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男子高校生十七歳午前零時
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よし、完璧だ。ついに詩が完成した。何度も読み直して語感を確かめた。これ以上もこれ以下もない。好きなクラスメイトの女の子を想い、夜中まで寝ずに考え抜いた。俺だけにしか書けない唯一無二の愛を歌った詩。タイトルは『ピュアマインド』
後はこれをメールで送信すれば小説投稿サイトで公開される。一躍有名になってしまった場合も考えて、ペンネームも事前に設定してある。大丈夫だ。
締め付けられる胸の切ない痛みに悶える読者の姿が目に浮かんだ。多分、何千何万という女の子の心を射抜いてしまうに違いない。きっとあの娘もその一人に含まれる。友達と噂するだろう、この詩を書いたのはだれだろうって。それを聞いた俺は彼女にこう言うんだ。『君だけに届けたかった』と。
そうだ、投稿が済んだらサインの練習もしておこう。これから始まる、俺のサクセスストーリー。
さあ飛んで行け。俺のピュアマインド。届け!俺の言葉の輝き!
立ち上がり、携帯を上に掲げた。
送信ボタン、ポチ。
決まった……
椅子にドカッと座って、深く息を吐いた。達成感で全身から力が一気に抜けた。でも心臓は不思議な高揚感を抱えてドクドクと脈打つのを止めていない。氷山とマグマが体内で入り混じっている。これがクリエイターの感覚か…。悪くない。
目を閉じて余韻に浸っていると、携帯が鳴った。メールが届いている。
さっそくファンになってしまった子からラブコールでも届いたんだろうか。いや、ひょっとしたらもう出版社の方の目に留まってしまったのかもしれない。これから忙しくなりそうだぜ。
俺は意気揚々と受信ボックスを開いた。メールの差出人は妹だった。
「十五点」
本文はそれだけだった。件名を見て飛び上がった。『Re:』が付いている。
慌ててメールの送信履歴を開き、直近の送信済メールを見た。宛先が妹のアドレスになっていた。
頭が真っ白になった。
ああ、明日から妹に白い目で見られる。
※以降、十七歳男子高校生が午前零時までかかって作った唯一無二の愛の詩をお楽しみ下さい。
『ピュアマインド』
抱きしめていたい 君の心を
守ってあげたい 傷つける全てから
願いは遠く 絹糸のように
届かない距離 壊したいのに
出会った時から 抱えていた
伝えたかった言葉 回り道
君を見つめて 感じていた
不器用な気持ち 空回り
臆病な僕を どうか笑って
愛しい君よ どうか笑って
歩きたいだけさ 星空の下で
聞きたいだけさ 笑った声を
届いてほしい 欠片だけでも
勇気がほしい 欠片だけでも
叫んでしまいたい 君だけに詩を
手を繋ぎたい ずっと離さないように
明日は遠く 流れる雲のように
縮めたい距離 見えているのに
一日ずっと 抱えていた
好きという言葉 ゴミ箱へ
君に見つめられ 湧きあがっていた
透明な気持ち 遠回り
臆病な僕を どうか笑って
愛しい君よ どうか笑って
歩きたいだけさ 二人だけの道を
聞きたいだけさ 僕だけに向けた声を
届いてほしい 欠片だけでも
勇気がほしい 欠片だけでも
後はこれをメールで送信すれば小説投稿サイトで公開される。一躍有名になってしまった場合も考えて、ペンネームも事前に設定してある。大丈夫だ。
締め付けられる胸の切ない痛みに悶える読者の姿が目に浮かんだ。多分、何千何万という女の子の心を射抜いてしまうに違いない。きっとあの娘もその一人に含まれる。友達と噂するだろう、この詩を書いたのはだれだろうって。それを聞いた俺は彼女にこう言うんだ。『君だけに届けたかった』と。
そうだ、投稿が済んだらサインの練習もしておこう。これから始まる、俺のサクセスストーリー。
さあ飛んで行け。俺のピュアマインド。届け!俺の言葉の輝き!
立ち上がり、携帯を上に掲げた。
送信ボタン、ポチ。
決まった……
椅子にドカッと座って、深く息を吐いた。達成感で全身から力が一気に抜けた。でも心臓は不思議な高揚感を抱えてドクドクと脈打つのを止めていない。氷山とマグマが体内で入り混じっている。これがクリエイターの感覚か…。悪くない。
目を閉じて余韻に浸っていると、携帯が鳴った。メールが届いている。
さっそくファンになってしまった子からラブコールでも届いたんだろうか。いや、ひょっとしたらもう出版社の方の目に留まってしまったのかもしれない。これから忙しくなりそうだぜ。
俺は意気揚々と受信ボックスを開いた。メールの差出人は妹だった。
「十五点」
本文はそれだけだった。件名を見て飛び上がった。『Re:』が付いている。
慌ててメールの送信履歴を開き、直近の送信済メールを見た。宛先が妹のアドレスになっていた。
頭が真っ白になった。
ああ、明日から妹に白い目で見られる。
※以降、十七歳男子高校生が午前零時までかかって作った唯一無二の愛の詩をお楽しみ下さい。
『ピュアマインド』
抱きしめていたい 君の心を
守ってあげたい 傷つける全てから
願いは遠く 絹糸のように
届かない距離 壊したいのに
出会った時から 抱えていた
伝えたかった言葉 回り道
君を見つめて 感じていた
不器用な気持ち 空回り
臆病な僕を どうか笑って
愛しい君よ どうか笑って
歩きたいだけさ 星空の下で
聞きたいだけさ 笑った声を
届いてほしい 欠片だけでも
勇気がほしい 欠片だけでも
叫んでしまいたい 君だけに詩を
手を繋ぎたい ずっと離さないように
明日は遠く 流れる雲のように
縮めたい距離 見えているのに
一日ずっと 抱えていた
好きという言葉 ゴミ箱へ
君に見つめられ 湧きあがっていた
透明な気持ち 遠回り
臆病な僕を どうか笑って
愛しい君よ どうか笑って
歩きたいだけさ 二人だけの道を
聞きたいだけさ 僕だけに向けた声を
届いてほしい 欠片だけでも
勇気がほしい 欠片だけでも
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