竜とRPGと乙女と

紙縞コウキ

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はじまりはじまり。

平和な時間。

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 ころころ、ぴとっ、すりすり。
 すりすり、ころころ、ぴとっ。
 広い室内、絨毯の上で黒い子猫と黒い子犬がじゃれあっている。

「おやすみっていいよねー」
「おやすみっていいねー」

 訂正。黒い子猫と子犬の着ぐるみパジャマを着た幼児二人が絨毯の上でころころしていた。

「それでリン、ご機嫌は直った?」
「んー」
 それはそれ、これはこれと、リンフィスはラグフォードに擦り寄った。

 先日のダンジョン探索。あの後起きたリンフィスが見たのは一面の焦土だった。地形も眠る前と比べるまでもなく大きく様変わりをしていた。
 リベンジどころではない、止む無く彼等はダンジョンからの退出を余儀なくされたのだ。
 ちなみに元凶共は、視線だけで射殺せそうな笑顔の美人女性『風の大天使ガブリエル』に揃って正座で説教され。
 雷神トールはそのまま首根っこ掴まれて退場。アスタロトとルティーヤーも一度は姿を消したが、リンフィスがアトライア公爵家に戻ると、何故かアスタロトがリンフィス専属執事に転身していた。ルティーヤーも”影”の一人になっていた。
 二人とも、何故違和感なく其処に居るのか。
 悪魔達の間では執事と護衛役が人気らしい。何故なんて聞かない。絶対聞かない。

 そんな訳で、ご機嫌斜めなリンフィスは、ラグフォードにしっかりぴったりくっついて離れなかった。
 小さい子供って不満あると母親から離れない時あるよね。

「リンさま、ラグさま。お茶の準備できましたよ」
『はーい』
 器用にも猫耳と犬耳をぴくりと動かし、二人はいそいそと起き上がった。
「ふふー。料理長からジャムをたっぷりもぎ取りました!」
「すごかったですよ、こいつのおねだり」
「そうそう。ああいうのをあざといって言うんでしょうね」
 お茶の準備をしていたメイドの恰好をした人族の少女と、騎士見習いの恰好をした竜族の少年達も、一緒のテーブルに着く。
 栗色の髪の少女の名はアリシア、赤い髪の少年の名はレナード、銀の髪の少年の名はマーキス。
 三人の年の頃はリンフィスやラグフォードと同じくらい。彼等は身元も人格もしっかりとした護衛兼幼馴染として、ドラグナー皇国とアトレ王国から選別された。
 権力に擦り寄りたい大人たちの思惑? そんなもの、アトレの第一王子が徹底排除するに決まっているじゃないか。
 裏ギルド『死者の翼』が大活躍だった、と言っておこう。


「俺達も、10歳になればギルド登録出来るから一緒に狩りへ行けるようになるんですけどねー」
「あと数年お預けなのは残念ですが、それまでにしっかりと基礎を磨きます」
「私も、侍女長のようなデキる女を目指すのです!」
『無理だろ』
「そんなことないですよーだ!」
 相変わらず三人とも仲良いなあとにこにこと見守る。あ、このクッキー美味しい。
「アリシアは来年から淑女教育が始まるから、ちょっと大変かもね」
「礼儀作法に厳しいって聞いてるから、レナードとマーキスも捩じ込んでおこうか」
『え゛』
『大丈夫、兄上方の側近候補達も通った道だから』
 基本的に、ドラグナー皇国では側近候補が学ぶ礼儀作法の教育は厳しい。
 ゼルディアスの側近候補が教育を始めて数年経った今でも、時々生ける屍な体を見せることがあるくらいには。
「嫌そうな顔をしてるけど、僕とリンはそれに加えて王族としての義務を叩き込まれてるんだよ?」
「今度一緒に微笑みを保つ耐久3時間やってみる?」
『遠慮します』
 それって義務なの? という内容も混じっていたりするが、そういうものに限って中々に社交界で必要なスキルだったりするのだ。侮れない。

「そういえば」
 リンフィスはふと思い出した。
「今度、アトレとドラグナー共同で一週間の特別教育があるの知ってる?」
「何それ?」
「あ、私知ってます。リンさまがお勉強されてる『皇子妃教育』を一週間、希望する令嬢達が体験するのですよね」
「そう。兄様達があれこれやったのに、まだごねる人達が居るんですって」
 この辺の情報はヤトから貰った。甘やかされて育った令嬢ほど、私の方が皇子妃に相応しいなどと言っているのだとか。
「だから、私が受けてるのと同じ教育を一週間”体験”させることになったみたい」
「リン様と同じ教育を?」
「え、それ一週間も保つの?」
 無理だろ、と子供達の表情は言っている。
 リンフィスも重々しく頷いた。
 前世の記憶があってゲームチートを持っているリンフィスでさえ、相当の忍耐と気力と記憶力を要するのだ。同じことが忍耐力の無いごく普通のお子様令嬢達に出来るとは思えない。
「初日で大半が辞めるんじゃないですか?」
「むしろあれを一週間続けられるなら、アトレの王子達の婚約者候補に成れるよね」
「そうですね」
「面倒なので全員とっとと挫折して欲しいですね」
 一同は揃ってアリシアを見た。
 ふわふわした笑顔で相当な毒を吐いた気がする。

 アリシアがギルドカード持った時、『毒舌』がスキル表示されるんじゃないかな、とリンフィスはひっそりと思った。
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