だもんなぁ~…今十三だろ、後数年で絶対絶世の美女になるぜ」
「それは思うが、…俺が言いたいのは違う」
「何がだよ?」


龍之介の言葉に、私は返せないでいた。
何が、言われても、何とは返せない。


私が言いあぐねていると、ちょっとため息の様に一つ息を吐いて龍之介が言った。


「あの子剣が、…瞳が、…心が、乱れている」
「乱れる…?」
「まぁ、無理もないだろう。旦開野の母上さん亡くなったんだしな」


と、悲しそうに言う龍之介。


「…俺達がしてやれることは、稽古に集中させて少しでも忘れさせてやる事だけだろ」


龍之介は立ち上がり、私の頭を乱暴に撫で立ち去った。
その背を見送り、また、旦開野…いや、毛野を見ていた。


真っ直ぐ前を見詰めるその瞳






――――― 「あの子剣が、…瞳が、…心が、乱れている」





心が乱れている…







――――― 在らぬ罪着せられて一家惨殺されてん。




撫子さんの言葉も思い出した。
そして、一抹の不安が頭をよぎった。




――――― そうか、毛野は…



でも、それを振り払う様に頭を振った。
いや、違う。…そんなこと、ない。



「師範代?」


声が聞こえ、顔を上げるとそこには旦開野がいた。


「どうか、しました?顔色、良くないですよ」


嫌、と否定し大丈夫と答えた。


「…全くそうは見えませんが。」
「いや、本当に大丈夫だ。……少し、風に当たる」


そう答えて、私はいつもの縁側に行った。
何故か、それに旦開野も付いてきて、一緒に座る。


「苦しいなら、言って欲しい。寂しいとか辛いでも、一人で抱えないで欲しい」


練習する門下生達には見えない様に、毛野は手を握る。
私は何も言わない代わりに、握り返して返事をする。



「出来るのであれば、このままこの瞬間が、続いてくれたら良いのに。」



夜空を見上げる私、毛野が私を見ているのがわかった。





――――― あぁ、なんだか…泣きそうだ。





私は涙を見せるのが嫌で、そのまま手を離し、自室へ向かい先に寝た。
そうして、毛野と過ごす日々が終わりを告げる。


一座が次の土地へ向かう事になった。

その日の前日、道場では旦開野の旅立ちの宴を催していた。
何人か、一座の方も呼んだりしながら、手料理を振舞いながら、時間は過ぎて行った。



「また、ここなんですね。師範代」


ひと段落して、全員が酔い潰れ、寝落ちをしている中
起きていた毛野が私の隣にやってきた。


「言った事、嘘じゃないですよ」
「言った事?」


そして、毛野は私の手を握る。






「おれが、貴女を女にしたい」





この前の言葉を同じ様に、私に言った。
私は顔が熱くなっていくのがわかった。


「返事を、聞かせて下さい」




私は答えない。
答えてしまうと、




きっと




もっと、






貴方が欲しくなる。





私は自分の自制心に、今一度問いかけ、




そして、毛野に竹刀を渡した。


「?」


私は、毛野に向かい合った。



「旦開野…いいえ、犬坂毛野胤智、貴方を破門します」
「!!?…な、何故…ですか?」


信じられないと言う眼で私を見る毛野。
私は庭に立ち、庭から縁側に立つ毛野を見た。





「貴方の瞳は、野望に燃え、復讐の炎に飲み込まれている。」




竹刀をグッと握った。




「ウチの剣は、奪うためにあるわけでも、殺すためにある訳でもない!!」
「…、!」



その言葉に、顔を逸らす毛野



「貴方が人を殺すために、この流派を持つ事は許されない。」



毛野も同じ様に、グッと竹刀を握った。





「そんな物のための剣なら、捨ててしまいなさい!!」





私のその言葉に反応して、毛野は飛び出し私に打ち込んできた。



「貴女に、…貴方に!!何が、わかりますか!?」


子供とは思えない、力のある打ち込みに、私は受けるので精一杯だった。


「母が死に、自分の生い立ちを知った!!貴方達の様に平和惚けしてる生活ではないんだ!!」
「あぁ、…知ってるよ!!似た様な生活をしていたって、私と貴方では、誓いの重さが違う事ぐらい!!」


私も負けじと反撃に出る。


「じゃあ、何故!!」
「貴方が受けた傷は、私が癒す事なんて出来ない。それくらい、わかっている。でも、私にだって誇りはある!!」


今度は、私の力一杯の打ち込みに、膝を着きそうになる毛野



「生まれた頃からこの道場で育ち、剣を磨いてきた。それが、貴方の復讐に使われるなんて、私は嫌だ!!」


そんな事のために、私はこの道場を守ってきた訳ではない。
誰かを殺すための、剣を磨いてきたわけじゃない!





「貴方にだって、その誇りを穢す事は許さない!!」



私の一撃で、毛野は後ろに飛ばされる。
地面に叩きつけられた衝撃で、痛みを堪える。


「立ちなさい、毛野!!貴方が勝てばここの門下生として送り出します。
ですが、勝てなかった時は、貴方は破門です!すぐにここを出て行きなさい!!」


竹刀を杖に立ち上がり、私に竹刀を向けた。
そして、その打ち込みは夜が明けるまで続いた。











――――――――――




俺がそれに気がついたのは、空が白み始めたぐらいだった。
昨日は宴で酔い潰れ、道場で皆で雑魚寝していた。

フと眼が覚めると、外で打ち込みの音や掛け声が聞こえる。

あいつがいつもいる縁側の庭で、あいつと旦開野が稽古…いや、試合をしていた。


「ま、まだまだぁ!!」


ボロボロになっても、立ち向かう旦開野。


汗が滴る。



あいつは、そんな様子の旦開野を止める事なく、続ける。



――――― おいおい、こりゃ…一体、



だが、二人の尋常ではない様子に、少し悟った。
門下の連中も起き、一座の撫子さんも起き、その様子を見ていた。







そして、とうとう






決着がついてしまった。




あいつが打ち込み、振り上げた一発が、旦開野の竹刀を弾き、手から離れた。
悔しそうに俯く、旦開野。



「……っ、…………貴方を破門します。」



絞り出す様に言った、あいつに言葉に一瞬ビクッと反応を示した旦開野。
そして、あいつの横を通り過ぎる。


「待ちなさい!!」


あいつは呼び止める。


「剣とは、毎日が修行であり、毎日の稽古が身を結びます。それは、貴女達一座の芸と同じでしょう。…………持って、行きない。」


自分の竹刀を、旦開野に渡す。
悔しそうにしながらも、それを受け取る。

そして、すぐ背を向け走り出そうとした旦開野に、声をかけた。


「最後に、一つだけ……………」



言葉を止め、息を吸った。









「死なないで!!」






膝から崩れ落ちる




「どうか、死なないで…」




旦開野はそれを見て、涙を堪えながら答えた。




「はい!!」




そう言って、旦開野は振り返る事なく走って出て行った。
泣き崩れるあいつを見て、隣りに寄り添う様に、肩を抱いた撫子さん。



「ホンマ、ありがとう…」


その一言だけ言って、彼女は旦開野がいなくなった方へ歩いて行き、他の娘さんも追いかける様にいなくなった。


ポツポツと雨が降って、直ぐに大振りになった。
あいつはそんな雨の中、大声で泣いていた。








雨は、まだ





止まない。


















そして、庭の片隅に何かが植えられていた場所から




小さな芽が出ていた事に気づくのは、









もう少し、あと。











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