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帰って来た自分を家族たちは温かく迎え入れてくれた。しかし、自然に囲まれたのどかな村で暮らしてきたルースには宝飾品のように煌びやかな王都とそこにふさわしい美しい装いをした彼らに内心気後れを感じ、会いたくてたまらなかったはずの妻のサティアにも喜びよりも戸惑いを感じた。
ルースの内心を感じとったのかサティアは寂しそうな顔をした。ルースは自分の身勝手な感情で辛抱強く帰りを待っていてくれた彼女を傷つけてしまったことをひどく後悔し、これからは精いっぱいサティアに寄り添おうと決めた。
最初はお互いに過剰な程に気を遣い時には気まずい思いもしたが。サティアがルースに寄り添ってくれたおかげで元の生活に馴染み、いつしか長い付き合いの友人のような関係になった。
村へと手紙を出すと友人たちからは「元気で良かった。たまには手紙をくれ」と温かい返事が返ってきて。ルースは2つの家族たちに恵まれたことに心から感謝し、元の生活に戻れたことに幸せを噛みしめた。
――そのはずだった。
いつからかルースは不思議な夢を見るようになった。
夢の中の自分は村の畑で作物を育てて村人たちに頼まれた品物を他の街に売り込みに行き。友人たちと集まって他愛のない話やゲームに興じて。忙しいアルレーネのために食事を作って待ち、帰って来た彼女とその日あったことを話し合う。
夢は村にいた頃には当たり前に過ごしていた風景だった。しかし、はっきりと覚えているだけにまるで現実のような存在感があって。だんだんとルースは幸せな夢から覚めるたびに心に再び穴が空いたような強い悲しみと痛みを感じるようになった。
(俺はまだ村とアルレーネたちのところに帰りたいんだな……)
何度か繰り返すうちにルースは今の自分が本当はあの村に帰り、アルレーネの助手として生きたいのだと認めた。
しかし、そのたびにもう1人の自分に「帰って来た自分を元のように受けいれて、再び幸せで満ち足りた生活を送らせてくれている兄たち。何よりもサティアを捨てるのか」と冷たい声でささやかれ。
その声に頭が冷えたルースは今いる現実を受けいれ幸せで残酷な夢を忘れて現実に向き合おうとした。そして、村を思い出す畑仕事や友人たちとの手紙のやりとりで再びぽっかりと空いた心の穴を塞いで、決して選んではいけない望みから必死に目を逸らした。
そんなある日、ルースはサティアを誘って彼女が好きそうなカフェに出かけた。大好物のスイーツを目にして迷う彼女は愛らしく、未だに断片的にしか記憶が戻らない心のどこかが温かくなった。
真剣にお土産を選ぶ彼女を残して先に店を出ると村の親友クリフと会った。
「おまえ、本当にルースか!? 驚いたなあ。村にいる時は毛づくろいが下手な猫みたいなむさい恰好してたのに、今はどこからどう見ても王都のやり手の商人に見えるぞ」
目を見開いてじろじろと眺めまわす正直な友人に、王都に帰って来たばかりの自分を思い出してルースは苦笑いを浮かべた。
「そう見えるのならサティアのおかげだよ、彼女はいつも気を遣ってくれているんだ」
「ああ、おまえの最愛の奥さんか。すごく良い方だよな。いつも丁寧な手紙と一緒にこっちで欲しい品物を届けてくれてさ、皆すごく感謝してるよ」
「そうか、良かったよ。サティアは優しくてとても気が利くからな。俺も助けられてばかりだ」
ルースはサティアを褒めながらも胸がちくりと痛んだ。
優しく時折愛らしい顔を見せる彼女といるととても気持ちが安らぐが。自分に変わらぬ愛を向けてくれる彼女と違って自分は未だに記憶が断片的にしか思い出していないせいか”妻”としての愛情を抱けない。それでも薄情な自分を受けいれてくれて自分の恩人たちにも気を配ってくれる彼女には本当に頭が上がらない。
「はいはい、幸せをごちそうさま。……あ、そういえばさ、良い話があるんだ。聞いて驚け……」
ルースの様子を見たクリフは空気を読んで話題を変えてくれた。村にいた時にアルレーネと作っていたハンドクリームができあがりはるばる遠い王都の貴族に気に入られたと聞いて、ルースは激しい喜びと切なさがこみ上げてきて胸が張り裂けそうになった。
(アルレーネ……)
一番親しい彼女にも他の村人たちのように何度も手紙を出して、返事が欲しいと思った。けれども、いざペンをとると彼女と過ごした日々や村への愛おしさと帰りたい想いが渦巻いて形になってくれず。結局、彼女が喜びそうな品と一言メッセージだけを送っている。
彼女からは返事は返ってこないが。それでも他の村人たちから彼女の様子を聞くたびにルースの心は高鳴った。
そして、今。アルレーネの夢がついに叶ったと聞いて、ルースは今すぐにでも彼女の元へ駆けつけたいと思った。
――自分が心の奥深くに押し込めていた本音にまた気づいてしまった。
自分はアルレーネを愛していて彼女と共に生きたい。けれども、ルースには自分を愛して再び一緒に生きようとしてくれている家族がいる。それだけは決して選んではいけない。
ルースはこみ上げてくる激情を必死で噛み殺した。
ルースの内心を感じとったのかサティアは寂しそうな顔をした。ルースは自分の身勝手な感情で辛抱強く帰りを待っていてくれた彼女を傷つけてしまったことをひどく後悔し、これからは精いっぱいサティアに寄り添おうと決めた。
最初はお互いに過剰な程に気を遣い時には気まずい思いもしたが。サティアがルースに寄り添ってくれたおかげで元の生活に馴染み、いつしか長い付き合いの友人のような関係になった。
村へと手紙を出すと友人たちからは「元気で良かった。たまには手紙をくれ」と温かい返事が返ってきて。ルースは2つの家族たちに恵まれたことに心から感謝し、元の生活に戻れたことに幸せを噛みしめた。
――そのはずだった。
いつからかルースは不思議な夢を見るようになった。
夢の中の自分は村の畑で作物を育てて村人たちに頼まれた品物を他の街に売り込みに行き。友人たちと集まって他愛のない話やゲームに興じて。忙しいアルレーネのために食事を作って待ち、帰って来た彼女とその日あったことを話し合う。
夢は村にいた頃には当たり前に過ごしていた風景だった。しかし、はっきりと覚えているだけにまるで現実のような存在感があって。だんだんとルースは幸せな夢から覚めるたびに心に再び穴が空いたような強い悲しみと痛みを感じるようになった。
(俺はまだ村とアルレーネたちのところに帰りたいんだな……)
何度か繰り返すうちにルースは今の自分が本当はあの村に帰り、アルレーネの助手として生きたいのだと認めた。
しかし、そのたびにもう1人の自分に「帰って来た自分を元のように受けいれて、再び幸せで満ち足りた生活を送らせてくれている兄たち。何よりもサティアを捨てるのか」と冷たい声でささやかれ。
その声に頭が冷えたルースは今いる現実を受けいれ幸せで残酷な夢を忘れて現実に向き合おうとした。そして、村を思い出す畑仕事や友人たちとの手紙のやりとりで再びぽっかりと空いた心の穴を塞いで、決して選んではいけない望みから必死に目を逸らした。
そんなある日、ルースはサティアを誘って彼女が好きそうなカフェに出かけた。大好物のスイーツを目にして迷う彼女は愛らしく、未だに断片的にしか記憶が戻らない心のどこかが温かくなった。
真剣にお土産を選ぶ彼女を残して先に店を出ると村の親友クリフと会った。
「おまえ、本当にルースか!? 驚いたなあ。村にいる時は毛づくろいが下手な猫みたいなむさい恰好してたのに、今はどこからどう見ても王都のやり手の商人に見えるぞ」
目を見開いてじろじろと眺めまわす正直な友人に、王都に帰って来たばかりの自分を思い出してルースは苦笑いを浮かべた。
「そう見えるのならサティアのおかげだよ、彼女はいつも気を遣ってくれているんだ」
「ああ、おまえの最愛の奥さんか。すごく良い方だよな。いつも丁寧な手紙と一緒にこっちで欲しい品物を届けてくれてさ、皆すごく感謝してるよ」
「そうか、良かったよ。サティアは優しくてとても気が利くからな。俺も助けられてばかりだ」
ルースはサティアを褒めながらも胸がちくりと痛んだ。
優しく時折愛らしい顔を見せる彼女といるととても気持ちが安らぐが。自分に変わらぬ愛を向けてくれる彼女と違って自分は未だに記憶が断片的にしか思い出していないせいか”妻”としての愛情を抱けない。それでも薄情な自分を受けいれてくれて自分の恩人たちにも気を配ってくれる彼女には本当に頭が上がらない。
「はいはい、幸せをごちそうさま。……あ、そういえばさ、良い話があるんだ。聞いて驚け……」
ルースの様子を見たクリフは空気を読んで話題を変えてくれた。村にいた時にアルレーネと作っていたハンドクリームができあがりはるばる遠い王都の貴族に気に入られたと聞いて、ルースは激しい喜びと切なさがこみ上げてきて胸が張り裂けそうになった。
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彼女からは返事は返ってこないが。それでも他の村人たちから彼女の様子を聞くたびにルースの心は高鳴った。
そして、今。アルレーネの夢がついに叶ったと聞いて、ルースは今すぐにでも彼女の元へ駆けつけたいと思った。
――自分が心の奥深くに押し込めていた本音にまた気づいてしまった。
自分はアルレーネを愛していて彼女と共に生きたい。けれども、ルースには自分を愛して再び一緒に生きようとしてくれている家族がいる。それだけは決して選んではいけない。
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