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叔父様が来たと連絡を受けて愛人の家から伯爵が戻って来た時には、既にお母様たちを乗せた馬車は遠ざかっていました。
怒り狂った伯爵はただ1人私が残る離れに押しかけてきましたが、叔父様が用意してくれたたくさんの魔道具のうちの1つの結界魔道具に弾かれて罵りの声を上げながら去って行きました。
そして、お母様が逃げ延びてから数日後。叔父様は伯爵と話しあいお母様の離婚を認めさせ、叔父としてこの家に残る私の待遇を改善させました。
これは後で聞いた話ですが。叔父様との話しあいの際に頭に血がのぼったキンド伯爵は
「妻を返せ。そして嫁いでからも病弱を理由にろくに妻として社交もしないあげく、勝手に逃げ出して我が家に迷惑をかけた慰謝料を払え」
と、見苦しく喚いたそうです。しかし、叔父様はそれを逆手にとって伯爵を脅しました。
「それはそれは、伯爵にも苦労をかけましたね。
ただ、兄として言わせてもらうと妹はこの家に嫁ぐ前まではいたって普通の健康状態でした。婚姻を結ぶ前に神殿で検査を受けたから間違いありません。
それに、妹が嫁いでからしばらくしても一度も社交の場に出て来ないことを心配して私も妹の友人たちもこまめに手紙を送って面会を申しこんでいたのですが。全員が療養という理由で見舞いすらも断られてしまいましてね。まあ、生真面目な妹のことですからきっと多忙な伯爵に気を遣っているのだろうと皆で言っていたのですが。まさか、こんなに長い間誰もが会えなくなるとは思いませんでしたよ」
「そうだ、妻は娘を産んでから身体を壊してずっと療養していたんだ。妻として社交はしないのに家族や友人には会うなどとふしだらな行いを許せば我が家の醜聞になるだろう」
「ええ、その心配する気持ちはわかりますとも。
私も他家の妻になったのだからあまりに口を出しても悪いと思ってろくに妹と姪の様子も知ろうとせず、せめてもの手助けになるようにとお金だけは送っていたのですが。本当に久しぶりに顔を見た妹とかわいい姪のあの痩せこけた姿を見て驚きましたよ。
あれでは忙しい伯爵もさぞ心休まらなかったことでしょう。身内の私に相談してくだされば妹も姪もすぐに引き取って療養させたのですが。
……本当に情けないことですよ。かわいい娘が生まれても実家にも古い友人たちにも連絡すら寄こせないぐらい衰弱していた妹たちに気づかずに、ただ支援金だけを送って他人にすべてを任せるなどと。とんでもなく薄情な兄だと心から悔いています。
それに私の不徳のせいで社交界の醜聞に巻き込まれかけてしまいましてね。ひょっとして伯爵も下世話な連中に何か言われましたかな?」
「醜聞だと? 何のことだ?」
「ええ。何でもどこかの頭の狂った、失礼、愛欲に溺れて理性をなくした貴族が、裕福な妻の実家からの支援金目当てに娶った正妻を監禁して、まんまとせしめた支援金で平民の妾を養っているという下世話な噂ですよ。
しかも、その愚かな妾は『いずれ貴族の妻になるのだから、そのための準備だ』と言って、まるで成り上がり者のように贅沢な生活を送っているそうでしてね。
正直私もそんなひどい話があるとは信じたくもないのですが。一部の我が家を妬む貴族が出て来ない妹と結び付けて好き勝手に囀っていまして。念のために調査をしようかと考えているのですよ」
叔父様は世間話をするふりをしてキンド伯爵の愛人母娘の存在をほのめかして脅したそうです。
そして態度をやわらげた伯爵に叔父様は”噂”を調べないことを条件に、この家に残る私の待遇改善と母の離婚を認めさせました。
叔父様は私が伯爵の嫌がらせから守られることと、定期的に叔父様と会えるように取り決めてくれました。
一番うれしかったのは叔父様の元で教育を受け、経営する商会で働かせてもらえることです。私は前世の趣味が無意識に活きていたのか手先が器用なので、装飾品に使う魔石の加工をすることになりました。
これで散々お世話になっている叔父様から借りている生活費や復讐のためにつかう費用(叔父様はこれまで苦労させた分のお金だと言ってくれていますが)を返せますし、お母様にプレゼントを贈れます。
私はお母様と別れて以来ずいぶんと久しぶりに幸せを感じて微笑みました。
怒り狂った伯爵はただ1人私が残る離れに押しかけてきましたが、叔父様が用意してくれたたくさんの魔道具のうちの1つの結界魔道具に弾かれて罵りの声を上げながら去って行きました。
そして、お母様が逃げ延びてから数日後。叔父様は伯爵と話しあいお母様の離婚を認めさせ、叔父としてこの家に残る私の待遇を改善させました。
これは後で聞いた話ですが。叔父様との話しあいの際に頭に血がのぼったキンド伯爵は
「妻を返せ。そして嫁いでからも病弱を理由にろくに妻として社交もしないあげく、勝手に逃げ出して我が家に迷惑をかけた慰謝料を払え」
と、見苦しく喚いたそうです。しかし、叔父様はそれを逆手にとって伯爵を脅しました。
「それはそれは、伯爵にも苦労をかけましたね。
ただ、兄として言わせてもらうと妹はこの家に嫁ぐ前まではいたって普通の健康状態でした。婚姻を結ぶ前に神殿で検査を受けたから間違いありません。
それに、妹が嫁いでからしばらくしても一度も社交の場に出て来ないことを心配して私も妹の友人たちもこまめに手紙を送って面会を申しこんでいたのですが。全員が療養という理由で見舞いすらも断られてしまいましてね。まあ、生真面目な妹のことですからきっと多忙な伯爵に気を遣っているのだろうと皆で言っていたのですが。まさか、こんなに長い間誰もが会えなくなるとは思いませんでしたよ」
「そうだ、妻は娘を産んでから身体を壊してずっと療養していたんだ。妻として社交はしないのに家族や友人には会うなどとふしだらな行いを許せば我が家の醜聞になるだろう」
「ええ、その心配する気持ちはわかりますとも。
私も他家の妻になったのだからあまりに口を出しても悪いと思ってろくに妹と姪の様子も知ろうとせず、せめてもの手助けになるようにとお金だけは送っていたのですが。本当に久しぶりに顔を見た妹とかわいい姪のあの痩せこけた姿を見て驚きましたよ。
あれでは忙しい伯爵もさぞ心休まらなかったことでしょう。身内の私に相談してくだされば妹も姪もすぐに引き取って療養させたのですが。
……本当に情けないことですよ。かわいい娘が生まれても実家にも古い友人たちにも連絡すら寄こせないぐらい衰弱していた妹たちに気づかずに、ただ支援金だけを送って他人にすべてを任せるなどと。とんでもなく薄情な兄だと心から悔いています。
それに私の不徳のせいで社交界の醜聞に巻き込まれかけてしまいましてね。ひょっとして伯爵も下世話な連中に何か言われましたかな?」
「醜聞だと? 何のことだ?」
「ええ。何でもどこかの頭の狂った、失礼、愛欲に溺れて理性をなくした貴族が、裕福な妻の実家からの支援金目当てに娶った正妻を監禁して、まんまとせしめた支援金で平民の妾を養っているという下世話な噂ですよ。
しかも、その愚かな妾は『いずれ貴族の妻になるのだから、そのための準備だ』と言って、まるで成り上がり者のように贅沢な生活を送っているそうでしてね。
正直私もそんなひどい話があるとは信じたくもないのですが。一部の我が家を妬む貴族が出て来ない妹と結び付けて好き勝手に囀っていまして。念のために調査をしようかと考えているのですよ」
叔父様は世間話をするふりをしてキンド伯爵の愛人母娘の存在をほのめかして脅したそうです。
そして態度をやわらげた伯爵に叔父様は”噂”を調べないことを条件に、この家に残る私の待遇改善と母の離婚を認めさせました。
叔父様は私が伯爵の嫌がらせから守られることと、定期的に叔父様と会えるように取り決めてくれました。
一番うれしかったのは叔父様の元で教育を受け、経営する商会で働かせてもらえることです。私は前世の趣味が無意識に活きていたのか手先が器用なので、装飾品に使う魔石の加工をすることになりました。
これで散々お世話になっている叔父様から借りている生活費や復讐のためにつかう費用(叔父様はこれまで苦労させた分のお金だと言ってくれていますが)を返せますし、お母様にプレゼントを贈れます。
私はお母様と別れて以来ずいぶんと久しぶりに幸せを感じて微笑みました。
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