公爵令嬢はジャンクフードが食べたい

菜花村

文字の大きさ
29 / 191

25 公爵令嬢は壁を乗り越える

しおりを挟む
昼食を食べ終えて、お母様が二人で話をしようと言って庭を少し散歩した。

四季折々の花を見ながら歩いていると、ガゼボにたどり着き二人で腰を掛けた。



「昨日までの魔法の訓練をしていて、どういう気持ちだった?」

お母様が私に質問してきた。

「…魔力のイメージが全然できなくて、とても焦っていました。
どうしてこんなに頑張っているのに、何もできないんだろう、と不安で辛かったです。」

お母様の問いに私はそう答えた。

「そう、では今はどんな気持ちでいる?」

「今ならイメージが出来そうで、早く魔法の訓練をしたくてたまりません。
3日後がとても楽しみです。」

「どうしてそんな気持ちになったの?」

「フライドポテトを作っていた時にお母様が言っていた言葉で分かったのです。
「私には私の魔法の感じ方でイメージをしなくては魔法が使えない、料理のように魔法を発動している状態をイメージしてから魔力を魔法に変えてみたら?」と教えて頂いた事で気付きました。」

「私は一つの可能性を提案したに過ぎないのよ?
もしかしたら、今フランの考えている方法でも魔法が使えないかも知れないわよ。」

「確かにそうかも知れません。
でも、私一人だと思い付かなかったと思います。」

そう言うと、お母様は少し黙った後、口を開いた。


「貴女は今まで、目の前の壁をどんどん超えていたわ。
それも、どんなに高い壁も自分の知識と努力で超えられない壁なんて何も無い、と言う程にね。」

「それは違います。
現に今、超えられない壁が目の前に立ちはだかっています。
どんな方法を使っても超えられそうも無い、大きく高い壁です。
ただ今は、超えられそうな可能性をお母様のおかげでひとつ見つける事が出来ました。」


あの日から沢山悩んだ。

成認式から一ヶ月以上経っているけど、頭の中は未だに整理出来ていない。

私がもし物語の登場人物だとしたら。

火属性しか生まれない家系で、何故火土属性で、魔力も弱いのか。

魔力をイメージする事がどうしてできなかったのか。

そして、輝行が転生した事で、フランの人生がどうなってしまうのか。

リッカやお母様の言葉で、気持ちの整理がずいぶん出来たと思うけど、問題解決の糸口が見えたとは言い切れないかも知れない。

それでも今は、てっぺんすら見えなかった大きな壁の高さや大きさがぼんやり見えた気がする。


「いいえ、違うわ。
母はたまたま切っ掛けに立ち合っただけで、見つけたのは貴女自身よ。」

「えっ…」

お母様が私の言葉を完全否定して、驚きのあまり一瞬固まってしまった。

「貴女が料理をしなければ、魔力のイメージ方法を思いつく事がなかったのではないの?」

「で、でも、料理をする事自体はリッカの提案で、気分転換にどうだと言われて…」

「そう、貴女には素晴らしい侍女がいて幸せね。」

お母様にそう言われて、私は「はい、それは本当に」と心から答えた。


「貴女は今まで、壁が目の前に立ちはだかると、ただ只管ひたすら壁を見て、どうやって超えられるかをその場で探していたの。
今まではそれでも全てうまく乗り越える事が出来ていたけど、今は違うわよね?」

「はい、その通りです。」

「そういう時は、今日の料理のように、壁から少し離れて遠くから壁全体を見たり、後ろを振り返ってどう超えてきたか、どれだけ超えてきたかを確かめることも必要よ。」

「…そうすれば、どんな大きな壁でも越える事が出来ると思いますか?」

今回の大きな壁の存在は、俺にとっても私にとっても、今までに感じたことのない程の苦痛だった。

超えられるのであれば、お母様のこの言葉はどれだけ支えになるだろう。


「思わないわ。」

「え゛ぇ⁉︎」

思いもしなかった言葉に変な声が出てしまった。

「そもそも、どうして絶対超えなくてはならないと思うの?」

私の声に少しビックリした後、お母様は話を続けた。

「別に超える必要なんてない場合もあるし、他のことをしていたらいつの間にか超えていることだってあるのよ?
そもそも、壁というのはその人の価値観であって、同じ物でも、それが壁にすらならない人もいれば、壁にしてしまうと絶対前に進めなくなってしまう人もいるのよ。
壁の存在を忘れてしまう事や、越えるのを諦める事だって、一つの方法よ。」

「そんな、逃げるようなことをっ…」

「なぜ逃げてはいけないの?」

「それは…自分に負けたと言う事で…」

「では、貴女は倒せそうもない魔物に出会った時、逃げれば生きられるのに、戦って死ぬつもり?」


頭を殴られたかのような物凄い衝撃が全身を走った。

確かにその通りだ、諦めたり忘れたりする事で得られる事だって、世の中には沢山ある。

考えるほど苦しくて期待するほど辛くなる、そんな事知ってたのに、どうしてそれが出来なかったんだろう。

異世界という環境に俺が順応してなかったから?

5歳と言う年齢とこの世界の常識という制限に、俺の知識が邪魔をしていたから?

転生という、誰にも言えない秘密を抱えているから?


…いや、違う。

俺が勝手に「出来ないことは恥ずかしい」と思っていたからだ。

今までの事は出来ていたし知っていた、つまり全部ではなかった。

出来ない事や知らない事は、必要ないからとそのまま放置していた。

昔からちゃんと、出来ない事は諦めたり忘れたりしていたのに、プライドが邪魔をして「必要ないから」と言い訳して何でも出来るフリをしていただけだった。

全部俺の思い込み。

そう気づいいて、何だか今まで考え込んでいた俺が馬鹿馬鹿しくなって、思わず笑ってしまった。


「どうしたの?
何かおかしい事言ったかしら?」

「いえ、自分自身の頑固さが可笑しくて、思わず笑ってしまいました。
確かにそうですね、今の私じゃ倒せない魔物も、10年後なら倒せるかもしれませんよね。
今無理矢理戦って、死ぬ必要なんてありませんでした。」

「…フラン、貴女はやっぱり賢いわ。
母の例え話一つで、先程の話の意味を理解してしまうなんて。」

「そんな事はありません・
気付いていたはずのものが、焦りすぎて状況を把握できずにいて、今回の様な事になったんですもの。」

「自分を理解出来たことも、賢いと思った理由の一つよ。」

そう言うと、お母様は私の手を取った。


「いい?フラン。
今後、急いで超えなくてはならない大きな壁が立ちはだかる事があるかもしれないわ。
それこそ、離れてみたり、後ろを振り向く余裕もない程にね。
そんな時は、母やお父様、レイジやリッカ、そして貴女の周りにいる信頼できる人の力を借りなさい。
壁はたったひとりで越える必要なんてないの、皆んなで一緒に越えていけばいいのよ。
それだけは忘れないでね。」


たったひとりで超えなくていい、皆んなと一緒に越えていく…

その言葉を聞いて、気づいたら私は涙を流していた。


「…フラン?」

心配そうに、お母様が私の顔を覗いてきた。

「ありがとうございます、お母様。
本当に、頭も心もスッキリしました。
皆んなと一緒に越えていけばいいのですね。」

そう、お母様、お父様、お兄様、リッカ、そしてフラン

輝行ひとりなんかじゃない、皆んなと越えていけばいいんだ。


「お母様のおかげで、元気が出ました。
本当にありがとうございます。」

「当然じゃない、私はフランの母よ?
娘の笑顔を見たいと思うのは当然でしょ?」

お母様の少し強めの言い方に、思わず二人で笑ってしまった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...