公爵令嬢イリスをめぐるトラブル 

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第三章 王太子妃誘拐事件の裏側

監禁場所が判明

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 商会での生活は至って平和で順調だった。

  イリスの元には、メンバー達から情報が集まってくる。

 四つの団体を探って、そのうちの一つ、街外れの邸宅を買い取って、住み始めたのが宗教団体セレスだった。

 まだ、マーガレットの姿が確認できないので、そこが監禁場所かはわからないが、繋がっているのは確実だった。

 セレスの規模は小さく戦力らしきものは持っていない。メインはバイエルの軍隊で、四十名ほどの小隊が常駐している。
 カイルを潜入させようとしたが、ガードが固く、よそ者を受け入れていない。

 商会との取引の線で繋ぎをつける方向に変え、日用品と食料の納入を取り付けた。抱える人数が多いので、他所より安い金額を提示して釣ったのだ。

 仕入れ量が増えるほど値引きする事にしたら、どんどん量が増え、カンザスからの仕入れ品で生活するようになるのに、時間は掛からなかった。


 それで見えてきたものがある。男ばかりの屋敷に、女性用の化粧品や髪油の注文が混ざり始めた。

 やはり、この屋敷の何処かにいる。

 御用聞きと納品に、ケインとカイルを同行させることにした。女性の姿が全く見えないのが不思議だった。いつもの窓口の男に、化粧品を渡して、その辺の事情を探ってみた。

「最近新しく仕入れた化粧品があるのですが、試供品を差し上げますので、使ってみてください」

 ケインはそう言って、カルムとロブラールとレンティスの化粧品を渡した。

「化粧品なんてサービスされても、ここには女は、三人しかいないよ」
 
「少ないですね。奥様方や侍女などはいないのですか」

「セレスは妻帯を認めていないし、女性は受け入れていない。だから女はいないよ」

「残念。これから女物の販売を増やそうと思ったのに。駄目か。まあ、これはその三人の女性にあげてください。今度は男性用の髪油をお持ちしますね」

 この化粧品がうまく彼女たちの手に渡れば、救出の手が伸びていることに気付くだろう。



 マーガレット達は、すぐに化粧品の意味に気付いた。これは合図だ。こちらからも何か送り返さなくては。

 三人で相談し、靴下の取り寄せをお願いすることにした。薄い絹の靴下で、三枚重ねて履くタイプのものだ。マーガレット愛用の品だった。寒くなってきたから、温かい下着が欲しいという名目で、その中に混ぜておいた。


「誰が来てくれたのかしら。ブルーネルのシークレット部隊?」

「いいえ、ブルーネル公爵家は、見張られているはずです。人を動かしにくいので、多分、ロブラールでしょう」

「あなた達はいつも落ち着いているわね。二人がきてくれたお陰で、すごく心強いわ」

「ご安心を。私たちは軍事訓練も受けているので、救出のメンバーと一緒に戦えます。マーガレット様は体調を崩さないことだけ、気を付けてください」

 マーガレットは、うんうんと頷きながら、首をかしげている。

「そうなのね。よくイリスとミラが訓練をしていたけど、二人は強いの?」

「ミラは別格ですけど、イリス様も強いですよ。十四才からは、かなり厳しい訓練を受けていますからね」

「すごいわね。強くなって何をするつもりだったの? だって王太子妃になる予定だったのでしょ」

「多分、王太子様を守れるようになりたかったのでしょう。そして見事に強くなられた」

「私なら守ってもらいたいけど。そうなのね」

 マーガレットは素直な人だった。人が自分と違っても、そのまま飲み込む懐の深さを持っている。
 監禁の間に、か弱く頼りなげに見えるが折れない強さや、気持ちのタフさに触れ、伊達に王太子妃では無い、と二人の侍女は感心するのだった。


 イリス側に、靴下情報が伝わると、これを以て居場所確定となった。
 できれば靴下にメッセージをと考え、イリスの好きな花を刺繍した。それと、小鳥が巣に戻る情景と、月と星。

 敵の配置と装備、交代時間など必要な情報は集まっている。ケインが中心になり、ブルーベル公爵家とロブラールが協力してメイサムの幻を大きく膨らませている。後は監禁場所さえわかれば決行に移せる。

 そんなある日、カイルが、農具の納入で敷地内の少し奥まった納屋に向かっていた時、空から靴下がひらひらと舞ってきた。

 飛んできた方を見ると、三階の窓から女性が身を乗り出していた。

 多分、マーガレット達だと判断し、周囲を見回した。誰もいないのを確認してから、素早く木を伝い壁に取り付いて登っていった。

 女性たちは窓から離れ、身を寄せ合っている。

「マーガレット様でしょうか」

「ええ、そうよ。あなたは、カイルよね。一度イリスのところで見かけたわ」

「はい。ご無事で何よりです。これから数日内に助け出します。いつでも大丈夫なように、着る物と履物の準備をしておいてください」

 そう言うと、ふわっと窓から出ていった。三階から出たとは思えないような、軽い体運びだった。女達は慌てて窓から外を覗いたが、するすると壁を伝い降り、すぐ地面に着いた。

「身が軽いとは聞いていたけど、これほどとは思わなかったわ。彼を見つけてから今までで、五分も経っていないわね。ね、そうよね」

「そうですね。マーガレット様が、あれはカイルだと言い出して、皆で何か投げる物、と言いながら探して、窓から投げて、そこまでで三分くらい? 彼が早すぎるんです」

「判断するのも早かったわ。ブルーシャドウってすごいのね」

「まあ、公爵家のトップチームですから」

 マーガレットがぱたぱたと歩き回り始め、小さな布のバッグを荷物の入った箱から引っ張り出した。

「じゃあ、逃げるための持ち物準備をしましょう。丈夫な靴と、丈夫な上着と、お菓子と水筒かしら」

「ハンカチと紙と、アメもですね」

「それと、雨でも大丈夫な帽子とスカーフ。私たちは、髪飾りと靴に仕込んできたナイフを研ぎます」

 単調な日々に飽きていた三人は、久しぶりにウキウキと、荷の準備を始めるのだった。



 商会で報告を受けたイリスは言った。

「襲撃準備に入るわ。偵察班リーダーとブルーシャドウ、今夜8時、居酒屋集合、それまでに各々、現状把握。ブルーネルとロブラールに受け入れ態勢を依頼。偵察班から一名を走らせて」

 イリスは軍事訓練の時の簡潔な話し方に切り替わっていた。カイルはすっと部屋を出ていった。

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