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カフェで村の友人クリフと会ってからルースは時々ぼんやりとするようになった。
そんな時の彼は庭に出て一心に手入れに励んでいて。サティアはその自分の世界に浸る姿にルースが愛おしい女性を想っていることを感じて目の前にいるはずの彼をはるか遠く感じた。
「ルースは自分を助けてくれた恩人のアルレーネに恋をしていた。しかし、自分を待っている家族がいると知ると、家族が待っていると言って帰って行った」
様子がおかしいルースが心配になったサティアは密かに彼を良く知る友人のクリフを説得して聞きだした。
その時には自分を忘れて他の女性を愛する彼にひどく傷つき「私を妻だって呼んでくれたのに、他に愛する女性がいるなんて。嘘つき」と自分を忘れてしまったルースに激しい怒りと悲しみを感じた。
けれども、自分だって身を刻まれるような痛みを感じているだろうに。涙をこらえるサティアを心配するルースの変わらない優しさに触れたら、そんな自分よがりな想いはかき消えてしまった。
(ルースはひどいわ。いつも私を気遣って甘やかしてくれて。優しいあなたにそんな顔をされたら怒れないじゃない……)
しっかり者のルースは雛鳥を守る親鳥のように寂しがり屋のサティアに寄り添って溢れんばかりの愛をくれた。
記憶を失くしてもその深い愛情は変わらない。きっと今の彼も自信の願いよりも帰りを待つサティアを心配して帰って来たのだろう。
サティアはルースがいる庭が見える窓から離れると自室を見渡した。
引っ越しする時に夫婦の住まいになるのだからとルースと話しあって2人の好みに改修した。特にサティアの自室にはルースにもらった贈り物や思い出の品で溢れていて。ルースが商用で長く留守にして寂しくなった時や彼が行方不明になって不安な時。そして帰って来たルースが自分を忘れてしまったことに傷ついた時、ここで愛する夫を想っていた。そして今のルースとの思い出もこの部屋に置いて大切に積み重ねていった。
「ふふっ、懐かしいわ。ルースはいつも日記みたいに丁寧な手紙を書いてくれていたのよね……」
サティアは棚から箱を取り出し中にしまってあったルースからもらった手紙の束を取り出した。
学生時代から行方不明になる直前まで。どれもが厚みのある手紙には彼がその時伝えたかった言葉とサティアへの気遣いが丁寧な字で細やかに綴られていて。そのすべてを鮮やかで幸せで愛おしい思い出として思い浮かべられる。
サティアはルースからの手紙をすべて読み終えるとそっと抱きしめた。
自分は夫を愛し愛されていた。優しい夫はいつも家族を求めて泣いていた自分に愛情と安心できる居場所をくれて、2人で幸せな思い出をたくさん作った。
――自分はこの温もりがあれば大丈夫。だから、ルースが望むのならば今の彼が愛する新しい家族の元へ彼を送り出そう。
サティアは静かに決意を固めると手紙の束を箱に戻しルースと話しあうために動き出した。
*****
その夜、呼ばれてサティアの自室にやって来たルースは何か重たいものを引きずっているような陰りのある表情を浮かべていた。サティアは彼を安心させるためにやわらかい声を出した。
「ここはね、家を改装する時に私がくつろげるようにとあなたが一番手をかけて作ってくれたのよ。この窓は特にお気に入り」
「ああ、水晶のように透きとおったきれいなガラスだな。おかげで外が良く見える」
「ふふっ、そうでしょう。あなたが私のために外国から取り寄せてくれたのよ。『君が好きな庭や遊びに来る鳥たちが良く見えるように』って言ってね。……でも、本当はね。私はあなたが夢中になって庭を手入れしている姿を見るのが好きなの。あなたは昔から植物が好きで、どんな時よりも生き生きとしていたから」
記憶を探るように遠い目をしていたルースは何か痛みをこらえるような顔をした。サティアはルースの目をのぞきこんで言った。
「ルース、教えて。あなたはアルレーネさんが待つ村に帰りたい? そして、そこで生きたい?」
サティアの質問にルースは様々な感情が絡みあってせめぎ合うような苦し気な顔をした。サティアは葛藤する彼を静かに見守った。やがてルースはサティアをまっすぐに見つめて答えた。
「……ああ。俺はあの家に帰りたい」
ルースの小さいがはっきりとした答えにサティアはふと結婚式の前日にルースと話をした時のことを思い出した。あの時の自分はルースの告白にこれからの自分の生きる道を決めた。だから、今度は自分がルースを送り出そう。
「わかった。私、あなたを応援するわ」
「サティア……」
「そんな顔しないで。あのね、私のルースはいつも私を愛してくれてこの部屋のように私を幸せでいっぱいにしてくれた。あなたのおかげで私は一生分の幸せな思い出と居場所をもらったわ。だから、今度は私があなたの願いを叶えたい。……だって、あなたは私の大切な”家族”だから」
サティアが微笑むとルースは泣きそうな笑顔を浮かべた。そんな彼にサティアは手を差し出した。
「ルース、1つだけお願いがあるの。……離れていてもこれからもあなたの家族でいてもいい?」
「もちろんだ。俺もずっと君の“家族”でいたい」
ルースもまた手を伸ばしてサティアの手を握り返す。彼が帰って来てから初めて触れた手は荒れていて力強い、これまでのどの記憶よりも温かなものだった。
その夜、2人は寄り添って語り明かした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お昼に見たらHOTランキング82位に入れていただきました! たくさんの方々に読んでいただいた上に応援もいただいてありがとうございます!!
1つ前の「私を見ない~」から続けての憧れのHOTランキング入りできてめちゃくちゃうれしいです。いつもありがとうございます。
また他の話も読んでいただきありがとうございます!
こちらは残り1話で完結です。最後までお付き合いいただけると光栄です。
(25.6.18)18時に見たらHOTランキング26位に入れていただきました! 驚きすぎて宇宙猫になりました!!
本当にたくさんの方々に応援していただきましてありがとうございます!
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様子がおかしいルースが心配になったサティアは密かに彼を良く知る友人のクリフを説得して聞きだした。
その時には自分を忘れて他の女性を愛する彼にひどく傷つき「私を妻だって呼んでくれたのに、他に愛する女性がいるなんて。嘘つき」と自分を忘れてしまったルースに激しい怒りと悲しみを感じた。
けれども、自分だって身を刻まれるような痛みを感じているだろうに。涙をこらえるサティアを心配するルースの変わらない優しさに触れたら、そんな自分よがりな想いはかき消えてしまった。
(ルースはひどいわ。いつも私を気遣って甘やかしてくれて。優しいあなたにそんな顔をされたら怒れないじゃない……)
しっかり者のルースは雛鳥を守る親鳥のように寂しがり屋のサティアに寄り添って溢れんばかりの愛をくれた。
記憶を失くしてもその深い愛情は変わらない。きっと今の彼も自信の願いよりも帰りを待つサティアを心配して帰って来たのだろう。
サティアはルースがいる庭が見える窓から離れると自室を見渡した。
引っ越しする時に夫婦の住まいになるのだからとルースと話しあって2人の好みに改修した。特にサティアの自室にはルースにもらった贈り物や思い出の品で溢れていて。ルースが商用で長く留守にして寂しくなった時や彼が行方不明になって不安な時。そして帰って来たルースが自分を忘れてしまったことに傷ついた時、ここで愛する夫を想っていた。そして今のルースとの思い出もこの部屋に置いて大切に積み重ねていった。
「ふふっ、懐かしいわ。ルースはいつも日記みたいに丁寧な手紙を書いてくれていたのよね……」
サティアは棚から箱を取り出し中にしまってあったルースからもらった手紙の束を取り出した。
学生時代から行方不明になる直前まで。どれもが厚みのある手紙には彼がその時伝えたかった言葉とサティアへの気遣いが丁寧な字で細やかに綴られていて。そのすべてを鮮やかで幸せで愛おしい思い出として思い浮かべられる。
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――自分はこの温もりがあれば大丈夫。だから、ルースが望むのならば今の彼が愛する新しい家族の元へ彼を送り出そう。
サティアは静かに決意を固めると手紙の束を箱に戻しルースと話しあうために動き出した。
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「ここはね、家を改装する時に私がくつろげるようにとあなたが一番手をかけて作ってくれたのよ。この窓は特にお気に入り」
「ああ、水晶のように透きとおったきれいなガラスだな。おかげで外が良く見える」
「ふふっ、そうでしょう。あなたが私のために外国から取り寄せてくれたのよ。『君が好きな庭や遊びに来る鳥たちが良く見えるように』って言ってね。……でも、本当はね。私はあなたが夢中になって庭を手入れしている姿を見るのが好きなの。あなたは昔から植物が好きで、どんな時よりも生き生きとしていたから」
記憶を探るように遠い目をしていたルースは何か痛みをこらえるような顔をした。サティアはルースの目をのぞきこんで言った。
「ルース、教えて。あなたはアルレーネさんが待つ村に帰りたい? そして、そこで生きたい?」
サティアの質問にルースは様々な感情が絡みあってせめぎ合うような苦し気な顔をした。サティアは葛藤する彼を静かに見守った。やがてルースはサティアをまっすぐに見つめて答えた。
「……ああ。俺はあの家に帰りたい」
ルースの小さいがはっきりとした答えにサティアはふと結婚式の前日にルースと話をした時のことを思い出した。あの時の自分はルースの告白にこれからの自分の生きる道を決めた。だから、今度は自分がルースを送り出そう。
「わかった。私、あなたを応援するわ」
「サティア……」
「そんな顔しないで。あのね、私のルースはいつも私を愛してくれてこの部屋のように私を幸せでいっぱいにしてくれた。あなたのおかげで私は一生分の幸せな思い出と居場所をもらったわ。だから、今度は私があなたの願いを叶えたい。……だって、あなたは私の大切な”家族”だから」
サティアが微笑むとルースは泣きそうな笑顔を浮かべた。そんな彼にサティアは手を差し出した。
「ルース、1つだけお願いがあるの。……離れていてもこれからもあなたの家族でいてもいい?」
「もちろんだ。俺もずっと君の“家族”でいたい」
ルースもまた手を伸ばしてサティアの手を握り返す。彼が帰って来てから初めて触れた手は荒れていて力強い、これまでのどの記憶よりも温かなものだった。
その夜、2人は寄り添って語り明かした。
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