竜とRPGと乙女と

紙縞コウキ

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はじまりはじまり。

知っているお話と聞いたお話と。

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 乙女ゲーム『幻想輪舞曲~あなたとワルツを~』。
 物語の舞台はミスティ国にある国立学院。主人公の子爵令嬢は期待に胸を膨らませ、学び、恋をしていく。
 寡黙な王太子、素直な騎士候補生、悪戯好きな魔法士の卵、我儘な侯爵家の兄弟。
 そして隣国・竜の国の第三皇子。
 時には反発し、時には協力し合い、彼との絆を育む。そんな物語――。

「という、あらすじ」
「恋愛ゲームは苦手だ」
 男は早速匙を投げた。
「うちとしては、第三皇子のジオラルドにさえ気を配れば良いと思うよ。メインはミスティ国の王侯貴族な訳だし」
「隠しキャラだっていう竜の第二皇子は実質攻略不可だしな」
「ソウネ」
 竜の第二皇子に溺愛されている少女は遠い目をした。
 正直、そんな転生特典は要らなかった。
「というか、公式には私とラグは『婚約』だよね。何で寝室が一緒?」
「番を持つ竜の習性だ」
「目ぇ見て話せや、おっさん」
「ごめんなさい、何時の間にかラグフォードが準備してました!」
 ラグフォードの私室の隣にリンフィスの部屋が用意されているのは今更。もう少女だけでなく仕えの女官や護衛騎士達すら気にしていない。
 が、正式に婚約して以降、寝室の壁が打ち抜かれ大柄な大人五人が悠々と手足を広げて眠れるサイズのベッドがひとつ置かれていたのである。
「端で寝てても気が付けば真ん中で抱き締められてるし。朝、シーツに足を取られながらの移動大変なんだからね」
「其処かよ、気にするのは」
「子供の大きさなめんな」
 そしてリンフィスは面倒臭がりである。
「あ、でも大人になって結婚するまでは手出し禁止、とは言った」
「おい」
「だってしつけは子竜からが大事って母様と伯母様が」
 母親達の入れ知恵だった。
「竜は番が嫌がることはしないから大丈夫じゃないか?」
「そうなの?」
「ゲームでもそうだったろう」

 RPGゲーム『幻想輪舞曲(ファンタジー・ワルツ)』、サブシナリオ『竜の恋』。
 人族の少女への想いを自覚した竜族の若者が、少しずつ変わっていく。
 弱いから守る、から、大切だから尊重し護る、へと。

「普通に流してたわ」
「其処は気にしとこう。伏線のひとつだったろ」
「レジェンドクラスの武器のドロップを優先してたから……」
 特定のダンジョンのボスを三百回倒すと得られるイベント成就【何でもするから許して】を見るくらいには。
「そういえば、この世界ではその辺どうなってるのかな」
「あるぞ」
 男は少女を抱き上げ、部屋を出る。
「宝物殿へ行く。ゼルディアスとラグフォードを呼んで来い」
「はっ」
 警備兵の一人が命令で離れていく。リンフィスは首を傾げた。
「リュート伯父様?」
「丁度良い機会だからな、教えておいてやるよ」
 それから、確認してほしいものがある、と彼は言った。

 宝物殿の中は、光物が好きな竜の習性故か煌びやかなものが多い。
 その中の一角。先の竜帝が愛用した聖剣の他、双剣に太刀、銃、弓、槍、様々な武具が並んでいた。
 その造りはどれも精巧で輝きがある。
「レジェンドクラスの武器……?」
「これらは全部、ダンジョンで発見されるんだ」
リンフィスは勢いよく男を振り返った。
「それってゲームと同じ様に?」
「そうだ」
 竜の国にはこれらについての伝承があった。元々は竜族のためのものだという。
 道理で扱い辛い、と少女は納得した。
 そう考えながら周囲を見回し、
「父上」
「リン!」
「来たか」
 呼び出された皇子達が姿を見せる。
「リン?」
 呼ばれても少女はしかし『それ』から目を離さなかった。
「お呼びと伺ったのですが、これは?」
「先の竜皇帝と俺が集めたものだ」
「祖父上と父上が?」
「ダンジョン、というものがあるのは知っているだろう」
 父の言葉に二人の息子は頷く。
 男はこれらが竜族のものであること、かつて繰り返されていた大戦でダンジョン内に散ってしまったのを王族が主体となって集めていることなどを話した。
「此処にあるのは全て、レジェンドクラス、伝説級と呼ばれるものだ」
 使い方を誤れば世界をも滅ぼしかねない。大戦のような悲劇を繰り返さぬためにも竜族には責任を持って管理する義務がある。
 そういう建前で彼は息子達を納得させた。

 もう一度挙げておこう。光物が好きなのは竜族の習性である。
 レジェンドクラスの武器には例外なく、価値ある光物が使用されている。

「じゃあ今リンが見ているのも?」
「いや、あれは……」
「【ホーリードラグネスアークス】。聖生龍(セイリュウドラゴン)の弓」
 少女は躊躇いなく手に取った。

 古代竜、聖生(セイリュウ)種。
 ゲームでは公式バグと言われ、非常に目撃例の少ない存在だった。伝説の上をいくSSS級超レア種族である。

 そんな存在が気紛れに製造した武器。
 さすがに男も目を剥いた。
「存在してたのか、古代竜」
「中々にお茶目な小父様でした」
 これ絶対中の人いるだろ、と思うような会話が成立していたのを今でも憶えている。
「お前、メインは双剣って言わなかったか?」
「うん、だから弓はサブ」
「聖生龍の武器がサブって」
「だってメインは消耗が激しいもの」
 だからこそ面白がって製造してくれたのかもしれない。
「会いたいな。これ何処でドロップしたの?」
「いや、それが」
「ねえ」
 幼いながらもその声の低さに、二人はびくっとした。
「……ら、ぐ?」
 二番目の皇子は、それはそれは綺麗な笑顔を浮かべている。
「その古代竜って、男だよね。小父様って言ってたし」
 僕も会ってみたいなあ。
 あ、これ絶対危ないやつだ。
 周囲はそう直感した。
「今も存在してるか分からんぞ?」
「でもリンは会ったんでしょう?」
「それは昔の話で」
「いやそもそもリンはいつ、その古代竜に会ったの」
 武器扱えるってどういうこと。
 御年十二歳の皇太子(長男)は、七歳年下の従妹を見ながら素朴に疑問を挟んできた。




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