竜とRPGと乙女と

紙縞コウキ

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はじまりはじまり。

再会しました。

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 目の前には黒い背中。
 この身を抱き込むのは白い腕。
 護り手たる彼等に、リンフィスは見憶えがあった。
「やれやれ。君はもっと早くに我等を呼ぶべきだな」
「な、んで」
「盟約は絶たれていない」
 無意識に口から溢れてしまったその名。彼等は再び応え、“現身”した。



 大分ストレスが溜まってきたので、発散の為に本日はエーシェンとリュートにくっついて異界ダンジョンへと入った。
「むぅ、やっぱり筋肉足りない」
「そこは筋力というか単純に力が足りないって言おうな」
 可愛い姪がマッスルな筋肉を付けるのは断固反対派なリュートは、せめてもの抵抗として言い方を直そうとするが、細マッチョに憧れる少女はどうやって筋肉を鍛えるかと思案する。
「今は支援魔法で体力の底上げしておくと良いぞ」
 異界ダンジョンに潜れば自然と筋力はつくだろう。
 エーシェンにそう言われ、リンフィスは納得した。
 ちなみにエーシェンもリンフィスがムキムキになるのは反対派である。必要な筋肉の保持は認めるがそれ以上は駄目、絶対。

 なお、リュートの妹であるリンフィスの母の腹筋は素敵に割れている。
 見た目は線の細い嫋やかな美人さんなのに侮れない。

「足は疲れてないか?」
「大丈夫」
 今日の彼等は揃って冒険者らしい格好をしていた。
 リュートは自前の装備である竜鱗の軽鎧で胸腹部と背を覆い、肘から手首までの手甲、膝下丈のロングブーツ。竜化した時に剥がれた鱗を使っている。
 エーシェンは拳で殴る派なので龍皮素材の胸当てとガントレットにショートブーツ。この龍皮は脱皮した時の物を加工したらしい。
 この古代竜が脱皮する生き物であると知ったのはその時である。
 そしてリンフィスは、とある特殊な蜘蛛糸で織られた布の服を着ていた。
「……青生生魂(アポイタカラ)って、初めて聞いたんだけど」
「ヒヒイロカネの別名だったか? そういった鉱石から蜘蛛が生まれるって、さすがファンタジーだよなー……」

 鉱石から生まれるならゴーレムじゃないのかと思ったし言ってみたが、件の蜘蛛は命ある生き物だという。
 というか、アラクネだった。蜘蛛の身体に女性の上半身を持っていた。
 彼女はリュートの逞しい身体に目を光らせ、リンフィスを着飾らせることに狂喜した。文句の付けようのない素晴らしいセンスの持ち主だった。
 恐るべし、エーシェンの人(?)脈。
 そのアラクネ作製の布服は軽く動き易く通気性も良い。更にサイズ自動補正魔法が掛けられているのでリンフィスにぴったりサイズになっていた。そして青生生魂であるが故に防御力は半端なく高い。
 見た目はシンプルな白黒モノトーンカラーな騎士服風ドレス(膝上丈スカート、レギンスパンツ付き、ローヒールのロングブーツ仕立て)なのに。
 ぶっちゃけ子供に何て物を着せるのか、と戦々恐々としたものだ。だってこれ万が一にも市場に流れたら絶対に高い。ヘタしたら国家予算的金額になる。
 貰ったからには着るけど。次から次へとアラクネ作製の服を着せられることに付き合ったお礼としてタダで貰った物だし。誰の懐も痛んでないので大丈夫問題ない。
 その際に話の流れで姉も着せ替え甲斐ありそうだと知ると、是非会わせて欲しいと言われた。リュート立会いの下、内密にドラグナー皇家・アトレ王家・アトライア公爵家の面々に会わせることを約束させられた。身内の説得頑張れ、竜皇帝。きっとアトレの第一王子が嬉々として許可を押し通す。

 まあ、そんな風に油断していたのは事実で。

 突如魔物が異常発生し、対応に追われ、気付いた時には3人共にかなりの距離を引き離されていた。
「リン、もう少し持ち堪えられるか!?」
「頑張る!」
 魔物の比率としては、半竜化したリュートに3割、人化を解いたエーシェンに5割、残り2割にリンフィスといったところか。
 しかし、武器や防具が優れていても強固な障壁があっても、やはりリンフィスは幼い子供で相応の力しかない。
 力任せに障壁ごと吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。魔物のこの強さは異界ならではだろう。
「リン!」
「嬢ちゃん!」
 障壁と服のおかげで目に見える怪我は無いが、衝撃で脳が揺さぶられたのかぐらぐら気持ち悪い。
 目の前には振り上げられた魔物の腕。

「ーてぃ、あ、…」
 無意識に、口から溢れた。

『遅い』

 次の瞬間、周囲の魔物が全て吹き飛んだ。



「やれやれ。君はもっと早くに我等を呼ぶべきだな」
 黒い彼は、背を此方に向けたまま呆れたように嘆息する。
「な、んで」
「盟約は絶たれていない」
 白い彼は、抱き込んだその腕に僅かに力を入れた。
「ルティーヤー、アスタロト…!」

 RPGゲーム『幻想輪舞曲』では、2体の神又は悪魔とパートナーとなる盟約を結ぶことが出来た。
 パートナーに出来る神や悪魔は世界にランダムに配置されており、盟約を結ぶには様々な要因と条件を満たしていなければならない。
 そうして『リンフィス』が盟約を結んだのは、最初に出会った“ルティーヤー”と次に出会った“アスタロト”だった。どちらもすぐに盟約を結べたのは幸運だったといえる。
 ちなみに2体と盟約を結んだ後は、何処へ行っても他の神や悪魔が『リンフィス』の前に現身したことはない。
 通常は数ヶ月に一度は彼等に遭遇するのだが。どんな確率だと所属ギルドのメンバーには散々言われた。

 『ゲーム』内において“敵”と定義されていたのは魔物とそれを統べる魔物の王であり、魔族はおかしいほどに魔力が高い種族という括りで“敵”ではなかった。
 だってプレイヤーが選べる種族に魔族いたし。

 その2体が今、リンフィスの側にいる。
「そういう、ことか!」
 何かに気付いたらしいリュートが、魔物から大きく距離を取る。
「盟約の下に現身せよ、“トール”!」
 魔物の群れに雷が落ちた。

「はっ! ようやく暴れられるか!」
 現れたのは赤い筋肉だった。
 否、赤い貫頭衣を着て大槌を振りかぶった筋肉モリモリな髭のおっさんだった。頭はつるりと眩しかった。
 リンフィスの思考は停止した。
 少女の盟約者はささっと安全地帯と思われる場所まで少女ごと避難する。
 ついでにエーシェンも人化して避難してきた。

 其処からはテンションアゲアゲはっちゃけたおっさん2人による無双だった。
 揃ってポージングすんなし。

 先程までの苦戦とピンチ、何処行った。


「えっと……」
「つまり、お前等も古代竜と同じくゲームに干渉してたってことでいいんだな?」
「ゲーム、というのはよく分からんが、俺様は俺様だな」
「脳筋はちょっと黙ってろ」
「ああ。認識はそれで間違ってない」
 アスタロトが何処からともなく出した酒瓶をトールの口に押し込み塞いでいる間に、リュート達はルティーヤーと話を進めることにした。
「最も、全ての現身体がそうとは限らないが」
「ガブリエルは?」
「風の大天使か。あれも此方側だな」
 どうやらリュートと盟約を結んだもう1体、ガブリエルも呼べるだろうことが分かり、彼は安堵の息を吐いた。

 リンフィスの盟約者、黒のルティーヤーと白のアスタロト。
 アスタロトは有名な魔公爵。ルティーヤーも別名ベヒモスと言えば解るだろうか。
 そしてリュートの盟約者、雷神トール。
 魔物掃討後、彼等も交え詳しく話をすることになった。

「さっき、盟約は絶たれてないって言ったよね。それって、これからも私達に力を貸してくれるってことでいいの?」
「ああ」
 ルティーヤーは微笑み、膝に乗せた少女の頭を軽く撫でた。
 だから何故皆、膝に乗せたがるのか。解せぬ。
 少女は頰を膨らませた。

「……ある日突然、盟約の絆が感じられなくなった時は、正直焦った」
 絶たれた訳ではない。けれども感じられない。呼び声が聞こえない。
 それは、彼等の内に焦燥を与えた。
 盟約を結んだ地は変わらぬ様相を見せており、だからこそ異常を感じさせた。
 呼び声が聞こえないのであれば、彼の地に干渉する理由はない。
 だから、ルティーヤーもアスタロトも待った。
 再び声が呼ぶその時を。

「まさか、生まれ変わっているとは思いもしなかったがな」
「不可抗力だもん」
「分かっている」
 なんとなく視線を逸らすリンフィスとリュートに苦笑しながら、ルティーヤーも頷いた。

 再び絆を感じ取れるようになった時、ルティーヤーは居ても立っても居られずその場所へと急いだ。
 それはアスタロトも同じで。申し合わせた様な偶然に眉を顰めながらも揃って見下ろせば、此方を見上げる小さな命。
 最初こそ姿形が違うのに戸惑いはしたが、絆はちゃんと存在を示し、魂が同じであることを示した。
 彼女は盟約を憶えているだろうか。呼んでくれるだろうか。
 その日が来ることを信じ、その時まではただ見守るだけと決めた。

 傍に寄り添わんとする竜の子にイラっとしながら。

「竜の子って」
「ラグだな、それ」
 リンフィスとリュートは揃って引き攣った。
 手を出されなくて良かった。
「ふむ。ならば再度盟約を結んだ方が確実か?」
 話を聞きながらエーシェンは顎を撫でる。
 盟約は未だ在る。しかし片方が生まれ変わったという現状では、その盟約にどう影響が出るか分からなかった。
「それは、俺は助かるが」
「俺様は構わんぞ。寧ろ望むところだ!」
 何かを言い掛けたリュートを無視し、酒を飲み干したらしいトールは意気揚々とリュートに額をぶつけた。
 ごんっととても痛そうな音が聞こえた。
 リュートは痛みに呻いているが、額を押さえる手の隙間から僅かに光が漏れている。
「て、めぇ、トール何しやがる!?」
「盟約は成ったぞ!」
 対してトールは笑いながら己の額を示した。
 其処には僅かな光と共に紋様陣が浮かんでおり、やがて消えた。
 リンフィスはそろっとルティーヤーとアスタロトを見上げる。
「痛いのやだ」
「安心しろ」
 ルティーヤーはそのまろい頰に手を当て、素晴らしい笑顔で額に口付けた。
 リンフィスの動きが目に見えて固まった。
「次は私だな」
 ルティーヤーが触れたのと反対の頰に手を掛け己の方に僅かに引き寄せたアスタロトも、額に口付ける。やっぱり良い笑顔だった。
 男相手でも、両手に花と言うのだろうか。
 『ゲーム』において信頼度MAXにまで上がった2人が甘いのは知っていたが、『此方』で再会後は更に甘くなってる気がしなくもない。
 束の間リンフィスは現実逃避した。

 身内以外の男にでこチューされたなんて、ラグにバレませんように。



 起きたらリベンジする、と宣言して少女は眠る。
 だから知らない。

 トールがルティーヤーとアスタロトを指して「ロリコンだったのか」と宣ったことも。
 ルティーヤーが眠る少女を起こさぬようにリュートへそっと預けたことも。
 エーシェンが最大効力で遮音効果のある防護障壁を展開したことも。
 防護障壁の外で展開された盟約者3人によるガチバトルで、周囲が見渡しの良い平原に変わってしまったことも。

 少女が起きて目にした光景に絶句することになる未来も。
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