終セい紀

昔懐かし怖いハナシ

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ゆーとぴあ

三一

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「おーい。」
崖の下から、爺の呼ぶ声が聞こえてきた。
「今いくよ。」
マルはそう言い放ち、彼女を誘った。
「後で話す。とりあえず下に行こう。」
「わかりました。」
彼女は何か考え込む様子だったが、それをマルは止めて手にはしごをかけさせた。
 二人はゆっくりと降りた。彼女は、慣れていない様子だった。途中、はしごが手から離れ身体を地面と接触する事故が起こった。しかし、運良く最初に降りたマルがキャッチをした為、怪我なく無事だった。
「ありがとうございます。」
彼女は、照れくさそうであり、目を合わせられなかった。
「気をつけろよ。」
マルも同じく顔を見ることができなかった。だから、さり気なくそう優しく振る舞ったのだった。
「だって、、久しぶりにこの地面に降りたものですから。」
「ずっと上にいたのか?」
彼女は下を向いたまま、コクリとうなずいた。
「誰かが来るまで上に居ろ、と言われていましたので。ずっと一人で、家族が来るまで待ってました。
 だから、あなた達が来たときは、嬉しかった。でも、どう話し始めたほうがいいか分かりませんでした。
 ずっと上で黙って見ていてすみません。」
彼女は頭を深々と下げた。髪もきれいだなあ、とふと思ってしまった。
「別にいいよ。なんかお前は、変だな。もっと自信もてよ。」
「分かりました。」
「分かりました、じゃなくてさ。もっとこう、親しい感じで。『分かった!!』」
彼女は、指を交互に動かして下を向いたままだった。マルは勢いよく、背中を叩いた。痛そうだった。しばらくうずくまっていた。
「悪い、強かったな。」
すると彼女は、
「痛かった。でも、ありがとう。」
そう、必死そうに叫んだ。爺は、遠くでビクリと体を動かし、また目を閉じたのだった。
 初めての強気に、マルは後すざりしてしまったが、笑っていた。
「痛かったか。あはは。」
今度は、彼女もつられて笑っていた。元気に、微笑む程度ではなく。
「あ、おーい。」
遠くで寝ている爺を見つけ、マルはそう言った。爺は、ゆっくりと立ち上がり微笑んだ。本人には聴こえないような小声でこう言った。
「また、心許せる人ができたな。」
と。

「はじめまして。」
彼女は、爺に近づき誰よりも先に挨拶をした。
「いいよ。そんな言葉遣いじゃなくても。」
爺はそう言った。マルも、それに賛成だった。
「分かり…分かった。」
まだ慣れないのか、それとも素直に言えないのか、カタコトな感じであった。

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