公爵令嬢はジャンクフードが食べたい

菜花村

文字の大きさ
46 / 191

38.5 公爵令嬢専属侍女は再び頭を整理する

しおりを挟む
お嬢様の中にテルユキさんが入って(前世の記憶が戻ったという方が正しいらしいけど)丸一年が経った。

元々、他の同年代の子に比べて、器用でかなり頭の良いお子様だとは思っていたけど、テルユキさんの知識と経験だけでこれ程まで多彩な事が出来るもんなんでしょうか?

住む世界や環境、ましてや年齢や性別まで全然違うのに、テルユキさんはお嬢様に馴染み過ぎてると思う。

お互いに似ている所が多いからかも知れないけど、お互いの頭脳と身体をここまで上手く使いこなせるって、2人はよほど相性がいいのでしょう。

ただ、そのせいでかお嬢様のする事は、予想の範疇を大幅に超えてくる事が割としょっちゅうある。

お2人とも一応常識は持ち合わせているようなので、ニホンの知識で世界征服をしようだとか言った出鱈目な事は考えていない様だけど、好奇心が強すぎて、大抵のことを何の相談もなく思いついた時に行動されるので、毎度ヒヤヒヤさせられる。

つい最近の話だと、お嬢様の自室にいつの間にかかまどが出来ていた事とか。

何でも、「ロナウド王子と仲良くなる為に必要な事」だったそうだけど、それにしても何でまた部屋に。

一度、真夜中に調理場へ向かわれているのを見かけて、「何をなさるおつもりですか?」と聞いた時は、慌てた様子で「何でもないの、気にしないで」とお部屋に戻っていかれた事があった。

その後も夜中に部屋から出ようとするところを何度か見かけ、都度注意していたら部屋から出なくなったから諦めたのかと安心していたのだけど、全然そんな事なかった。

むしろ、何でそうなるの⁉︎と思ってしまった。

匂いで気づいて部屋に向かった頃にはもう、部屋のかまどを使って何度かあんこを作っていたらしく、もうすぐ実験棟が出来るから今後は部屋のかまどは使わないと言っていた。

そういう問題じゃあないでしょう。

そもそも、6歳にして自分専用の実験棟があるって事自体普通じゃないとは思わないのかしら。

そういう事をするから、年相応に見られなくなっちゃうんでしょうが。

もう、自業自得としか言いようがない。

因みに、その時のあんこは2人で食べたけど、それまでのものは1人で食べていいたのでしょうか…


本人的には「ごく普通の6歳の少女、フランドール・フィアンマ」なんでしょうけど、正直難しい問題だわ。

確かに、大人に隠れてコソコソ何かしていたり、わからない事を「なんで?」と聞いてくる所とかは、子供っぽいと思う事もある。

でも、内容がちっとも子供っぽくない。

「魔獣の体内にある魔石が、種族別で大きさや色が違うのは分かるけど、同種族だと個体の強さや大きさ、住んでいる環境が違っても、年齢が同じなら魔石の大きさがほぼ同じになるのはどうして?」

そんな事聞かれたって、私には「そういうものだからです!」としか答えられない。

知識量が少なかった4歳頃までは、疑問になる程に世の中を知らなかったから、「なんで」「どうして」がまだ可愛らしかったのに、異世界の37年分の情報が入ってしまってから、質問の内容が途端に濃く、そしてちっとも可愛げがなくなった。

…改めて思うと、5歳でその情報量を理解しきってしまうお嬢様は、テルユキさん関係なく普通じゃないわ。

相性云々じゃなくって、お嬢様がそれだけの事をし得る才能の持ち主だったのよ。

だからきっと、テルユキさんの記憶がなくても、遅かれ早かれ今と近しい事を将来していたんじゃなかろうか。


お城でのカミングアウトを聞いた時、何だか申し訳ない気持でいっぱいになって泣いてしまったけど、本当のことを言うと、お嬢様とテルユキさんを別の人としてもう見れないのよね。

テルユキさんの事を知っているのは私だけなんだけど、2人の考え方と言うか言動にちっとも違和感がなくって、お嬢様は生まれた時から2人で1人だったんじゃないかと思ってしまう程に自然すぎる。

確かに、未知の調理法でお菓子を作ったり、魔法を使わず氷や雷を発生させたり、野草やさつまいもをより美味しく料理したりってのは、テルユキさんの知識があってこそなんでしょうけど、お屋敷中の大量の不用品を燃やさせたり、製鉄所や炭鉱で自ら体験しようとしたり、第三王子をコテンパンに言い負かせたのに友達になれたりなんかは、テルユキ様はあんまり関係ないんじゃないかな?


ここまで言うと、ものすごく頭の良い非常におてんばで困った子に思われるかもしれないけど、公の場では礼儀正しく常識を持って行動し、ちゃんと心優しいところもあるのがお嬢様。

常に何か実験やら研究やら忙しくしてるお嬢様が、たまにしているのが絵本作り。

それは、字の読み書きや簡単な計算のやり方を学べる絵本で、赤青のおそろいの帽子と服を着た2匹のネズミが出てくるものや、口がバッテンになっているウサギが主役のもの等、子供が楽しく文字や数字を学べるように工夫がしてあった。

出来上がった絵本は、教会や孤児院に持って行って、識字のない子供たちに読み方を教えてあげていた。

また、今年も成認式の会場へ向かい、ドレスを着ていない子を見つけてはドレスを着せて差し上げていた。

今年は関係者ではないので会場に入場させてはもらえなかったものの、数台の馬車を使って、持ってるドレスの中でもより派手な物をより多くの娘たちに着せてあげようと、開場時間前から開演時間ギリギリまで頑張っていた。

今年の流行は青とシンプルという、昨年のお嬢様のようなドレスが多くの方に着られていたのだけど、昨年のお嬢様の活躍を知っている子たちも多くいて、お嬢様のドレスを着られた娘達はとても誇らしげにしていた。



そんなお姿を見て、私は本当にお嬢様にお仕え出来て幸せだと思う。

そして今、目の前にいるお嬢様に、私はこう声を掛ける。

「お嬢様、そんな巨大な磁石を引きずって、何をなさるおつもりですか?」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...