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はじまりはじまり。
探し物を見つけた。
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ドラグナー皇国の第二皇子とアトレ王国の公爵令嬢の婚約が発表されてからすぐに、裏の世界は騒がしくなった。
主に公爵令嬢の誘拐及び暗殺依頼が増えたことによって。
「実際問題、誘拐も暗殺も成功する気がしないんだが」
「神竜の加護持ちだろう。以前、あの少女を利用しようとした神殿が神竜の怒りに触れて大騒ぎになったな」
「あれは確か、神官が供物として捧げられた酒をくすねたからじゃなかったか?」
「そもそも二の姫を害せるとは考えられないのだが」
『無理だな』
その場にいた全員が断言した。
「二の姫、すぐに俺達に気付いてしまうからな」
「どれだけ隠形しても見つかるし」
「少しでも敵意を考えようものなら視線合わせてくるし」
「敵対行動取った奴には即時対応で間合いに踏み込ませない範囲の防御展開した上で反撃していたぞ」
「俺、監視中に空腹を見抜かれてお菓子の差し入れされたんだけど」
「俺も」
「俺も。二の姫の手作りだった。美味かったぞ」
害せない理由は色々とあるようだ。
「そんな訳で、俺達裏ギルド【死者の翼】は二の姫を害する類の依頼は一切受け付けないことにしてますんで」
「いやそれはありがたいけど、いいの?」
「仕事は色々ありますから」
「たまにデューク様からも依頼いただきますよ」
「デューク様からの依頼と言えば、先日の悪戯幽霊屋敷大作戦は面白かったなあ」
「兄様何やってるの!?」
何面白そうなことをこっそりやってるの、次は自分も混ぜてもらおう。
ストレス発散は大事なのです。
結局のところ、接触を図ってきた彼らの言いたかったことはふたつ。
「実は俺達、ラインハルト王子の依頼でちょっと他国へ行かなきゃいけないんです」
「あと、依頼を受けた訳じゃなさそうですが、裏でかなり有名な奴が二の姫に興味を持ったみたいなんで。しばらくはそっちを遊び相手にしてくださいね」
「待って。ねえ、貴方達、私のことをどう見てるの?」
『じゃ、逝ってきます』
「今何かおかしくなかった!?」
裏ギルド。それは自由人の集まりである。
そしてそんなやり取りを見ていた男が一人。
見ていたというか、偶然見てしまったというか。
何とも言い難い表情になってしまうのも仕方ないだろう。
「……【死者の翼】といえば、かなりの実力を持った暗殺者の集団だった筈だが」
それが噂ではないことは男も見知っている。だからこそ、それを『飼い慣らした』様に見えるその少女に対し、更に興味を持った。
「遊び相手、か」
どう遊ぶにしろ、先ずは情報を集めなければならない。
ふと、男と少女の視線が交わった気がした。
あれから数日。男は難しい顔をしていた。
情報を集めるには対象の観察が必須である。故に、離れた所から使役するモノ達を使い様子を見ていたのだが。
「……またか」
視線が合った。
その場に男は居ない。しかし『目』を通して少女と視線が合うのだ。
初めは偶然と考えた。子供は常に視線を彼方此方へと転じさせ、同じ場所を見ていないものだ。
しかし、それが二度三度となく、頻繁に、しかも手を小さく振られたり首を傾げたりされれば偶然とは呼べない。
明らかに男の存在を認識している。
認識していると言えば、一度だけ見掛けたドラグナー竜皇帝も男に真っ直ぐ視線を向け口角を僅かに釣りあげて見せた。
竜皇帝の恐ろしさの一端を知った瞬間だった。
しかし少女とのことがその時に似ているかといえばそうではない。
あまりにも少女の態度は普通なのだ。
面白い。そう思った。
その日、少女が普段頻繁に使用している道具箱が手の届かない場所へと置かれていた。
犯人は最近侍女として城に上がった若い女だった。そこそこの家の出なのだろうが、自分よりも高位の家の娘に対し、所詮子供何もできないと侮ったのだろう。物言いからも高慢な様子が見て取れる。
部屋の主が不在と知っていて勝手に室内に押し入り、困らせる目的で物の配置を勝手に変えたのだ、この行動には男も眉を顰めた。
気に入らないので侍女の後を追い、最近手に入れた記録の魔法具でもって証拠と証言を取っておく。
そういえば、この魔法具もあの少女が関わった作品だったか。
そう思いながら戻れば案の定、少女は困った顔をして道具箱に手を伸ばしていた。
椅子を使っても届かないと知るや大きく溜息を吐く。
そうしてくるりと男に向き直った。
「ねえ、あれ取れる?」
背高いし届きそうよね。
気負いなく言われた言葉に、男は思わず動きを止めた。
男には気配というものがない。それどころか呼吸も心音すらない。不可視であり完全な隠形に、少女は気付くどころかしっかりと目線を上げ視線を合わせてきた。
子供らしく濁りの無い澄んだ琥珀色の瞳。
そうか、と息を吐いた。
”探し物をようやく見つけた”。
やっと。そう感じて小さく表情を緩めた。
「犯人を吊るし上げますか?」
「え、面倒だからいい」
道具箱を手渡しながら聞くが、少女は心底面倒そうな顔で拒否した。
「そうですか」
であるならば、そのうち保護者にでも証拠を渡しておこう。
「ありがとう」
少女は中身を確認し、盗難されていないことを確認すると再び蓋を閉めた。
道具箱の中にはそれだけで一財産になりそうなものが色々入っていた。
道具箱の中身を見た筈のあの侍女はやはり頭が悪いのだろう。
「今日の、城の"影"とかくれんぼは楽しかったですか?」
「にゅっ」
視線を逸らされた。
「いやその、まさか泣くとは思わなくて」
「普通に考えて、護衛対象に隠形を見破られた挙句遊ばれていたとなれば泣きたくもなるでしょう」
少女は耳を塞いで顔ごと更に視線を逸らす。
「……主よ。”時無人”という存在を知っていますか?」
――貴女が俺の主だ。
この後、男の主従発言にちょっとした問答があったが結局は少女が折れる形となった。
丸め込まれた、あるいは丸め込んだという。
主に公爵令嬢の誘拐及び暗殺依頼が増えたことによって。
「実際問題、誘拐も暗殺も成功する気がしないんだが」
「神竜の加護持ちだろう。以前、あの少女を利用しようとした神殿が神竜の怒りに触れて大騒ぎになったな」
「あれは確か、神官が供物として捧げられた酒をくすねたからじゃなかったか?」
「そもそも二の姫を害せるとは考えられないのだが」
『無理だな』
その場にいた全員が断言した。
「二の姫、すぐに俺達に気付いてしまうからな」
「どれだけ隠形しても見つかるし」
「少しでも敵意を考えようものなら視線合わせてくるし」
「敵対行動取った奴には即時対応で間合いに踏み込ませない範囲の防御展開した上で反撃していたぞ」
「俺、監視中に空腹を見抜かれてお菓子の差し入れされたんだけど」
「俺も」
「俺も。二の姫の手作りだった。美味かったぞ」
害せない理由は色々とあるようだ。
「そんな訳で、俺達裏ギルド【死者の翼】は二の姫を害する類の依頼は一切受け付けないことにしてますんで」
「いやそれはありがたいけど、いいの?」
「仕事は色々ありますから」
「たまにデューク様からも依頼いただきますよ」
「デューク様からの依頼と言えば、先日の悪戯幽霊屋敷大作戦は面白かったなあ」
「兄様何やってるの!?」
何面白そうなことをこっそりやってるの、次は自分も混ぜてもらおう。
ストレス発散は大事なのです。
結局のところ、接触を図ってきた彼らの言いたかったことはふたつ。
「実は俺達、ラインハルト王子の依頼でちょっと他国へ行かなきゃいけないんです」
「あと、依頼を受けた訳じゃなさそうですが、裏でかなり有名な奴が二の姫に興味を持ったみたいなんで。しばらくはそっちを遊び相手にしてくださいね」
「待って。ねえ、貴方達、私のことをどう見てるの?」
『じゃ、逝ってきます』
「今何かおかしくなかった!?」
裏ギルド。それは自由人の集まりである。
そしてそんなやり取りを見ていた男が一人。
見ていたというか、偶然見てしまったというか。
何とも言い難い表情になってしまうのも仕方ないだろう。
「……【死者の翼】といえば、かなりの実力を持った暗殺者の集団だった筈だが」
それが噂ではないことは男も見知っている。だからこそ、それを『飼い慣らした』様に見えるその少女に対し、更に興味を持った。
「遊び相手、か」
どう遊ぶにしろ、先ずは情報を集めなければならない。
ふと、男と少女の視線が交わった気がした。
あれから数日。男は難しい顔をしていた。
情報を集めるには対象の観察が必須である。故に、離れた所から使役するモノ達を使い様子を見ていたのだが。
「……またか」
視線が合った。
その場に男は居ない。しかし『目』を通して少女と視線が合うのだ。
初めは偶然と考えた。子供は常に視線を彼方此方へと転じさせ、同じ場所を見ていないものだ。
しかし、それが二度三度となく、頻繁に、しかも手を小さく振られたり首を傾げたりされれば偶然とは呼べない。
明らかに男の存在を認識している。
認識していると言えば、一度だけ見掛けたドラグナー竜皇帝も男に真っ直ぐ視線を向け口角を僅かに釣りあげて見せた。
竜皇帝の恐ろしさの一端を知った瞬間だった。
しかし少女とのことがその時に似ているかといえばそうではない。
あまりにも少女の態度は普通なのだ。
面白い。そう思った。
その日、少女が普段頻繁に使用している道具箱が手の届かない場所へと置かれていた。
犯人は最近侍女として城に上がった若い女だった。そこそこの家の出なのだろうが、自分よりも高位の家の娘に対し、所詮子供何もできないと侮ったのだろう。物言いからも高慢な様子が見て取れる。
部屋の主が不在と知っていて勝手に室内に押し入り、困らせる目的で物の配置を勝手に変えたのだ、この行動には男も眉を顰めた。
気に入らないので侍女の後を追い、最近手に入れた記録の魔法具でもって証拠と証言を取っておく。
そういえば、この魔法具もあの少女が関わった作品だったか。
そう思いながら戻れば案の定、少女は困った顔をして道具箱に手を伸ばしていた。
椅子を使っても届かないと知るや大きく溜息を吐く。
そうしてくるりと男に向き直った。
「ねえ、あれ取れる?」
背高いし届きそうよね。
気負いなく言われた言葉に、男は思わず動きを止めた。
男には気配というものがない。それどころか呼吸も心音すらない。不可視であり完全な隠形に、少女は気付くどころかしっかりと目線を上げ視線を合わせてきた。
子供らしく濁りの無い澄んだ琥珀色の瞳。
そうか、と息を吐いた。
”探し物をようやく見つけた”。
やっと。そう感じて小さく表情を緩めた。
「犯人を吊るし上げますか?」
「え、面倒だからいい」
道具箱を手渡しながら聞くが、少女は心底面倒そうな顔で拒否した。
「そうですか」
であるならば、そのうち保護者にでも証拠を渡しておこう。
「ありがとう」
少女は中身を確認し、盗難されていないことを確認すると再び蓋を閉めた。
道具箱の中にはそれだけで一財産になりそうなものが色々入っていた。
道具箱の中身を見た筈のあの侍女はやはり頭が悪いのだろう。
「今日の、城の"影"とかくれんぼは楽しかったですか?」
「にゅっ」
視線を逸らされた。
「いやその、まさか泣くとは思わなくて」
「普通に考えて、護衛対象に隠形を見破られた挙句遊ばれていたとなれば泣きたくもなるでしょう」
少女は耳を塞いで顔ごと更に視線を逸らす。
「……主よ。”時無人”という存在を知っていますか?」
――貴女が俺の主だ。
この後、男の主従発言にちょっとした問答があったが結局は少女が折れる形となった。
丸め込まれた、あるいは丸め込んだという。
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