竜とRPGと乙女と

紙縞コウキ

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はじまりはじまり。

家族会議されました。

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 その暗殺者は死霊使いでもあった。
「生きてるのに死んでるの?」
「逆です。死んでいるのに生きている」
 男は少女を抱き上げるとその手を己の心臓の上へと導く。
 少女は思った。どうしてみんな何かある時は自分を抱き上げるのだろう、と。しゃがんでもらうのでは駄目なのだろうか。
 男から鼓動は感じられなかった。ひんやりとした身体。確かに彼は死んでいるらしい。
「夏はぎゅってしてると気持ち良さそう」
「しますか?」
「……ラグがやきもちやくからいい」
 一瞬心揺れるが後の被害を考えてぐっと我慢した。
「えっと、時無人(ときなしびと)だっけ。どういうものなの?」

 この世界では極めて稀に、死産であった子供が心臓が動かないまま息を吹き返すことがある。
 普通の子供と同じように成長し自意識が芽生えるが、その鼓動は決して動くことはない。そしてある時を境にその身体の成長が止まってしまうのだ。
 周りが老いて死んでいくのに自分は変わらずそのまま。最初から死んでいるから取り残される。
 そういう数奇な生まれの彼等を『時無人』と呼ぶ。
 そして彼等は、総じて死霊使いとしての適性が最も高い。

 男は、ふっと表情から力を抜いた。
「これでも戦乱の前から生きていますから、己の身と生き方には納得しています」
 だから姫は泣かなくていい。
 そう言われても、戦慄く口元と歪む視界は抑えられそうになかった。
 だって、ちょっと考えたら分かる。理解ってしまう。

 人間は、『普通』でないものを忌避する生き物だから。

「……その顔でおじい様達より年上なんて詐欺だわ」
 しかし口から出たのはそんな言葉で。
 一瞬の間の後、男が吹き出してしまったのは仕方ないだろう。


「そんな感じ」
「どんな感じだよ」
 真っ先にリュートは突っ込んだ。周囲の面々は未だに固まっている。
 無理もない、とリュートは溜息を吐いた。時無人なんて存在、一般的には御伽噺だと思われているのだから。

 そんなこんなで現在、家族会議中。
 参加者はアトライア公爵夫妻と長男、アトレ国王夫妻と第一王子、そして情報共有のために呼ばれたドラグナー竜皇帝といった面子である。

「しかしデューク。お前よく気付いたな」
「あ、はい。ここ数日、我が家に、というかリンの周囲で差し向けられる暗殺者がごっそり減りまして。父上もご存じない様でしたし、僕の”影”からも護衛増員の報告は無かったのでもしかして、と思ったんです」
 これを聞いて驚いたのは父、アトライア公爵である。
「お前に影が付いてるなんて聞いてないぞ?」
「あ、数年前に拾いました」
 ちなみに”影”の給与は僕が立ち上げた商会から護衛費として計上しています。
「父さん、それも聞いてないぞ!?」
 さらっと言う兄と打ちひしがれる父。思わぬ事実が発覚した瞬間だった。
「なんていうか、さすが兄妹だな」
「これは私達のお父様に似てしまったのね」
 リュートとその妹で兄妹の母は思わず感心してしまった。先代竜皇は害が無ければ事後報告してしまうことが多々あったので。
 さすが血筋。

「デュークの”影”の件と商会の件については後で俺も聞くとして。取り敢えず、その時無人の暗殺者はリンフィスの”影”となった、ということで良いのか?」
「はい、陛下。長生きしてるだけあって、いろんなこと教えてくれます」
 リンフィスはアトレ国王に頷いて見せた。
「名を聞いて良いか」
 少女はちらりと窓側に目をやり、頷いて見せる。
 次の瞬間、其処には漆黒の男が立っていた。
「通り名は絶影。姫に頂いた名を、『ヤト』と」
 彼は静かに一礼する。
「ヤト、か。八咫烏か?」
「うん」
「リュート殿、そのヤタガラスとは?」
「遠い国の伝承でな、神の使いとされてる鳥だ」
 リュートが”神裁の竜”と言われているように、リンフィスは”神竜の巫女”と認識されている。どちらも古代竜がやらかした結果ではあるが、意外に(やらかした時の融通的な意味で)便利なので否定はしない。
 その姫の”影”なのだから、別におかしくない名称だろう。一同は納得した。
 そしてふとラインハルトは気付いた。
「絶影ってもしかして、依頼者であっても姿を見せない、影すら踏めない暗殺者っていう……」
「他の暗殺者が軟弱で未熟なだけかと」
「リンはお前の存在に気付いたんだな」
 リュートは納得した。常時展開してるマップに反応が出たんだろう。
 当然、この男も隠形している存在に気付いていた。プレイヤー機能超便利。

「”神竜の加護”を持つ存在は裏でも有名。都合悪いとして排除を目論む勢力が最近になって活発化している」
『うわ、面倒な』
 該当者のみならずその場にいた他の面々も同時にうんざりと声を上げる。
 ヤトと名を頂いた男は、狙われている側の反応としてそれはどうなんだ、と思わなくもない。気持ちは分かるが。

「ヤトはその依頼を受けた訳じゃなさそうだな。目標への好奇心か」
「観察しようと侵入したところをリンフィスに見つかったんだろ。子供は目敏くいろんなものを見てるからな」
「ああ、城でも”影”の頭領が幼い姫君に見つかった、と打ちひしがれてたことあったな。神竜の加護を得たと知れば納得していたが」
 大人達の会話を聞きながら、マップを駆使しておきながら彼等に胸を張って「かくれんぼは得意だ」と言っちゃった少女はそっと目を逸らした。
「しかし普段のリンなら大抵は気付いても放っておくだろ。何で声掛けたんだ?」
「高いところに置かれたお道具箱取ってもらおうと思って」

「よく使うものは手の届くところに置く、お前の、お道具箱が、手の届かない高いところに、か」

 父の低い声に、あ、と思った時にはもう遅い。
「ヤト、いつの話だ」
「6日前、アトレ城内。城の侍女」
 はい、犯人確定。
 ついでとばかりにヤトはここ数日の裏の動きを書き留めた書類をアトレ国王に手渡した。
 使役する死霊達を使って集めた証拠品と共に。主人と同じようにリンフィスを気に入った彼等は、嬉々としてやってくれたらしい。
「ほう。確たる証拠も大量だな」
「兄上、これで『掃除』が捗りますね」
「手伝います父上」
「僕も」
 楽しそうな男達とあらあらまあまあとにこやかにそれを眺めている夫人達。
 これ以上は国内の政治の問題になりそうだったので、他国の王であるリュートとお子様なリンフィスは口を噤んだ。
 俺は私は何も聞いてない。


 なお、彼等の『掃除』は、事後処理も含めてたった半月で終わった。


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