剣も魔法も使えない平凡男の成り上がり〜好きな人に振られた悔しさで山を一日十万回殴ってたらいつの間にか世界最強の拳を手に入れてた〜

おったか

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19.ルーク

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 ルークが黒龍のもとへ駆け寄ると、すでに数人の他のギルドの面々が黒龍と交戦していた。
 数人の剣士が、戦場を跳びまわるように黒龍へとヒットアンドアウェイを繰り返している。

「お前は『シュナイダーズ』のルークじゃねえか! お前が来てくれたなら心強い!」

 そうルークに声をかけてきたのは、大きな大剣を持った大柄な男だ。
 名前は忘れてしまったが、確かこの街では割と有名な戦士だ。

「あそこを見ろ!」

 と大剣の男は後方を指さした。
 ルークがその方向を見ると、杖を持った五十人以上の魔法使い達がそこに集まって立っている。

「今、この街の実力ある魔法使い達が集結しているっ! あいつらの魔法で一斉射撃を仕掛けるから、詠唱が完成するまでの時間稼ぎを俺ら剣士がしてるってわけだ。お前も手を貸してくれ!」
「なるほど! わかった!」

 大剣の男の説明を聞いて、ルークは戦況を理解した。

 次の瞬間だった。

 ルークの目の前に何かが飛来してくる。
 ルークはサイドステップでそれをかわす。

「なっ!?」

 飛んできたを見てルークは顔を歪ませた。
 それは人間だった。
 鎧ごと腹部をごっそりとえぐり取られた、おそらくは剣士の死体。

 きっと黒龍の攻撃を喰らってしまったのだろう。

 ……一撃でも黒龍の攻撃を受ければこうなってしまう。

 ルークは黒龍を睨みつけた。


「あああああああああああああああッ!」


 ルークは叫んだ。
 恐怖を押し殺して、黒龍の下へと走り出す。

 接近してくるルークを、黒龍の血走った双眼が捉える。

 ルークの背筋に凄まじい寒気が走った。真正面からぶつけられる黒龍の威圧感に、ルークは思わずゴクリと唾をのむ。
 あの日のトラウマが頭に蘇る。

 しかしそれと同時に自分を守って死んでいった恩人の顔が思い浮かぶ。

「──ッ!」

 見開かれていたルークの目が吊り上がる。
 剣を握りしめる両手に力を込め、さらに黒龍のもとへと加速した。

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

大気を切り裂きながら、黒龍の巨大な鉤爪《かぎづめ》がルークに迫る。

「うおおおおおッ!」

 ルークは空中で身体をひねり、間一髪で黒龍の鉤爪をかわした。
 この場にいる剣士の中でも頭一つ抜けたルークの身体能力が光る。

 すぐ真横を通り過ぎていく黒龍の攻撃の威力をビリビリと感じながら、ルークは黒龍の懐へ侵入することに成功する。
 鱗が比較的に薄い腹部をめがけて、剣を振りかぶり──叩きつけた。

「おらああああああッ!」

 剣と鱗がぶつかる鈍い音。
 両手に感じる硬質な手ごたえ。

 そしてルークは瞠目した。

 ルークの剣は今の一撃で刃が欠けていた。
 それに対して、黒龍の鱗にはかすり傷しかついていなかった。

「相変わらず硬すぎだろ……!」

 だが黒龍の気が引ければそれでいい。

 ルークはすぐにそこから離脱。黒龍の股下を抜けて敵の後方へと退避する。

 退避していくルークを黒龍はギロリと目で追っていた。
 黒龍は空中で一回転し、ルークの方を向いた。
 黒龍は怒りの形相で、ルークを睨みつけている。

 そして次の瞬間、黒龍の「咆哮《ブレス》」が放たれた。
 恐ろしい威力を纏った漆黒の魔力の渦が、ルークへと襲い掛かる。

「ヤベえッ!」

 ルークは全力で『咆哮《ブレス》』の範囲外へと走る。
 しかし半径数十メートルにも及ぶ馬鹿馬鹿しい効果範囲の前に、俊足のルークですら逃げ切ることができない。
 ルークの上半身の左半分に、黒龍の『咆哮《ブレス》』が直撃した。

「ぐああああああああああッ!」

 ルークが地面へと吹き飛ばされる。左胸から左腕にかけてが、まるで炎に焼かれたかのように焼け焦げていた。
 ルークは痛みで意識が飛びそうになるのを必死でこらえる。

 いくら距離を取ろうが、『咆哮《ブレス》』によって狙い撃ちされる理不尽な展開に、人々は言葉を失っていた。

 しかしその直後も、身動きが取れないルークから黒龍の気を逸らすように、勇敢な他の剣士が黒龍に斬りかかっていく。

(ありがたい……!)

 ルークは歯を食いしばり、左腕の痛みをこらえて立ち上がった。

 黒龍の様子を見るに、どの剣士の攻撃も黒龍にまともにダメージを与えることができていなかった。あの黒い鱗が硬すぎるのだ。

 しかし詠唱を続ける魔法使い達から気を逸らすことには成功している。

 あの人数の魔法が炸裂すれば黒龍にダメージを与えられる可能性は十分にあるだろう。

 そこでジャンの顔がルークの頭をよぎる。

 あの黒龍にはジャンの神級魔法ですら、わずかなダメージにしかならなかった。
 果たして彼らの魔法が通じるだろうか。


 ……いや、信じよう。
 あの魔法使いの中に、神級魔法使いまではいかずとも超級魔法使いくらいならいるはずだ。
 その魔法が五十人分集まれば、きっと黒龍にダメージを与えられる。


 彼らを信じてもう少しだけ踏ん張ろう。

 ルークは今すぐにでも気絶しそうなほどの痛みをグッとこらえ、黒龍を睨みつけた。
 そして、右手だけで剣を握り、黒龍へと駆けだす。

 ルークは再度、黒龍のふところに入ることに成功した。
 

 次の瞬間だった。


 ギロリと。
 黒龍が血走った双眼をルークに向けた。

 クソ! なんですぐに俺の方を向くんだ!

 ルークはとっさに身構えようとする。

「──あっ」

 しかし左半身が使い物にならなくなっていたルークは、うまく体のバランスをとることができずに、一瞬、身体をよろめかせた。

 その一瞬が命運を分けた。

 黒龍の鉤爪が恐ろしい速度でルークの胸元に迫る。

 終わった──。

 ルークは死を覚悟した。


 ルークの身体に鉤爪が刺さろうとする、まさにその瞬間だった。




「──『常闇《とこやみ》』ッ!」


 戦場に、美しい声が響き渡る。


 そして、空を飛んでいた黒龍が、地に落ちた。
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