12 / 15
はじまりはじまり。
平和な時間。
しおりを挟む
ころころ、ぴとっ、すりすり。
すりすり、ころころ、ぴとっ。
広い室内、絨毯の上で黒い子猫と黒い子犬がじゃれあっている。
「おやすみっていいよねー」
「おやすみっていいねー」
訂正。黒い子猫と子犬の着ぐるみパジャマを着た幼児二人が絨毯の上でころころしていた。
「それでリン、ご機嫌は直った?」
「んー」
それはそれ、これはこれと、リンフィスはラグフォードに擦り寄った。
先日のダンジョン探索。あの後起きたリンフィスが見たのは一面の焦土だった。地形も眠る前と比べるまでもなく大きく様変わりをしていた。
リベンジどころではない、止む無く彼等はダンジョンからの退出を余儀なくされたのだ。
ちなみに元凶共は、視線だけで射殺せそうな笑顔の美人女性『風の大天使ガブリエル』に揃って正座で説教され。
雷神トールはそのまま首根っこ掴まれて退場。アスタロトとルティーヤーも一度は姿を消したが、リンフィスがアトライア公爵家に戻ると、何故かアスタロトがリンフィス専属執事に転身していた。ルティーヤーも”影”の一人になっていた。
二人とも、何故違和感なく其処に居るのか。
悪魔達の間では執事と護衛役が人気らしい。何故なんて聞かない。絶対聞かない。
そんな訳で、ご機嫌斜めなリンフィスは、ラグフォードにしっかりぴったりくっついて離れなかった。
小さい子供って不満あると母親から離れない時あるよね。
「リンさま、ラグさま。お茶の準備できましたよ」
『はーい』
器用にも猫耳と犬耳をぴくりと動かし、二人はいそいそと起き上がった。
「ふふー。料理長からジャムをたっぷりもぎ取りました!」
「すごかったですよ、こいつのおねだり」
「そうそう。ああいうのをあざといって言うんでしょうね」
お茶の準備をしていたメイドの恰好をした人族の少女と、騎士見習いの恰好をした竜族の少年達も、一緒のテーブルに着く。
栗色の髪の少女の名はアリシア、赤い髪の少年の名はレナード、銀の髪の少年の名はマーキス。
三人の年の頃はリンフィスやラグフォードと同じくらい。彼等は身元も人格もしっかりとした護衛兼幼馴染として、ドラグナー皇国とアトレ王国から選別された。
権力に擦り寄りたい大人たちの思惑? そんなもの、アトレの第一王子が徹底排除するに決まっているじゃないか。
裏ギルド『死者の翼』が大活躍だった、と言っておこう。
「俺達も、10歳になればギルド登録出来るから一緒に狩りへ行けるようになるんですけどねー」
「あと数年お預けなのは残念ですが、それまでにしっかりと基礎を磨きます」
「私も、侍女長のようなデキる女を目指すのです!」
『無理だろ』
「そんなことないですよーだ!」
相変わらず三人とも仲良いなあとにこにこと見守る。あ、このクッキー美味しい。
「アリシアは来年から淑女教育が始まるから、ちょっと大変かもね」
「礼儀作法に厳しいって聞いてるから、レナードとマーキスも捩じ込んでおこうか」
『え゛』
『大丈夫、兄上方の側近候補達も通った道だから』
基本的に、ドラグナー皇国では側近候補が学ぶ礼儀作法の教育は厳しい。
ゼルディアスの側近候補が教育を始めて数年経った今でも、時々生ける屍な体を見せることがあるくらいには。
「嫌そうな顔をしてるけど、僕とリンはそれに加えて王族としての義務を叩き込まれてるんだよ?」
「今度一緒に微笑みを保つ耐久3時間やってみる?」
『遠慮します』
それって義務なの? という内容も混じっていたりするが、そういうものに限って中々に社交界で必要なスキルだったりするのだ。侮れない。
「そういえば」
リンフィスはふと思い出した。
「今度、アトレとドラグナー共同で一週間の特別教育があるの知ってる?」
「何それ?」
「あ、私知ってます。リンさまがお勉強されてる『皇子妃教育』を一週間、希望する令嬢達が体験するのですよね」
「そう。兄様達があれこれやったのに、まだごねる人達が居るんですって」
この辺の情報はヤトから貰った。甘やかされて育った令嬢ほど、私の方が皇子妃に相応しいなどと言っているのだとか。
「だから、私が受けてるのと同じ教育を一週間”体験”させることになったみたい」
「リン様と同じ教育を?」
「え、それ一週間も保つの?」
無理だろ、と子供達の表情は言っている。
リンフィスも重々しく頷いた。
前世の記憶があってゲームチートを持っているリンフィスでさえ、相当の忍耐と気力と記憶力を要するのだ。同じことが忍耐力の無いごく普通のお子様令嬢達に出来るとは思えない。
「初日で大半が辞めるんじゃないですか?」
「むしろあれを一週間続けられるなら、アトレの王子達の婚約者候補に成れるよね」
「そうですね」
「面倒なので全員とっとと挫折して欲しいですね」
一同は揃ってアリシアを見た。
ふわふわした笑顔で相当な毒を吐いた気がする。
アリシアがギルドカード持った時、『毒舌』がスキル表示されるんじゃないかな、とリンフィスはひっそりと思った。
すりすり、ころころ、ぴとっ。
広い室内、絨毯の上で黒い子猫と黒い子犬がじゃれあっている。
「おやすみっていいよねー」
「おやすみっていいねー」
訂正。黒い子猫と子犬の着ぐるみパジャマを着た幼児二人が絨毯の上でころころしていた。
「それでリン、ご機嫌は直った?」
「んー」
それはそれ、これはこれと、リンフィスはラグフォードに擦り寄った。
先日のダンジョン探索。あの後起きたリンフィスが見たのは一面の焦土だった。地形も眠る前と比べるまでもなく大きく様変わりをしていた。
リベンジどころではない、止む無く彼等はダンジョンからの退出を余儀なくされたのだ。
ちなみに元凶共は、視線だけで射殺せそうな笑顔の美人女性『風の大天使ガブリエル』に揃って正座で説教され。
雷神トールはそのまま首根っこ掴まれて退場。アスタロトとルティーヤーも一度は姿を消したが、リンフィスがアトライア公爵家に戻ると、何故かアスタロトがリンフィス専属執事に転身していた。ルティーヤーも”影”の一人になっていた。
二人とも、何故違和感なく其処に居るのか。
悪魔達の間では執事と護衛役が人気らしい。何故なんて聞かない。絶対聞かない。
そんな訳で、ご機嫌斜めなリンフィスは、ラグフォードにしっかりぴったりくっついて離れなかった。
小さい子供って不満あると母親から離れない時あるよね。
「リンさま、ラグさま。お茶の準備できましたよ」
『はーい』
器用にも猫耳と犬耳をぴくりと動かし、二人はいそいそと起き上がった。
「ふふー。料理長からジャムをたっぷりもぎ取りました!」
「すごかったですよ、こいつのおねだり」
「そうそう。ああいうのをあざといって言うんでしょうね」
お茶の準備をしていたメイドの恰好をした人族の少女と、騎士見習いの恰好をした竜族の少年達も、一緒のテーブルに着く。
栗色の髪の少女の名はアリシア、赤い髪の少年の名はレナード、銀の髪の少年の名はマーキス。
三人の年の頃はリンフィスやラグフォードと同じくらい。彼等は身元も人格もしっかりとした護衛兼幼馴染として、ドラグナー皇国とアトレ王国から選別された。
権力に擦り寄りたい大人たちの思惑? そんなもの、アトレの第一王子が徹底排除するに決まっているじゃないか。
裏ギルド『死者の翼』が大活躍だった、と言っておこう。
「俺達も、10歳になればギルド登録出来るから一緒に狩りへ行けるようになるんですけどねー」
「あと数年お預けなのは残念ですが、それまでにしっかりと基礎を磨きます」
「私も、侍女長のようなデキる女を目指すのです!」
『無理だろ』
「そんなことないですよーだ!」
相変わらず三人とも仲良いなあとにこにこと見守る。あ、このクッキー美味しい。
「アリシアは来年から淑女教育が始まるから、ちょっと大変かもね」
「礼儀作法に厳しいって聞いてるから、レナードとマーキスも捩じ込んでおこうか」
『え゛』
『大丈夫、兄上方の側近候補達も通った道だから』
基本的に、ドラグナー皇国では側近候補が学ぶ礼儀作法の教育は厳しい。
ゼルディアスの側近候補が教育を始めて数年経った今でも、時々生ける屍な体を見せることがあるくらいには。
「嫌そうな顔をしてるけど、僕とリンはそれに加えて王族としての義務を叩き込まれてるんだよ?」
「今度一緒に微笑みを保つ耐久3時間やってみる?」
『遠慮します』
それって義務なの? という内容も混じっていたりするが、そういうものに限って中々に社交界で必要なスキルだったりするのだ。侮れない。
「そういえば」
リンフィスはふと思い出した。
「今度、アトレとドラグナー共同で一週間の特別教育があるの知ってる?」
「何それ?」
「あ、私知ってます。リンさまがお勉強されてる『皇子妃教育』を一週間、希望する令嬢達が体験するのですよね」
「そう。兄様達があれこれやったのに、まだごねる人達が居るんですって」
この辺の情報はヤトから貰った。甘やかされて育った令嬢ほど、私の方が皇子妃に相応しいなどと言っているのだとか。
「だから、私が受けてるのと同じ教育を一週間”体験”させることになったみたい」
「リン様と同じ教育を?」
「え、それ一週間も保つの?」
無理だろ、と子供達の表情は言っている。
リンフィスも重々しく頷いた。
前世の記憶があってゲームチートを持っているリンフィスでさえ、相当の忍耐と気力と記憶力を要するのだ。同じことが忍耐力の無いごく普通のお子様令嬢達に出来るとは思えない。
「初日で大半が辞めるんじゃないですか?」
「むしろあれを一週間続けられるなら、アトレの王子達の婚約者候補に成れるよね」
「そうですね」
「面倒なので全員とっとと挫折して欲しいですね」
一同は揃ってアリシアを見た。
ふわふわした笑顔で相当な毒を吐いた気がする。
アリシアがギルドカード持った時、『毒舌』がスキル表示されるんじゃないかな、とリンフィスはひっそりと思った。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~
イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。
ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。
兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。
(だって飛べないから)
そんなある日、気がつけば巣の外にいた。
…人間に攫われました(?)
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ただいま御褒美転生中!〜元召喚勇者は救った世界で、自作の自立型魔法創作物と共に自由を求める〜
いくしろ仄
ファンタジー
女神に頼まれ魔王を討ち倒したご褒美に、当人の希望通りの人生に転生させてもらった主人公。
赤ん坊から転生スタートします。
コメディ要素あり、ほのぼの系のお話です。
参考図書
復刻版鶴の折り紙・ブティック社
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる