2 / 2
薄曇り
しおりを挟む
萌絵がコンビニの袋をぶら下げて出てきて、
晴香は自販機の前でストローの紙を丸めていた。
待っていたわけじゃないのに、
こうして帰る時間がかぶるのは、もう癖みたいなものだった。
「アイス買ったの?」
「溶ける前に帰りたいんだけど」
「歩幅合わせるの大変なんだよね、萌絵に」
「じゃあ走れば?」
投げ捨てても形の残らないような会話。
覚えてなくても困らない種類のやり取り。
でも、こういうのだけが長く残ったりする。
信号が青に変わる。
渡るだけの時間なのに、
なぜか今日の空気は、少しだけゆっくりして見えた。
「今日ってなんか、眠くない?」
「ずっと眠い」
「だよね」
「頭痛い」
「わかる」
低い雲。
肩に触れそうで触れない陽だまり。
雨も降らないし、降りそうでもない。
その“どっちでもなさ”みたいな天気。
萌絵がアイスを開ける。
誰に見せるでもなく、
歩きが少しだけ遅くなる。
その速度に合わせる自分が、
自分でちょっとおかしいなと思う。
「あのさ」
「ん」
「たまに思うんだけど」
「なに」
晴香は、言葉の手触りを確かめるみたいに、
少しだけ沈黙を置いた。
「この帰り道、いつか普通に終わるんだよね」
「そりゃそうでしょ。歩くだけだし」
萌絵の声は乾いているのに、
横顔はどこか眩しそうだった。
光を見てるんじゃなくて、
これから消えるものを先に見てるみたいで。
「まあでも」
アイスの棒を見ながら萌絵が言う。
「終わるからって、なんかするわけじゃないよね」
「うん。たぶん」
公園の前で足が緩む。
散歩の犬が通り過ぎる。
ブランコは風だけで弱く揺れている。
隣の体温、制服の襟がよれてるとか、
期待と不安のあいだを行き来する視線や、
アイスが溶けて手がべたつくとか。
メイクを忘れた横顔と逆光とか。
どれも意味はないのに、
触れたあとにゆっくり浮かぶ気泡みたいに胸に残る。
晴香は、声になる前の息を
そのまま吐き出すみたいに、小さくつぶやいた。
「………」
萌絵がアイスの棒を見て言う。
「当たり?」
もちろん外れ。
二人はまた歩き出す。
特に予定も、ドラマもない。
今日が味をなくしていく速度に合わせて、
それでもどこかへ運ばれていくみたいに。
きっとこの一瞬に、
ずっと引きずられていくのだろう。
そしてたぶん、
今そう思ってしまう未来の自分まで、
もうここに少しだけ立っていて――。
晴香は自販機の前でストローの紙を丸めていた。
待っていたわけじゃないのに、
こうして帰る時間がかぶるのは、もう癖みたいなものだった。
「アイス買ったの?」
「溶ける前に帰りたいんだけど」
「歩幅合わせるの大変なんだよね、萌絵に」
「じゃあ走れば?」
投げ捨てても形の残らないような会話。
覚えてなくても困らない種類のやり取り。
でも、こういうのだけが長く残ったりする。
信号が青に変わる。
渡るだけの時間なのに、
なぜか今日の空気は、少しだけゆっくりして見えた。
「今日ってなんか、眠くない?」
「ずっと眠い」
「だよね」
「頭痛い」
「わかる」
低い雲。
肩に触れそうで触れない陽だまり。
雨も降らないし、降りそうでもない。
その“どっちでもなさ”みたいな天気。
萌絵がアイスを開ける。
誰に見せるでもなく、
歩きが少しだけ遅くなる。
その速度に合わせる自分が、
自分でちょっとおかしいなと思う。
「あのさ」
「ん」
「たまに思うんだけど」
「なに」
晴香は、言葉の手触りを確かめるみたいに、
少しだけ沈黙を置いた。
「この帰り道、いつか普通に終わるんだよね」
「そりゃそうでしょ。歩くだけだし」
萌絵の声は乾いているのに、
横顔はどこか眩しそうだった。
光を見てるんじゃなくて、
これから消えるものを先に見てるみたいで。
「まあでも」
アイスの棒を見ながら萌絵が言う。
「終わるからって、なんかするわけじゃないよね」
「うん。たぶん」
公園の前で足が緩む。
散歩の犬が通り過ぎる。
ブランコは風だけで弱く揺れている。
隣の体温、制服の襟がよれてるとか、
期待と不安のあいだを行き来する視線や、
アイスが溶けて手がべたつくとか。
メイクを忘れた横顔と逆光とか。
どれも意味はないのに、
触れたあとにゆっくり浮かぶ気泡みたいに胸に残る。
晴香は、声になる前の息を
そのまま吐き出すみたいに、小さくつぶやいた。
「………」
萌絵がアイスの棒を見て言う。
「当たり?」
もちろん外れ。
二人はまた歩き出す。
特に予定も、ドラマもない。
今日が味をなくしていく速度に合わせて、
それでもどこかへ運ばれていくみたいに。
きっとこの一瞬に、
ずっと引きずられていくのだろう。
そしてたぶん、
今そう思ってしまう未来の自分まで、
もうここに少しだけ立っていて――。
1
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる