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Chapter1

05 トリファン見聞録~町の様子と拠点~

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 なんかもうすっごい。

 エクレールの背に乗って上空から見る世界は、どう考えても俺のいた地球ではなかった。あたり一面に広がる森。遠くに見える砂漠地帯。点在している村らしき建物と畑。遠くに見えるのは火山なのか、煙が出ている。トリファンのワールドマップの絵と全く同じだ。

「……あ! あれ何!?」

 雲の合間に、大きな塊が浮かんでいる。亀のような形に見えるけど、あれはもしかして。

「はい、あれこそは神々の加護を受けし浮遊都市、オドントケリスです」
「ああ~そっか、あれが……!」

 プレイヤーの拠点がある街。あれもゲーム画面と同じデザインだけど、目の当たりにすると迫力が違う。
 空飛ぶ巨大な亀の上に広がる街。緩やかな山のようになっていて、中央にそびえる城みたいな建物が存在感を放っている。まだ距離があるしスケール感がつかみにくいけど、街全体は山手線の内側ぐらいの広さはあるんじゃないだろうか。

 人の姿が米粒大で確認できるぐらいに近づくと、亀の手足部分が港のようになっているのがわかった。空飛ぶ船がせわしなく離発着して、沢山の人たちが乗り降りしたり、荷物を積んだりしている。

 リュカは港ではなく、亀の尻尾の方にある森の中に降りた。

「ありがとう、エクレール」

 リュカがたてがみを撫でると、エクレールはいなないてから、出てきた時と同じく光の粒になって空気にとけるように消えた。俺とリュカは光に包まれつつ、ふわっと着地した。

 地に足がついてほっとする。でもここ亀の上なんだよな。普通の地面って感じがするし、木とか生えてるけど。枝の上にいるのはリスか? 小鳥の鳴き声みたいなのも聞こえてくる。

 ものめずらしくて周囲を眺めていたら、リュカが俺を見ているのに気がついた。俺っていうか、俺の頭をじっと見ている。

「大変失礼なことを申しますが……どうか、フードをかぶっていただけませんでしょうか」
「え? 全然いいけど」

 制服のジャケットの下に着ていたパーカーのフードをかぶると、リュカは安心したように微笑んだ。

「ありがとうございます。どうか拠点に到着するまでは、そのままでお願いいたします」

 なんでだろ、と思いつつ頷く。目立たないように? でもフードをかぶったところで、ファンタジー世界でこんな制服姿でうろついてたら悪目立ちしそうだけど。

「それでは拠点へご案内いたします。しばらく歩きますが、お疲れではございませんか?」
「うん、大丈夫!」

 この状況が夢なのかなんなのか全然わかんないけど、俄然わくわくしてきた。だって異世界じゃん! 街の中なら命の危険はなさそうだし、早く街の様子を見たい! テンション上がるぅう!
 俺が明らかにそわついているのを見て、リュカはまぶしいものを見るように目を細めてから歩き出した。

 森を抜け、俺の身長ぐらいの高さの石積みの壁に行き当たる。さっき空から見た感じだと、この向こうに街が広がっているはずだ。
 さっき聞きそびれたけど、多分俺はあんまり目立たないようにしてた方がいいんだろうな。とりあえず静かにしてようと思ったけれど。

「おおお~!」

 すごいゲームみたいな街! いやゲームみたいっていうかまさにゲームの中なのか!?
 ついつい叫んでしまった俺の声に、井戸の周りにいた人たちがびっくりした顔をして振り返ったけど、軽く会釈をしてすぐに井戸端会議を再会した。俺の姿に驚いたり、ひそひそ俺のことを話している様子はない。単純に「おや、騒いでる子供がいるな」ぐらいの反応だった。うるさくしてさーせんした。

 先導してくれるリュカの後について、緩やかな坂を上っていく。街並みを見ているだけで楽しい。中世ヨーロッパ風っていうの? レンガの家とか石畳とか、そこらへんをうろついているもこもこした羊的な家畜とか、すごくファンタジーの世界って感じがする。

 おっ、ここはなんだろう。小さめの体育館ぐらいのサイズの建物が並んでいる。

「この辺りには、主に衣類の縫製を行う工房が集まっています。巡礼者の為のローブもここで作られております」

 物珍しくて足を止めたら、リュカが説明してくれた。
 大きく開け放たれた扉をちょっと覗いてみると、ミシンらしきもので作業している人たちがいた。生成りの生地でできた、柔らかそうなローブが着々と作られている。

「そうなんだ~。いいなあのローブ」

 街の中心部に近づくにつれて賑やかになっていく。荷物を台車で引いている人。大きな壷を頭に載せて運んでいる人。軒先に出された縁台みたいなのに座ってお茶を飲んでいる人。みんなここで生活している普通の人たち――なんだろうけど。みんな当たり前みたいに角が生えている。あの人は鹿っぽい。あ、あの人はバッファローっぽいな。いいね~ファンタジック~。

 少し急な坂を上った辺りで、開けた広場に出た。巡礼のローブを着た人が多いな。ベンチに座ってくつろいだり、広場の中央にある噴水に向かって祈ったりしている。
 ……っていうか、なんだアレ。

「あはは、なにアレ、おもしろい」

 噴水の上にある石像みたいなやつを見て、俺はつい笑い出してしまった。
 なんつーか、美術の教科書に出てたミケランジェロの彫刻みたいに立派なんだけど、でっかいスマホらしきものに複数の人間がすがり付いてる姿が笑える。タイトルをつけるなら「スマホ依存の禁断症状」って感じ。

「コラッ、なんだお前さんは! 罰当たりな!」
「ふえっ」

 指を差して笑ってたら、近くにいた老人に怒られてしまった。

「申し訳ございません、こちらの方は初めてオドントケリスを訪問なさったのです。説明の及ばなかった私の咎です、どうかお許しください」

 リュカがすかさず俺に代わって頭を下げた。俺もあわてて頭を下げる。

「……そうか、怒鳴ってすまなかったが、不信心は感心できないよ」

 老人はそう言って、仕方ないなあという風にため息をついて立ち去っていった。
 トラブルにならなくて良かったけれど、リュカに迷惑をかけてしまった。

「笑っちゃってごめん……」
「私こそ申し訳ございません。本来ならばチョココロニー様を叱りつけたあの者を処罰すべきなのですが、神が降臨なさるとは私ども凡愚の身には思いもつかぬことですので……どうかご容赦いただきたく存じます」
「あっ、うん!? 全然怒ってない、代わりに謝ってくれてありがとー!」

 また深々と頭を下げられてあわてる。処罰て。てゆうか「ぼんぐのみ」ってなに? よくわからないけど、俺が不用意なことをするとリュカが頭を下げる羽目になるということはわかった。もうマジで大人しくしてよ……。

 噴水のあった広場から結構歩いた。実感としては水道橋から秋葉原まで歩いたぐらいの距離。坂が続いてたし、さすがにちょっと疲れたなと思ってたら、教会っぽい建物が立ち並ぶ区画にたどり着いた。
 いかにもかっこいいゴージャスな教会だったり、神社っぽかったり塔みたいな形をしてたり。色々な宗教ごちゃまぜって感じだ。

「こちらが神の家、チョココロニー様を崇める教会でございます」

 リュカが手で示したのは、ゴージャスな教会のおとなり。シンプルで質素な建物だった。そういえば課金するとホーム画面を色々カスタマイズできるみたいだったけど、俺は無課金だから初期のままってことか。

「――あっ」

 看板に「チョココロニー教会」って書いてある。う~ん! 名前なあ!!!!
 っていうか文字、普通に日本語なんだな……。

 リュカに案内されて中に入る。扉が開け放たれた正面の部屋は礼拝堂になっていた。奥に祭壇っぽい台があって、そこにはスマホっぽい像が奉られている。どうしてそうなった。おもしろいけど笑うのは我慢。
 右手の扉から出て、中庭のような場所に出る。小道を進んだ先に別棟の建物があった。

「まずは私が、他の者に先触れをいたしますね」

 俺にそう言ってから、リュカが扉を開けた。リュカの背中からちょっとだけ顔を覗かせて部屋の中を見ると、そこには他の仲間たちがいた。
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