竜とRPGと乙女と

紙縞コウキ

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はじまりはじまり。

ここから始まる。

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 少年は必至だった。
「僕は君が好きだよ。君だけを愛して君だけを護る、ずっと傍にいるよ。だから僕のお嫁さんになってください!」
「え、重いのはヤだ」
 少年は項垂れた。

「……重くなければ良いんだな?」
「伯父様?」
「父上?」
 男は何とも言えない顔で息子を見て、それから少女へと視線を移す。
「リンの好みは?」
「浪費家でもヤンデレでもなく普通に真面目で家族を愛してくれる人」
 即答だった。
「僕、頑張るよ!」
 何を頑張るかはともかく、少年も即答だった。
 男は溜息を吐きながら少女の頭に手を置く。
「嫁き遅れ防止だと思え」
「ちょ、それ失礼! ラグにも私にも失礼!」
「嫌いじゃないんだろ?」
「それは……」
 男は少女と目線を合わせるようにしゃがみ、その耳元に口を寄せた。
「ラグがお前好みの男に育つよう、全面協力してやる」
「……伯父様、それはずるい」
 頭を抱える少女ににやりと笑い、息子にぐっと親指を突き立てた。
「良かったな、ラグ。リンがお前のお嫁さんになってくれるぞ」
「本当ですか!?」
「その代わり、リンが惚れるような男になれよ」
「はい!」
 少年は嬉しそうに笑い、少女の手を取った。

「リン」

「……束縛され過ぎて、自由に動けなくなるのは嫌」
「うん」
「ちゃんと周りを見て、声を聴いて判断してほしいの」
「うん」
「まもって、くれる?」
 躊躇いがちに、不安の滲む表情と声に、それでも少年は真っ直ぐに少女と向き合い、微笑ってみせた。
「君を鳥籠に閉じ込めたりなんかしない。目先のことに囚われず、惑わされたりなんかしない」
 そうして指を絡める様に手を握り直す。
「この手を離さないと誓うよ。だから」

 僕、ラグフォード・シュタイン・ドラグナーが、生涯を賭して君を、リンフィス・レイン・アトライアをまもることを許してください。

 やはり重いと少女は感じる。
 けれどもそこに嘘はないから。
「はい」と少女は頷いた。


 男は未だ幼い息子が一途に少女を想っていることを知っている。
 生まれたばかりの少女を一目見て「およめさんにする」と宣言したり、少しでも長く一緒にいるためにその日の教育ノルマを前倒しでこなしたり、成長していく少女の好みや趣味を把握するべく調べたり、少女に縁談を持ち込もうとする家を牽制どころか排除しようとしたり。

 ……紙一重でストーカーとかヤンデレとか言われてもおかしくない、かも?

 それ以前に子供がすることではないのだが、男は敢えて考えないように目を逸らす。
 いやいやと首を振りつつ、子供達がいなくなった談話室で男はまた息を吐いた。
 今考えなければいけないのは別のことだ。そう自分に言い聞かせながら。

 今頃二人の身体には同じ痣が浮かんでいるはずだ。『唯一の番と婚姻を結んだ証である竜胆の花を模った痣』が。

 そう、『婚約』ではなく『婚姻』の証。両手で余る年齢程度の幼い二人が。
 竜族には唯一の『番』という相手がいる。その番に巡り逢い結ばれた時に現れるのが竜胆の花を模った痣であり、それが子供たちの誓いの言葉を交わした直後に感じられた。
 同じ痣持ちだから判るのだ。
 幸いにも男や先帝は若いうちに番を伴侶とすることができたが、人族よりも長い生涯を通しても巡り逢えない場合の方が多い。
 番は竜族とは限らないので、たとえ巡り逢えたとしても相手方には既に伴侶がいる場合もある。
竜は愛情深いとされる存在、相手の幸せを壊すような真似はしない。ゆえに独身者が多いのも事実だ。

 確証は無かったが、息子が少女に執着し拘っていた理由の推測には上がっていた。
 しかし元々婚約は決まっており後は当人達の了承を得るだけだったとはいえ、予想外の出来事だったことには変わりない。
 せめてもの救いは前例があったことか。
「……アトレ王国に説明するの、俺だよなやっぱり」
 少女の母親、王弟妃として嫁いだ妹に怒られる未来が簡単に想像できた。


「……あれ? でもこれで乙女ゲームの方のフラグは折れたんじゃね?」

 同じ頃、少女も同様に気付いて首を傾げていた。




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