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Chapter3

11 ガチの反社会勢力

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 村長の家を後にして、行き先を決めずに村の中をぽくぽく歩いていく。

 教会の宿泊所に戻って画面越しにみんなの戦いを見守るつもりでいたけれど、ハオシェンの「何かあったら絶対に呼んでくれよ」という言葉が妙に耳に残っていた。別に何もないとは思うけど、一応見回りをしておいた方がいいのかもしれない。それにちびっ子たちに警備するとか言っちゃったしね。

 村の中央は広場になっていて、すぐ近くに教会と集会所がある。集会所では子供たちが勉強していて、教会にはお年寄りが集まって祈りを捧げている。
 若い働き手たちはモンスターの襲撃を警戒し、畑には出ずに村にいた。それでもブラブラ遊ぶわけでもなく、農具の手入れや屋根の修繕などをしている。

 村の様子を見ながら適当に三十分ほど歩いたら、北側の端にたどり着いた。こちら側はあまり日当たりが良くない。
 窓が極端に少ない石造りの小屋がいくつかあるけれど、貯蔵庫かなにかだろうか。近くに寄ってみたら、どこかで嗅いだことのあるようなスパイシーな香りがした。香辛料が保管されてるのか? なんの匂いか思い出せない。
 貯蔵庫の他には水車小屋があるだけで、あとは収穫の終わった畑が山すそまで広がっていた。

 一通り見て回ったけれど、なんにも起こりそうになくてほっとする。
 スマホでリュカたちの戦況を確認すると、一章の七コマ目に進むところだった。全員無傷。ヨシ。この分ならラスボスも余裕で撃破できそうだ。

 ラスボスを倒したら正式にリゼロッテちゃんが仲間になってくれるはずだ。ゲーム画面にも《一章七節クリアで新たな使徒が加入!》って書いてあるし。
 それ自体は嬉しいんだけど、アスリナさんの話を聞いた後では単純に喜んでいられない。

「展開が思ってたよりシリアスなんだよな……」

 用水路の水面に映った自分の影にむかって呟く。
 そりゃモンスターがうじゃうじゃいるような世界なんだからみんな命懸けで真剣に生きてて当たり前なんだろうけど。トリファンを始めた時はもっと軽い世界観のゲームなのかと思ってたんだよな。CMも「美少女がいっぱい♡」みたいなノリだったし、かわいいキャラがわーっと出てきてむやみにモテたりするのかと思ってた。

 どうせ異世界転移するなら恋愛ゲームの世界がよかったな……ただの中学生なのに神とか荷が重すぎでしょ……。
 いやまあリュカたちと冒険するのは楽しいし、こんなこと考えてたら今まさに俺のために戦ってくれてるみんなに申し訳ないんだけども!

 俺の仲間たちだけじゃなく、この世界にいる人たちにはみんな自分の意思がある。モンスターがいて、魔法があって、物理法則とか色々なものが違っていても、人については俺と何も変わりがない。リゼロッテちゃんの悩みもアスリナさんの葛藤も「しょせんゲームの中の出来事だから」とは思えない。

 ――お母さんを助けてくれない意地悪な神様になんて、本当は祈りたくない。

 リゼロッテちゃんが祈った時に聞こえてきた、多分俺にしか聞こえなかった声。あれが多分、リゼロッテちゃんの本音なんだと思う。
 それはそうだよな。アスリナさんを見殺しにする神を恨んでもおかしくない。
 なんとかしてあげたいと思う。でも、いくら神っていっても、俺はただのユーザーなわけだし。モンスターの討伐依頼を受けることはできるけど、ストーリー的に決まってることに関してはどうにもできない。この世界を作った本当の意味での神は俺ではなく、トリファンを運営している会社だ。

 もしかしたら、村長の死をきっかけにリゼロッテちゃんが使徒になるストーリーなのかもしれない。それなら尚更、予定調和を覆すことなんてできそうにない。一章のタイトルも「優しき復讐者」だし。

 ――ん? 復讐者ってなんだ? アスリナさんと死別して使徒になるっていうだけなら別に復讐ではなくない? モンスターに襲われて死ぬならともかく、アスリナさんは寿命みたいなものだし。

 まさか、これから村にモンスターが攻めてきたりするのか……?
 考え込んでいたら、スマホが唐突に戦闘開始時の効果音を鳴らした。

「んほぁっ!? マジで!?」

 完全に油断していたせいで変な声が出てしまった。やばいじゃんマジでモンスター来た!?
 きょろきょろとあたりを見回すが、敵の姿はない。上にも飛んでいない。なんだよ誤報か? と思ったら、水車小屋の影からどさりと何かが倒れる音がした。

 ひえええ明らかになんかいる!
 リュカたちを呼び出そうと思ったけれど、まずは本当にモンスターかどうか確認しなければ。
 びびりながら剣の柄に手をかけて、小屋の裏側に回りこむ。そっと顔を出して様子を窺うと、地面に村人が倒れていた。

「おわわわわ大丈夫ですかー!?」

 周囲にモンスターの姿がないことを確認しながら駆け寄る。倒れた村人は武装しているから、村の周辺を見回っていた自警団の人だと思う。怪我をしている様子はないが苦しそうにうめいている。
 ポーションをぶっかけてみたけど効果がない。ってことは他のステータス異常だろうか。すぐに診療所に連れて行きたい、でも俺だけじゃ運べない。まだ周囲にモンスターがいるかもしれないのにこの人を置いていきたくないけど、ここでうろたえていても仕方ない。

「待ってて、すぐ誰か呼んでくるから!」

 俺が駆け出す前に、倒れた村人は俺の袖口を握った。なにか言おうとしているけれど言葉にならない。必死に俺の背後を見ている。
 視線を追って振り向くと、いつの間にかすぐ近くに大柄な男の人が立っていた。口元にバンダナみたいな布を巻いていて、俺たちを見て目を丸くしていた。

「ああ、よかった! モンスターが現れたみたいなんです! この人を村の診療所まで運んでください!」

 ガタイのいい人が通りかかってくれて助かったと思ったけれど、なんだか戸惑っているようだった。

「……あんたは大丈夫なのかい?」
「え? 俺はなんともないけど……っていうか近くにモンスターがいるかもだから急いで!」

 モンスターの姿がないってことは、自警団の人が既に倒したのかもしれない。倒したけど相打ちで毒か何かをくらってしまった、とかそういうことかも。もしそうだとしても、村に接近したモンスターが一匹とは限らない。村の人たちに知らせて襲撃に備えないと。

「――そうだな。その前にちょっといいかい?」
「えっ? なんスか?」

 俺が答える前にすっと腕をとられる。なにしてんだろ、と思ってる間に後ろ手に縛られ、ひょいっと担ぎ上げられてしまった。

「じゃあ行こうか」
「へえ? いやいやいや俺じゃなくてそこに倒れてる人を運んでほしいんですけど!? あとなんで俺のこと縛ったん!?!?!?」

 なにこれ、どういう状況!?
 落ち着いてよく考えたら、この大柄な男は全然村人って感じの風体じゃないな。角に巻いた毒々しい模様の布。上半身は裸で、獣の皮みたいな腰布を巻いている。腰に下げているのはごっついナイフ。なんか盗賊っぽいファッションだ。

 ――盗賊!?

「もしかして、あなたは悪い人ですか?」
「みんなアンタみたいに無警戒だったら俺たちも仕事がしやすいんだけどなあ」

 なるほどね。ガチの反社会勢力の方々ね。くっそやばい。
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