あなたが言う恩を返しただけ

木蓮

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 あれから半年が経ちました。私は魔石加工職人を目指して再会したお母様と一緒に叔父様の商会で働いています。今はあのキンド伯爵家で過ごしていた地獄の日々が嘘のように、穏やかで充実した日々を送っています。

 5年前に私が考えた”復讐”は

『強欲なラファルルリアに彼女が欲しがる貴族らしい装飾品を貸す魔術誓約を結ばせて、ひたすら物を貸し与え続ける。そして、返却が難しくなった時に魔術誓約の破棄名誉を守ると引き換えにキンド伯爵家と手を切る』

 というものです。それを聞いた叔父様がさらに手間を加え

『ラファルルリアを煽って私を脅しているところを魔道具に録音し、伯爵がお母様と私を虐待していたことと異母妹が私を脅迫していることを社交界に広めると脅す』

 というものに決まりました。
 これは前世の”悪質詐欺”を手本にしました。正直上手くいくか心配なところもありましたが、強欲な伯爵とその娘がまんまと引っかかってくれたので安心しました。
 叔父様曰く「小心者の伯爵は苦労して立て直した伯爵家とそれを継ぐ娘の評判が傷つくのを一番恐れている」とのことで、実際に伯爵は私がいなくなった後には素直に応じたそうです。

「へえ、良いじゃん。あの一件でずいぶん上手くなったな」
「ありがとう。カイルが教えてくれたおかげよ」

 叔父様の息子でいとこのカイルに磨き上げた魔石を見せると合格点を貰いました。
 幼い頃から職人に混じって魔石を磨いてきた彼は、私にとって師匠でキンド伯爵への”復讐”に手を貸してくれた恩人です。
 ラファルルリアに貸した装飾品の大半は、実は彼のような商会の見習い職人たちが作ってくれた魔石を使った物です。見た目は煌びやかですが、見る目のある人たちにとってはそこそこの品・・・・・・です。ちなみに、私もカイルに教えてもらいながら腕を磨きました。
 裕福な伯爵令嬢が身に着けるにはいささか安価な魔石を使った装飾品を用意したのは、とにかく魔術誓約紙を見たキンド伯爵を焦らせるぐらいに大量の物を貸したいのが一番の理由ですが。
 私が父親と同じく私から奪うことしか頭にない異母妹にも仕返しをしたかったのもあります。

 ラファルルリアは貴族たちにコンプレックスを抱いています。
 5年前。彼女は初めて参加したお茶会で「平民の分際で贅沢に暮らしていたくせに、マナーもろくに身につけていない」と令嬢たちに手厳しい洗礼・・を浴びせられたそうです。
 プライドの高い彼女は激しい憎しみを覚えました。唯一令嬢たちを悔しがらせた自慢の美貌を磨き上げ、貴族令嬢らしくあることに執着するようになりました。
 それを知った私は、叔父様に頼んで貴族令嬢の持ち物にふさわしい”ダイヤモンドのブローチ”を手に入れてもらい、わざとラファルルルリアに奪わせました。
 初めて”憎い貴族令嬢の私”から奪った宝物ダイヤのブローチを身に着けたラファルルリアは、出席したパーティーで周りから注目を浴びたことでようやっと傷ついた心を満たされました。そして、父と自分が目指す”裕福な伯爵令嬢”になるために、本物の裕福な貴族・・・・・・・・であるストライド子爵家から贈られた私の装飾品を奪って身に着けるようになりました。
 しかし、父親がどんなに最高の品を与えても彼女の貴族への憎しみコンプレックスが癒えることはなく。母から奪いつづけることでプライドを満たした父親のように、ひたすら私から奪い続け自身の内面を磨くことはありませんでした。

 ……私は生まれながらに父親に愛され、お母様と私からすべてを奪って遊び暮らすラファルルリアをずっと憎く思っていました。
 だから、彼女の貴族へのコンプレックスと憧れを利用してキンド伯爵家の評判を傷つける“復讐”に利用するとともに、自分で“新しい物を買い漁り続けるぐらいには裕福だが教養のない令嬢”だとアピール本性をさらすするように仕向けました。
 

「そういえば例の家だけどさ、突然一家で領地に引っ込んだらしいぜ。実は逃げたんじゃないかって話だけど」
「ええ? どういうこと?」
「悪い、父上が口止めしているみたいで誰も詳しく教えてくれないんだよ。だから、あくまで学園で聞きかじった噂だけど。例の令嬢様が例の家の当主と派手にケンカして暴れ回ったらしい。
 あの伯爵家、間違えた、例の家。半年前にも今までいないと思われていた姉がいきなり出て行ったって、学園でもずいぶん噂になってたしな。例のわがままな令嬢様が溜めこんでた鬱憤を爆発させたのかもな。
 ……もしくは”美貌で裕福な令嬢”なんてさ、自分たちがあちこちに自慢してまわってた大嘘がバレそうになって逃げたのかもな。もっとも、まともな貴族たちは半年前からとっくに気づいてたけど」

 例の家を毛嫌いするカイルは辛辣な感想を述べました。私も思わず苦笑いしました。
 半年前、キンド伯爵家とストライド子爵家は”今後一切の関わりを持たない”ことで合意しました。
 しかし、貴族の噂とは怖いもので。

 --キンド伯爵家には世間には知られていない正妻の子である病弱な姉娘がいて、5年前にやはり病弱を理由に離縁した母の実家のストライド子爵家に引き取られたらしい。
 しかし、社交もできない程身体が弱いとはいえ、キンド伯爵が貴族の正妻の子である異母姉をいない者として跡取り娘の異母妹だけをかわいがり、求めるままに贅沢をさせるのはいかがなものか。
 もしかして、かつて正妻のストライド子爵家に援助を受けていたキンド伯爵家は、家を建て直した後に邪魔になった正妻と異母姉をわざと追い出した・・・・・・・・のではないか

 と、ずいぶんと陰口を叩かれたそうです。
 それに加えて、それまでは難はあっても・・・・・・美貌と財産で婿入りを希望する令息たちをとりこにして来た跡取り娘はなぜかいつも苛立った様子を見せるようになり、身に着ける物もだんだんと新調しなくなったことで。ちやほやする人たちが離れていったそうです。

 ――ラファルルリアは生まれた時から愛され、自分の思うがままに生きてきた幸せな娘です。
 幼い頃から貧乏だと蔑まれて屈辱を味わった父親は愛妻と愛娘に”自分がしてほしかったこと”をすることで、何よりも大切な家族を幸せにしていたつもりでした。
 けれども、あの無邪気な異母妹は父親に与えられるモノすべてをそのまま受け入れて”他人から奪い取ってのし上がる”という歪んだ価値観を持つ父親そっくりに育ちました。
 父親の”コンプレックス”と”憎しみ”も引き継いだ彼女は、強者やメリットがある人たちにはすり寄る一方で立場が弱い相手には傲慢に振るまい、裕福なキンド伯爵家を妬む貴族たちや彼女の敵からも恨みを買ったのです。
 
 ――それに、過去の行いを本人たちは忘れても、周りの目ざとい貴族たちはしっかりと覚えています。それが貴族社会で生き残る術なのですから。
 あの伯爵家は父親の悪行と彼女自身の失態が積み重なって、周りから見放されたのでしょう。
 でも、あの人を憎んで育った娘は自分が不幸になった・・・・・・のは愛する父親憎い貴族のせいだと思っているのかもしれません。私からすれば自業自得ですが。
 
 ラファルルリアが私に言い放った言葉ややったことは今でも許せませんが。ほんのわずかだけ、愛する父親の期待に素直に応えつづけた異母妹を憐れに思いました。

「そう、例の家も令嬢も私には関わりのないことだけれど。せいぜい穏やかに過ごせることを願っているわ。下手に不幸になってこちらを逆恨みされるのも迷惑だし」
「そうだな。こんな気分が悪くなるだけの話はこれでやめにするよ。……そういえば、エレナ伯母上に贈る指輪だけどさ。こんな魔石を見つけたんだけど、どう?」

 私は心の中でキンド伯爵と異母妹に別れを告げると、カイルに頼んでいたお母様に贈る指輪の魔石を2人で熱心に選び始めました。
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